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神銃騎士シルヴァの冒険譚〜とりあえず激カワ王女姉妹の住む国を救ってみる〜  作者: しののめかいき
第一章 パーレスト王国編
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ep.7 王室護衛隊と悩める者たち

――――城内二階、【謁見の間】。



 ゼファリオンとの決闘の後、最初に王妃と話した謁見の間と呼ばれている部屋で食事会が行われた。どこからか出された横長の机が使用人たちによって丁寧に並べられ、その上には肉や魚など様々な食材を使った料理が皿に山盛りで載せられている。



「よお、新入り。飲んでるかァ?」



 後ろから何者かに肩を掴まれ振り返ると、鎧を身に着けたままの大男が俺に声を掛けて来ていた。背中にはその肉体に合わせたかのような大きさの大剣が掛けられている。



「……それなりには」



 少量の酒が入ったグラスを片手に持ちながら答えた。正直酒の味はよくわからないので一滴程度しか飲んでいないが、すでに目の前の大男は何杯か飲んでいるようで酔っ払いの状態だ。



「自己紹介がまだだったからなァ。俺ァ王室護衛隊副隊長、ガルド・ヴァレンツァってんだ」


「シルヴァだ、よろしく」



 どうやら俺はゼファリオンとの決闘の結果、その王室護衛隊の下っ端として雇われることになったらしく、つまり今俺が話している相手は上司に当たるわけだ。



「不愛想なヤツだなァ……そして細い! なんだその身体は……よくそんなんで隊長に一発入れたもんだ」



 背中を強く叩かれる。その手はとても分厚く、片手一撃で大きく体勢を崩してしまう程の威力を発揮していた。

 


「ただの偶然だ。次決闘をしても勝てる未来が見えない」


「まァ《神銃》なんて言うが、あくまでも対亜獣用だからな。対人において最も重要なのは筋肉! そして俊敏性と判断力! お前さん程度のヒョロガリじゃあ俺の相手にもならんわッ! がっはっは!」



 愉快な人だ。完全に酔っぱらっているが言っていることは一理ある。神銃は遠距離戦向きで、しかも的確に対象者へ着弾させなければ効果を発揮しない為練度も必要だ。対して近接戦も鍛錬は必要だが、極めれば神銃を使わせずに制圧できるだろう。



「――――だが、お前さんが神銃を使った時に現れたあの男(・・・)とは一度戦ってみてェな。レイン嬢ちゃんから聞いたが、そいつに眠っている意識と入れ替えられる力なんだろ?」



 アストラのことだ。ガルドは神銃が納められているホルダーの方に目線をやりながら言った。



「あいつは目が良いな。あの《神速》を打ち破りやがった……俺でさえまだ一撃も与えたことがねェってのによォ……」



 ガルドは勢いよくグラスに入った酒を飲み干し、近くにいた一人の使用人に空いたグラスを手渡していると、彼の後ろで一人の男がガルドに声を掛けようとしている。



「ガルドさん、飲み過ぎですよ! すみませんね、いつもこんな感じなんです……」


「んァ? セリオか。そんな飲んじゃいねェって……ったく盛り上がってんのによォ」



 次のグラスを取ろうとするガルドの手をセリオという男が止める。あの手この手で机から酒を手に入れようと奮闘しているが、その全てを器用な手つきで防がれていた。これだけを見るとセリオの方が副隊長らしく見えてくるな。



「――――ほらほら、副隊長もセリオも落ち着いて。我らが王室護衛隊の新たな仲間の前ではしたない。全員の自己紹介を終えてからにしなさい」



 次に二人へ声を掛けたのは女性だった。彼女もまた護衛隊共通の装備を身に付けており、こちらに振り返ったと思えば「ごめんなさいね」と会釈をする。



「私は王室護衛隊【東の門】の護衛を任されているクラリス・デュラン。そしてこの敬語野郎がセリオ・アルディナートだ。よろしく頼むよ」



 握手を求められたので手を伸ばすと、しっかりとその手を握り返してくるがやはり力が強い。その細くしなやかな指と小さな掌のどこに筋肉が付いているのだろうか。



「近くで見ると背が高いな。副隊長の言う通りやたらと細いし、よくそれであの【悪魔の森】を抜けたものだ。君は凄いやつなんだな」



 にかっと口角を上げて目を細めるクラリス。肩の上辺りで銀色の髪を揺らしながら、満足気に両手を腰に当てて頷いている。



「森の方から来たということはリベルタスに会っただろう? 残念ながら今日は夜間の護衛任務に就いている為この場にいないが、彼女もまた護衛隊の一人だ」



 俺たちがアルケーに入る前、出入口である門の前にいた衛兵のことだ。頭から足まで全て重厚な鎧で包んだ姿の中身は女性だったらしい。今度会った時には挨拶をしておこう。



「護衛隊は全十六名。【東の門】、【西の門】、【南の門】にそれぞれ五名の担当が一人ずつ交代しながら就いているんですよ。そして、残りの一人であるゼファリオン殿のみ城の防衛に当たっているんです」



