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神銃騎士シルヴァの冒険譚〜とりあえず激カワ王女姉妹の住む国を救ってみる〜  作者: しののめかいき
第一章 パーレスト王国編
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ep.4 エレノアの寄り道

――――診察室【サピエンス診療所】。



 死地から脱し、亜獣の住む森から私たちは首都アルケーに帰還することができた。森で迷子になった少女、プルクラを救い出す為にレインと赴いたが、まさか《スライム》の親玉に取り込まれていたとは想定しておらず命の危機に陥った。



 しかしまあそれは置いといて。早くプルクラを家まで送って、待ち望んだ揚げパンを口いっぱいに頬張りたくて仕方がない。ほんのり甘いパン生地を油でカリっと揚げた至高の一品だ。揚げた直後に砂糖をまぶすとより甘味が増して美味しいのだが、未だ貴重品で流通量が少ないのでお祝い事の時以外では使わないように言われている。



「――――《スライム》の粘液に含まれる毒が微量ながら全身に回っていますね。薬を注射すればすぐに改善するはずです」



 城下町唯一の医者、サピエンスはシルヴァの背に載せられたプルクラを診るなりそう言い放った。《スライム》の粘液は確かに微量の毒が含まれているが、私やレイン程の年齢を迎える頃には耐性ができてその程度では毒に侵される心配はない。



 サピエンスはすぐに診療室内に保管された薬品を棚から取り出し、手元の机に置かれた注射器に薬品をセットした。シリンダーに薬品が入っていることを確認し、注射針をプルクラの上腕に当てて穿刺(せんし)する。数秒に渡り薬品が注入され針を抜くと、彼が一息吐いて口を開く。



「解毒薬を注入しました。おそらく一日休めば十分に快復するでしょう」


「ありがとう。流石はサピエンス、お手柄ね」



 レンズの小さな丸眼鏡が松明の光を反射してきらりと光る。視界に映る彼の頭部もどこか輝きを見せており、髪の毛は一本も生えていない。以前サピエンスが話していたのだが、様々な薬品を扱いながら自身にも投与して実験をすることが多いらしく、その副作用で全身の体毛が生えてこなくなってしまったそうだ。



「いえいえ。お三方が早急に《スライム》の核から彼女を救い出してくれたおかげで大事には至りませんでした。一人の尊い命を救って頂き、一人の医者として感謝を申し上げます」



 プルクラの顔色がどこか良くなったような気がする。これで依頼は達成はもう間近だ。神銃騎士を目指す私とレインは、お母様から『城下町に住む人々の悩みを解決せよ』という試練を与えられている。この一ヶ月で十件の依頼を受けてはこなしてきたが、いつになったら認めてもらえるのだろうか。



「さっ、早くこの子を家まで送り届けるわよ」



 レインはサピエンスに一礼をして先に診療所の外へ出て行った。シルヴァはプルクラを抱えてそれを追いかけていったので、私も後に続いてこの場を去った。



 暖簾の向こう側は夕暮れに照らされて人々の住まう町をオレンジ色に染めている。私はこの時間帯が一番好きだ。夜になる直前のこの僅かな時間でしか見ることのできない、この美しい景色を守りたいと思い出させてくれるから。



 石レンガでできた二階建ての建物たちに囲まれた大通りを行き、途中の路地へ入れば住宅街が広がっている。すれ違う人たちは揃って笑顔を浮かべて挨拶をしてくれるのでこちらも口角を上げて会釈をし返す。



「王女というのは本当だったんだな」



 路地に入ってすぐにシルヴァが呟いた。相変わらず表情は一つも変わらない。横顔を見ていると鎧を纏った青年と比べて少し細顔で、鋼のように動かないその表情筋を無理矢理にでも動かしてみたい気持ちをぐっと堪える。一体こんな細身のどこに森の木を伝って渡れる程の筋肉が隠れているというのだろう、と彼に関しての疑問が次々と浮かんでくる。



