ep.5 王妃セナ・クラークとの謁見・上
――――首都アルケー、城内二階【謁見の間】。
私の名はセナ・クラーク。このパーレスト国を治める超絶イケメンシゴデキ国王、アレリオ・クラークの妃、つまり王妃の身位に属している。
私はこの国に来る前、神様からのお告げを聞いた。
パーレスト国に《災厄》という、国が滅びかねない程の大災害が近い内に訪れると聞き、私はそれを防ぐべく国王アレリオと共に戦力を集めているのだ。
できることならば隣国のモルテ帝国から協力を請いたいところだが、それはアレリオに任せるとして、私は愛娘であるエイレインとエレノアが《災厄》の時に自衛できるくらいには強く逞しくなれるようにサポートをするのが役目だ。
「――――王妃様、伝令がございます」
家令であるフィデリスがいつもとは遅い時間にやって来ては淡々と言葉を連ねた。そろそろ食事の時間だというのに何の用だろうか。そういえば二人がまだ帰ってきていない……流石に心配になってきたな。
「どうした?」
アレリオが三日前から隣国に出掛けてしまったので現在この国を管轄するのは私のみとなる。
普段は使用人たちへ指示を出す程度で、その他の仕事は他国から来客があった時のおもてなしくらいだろうか。農業や調理、城の防衛は全て使用人や衛兵たちがやってくれるので忙しさを感じたことはない。
「只今エイレイン様とエレノア様がお帰りになられたのですが……」
ですが、なんだろう。《ギルド》で高難度の依頼を引き受けてボコボコにされてしまったとか、途中で買い食いをしてしまったとか……そこまで問題を起こす子たちではないから、余計にその言葉に身構えてしまう。
「――――男を一人、連れてきております」
「――――な、なんですってぇえええ!?」
思わず大声を出してしまいフィデリスを驚かせてしまう。いやしかし……あの二人が男を連れて来るとは何事か。どっちだ? エイレインとエレノア、どっちの――――まさかどっちも!? まだ結婚は早いよ、どうしよう! だってまだ十六と十四だよ!? 私からしたらまだまだこれからって感じなのに!
「……失礼。ひとまず二人から話を聞きたいから呼んでもらえる?」
「かしこまりました。お連れいたします」
可愛い愛娘たちを食おうとする獣は一体どんな輩だろうか。
……この際、王の血筋なんて関係ない。本当にあの子たちが認めていて、且つ私から見ても十分に任せられると確証できたら(できないが)……交友関係を持つくらいは許可してやろう。
でもビジュアル最強クラスのイケメンが来たらどうしよう。私が逆に食べちゃうかもっ! なんちゃって。
「――――お母様」
この【謁見の間】の扉が開かれ入って来たのはエイレインだ。父親譲りの相変わらず綺麗な赤髪で、ロングヘア―はその凛々しい顔立ちによく似合う……私の娘って世界一可愛い。
「お帰り、エイレイン。話は聞いているわ……エレノアはどうしたの?」
玉座に座る私の対面にはエイレインとおそらく例の男。エレノアは厨房だろうか、今朝厨房の調理師が「塩がなくなってる~~~~!」と叫び散らかしていたしちゃんと返しに行っているといいのだが。
男の方は、長髪で何というか清潔感に欠けているな。目元が前髪に隠れていて顔の全体がよく見えない。もどかしい。
「厨房よ。今頃料理長に怒られているところだわ。それよりもお願いしたいことがあるの」
運命の瞬間だ。流れ的にエイレインのお相手かしら? もっと好青年で爽やかそうな子に興味を持っているのだろうと思っていたけど意外だ。深呼吸をしてから、ちゃんと話を聞こう。
「言ってみなさい」
「彼をこの城で雇ってほしいの」
そうきたか~。これでは付き合ってるかどうかわからないじゃない。しかし直接聞くのもな、なんだかなだよね。年頃の子にそういう話をするのは今後の関係性に影響しそうだししょうがない。
「何か理由があるの?」
