有音が目撃した奏の成長 2
「ふぅっ……真唱さんあんたも人の子ですな、孫には甘いと思える」
肉のみを1口齧って箸を置いてしまった番参さん。納得出来なくて理由を尋ねた時に言われた言葉、それが隣の有音の家にまで届いていたって事になる。
「こんな品は"丼"とは呼べんわ!!」
叫ぶと黙って帰ろうとする。奏の祖父、真唱さんが引きとめようとしても帰ろうと……残念だと断じる番参さんは去り際に奏に対して「料理がかわいそうだ……」とも言った。
◇ ◇ ◇
奏の祖父、真唱は今まで仕事をしていた展望レストランに助っ人を頼まれる事がある。自分と旧知の仲な番参に料理の腕の自信を失わされた奏に対して手を貸すつもり(責任の一端もある事だし)でいたがそれも叶わずどうしてもという話なので助っ人に行く事になってしまった。
この時の響家は父親が単身赴任だという事情もあり。一時的二人暮らしになっていたようだ。奏が料理を作る自信を折られて他の行動にまで影響が及び出した時に母親がさりげなくフォローを入れてくれたそうである。
「奏、何があったか知らないけどまた料理を作ったらどうかしら。台所をお隣の有音ちゃんと使うとかして」
確かに数日間うなだれてばかりで母親に迷惑をかけたなと思ったらしい。僕には料理しかないんだ、今度は完食させてやると前向きに。その考えが切り替わった瞬間、奏の母親が過労とストレスで倒れてしまった。その様子を隣の家から偶然見た私が奏のお母さんの看病に買って出る。奏には新作丼を作る合間に消化の良い食べ物を用意してあげれば大丈夫でしょと言っておいた。
(おじいちゃんの顔に泥を塗ってしまったんだとしたら僕の責任だ!! 僕が何とかしなくちゃ!!)
あのカツ丼に物足りなさを感じたのだったらどう考え直せばいいか……
「僕の丼に足りなかったのは……きっと!」
インパクトだ!! やっぱり丼っていったら上にのっている具だと作りながらそうじゃないかと推測を立てていた。
「あの重ねカツを超える具を考えなきゃ!!」
揚げながらいろいろと考えを巡らせる。
「それなら違う味付けは……あ! 間に大葉とか! それとも?」
どれもこれも奏には良いとは思えない。良い発想が浮かんでこないいらだちで机を叩いた。
「ダメだ!! こんな小細工では!」
いろんな具(野菜、キノコ、魚介類、肉などで生のままとか焼く煮る揚げるなど奏は試作品を作りまくる。
(何かもっと別に良い具材があるんじゃ!! もっと! 更に美味しい具を作ろう! あの重ねカツを超える具を目指して)
さすがに10個くらいの丼を作り続けたからか疲労が濃くなっていた。
「ダメか! これじゃダメだよ……!!」
作ったものを味見した奏が無力感に苛まれる。
(超えてないよ……あの重ねカツより良い丼なんて思い浮かばない。自信作だったんだ、おじいちゃんも認めてくれたし……手の込んだ丼のつもりだったのに!!)