「当たり前でしょ~、この防具だって王室護衛隊用防具の軽量化版なんだから!」


「私のは完全に溶けちゃったけどね。お母様に怒られるかも……」



 先の《スライム》との戦闘時にレインの装備していた胸当てが溶けてしまい、長袖の衣服も今やノースリーブになっている。幸い下着は見えていないのでこうして堂々と歩いていれば違和感はないが、本人としては早く部屋に戻って着替えたいところだろう。



――――アルケー住宅街二番通り【ドロール家】。



 そうこうしているうちにプルクラ宅に到着した。この辺りは木製で建てられている家が多く、こちらも例外ではない。看板には《ドロール》と書かれており、プルクラ・ドロールの家であることに間違いはない。



「プルクラを救出してきました! 誰かいらっしゃいますか!」



 レインが扉をノックしてプルクラの家族が居ないか確認を取ると、すぐに中から一人の女性が出てくる。顔を真っ青にしてまるで毒を飲んだかのように眉間にしわを寄せていたまま現れたのは、今回の依頼主であるプルクラの母親だ。



「――――プルクラっ!!」



 シルヴァが抱える少女の姿を見た途端、プルクラの母親は重たい扉を押し開けて我が子の頬に両手を添えようとする。その動作に合わせてシルヴァがプルクラを母親の腕に返すと、地面を濡らしながら女性は嗚咽を漏らす。



「本当に救い出してくれるなんて……、またこの子の顔が見られるなんて、もう無理だと思いました。私はなんて愚かな人間でしょうか……、神は私をまだ見捨ててはいなかったのですね……」



 見捨てなかったのは私たちなんだけどな~、と心の中で思ってしまったことを許していただきたい。まあでもそんな私たちもシルヴァとアストラが居なければ死んでいたのだから、確かに神サマとやらはいるのかもしれないが。



「ええ、神様は私たちを見捨てるなどはしませんよ――――この神銃に加護がある限り」



 レインは自身の神銃に手を添えてプルクラの母親を慰めた。神銃は神の加護により特別な力を使うことができる代物と言われている。実際どうなのかはわからないし、自分で言うのもなんだが勉強は苦手なので神銃の構造や仕組みを理解しようとは思えない。いっそ「神様のおかげだよ~」と言われた方がわかりやすく考え事が減って楽だとさえ思っている。



「本当にありがとう……そして本当に申し訳ありませんでした。あなた方に依頼しておきながら、私はもう諦めていたのです。神銃を扱うに相応しき者にしか与えられない神器(じんき)を持ったあなたたちでさえも、信じることができなかった」


「誰だって不安になることはあるし、疑うことだってある。それが人間でしょ?」



 プルクラを抱き寄せて温度を感じている女性は、「よかったらこれを」とミスリル金貨十枚が入った麻袋を渡そうとしてきたが、丁重にお断りさせてもらった。それだけあれば揚げパンが六~七十個も買えてしまう価値があるのだ。



「いいのいいの! 私たちに渡すんじゃなくて、その子の為に使ってあげてよ!」


「……絶対今、揚げパンのこと考えてたでしょ」


「……バレた?」



 じとーっと見つめてくるレイン、流石だ。私は何も不自然な動作をしていないのに考えていることがバレてしまった。姉の目からは逃れられないというわけだ。



「本当にありがとうございます……。ところで、このお方は?」



 シルヴァの方に目線が集まる。ここは、彼がこの町で生きていけるように人脈を拡げるいいチャンスだ。



「森で私たちを助けてくれたシルヴァっていうの! でも記憶喪失らしくて、今は彼がここに馴染めるように案内をするつもりところだったんだ~」


「そうでしたか……それは災難でしたね。きっと思い出せると願っております」



 先程の暗い表情から一転し、慈しみに満ちた様子で目を閉じたプルクラの母親は自身の子を抱えながら祈りを捧げた。祈りの方法は様々だが、この国では神銃を崇めることで神様と人間を繋ぐ《窓》として利用する文化が根付いている。私たち、そしてシルヴァが持つ神銃を通じて願いを込めてくれたのだ。



