手乗り生物注意報
目の前で繰り広げられている光景がいまだに現実とは思えずにいる。
「おい、コレうまい」
「あー、そう」
「もっと寄越せ」
勉強机の上で、自分の顔より少し大きなクランチチョコに被りつく手乗りサイズの俺様妖精。
オレはそれを引きつった笑顔で見下ろした。
某テーマパークの土産に貰った缶の中。
ラッピングされたままのクランチチョコに埋めて店先に並べてやろうか、と密かに思う。
やらないけど。
できないけど。
「まだ半分以上あるだろ」
「寄越せ」
こいつの頭の上で、缶を逆さに出来たらどんなにすっきりするだろう。
本当、もう埋もれてしまえ。
「あん? 何考えてやがる?」
「ふ、太らないのかなーとか?」
「はん。馬鹿か。俺様のこのすんばらしぃプロポーションを乱すもんなんてねぇよ」
誤魔化した言葉の返事すら、オレが猫なら逆毛撫でされている気分だ。
でも、此処でキレるわけにはいかない理由がオレにはある。
何せ、こいつは。
「早く寄越せよ。何ならコレ、ばらまいてもいいんだぜ?」
小さくなったクランチチョコを口の中に放り込んで、俺様妖精はにやりと笑ってひらひらと紙を振った。
「だっ!」
伸ばしたオレの手をあっさりと避けて、小さな手が伸びる。
「寄越せ」
妖精は丁寧にラッピングをはがしたクランチチョコをその手にのせてやると、途端にぱくりと被りついた。
その光景だけならば、全く害がなさそうだというのに。
「……」
恨みの視線は、どうしたって父さんがヨーロッパで見つけた胡散臭い巾着袋に向く。
『願い事を書いた紙を入れて、呪文を唱えよう』
何より、騙されたつもりで紙を入れて呪文を唱えてしまった昨日のオレ。
「おい、次」
手を伸ばしてくる妖精にちらりと視線をやる。
「何だよ。一人で寝られないうえに、金槌であまつさえ、」
「うわあぁぁあぁぁあ」
「うるせぇ。早く寄越せ」
結局オレは、こいつには逆らえないらしい。
クランチチョコ、巾着、手乗りサイズ【三題噺】