「……もしかしてお母様、私が意中の男性を連れてきたと思っているのですか?」
「げっ」
思惑がすぐに看破されてしまった。顔が少し引きつりそうになったところを見られていたのだろうか。
「……はあ。お母様ってそういうお話が本当に好きですわね。違いますから」
「そ、そうだったのね」
「本題に戻りますわ。彼は《災厄》に対抗する戦力になりますの」
……まじですか。服装からしてどう見ても平民、畑仕事をしていそうな雰囲気の男が戦力に成り得るのだろうか。しかしエイレインがそう言うということは何かしらの理由があるのだろう。
「それほどまでの力が彼に?」
「ええ。彼は神銃を持っているの」
言われてみれば確かに、彼の腰には革製のホルダーが提げられておりそこには一丁の銃が掛けられているではないか。空色の鏡みたいな美しい銃だ。
神銃は一部の人間にしか与えられず、その資格があるのは教皇や国王が認めた人物のみ。男はこの国では見慣れない顔なので、他国の信銃騎士の可能性が高いと思われる。もしスパイだとしたら王女であるエイレインとエレノアが危険だ。
「残念だけどそれは難しい話ね。確かに今、私たちは《災厄》を退ける力を求めているけれど、素性もわからない者を城の内部に置いておくわけにはいかない」
「そう、ですわよね……」
そんなに悲しそうな顔をしないでよ~~~~断れなくなっちゃう! なんて気持ちになるのは最初からわかっていた。
確かに城の内部に置いておくのは危険極まりないが、亜獣から城下町を護るべく集まった《冒険者》たちがこの国には滞在している。妥協案として彼を城下町のどこかで住居を持つことくらいは許可してやらんでもない。
「ですが、彼は記憶を失っているのです」
「…………なんですって」
本当にどうしたものか。記憶喪失で神銃を持った長身長髪の男……いかにも主人公キャラ過ぎてビビる。
神様からのお告げではそんな人物が《災厄》を退けるのに役立つ、なんて話は無かった気がする。しかし世界で計五十丁しか存在しないとされている貴重な神銃をこのまま見逃すわけにもいかない……。
「――――条件があります」
「条件、ですか?」
こうなっては致し方ない。まずは実力、というより神銃に秘められた能力を見せてもらおうではないか。
彼が本当に記憶を失っているのであれば、少なくとも全てを思い出すまではこちら側に付いてくれそうだし。もし裏切られた時の保険も試しておきたい。
「その者とゼファリオンが決闘をし一撃を与えることができたら許可しましょう」
「小父様と――――!?」
ゼファリオン。このパーレスト国王室護衛隊隊長にして唯一の《神銃騎士》であり神銃の扱いに最も長けている人物だ。すでに歳は六十を迎えているが未だ彼よりも体力勝負で勝てた兵士はいない。
「ええ。それほどまでの力を示すことができれば、城内で彼を保護すると誓うわ」
「……小父様は最強の神銃騎士よ。私だって訓練で指一本触れることができなかったのに」
「――――レイン。あとは任せてくれないか」
おいおいおいおい、いきなりうちの子を呼び捨てとは生意気なボーイだ。先に私が一捻りしてやろうか。まあ私、戦えても一般兵士程度の戦闘力なので余裕で反撃を喰らう自信があるけれど。
「名前は?」
「シルヴァ。エレノアから仮の名を貰った」
おいおいおいおい、うちの子は何をしているんだろうね全く。名前のセンス神過ぎてお前が神だよ全く。という冗談は置いておいて。
「――――もしその決闘でゼファリオンとやらに一撃を与えれば、俺の知りたいことを教えてほしい」
なるほど。記憶を失っているのだから自身のことを思い出すきっかけが欲しいのは当然だ。
「いいでしょう。シルヴァ、貴殿が我が国最強の騎士に傷を与えることができれば、望むものを与えましょう」
流石に勝てるわけがないんだけどね、とは言い切れなかったのは、どこか強者のオーラが彼から感じてしまったからなのか、はたまた最強を打ち破る者をこの目で見たいという好奇心からか。