「神のご加護があらんことを」



――――そうして私たちは依頼を完了させ、ドロール家を後にした。ということはつまり、だ。



「――――揚げパン、買いに行こう!!」


「だと思ったわよ」


『待望の揚げパンだね』



 住宅街から元の大通りへ向かうと、そこには商人たちが路上で商品を売っていたり母屋で武器や防具を並べていたりと賑わいを見せている。早く目的の物にありつきたい気持ちを抑えて、シルヴァに城下町の案内をすることも兼ねて歩くことにした。



「こっちは道具屋、あっちは防具屋で……」


「武器屋もあるんだな。護身用に持っておくことが多いのか」


「ご名答。少し見ていく?」


『シルヴァ、見てみようよ。もしかしたら君に合う物があるかもしれないし』



 レインが武器屋へ行くことを提案すると、アストラが意外にも乗り気のようでその場の流れで武器屋へ向かうこととなった。揚げパン、早く食べたい。



――――武器鍛冶屋【ソーテリア】。



 店内に照明は無く、外から入る夕日のおかげでなんとか商品を見ることができる状態だ。主に両刃の長剣と短剣、槍なんかも置いてあるがあくまで護身用なので性能は王室護衛隊のものとは遥かに低い。値段はミスリル金貨十枚前後……揚げパン換算だとかなり高価なのではなかろうか。



「よお兄ちゃん、こんな店に何の用だ――――って王女姉妹!?」


「少しお邪魔するわよ」



 私たちを迎えたのはガタイのいい店主だ。モヒカン頭で背丈の高い男は、店の奥のバックヤードから出てきてはすぐに私たちの存在に気付いて声を上げた。レインはすぐに挨拶で返し、シルヴァもそれに倣って一礼をする。普段私たちは城の備品を使っている為このような場所に訪れる機会はなかったので店主が驚くのも無理はない。



「あ、ああ……構わねえが……城に住む王女さん方が何の用で?」


「彼を案内しているところだったんだよ~。森で知り合ったシルヴァっていうんだけど、記憶喪失らしくてさ」


「そりゃ災難だったな……それにしても兄ちゃん、その銃はまさか――――」



 すぐにシルヴァの神銃に気付いた店主は驚いた様子で彼を凝視している。流石にまずかったか、とシルヴァを連れ出す心の準備だけはしておいて男の続きの言葉に耳を澄ませる。



「――――新しい王室護衛隊の隊員かい? わりぃが護衛隊員様に合うような代物はうちにはありませんぜ。長年鍛冶師として武器を打ってきたがその腰のもんに勝るものは一度も作れたことがねぇ」



 神銃はいつどの時代に誰が作製したのか、記録が一つも残されていない上に神銃を作る職人はとっくの昔に天に召されているらしく今や実現不可能な技術とさえ言われている。神銃と同等、或いはそれ以上を求めるならば新たな神銃を手に入れる他ないだろう。



「だとしても、どれを見ても魂が込められた一級品に思えるな。専門的な部分はわからないが亜獣から身を護るくらいなら十分な活躍を見込めるだろう」



 一本の長剣を手に取っていたシルヴァは、興味深そうにその刀身を眺めていた。素人目にはとても良質なものには見えないけれど彼には違って見えているらしい。記憶喪失でありながら、今までの経験や目利きの力までもが完全に失われているわけではないようだ。



「護衛隊員様にそう言ってもらえるとありがてぇ! 何度も何度も鋼の強度を上げながら作った一品たちだ、素人目にはわからんだろうが兄ちゃんは違うみてぇだな」



 ……素人でスミマセン。



 彼は私とは世界の見え方が違うのかもしれない。その暗い瞳にはこの世界はどう映って見えるか、知りたい。シルヴァがこの先どのような道を往くのか、記憶を失う前の生い立ちとか。彼の背中に感じる見えない力強さがどこから湧いているのか、色んなことを知りたい。その先に私なりの生き方を見つけるきっかけがあると確信できる。



「――――その剣、持っていくといい」



 モヒカン頭の店主は、突然シルヴァの眺めていた長剣を指して言った。いくら何でも気前が良すぎではなかろうか。だって揚げパ……じゃなくてミスリル金貨十枚の値段が付けられているものだよ?



