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 高い、高いところから私は見下ろしている。


 もし貴方に私の声が聴こえたならば、高いところとはどこだ、私とは誰だと問うかもしれない。

 けれど、それは少々説明しづらい。私は世界の中に確かに存在しているけれど、できるのは『観察すること』だけで貴方と話すこと、触れることはできないから。一方的に受けとっているだけ、といったら何となくわかるかしら。

 そもそも私には既に魂の檻がない。

 一般的にそういうのは『霊体』と言うんじゃないのかと、もし貴方が私の言葉を聴けたならそう訊ね返してくると思う。でも貴方には私の声は届かない、肉体がないから声にすらならない、私は貴方と会話していると仮定してこの話を続けてみようと思う。


   ***


 強い太陽が照りつける国。石を積み重ね作られた大きな街。

 かつては私もそこに住む、ごく普通の人間だった。王の近くに仕え、雑事をこなしながら生きていただけの。


 或る日、子供が親に付き添われて王に謁見を申し出た。話を聞いた門番は召使に、召使は役人に、そして役人はお側付きにそれぞれ伺いをたて、そして子供は王に会うことが出来る。

 一介の子供が王に謁見を申し立て、叶うことなどはまず稀な事。

 けれどそれを可能にしたのは──子供が持ってきた蒼い石。


 遥かに透き通った──しかしながら中心に深い蒼を湛えた小さな丸い石。

 子供はそれを日課の水汲みの道中、拾ったのだという。


 かくて子供は僅かながらの褒賞を賜り──僅かと言っても彼ら親子が数年間暮らしていくには十分な額の──そして王は遥かに透き通ったその石が恵みをもたらすものと信じ、『知恵を誇る者』と呼ばれる、現代なら『科学者』とでも言うべき者達にその石を託した。


 科学者達は王の期待に応える為、研鑽を重ねた。

 ──その結果、その石によって私達の国は地上より消え去ることとなる。


 一瞬で、私の身体──いえ私だけでなく国に住む者達、及び『そこにあった全てのモノ』は原子の単位にまで分解されてしまったのだ。気がつけば、私の意識だけがただ『宙』を漂っていた。

 だから、今の私は言うなれば肉体という枷なしに生きている『傍観者』──つまりは『観察者』ということなのだ。

 私は長い間、『私と同じ者』を捜し求めた。

 それは本当に気が遠くなるほどの長い時間。

 そして私は、他の『同じ存在』を見つけ出すに至る。


 喜びも顕に、私は彼らに『声』をかけた。

 しかし彼らは私には無関心だった。

 彼らは私と違い、『他』に対する興味を持たず、干渉しようとしなかった。

 彼らはただ『観察者』であろうとした。


 だから、私は厳密に言えば一人ではない。

 『他』を求める私。

 私を──『他』を求めない彼ら。


 私は『私と同じ者』を見つけ出したことによって、更なる深い孤独を得た。


   ***


 いつしか、かつての同胞を観察することが私の無為なる時間を潰す習慣になった。


 私が生きていた頃には見たことのない肌の色の人間。

 笑い、怒り、悲しみ、人生のすべて。

 それは、一方的な感受。

 こちらの発露は相手には届かない。届けることができない。

 それは、ただ観察者たれない私にとっては地獄にも等しく──それ故に私は大きな望みを得るに到る。

 私は探した。『他』に『触れる』手段を。


   ***


 意識だけの存在になったとき、私の記憶は、世界の記憶とでもいうべきものに連結されていた。

 その膨大なデータベースから、私は気の遠くなるような時間をかけて『躯体』と呼ばれるモノを見つけ出す。


 私のような『観察者』が、かつての同胞へ物理的に干渉するために用意したモノ。それは──その昔、私達の国の『知恵を誇る者』達が作り出したモノ。

 まだ精神的に未熟だった私達は、『躯体』に宿りし意識を『高き者』──つまり『神』と信じていたのだ。


 眠ったままの『生きている』躯体を発見するのに200年。

 その頃には集団意識野であれば人間に私の意思をある程度介入させることができるということがわかっていた。

 潜在意識下から人間の意識に働きかけ──さらに15年をかけ『躯体』の発掘と蘇生を行なわせた。


   ***


 ……『貴方』に『触れる』ために。

 そうすればきっと、この閉塞された世界に風穴を空けることができるはずだから。

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