初めてのアレンジ特訓 1回目
アレンジ料理をする部活の日(週1回)、奏と私は別別の部屋、または教室で行なっている活動がわからないのでお互い気になってしまって当然である。
「ねーっ、有音。真奈先輩と何をしているの? 教えてよ」
「そういう奏も、飯合副部長と特訓とかしていたりするんでしょ? 私は真奈先輩に基礎的な料理を用いて鍛えられている所」
私が料理研究部の部長や副部長を先輩と呼んでいる事に、奏がある事を伝えてくれた。
「そうだ、有音も副部長の事を風良先輩って呼びなよ。この部活の先輩達は部長とか役職で呼ばれたくなさそうだから」
「そうね、奏。真奈先輩も『先輩』って響きを気に入っていたりして」
イタズラっぽい表情で奏が私に伝える。私の考えも何か有り得そうな仮定だと思わない? そんな中、私が真奈先輩から呼ばれた。
「有音ちゃん、今日も家庭科室にいらっしゃい。ちょうど奏君もいるみたいだから手間が省けたわ。隣の家庭科準備室で風良君が待っているわよ」
私達が話をしながら目的地の近くまで来ていたので、家庭科室のドアを開けた時に廊下の曲がり角付近で声が聞こえてきたのは真奈先輩にとってベストタイミングだったんだろうなと独りごちる。先輩に家庭科室に先に入ってといった感じで背を軽く押されながら招き入れられた。私は奏より先に家庭科室に入ろうとする。
別れる間際に、私は奏の方へ振り向いて少し名残惜しそうに残念そうな表情をしながら(奏は鈍感だから気づいていないだろうけど)控えめに手を振った。
「どうもお互いもうしばらくは別別に料理技術を教えてくれようとしているみたいね、先輩達は。またね、奏」
「うん! 頑張ろっ!!」
奏が隣の家庭科準備室に入るまで私は見送る。そして今日も真奈部長が料理を指定してアレンジ料理を作ってねと言われるだろうから私、心配な気持ちもあるな。
「そういえば隣は準備室だから調理器具とかないんじゃ?」
隣の教室には風良先輩もすでにいるって真奈先輩に教えてもらったっけ? 私は素朴な疑問を先輩にぶつけた。
「ところがうちの部は大会に出場したりするし、理事長があの人だから」
そういえば調料学園の理事長って審査委員長なんだっけ? 納得。ここの家庭科室、一昔前(数年前)の器具を使っているのかもしれないけど手入れが行き届いていると思った。それなのに他の人がここに仮入部しに来ない理由がわからないな。家庭科室以外にも特殊な調理機材を使用する時に使う教室もあるそうだ。3年生の一部の優秀生徒だけが使える教室だとか。
「私としてはあと数名くらい部員になってくれてもいいんだけど。どうも一定以上の料理センスがないと入部出来ないって噂が独り歩きしちゃってて困ってるのよね」
私の考えが読まれたとは思えないが、まるでその様でドキドキが強くなっていった。
「有音ちゃんが更に料理したい気持ちになる事、教えておいてあげるわね。隣の彼らの料理テーマは『一つの料理で2度美味しい』って事みたいよ。私達もテーマを決めてみる?」
先輩に問われたので、私は即答する。
「はい! そうしましょう。先輩は何かありますか?」
「私が決めても良いけど、ここは有音ちゃんの考えでよろしく」
真奈先輩の質問というか、私にテーマ決めを一任されちゃった……困っちゃうな。私は自問自答するけど、良い考えは浮かばない。まだまだ料理経験が足りないから思い浮かばないのかなと思った。
「難しく考えなくていいの。有音ちゃんは料理を食べた人にどんな気持ちを感じてほしい?」
真奈先輩に聞かれて、私は誰かに料理を食べてもらったらその人にどんな気持ちになって欲しいかを考え出した。先輩が言っているのは『美味しい』って第一条件以外だよね? 料理を作ってお礼を言われたら嬉しい。そうだ『感謝』そのキーワードに行きつく。