「いいのか?」


「そう言ったんだからたりめぇだ、ここ数年俺の武器を見て一級品(・・・)だなんて言ったやつはいなかった。なんてったってただの鋼の剣じゃあ亜獣は倒せないからな。だが兄ちゃんはどうやら他の連中とは違う空気感ってヤツを感じるぜ……持っていきな!」



 野太く大きな声を上げたと同時に、シルヴァの持つ長剣用の鞘を店主は彼に投げ渡した。満足そうな顔で腕を組むモヒカン店主は親指を立ててウィンクをしている。



 その様子を見たレインが私の方を向いて大きく目を開いたままハテナマークを浮かべていた。アイコンタクトで訴えてきても私にだってこの状況を理解しきれない。



「また礼に来るよ」


「おう! 気を付けろよ兄ちゃんたち!」



 いつの間にやら話が終わっていたらしく、シルヴァはレインと私にそれぞれ目線を送って小さく頷く。行こう、という意味だろう。三人で武器屋を出るところをモヒカン店主に見送られて後にした。



――――揚げパン屋【ハルメノス】。



 ……ようやくここに辿り着けた! 武器屋のモヒカン店主とのイベントこそあったが何とか営業時間内に間に合うことができたようだ。大通りの最奥、城に続く直前の道にタープと共に構えられた店こそ私がこの人生で食べてきた物で最も美味しいと感じた食べ物、《揚げパン》を売っている場所だ。



「やあエレノアちゃん! また来てくれたね!」



 揚げパン屋【ハルメノス】の店主、ドルーチェ・フィデスは真っ白なエプロンを身に着けて明るく声を掛けてくれた。相変わらず元気そうで安心する。彼女は元々私たちの城で働いていた調理師だったのだが、自身の部下を育て上げた後自分の店を持ちたいとお母様に進言しこの店を開いた。



「ちょっとだけ久しぶりだね、ドルーチェおばさん。揚げパン、三つお願いします!」


「あいよ! 袋に入れるからちょっと待ちな」



 目的の物を注文すると、ドルーチェは慣れた手つきで小さなショーケースに保管された揚げパンを一つずつ包装紙で包んでいく。紙の匂いと揚げパンの芳ばしい香りがふわっと鼻腔を刺激し、腹の虫が今にも鳴ってしまいそうだ。



「――――はい揚げパン三つ。ミスリル銀貨二枚だよ」


「ありがとう!」



 スカートのポケットから小銭入れの麻袋を取り出し、ミスリル銀貨を二枚摘み出してドルーチェに手渡す。武器屋で見た価格を見た後だと恐ろしく安く感じて経営に支障がないのか心配になる。



「ところで、その連れの男はどっちのボーイフレンドなのかね?」



 にやり、と面白そうな気配を感じたらしいドルーチェが意地悪な質問をしてくる。ボ、ボーイフレンドだなんてそんな……確かにシルヴァはクール系でいつも冷静そうなところに憧れを感じてしまうけれど、そんな人が私のお相手にだなんて恐れ多いが過ぎる! 決してそんなことはあり得ないのだ、決して。



「ち、違うよドルーチェおばさん! この人はそんなんじゃなくて~!」


「ふ~ん? エレノアちゃんたちももうそういう時期なんだね~時間が経つのは早いわねぇ~」


「もう、からかわないでよぉ! また来るからね! じゃあね!」



 大好物は恋愛話だと自称するドルーチェはこうなると大変だ。厨房で働いていた時も部下が恋愛話をしていればその地獄耳で聞きつけてすぐに飛んでくるのだという。だがアドバイスもしてくれるらしく憎めない人だ。いつか私も相談する時が来たりしちゃうのだろうか?