 セリオが護衛隊について教えてくれた。俺はどこの門で護衛任務とやらをこなせばいいのだろうか。



「俺はどこの防衛をすればいいんだ?」


「シルヴァは隊長と同じ城内の任務に就くと聞いているよ。王妃と王女二人の護衛だ」


「了解」



 残りの護衛隊のメンバーも気になるが、それ以上に驚くべき光景が目に入る。

 


 長く艶やかな赤髪を流したハーフアップと髪色に似た鮮やかなドレス姿。頬を赤らめて口をぽかんと開けてふらふらと会場を歩いている。



「レイン。大丈夫か?」


「んー……? あっ、シルヴァじゃない!やっと見つけた~アストラも一緒ね!」



 今までとは異なる口調で話し始めるレイン。周囲の使用人たちも慌てて彼女を静止しようとするが、歯止めが効かないようで次から次へと酒が入ったグラスに唇を付けていた。



「――――そーだ! アストラにこれ付けてあげる!」



 何かを思いついたらしいレインが突然髪を飾っていた花付きのリボンを解き、俺の前でしゃがんだかと思えばホルダーに掛けられている神銃に巻き付け始めた。白のリボンに包まれたアストラは無言を貫いている。今の彼はどんな気持ちで目の前の酔っぱらい王女を見ているのだろうか。



「うぅ……ひっく、あらごめんなさい……夜風に当たってくるわ……」


「嬢ちゃん! こりゃまた盛大に飲んだな、がっはっは!!」


「だーかーら、ガルドさんこれ以上飲もうとしないでください! レイン様もガルドさんにグラスを渡そうとしないで!」


「……やれやれ、新たな仲間を迎える会であるはずがこれでは我々が楽しんでいるだけではないか。シルヴァ、申し訳ないね。君も一度使用人室へ戻っても大丈夫だからな」



 クラリスがレインとガルド、そしてセリオの三人のやり取りを眺めながらやれやれと溜め息を吐いた。



「お言葉に甘えて、休憩してくるよ」


「ああ。使用人室は三階にある。一番突き当りの小部屋が君の部屋だよ」



 わかった、という風にクラリスが頷いてくれた為、俺は謁見の間を後にして使用人室を目指す。



   ◇ ◇ ◇



――――城内三階【使用人室】。



 階段を使って三階へ上がると、そこには一本の長い廊下が続いている。松明の灯りは消えており薄暗い通路を抜けて、窓から差し込む月の光に照らされた突き当りの部屋の扉を開く。



 部屋はベッドが一つと机が一つ。窓は無いが代わりに机にろうそく立てが置いてあり、火付け棒とろうそくがセットで置かれている。ベッドと机の間は人一人分のスペースがあり十分に寛げるだろう。



 ひとまずベッドに腰掛けて、現状の整理を始めることにした。



「……すごいことになってきたな」



――――森の中で目覚め、記憶喪失のままエレノアやレイン、時にはアストラの力を借りてここまで来たが今のところ何かを思い出す気配はない。《神銃》、亜獣、パーレスト国……どれも脳内で引っ掛かる単語はなかった。



『まずは王妃から話を聞いて、方針を決めていくしかないだろうね』



 触り心地のいい布の感触を確かめながら寛ぐ俺に対し、アストラは手元で呟く。この一日で慣れてきたつもりだったが、やはり銃が喋ることも意思があることも不思議でしかない。



 王室護衛隊として雇ってもらった以上、それなりの仕事が任されるだろう。隊長であるゼファリオンと同じ城内の護衛……エレノアたちと一緒に居られる可能性が高いだけ安心感もあるが、今のところ自分が今何をすべきかがはっきりとしない気持ちもあり不安要素は拭い切れない。



「俺は一体何者なんだろうな」



 つい心の声を口ずさんでしまった。溜め息を吐くように、全身が脱力するように吐き捨てた言葉はアストラにも届いてしまっているだろう。



『――――今の君は王室護衛隊のシルヴァだろう? 今は目の前のことに集中しているのがいいんじゃないかな。王妃とレインが言っていた《災厄》のことも僕は気になっているよ』



