真奈に何があったのか? 5
◇ ◇ ◇
真奈の部屋の前におにぎりを置いた僕は真奈の母親にリビングへ招かれたので自然と会話する事になる。
「あら……!! おにぎりを作ってきてくれたの……!!」
僕はやつれ気味の真奈の母親にも食べてもらおうと真奈の部屋のドアの前に置いたバスケットの中身とまったく同じものをもう1つ作ってきていたのだ。もしあまっても僕が食べちゃえばいいし。
「実は数年前、真奈に……このおにぎりで救われた事があったんですよ」
もち米で握った焼きおにぎりを持っている内に自然とその時の思い出話を口にしていた。
「小学校低学年くらいの頃……特にこれといった特技がなかった僕が興味を持って1人で餅つきをしようとした日があったんです」
その時は確か僕の家の物置きから杵と臼が見つかった覚えがある、作ってみたいという気持ちからその2つをひきずり出したんだっけ。真奈に頼んでもち米を買ってきてもらった覚えもありますし。
「裏庭の物置きで見つけた杵と臼を持ちだして良い所を見せようと思ったんだと思います。それで真奈にモチを食べさせる約束をするというお調子者だったけど……」
まだ小さかった頃の僕はまだ杵の重さに耐えられなくて真奈が応援してくれたのにかなわず結局はもち米を無駄にした状態に。でもその後に真奈の純真で優しい性格に触れたという話をおばさんに伝える。
押入れにつっかえ棒をして開けられないようにした僕は真奈の遊びに誘ってくれる声にも乗らず失敗から自分を否定して顔をぐちゃぐちゃにして泣き腫らした覚えが……失敗ばかりとかビリなのが嫌で嫌で。それから初めて作ったもち米をどうしたかって話に戻りますが、真奈がおにぎりにして持ってきてくれた。その時は多分真奈もおにぎり握り初体験だったかと。そんないびつな形のおにぎりを僕が押し入れを半分くらい開けてのぞく僕にとても美味しそうに食べる姿を見せてくれて――あの時に言われた言葉をよく覚えていて。
「風良くんの味だよ、これ!」
「僕の……味?」
「作った事がない私が握ってもこんなに美味しいんだよ! 風良くんきっと料理が得意になるよ」
その時に真奈からもらった思い出のもち米おにぎりを忘れられないと話をまとめにかかった。
◇ ◇
「そんな思い出が……」
真奈のお母さんが真奈が料理を作りたいと思ったきっかけがそんな所にといった様子で聞きいっている。
「僕は昔から……本当得意な事を見つけられなくて……自分に出来る事って何? って自信を失ってばかりでした」
続けて話したい事が真奈へのお礼の気持ちなので自然と力がこもった。
「その時、真奈に勇気づけてもらった……だからこそ今の僕がいるんです……僕は真奈にもらった勇気をこのおにぎりで返してあげたいんだ!!」
僕が焼きおにぎりの思い出を、熱がこもる語り方をしていたせいか立ち上がって語り終えたタイミングで、真奈が勢い良くリビングのドアを開けて入ってきた。
「風良君!!」
「!? 真奈!!」
俺は部屋から出てきて真奈が姿を現してくれた事が心の底から嬉しい。