◇ ◇ ◇
――――城外外構【衛兵訓練所】。
城壁に囲まれたこの城には生活や訓練の為のスペースが設けられており、常に農業や畜産によって食糧を確保している。その為城下町にわざわざ赴く必要が無く、戦時中は城に籠城しても問題なく生活ができるように造られているのだ。
敷地内の施設の一つである衛兵訓練所は、日々王室護衛隊が訓練をし体力を付ける場となっている。
昨今の戦争では人一人分の重さの鋼の鎧を纏い、剣と剣を交わして戦うのでなかなか決着が着かないのだ。場合によっては先に体力が尽きた方が降参をする、という事態になっており、もはや剣士ではなくタンクと言った方が適切だろう。
なので彼らが日頃から鍛えているのは剣の腕よりも己の体力そのものであり、筋肉こそが全てだという考え方が一般的なのだ。うんうん、隆々とした筋肉と鼻腔を刺激する男の匂い……悪くないっ。
まあ、結局信銃騎士が前線に出てしまえば戦線はあっという間に押し上げてしまうのがオチですが。
「……して、本当によろしいのですか」
「さっすがゼファえもん、準備が早いね~」
訓練所を見下ろせる二階の廊下から挑戦者の登場を待っていると、すぐ隣に現れた老紳士に声を掛けられる。私が唯一本音とタメ口で話せる相手だ。
肩の辺りまで伸びた白髪はいかにも強者らしい佇まいだ。背はシルヴァと名乗る男と同じくらいで、腰には深緑に染められた《神銃》と鞘が提げられている。
「流石に手加減はしてね、チャレンジャー君の神銃の力を見ないと」
「かしこまりました」
目にも止まらなぬスピードで消えたと思えば、すぐに下の訓練所の出入口からひょっこり顔を出すゼファリオン。この予測不能な速度に、シルヴァはどう対応するのか……興味深いね。
「――――お母様! こんな遅くに何を……っておじさんとシルヴァがなんでそこに!?」
目をまん丸にして登場したのは我が娘エレノア。エイレインは父親であるアレリオ似だが、こちらは私に似て金髪ボブの小柄体型。いかにも妹って感じがして超~可愛い。
ちなみに私は金髪ロングで小柄というには至るところに脂肪が付いているので、共通点は金髪と口調ぐらいだろうか。
「決闘よ。ゼファリオンにシルヴァが一撃でも与えられたら彼をこの城で雇ってあげるの」
「流石レイン! 仕事が早いね~」
呑気そうに訓練所を見下ろすエレノアだが、彼の心配はしないのだろうか。
「まさか、エレノアはこの決闘に彼が勝てると思ってるの?」
「うーん、どうだろ。多分シルヴァでも厳しいとは思うけど、どうにかしちゃいそうな気がしなくもないんだよね~」
エレノアはゼファリオンが認める程の才能があるらしく、渡された神銃のほとんどを暴発させずに使用することができる。
エイレインは七丁あった神銃のうち適性があったのは一丁のみで、エレノアは全て問題ないレベルで使って見せた。そのことから神銃の適性は人それぞれであることが判明し、エレノアは戦略を拡げ、エイレインは得意分野を強化することに専念している。
そんな彼女が言うのだから確かにそんな気がしてくるのも才能だろう。カリスマ性というか、人を惹きつける力があるのだ。きっとシルヴァをここまで連れてきたのもエレノアが最初に提案したに違いない。
「お手並み拝見、と言ったところでしょうね」
ゼファリオンとシルヴァ、両者が向かい合う形で訓練所に到着する。直立したまま戦闘態勢にも移行せず、ただ睨み合うのみ。その独特な空気が緊張感を走らせていた。
「――――どこからでもかかってこい。その全てを打ち払おう」
「――――上等だ。真正面から突破する」
ゼファリオンは左手を鞘、もう一方をで柄を握り込み、左足を後ろに構えて手元が見えないよう小さく固まる。対してシルヴァは鋼の剣を抜刀状態で両手に構え、今か今かと戦闘開始の合図を待っていた。
「――――始めッ!!」
私の掛け声をきっかけに、両者は決闘を開始する。