 それもそうか。ここまで良くしてもらったのだから礼はきちんと返しておきたい。例え相手をするそれが、国を滅ぼさんとする《災厄》でも。



 アストラの言葉を脳内で咀嚼しながら明日以降の行動について考えようとしていると、この部屋の扉をノックする音が響く。



「し、シルヴァ? 入ってもいいかな」



 声の主はエレノアだ。そういえば食事会の間は王妃と共に居たらしく会話をすることがなかったな。扉の方へ向かってドアノブを引いた。



「あ……こ、こんばんは」


「なんでそんなにたどたどしいんだ」


「ちょっとだけ酔っちゃって」



 確かにエレノアの透明感のある肌は少し赤く染められている。



「立ち話もなんだろう、入ってくれ」


「うん」



 エレノアはそのまま部屋のベッドの方へ向かい、そのまま腰掛ける。俺は彼女と人一人分の間隔を空けて隣に座った。



 レインの派手な色合いのドレスとは対照的に、純白のドレスを身に着けておりこちらもまた食事会の前の彼女とは雰囲気が異なっていた。



「食事会はいいのか?」


「うん。シルヴァが出て行ったのを見て付いてきちゃった」



 へへへ、と声に出して笑みを浮かべるエレノア。



 ろうそくに火を点けようと立ち上がり、火付け棒を手に取る。火打石を持って棒の刃に勢いよく擦りつけると、火花が散ってろうそくに着火した。部屋が少し橙色に染められて、エレノアの顔がはっきりと見えるようになった。



 俯いたままのエレノアの横顔はどこか遠い目をしており、その瞳の中で反射したろうそくの火がまるで彼女の感情を表すかのようにゆらゆらと揺れている。


 

「……私とレインは、ずっと神銃騎士になる為に頑張ってきた。レインは《災厄》から皆を護るんだって毎日真剣に訓練と町の人の依頼をこなしているんだけど、正直私はあまりそういう気持ちは無いんだよね」



 神銃騎士。《神銃》を持つゼファリオンが唯一その位に座しているが、一体それにどんな意味があるのだろう。エレノアもレインも亜獣に対して十分に戦えているし、町の人たちとも依頼とやらを通じて繋がりを持っている。そこまでしてその地位を目指す理由とは?



「どうして神銃騎士という位にこだわるんだ?」


「――――私たちがまだ幼い頃、よくお母様からおとぎ話を聞かせてもらってね。勇者アストラが悪の王を倒すお話なんだけど、話の中で登場する一人の女の子が《神銃》と同じ力を使っていたんだ。その子を護りながら世界を救う騎士として戦う姿から取って、勲章として与えられたのが《神銃騎士》。レインは勇者アストラの方に憧れを持っているんだって」



 確かに森の中で《神銃》を使ってアストラの姿が現れたとき、レインが強く反応を示していた。



「なるほどな」


「レインが騎士を目指していたから私も一緒に訓練をしていたんだけど、やっぱり私には国を護るとか、世界を救うとかそんな規模の大きい話にピンと来なくてさ」



 エレノアは膝の上で組んだ自身の手を眺めながら話を続ける。



「私は、毎日ご飯が食べれて、素敵な相手と一緒に過ごす生活がいいなって。王族の血を引いてるから難しい話だけどね」


「普通の生活を望むのは当然だろう。エレノアはエレノアなりにやりたいことをやればいい」


「うん、ありがとう。今はまだ何をしたいのかわからないけれど、レインに付いていきながら見つけていこうかな」


「それがいい」



 少しだけエレノアの表情が明るくなった気がする。



 俺もアストラの言う通り、今は目の前のことに集中しよう。



「シルヴァはどうしたい? やっぱり記憶を取り戻したいよね」



 こちらを見つめながら聞いてきたエレノアに対し、俺は今心に決めたことを話すことにする。



「記憶も大事だが、何よりも今はレインとエレノア、そして俺を雇ってくれた王妃に礼がしたい。《災厄》がどんなものかは知らないが、俺にも協力させてほしい」


「そっか、そうだね。いつ来るかもわからないし、準備しておかなきゃ」



 そう言って立ち上がったエレノアは、「よし」と小さく呟いて扉の前へ向かう。



「お悩み相談に付き合ってくれてありがと。私は一回みんなのところに戻るね」


「ああ。気にかけてくれてありがとう」


「いいの、私が話したかったから。明日は日が昇る頃に降りてきて、お祈りを済ませてからお母様とお話しよう。その時にシルヴァが知りたいことをいくつか教えてくれると思う」


「わかった」



 扉を開けて廊下へ出たエレノアを見送る。手を振りながら「おやすみ」と笑いながら挨拶を交わす彼女はいつものエレノアと変わらなかった。酒に酔っていたことなど忘れてしまったかのように。



『……そろそろこのリボンを解いてはくれないだろうか、シルヴァ君?』


「すまん。意外にも似合っていたからな」


『……絶対今、僕のことを馬鹿にしただろう』

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