 全速力でその場から離れて大通りの広場に逃げ込んだ。レインはすぐに追いかけてきてやれやれと呆れた顔を浮かべている。まあいいのだ、ここ数日依頼の対応で二週間は揚げパンを摂取していなかった。レインと遅れてやってきたシルヴァに一つずつ揚げパンを渡して、近場のベンチに座り包装紙を開ける。



 両の掌に収まるサイズの揚げパンの表面は小麦色と部分的に焦げ茶色に焼かれておりグラデーションを見せている。それを一口頬張れば、パリパリと心地のいい音が鳴って歯切れも良い。芳ばしい風味と咀嚼と共に増すパン本来の甘味で自然と口角が上がってしまう。



「美味そうに食べるな」


「いつもこんな感じよ。エレノアは食べるのが趣味みたいなもので、普段は防具の中に厨房からくすねた調味料を持ち出して何にでもかけて食べてるの」


『本当だ…………今どこから塩を出したんだい?』



 ふっふっふっ、ちゃっかりレインに私の恥ずかしエピソードが公共の場で曝されてしまったが今は気分が良いので嚙みつかないようにしておこう。



 ちなみに、今取り出した塩を入れた小瓶は神銃用のホルダーを付けている左脚ではなく反対側の腿に細い革ベルトを使って吊るしていた。夢は砂糖などの甘味料を持ち歩いて好きな時に目いっぱいの砂糖載せ揚げパンを頬張る生活だ。



『シルヴァも早く食べようよ、それか神銃を使って僕と換わらないかい?』


「残念だがすでにエネルギーが切れているらしく使えない。味の感想くらいは伝えられるが」


『そっか……次入れ替われるようになったときは揚げパンを食べられるくらいの時間が残しておいてくれないかい?』


「善処する」



 仲が良さそうに神銃に秘められたアストラと会話をするシルヴァ。徐に包装を開けて一口齧ったので彼の感想を待つべく固唾を飲んで見守る。



「…………美味いな」


「ホント!? 良かった~!」


「あいかわらぐ、あじはいいでふがひょっとおもはいわね……」



 二人は揃って揚げパンを口にして感想を述べた。レインも城で食事を摂る時はマナーに厳しいが外ではたまに気が抜けるらしく普通にもごもごと口に物を入れながら口元に手を添えて話している。



 今度アストラにも食べてもらおう、と次の揚げパンを食べる口実ができたことにしめしめとにやけてしまうのはドルーチェおばさんの影響かもしれない。



「……食べ終わったら城に戻るわよ。遅くなってしまってはシルヴァの事情を報告する時間が無くなってしまいますわ」


「そうだね! 気に入ってもらえるといいな~」



 一口、また一口と食を進めて小さな幸せを胃の中へ捻じ込んでいく。食欲が満たされて全身に力が湧いてくるような気がした。



 シルヴァのことをお母様に話して、ここに住む権利をもらい彼の記憶を取り戻す拠点を提供したい。それくらいしか私が彼にできることはないが、命を救ってもらった相手に少しでもお返しができるのであれば本望だ。



「……ところでエレノア」



 今日何度聞いたかわからない喋り出しに少し身構えると、レインは続けて恐ろしい現実を叩きつけてくる。



「――――夕食、確か今日はエレノアの大好きなシチューだったはずよ」


「なん、だと…………」



 世間一般では間食を摂ること自体が非道徳的と言われており、食べることが好きな私からすれば暴飲暴食を悪とされる今の考え方はどうも気に喰わないのだが、王族である以上人々の模範となるべくそれに倣わないわけにもいかない。



「私は少量しか食べないから問題ありませんが、急がなければエレノア専用の大皿シチューを腹に入れないといけなくなるわよ」



 それはマズイ、マズすぎる。決して城の者には間食を摂っていたなど知られるわけにはいかないが、今回ばかりは普段の食事と同じ量にしてもらわなければならない。シチューの日だけお母様の許可を得て山盛りにしてもらっているのが裏目に出てしまう――――。



「レッツ・ゴーだよ二人とも! 教会のヒトたちに馬鹿にされる前に止めなきゃ!」


「完っ全に自業自得ですわね」



 即座に残り半分の揚げパンを口に無理矢理放りこみ、私たちは城へと続く大通りを駆けぬけたのだった……。

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