表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神銃騎士シルヴァの冒険譚〜とりあえず激カワ王女姉妹の住む国を救ってみる〜  作者: しののめかいき
第一章 パーレスト王国編
3/20

ep.2 神銃と神銃技士・中

――――数刻前。



 ……不思議な感覚だ。長髪の男が神銃である僕を使った途端、まるで自分自身が今まで何かに縛られていたように思えた。



 全身で空気を吸い込み、木漏れ日を浴びるという解放感と(みなぎ)る力が全能感を引き出していく。



 手と脚で確かに僕がこの世界に|生きている⦅・・・・・⦆という現実に少しだけ笑みが零れた。人間というのはなんて自由な生き物なのだろう、と少し羨ましくなってしまう程に。



「これが……この神銃の力……」



 自分の声がクリアに聞こえる。脳というものがあるのならば、恐らくそれが位置する場所へ響いて広がっていく。



 全身を確認すると長髪の男が着ていた衣類は無く、代わりに肌一つ露出していない重厚な鎧と小手に覆われて如何にも騎士のようだ。左の腰に提げられている鞘は空色を輝かせており、柄を握るとするりと刀身を露わにして引き抜くことができた。



 瞬間、身体がまるで悪魔との戦い方を理解しているかのように自然に身体が前方へ飛び出した。



 抜刀と同時にエレノアと呼ばれていた金髪の少女の首元を縛るスライムへ水平に刃を向けると、粘液に触れた途端刀身が緑色の光を発しながら核を捉えて斬り抜ける。



 付着した粘液を振り落とし鞘へ格納すると同時に、スライムは形状を維持できずに崩壊しエレノアは解放された。



「あ、ありがとう……」



 状況を理解できないままでいる少女に構わず、すぐさまもう一人の少女――――レインの方へ向かう。右手で再度剣の柄を握り締め、空いた手は鞘を支えるべく添えておく。左脚を後ろに引き、剣を引き抜くと同時に駆け抜けた。



 彼女の身体に当たらないように少し力を抜きながら右肩に付着したスライムを一閃。右方向へ振り切った直後に柄を持ち替えて足元に鎮座する粘液の核へ向けて突き刺すと、同様に光を発して爆散した。



「神銃を使わずに剣で亜獣を倒すだなんて、まるでおとぎ話に出てくる神剣(しんけん)の勇者様じゃない……」



【マナタンク残量、3パーセントに低下。換装を解除。身体情報をロード】



 視界の左下に突然小さな文字が出現した。同時に世界が暗転し意識が遠のいていく。手足の感覚を奪われ、白い光に身体が包まれてしまう。マナタンク残量の低下……言葉の意味はわからないが、この身体を維持する為にはエネルギーが必要であるということだろうか。



 神銃の力で長髪の男と入れ替わったのが元に戻るのだろうが、何故彼の身体とは異なる姿で僕が現れたのかもわからないまま神銃の下へ意識が向かっていった。



   ◇ ◇ ◇



 ……油断していた。まさかこの森にスライムが大量発生していただなんて。



 事前の調査では一体のボスクラスの亜獣が出現しているとのことだったが、恐らくあのスライムが自身の身体を分裂させて奇襲してきたのだろう。



 私とエレノアはすぐに拘束されてしまい、一人のか弱き少女と神銃二本を失うという考え得る中で最悪の可能性を引き当ててしまっていたようだ。



 神銃技士にして一国の王女として、この失態は許されない。いっそ命を落としてしまった方が楽になれるとさえ考えていた。



 しかしその考えはすぐに破綻してしまった。突如として現れた長髪長身の男が、見慣れない神銃を使用したと同時に、氷のような青白い色の鎧を纏った騎士の姿へと変貌し私たちの行動を縛っていたスライムを一瞬にして葬ったのだ。



 神銃を使わず、一本の剣だけで亜獣を討伐するのは不可能とされているはずだ。刃が通る前に彼らの身体に阻まれてしまう為、貫通力の高い神銃を使用する戦い方が一般的となっている。



 不可能を可能に変え、剣一本でスライムの核を破壊する様は小さい頃母に読んでもらったおとぎ話に登場する勇者様と酷似していた。小麦色の髪を靡かせ、表情一つ変えずに淡々とした横顔を浮かべる彼の仕草に目が離せなかった。



 私たちを解放した直後美しき勇者の姿は光に包まれ、元の長髪の男へ戻った。私やエレノア、国で管理されている神銃とは大きく異なる力を持った彼の神銃に少し興味が湧いてしまうが、今はそれどころではない。



「悪い。助太刀できるのはここまでのようだ」



 長髪の男は再び神銃を地面に構えてトリガーを引くが、何も起こる気配はない。小さく口を開き呟いた彼の眼は虚ろで太陽の光を浴びていても透明度はなく、感情の起伏が感じられなかった。木々を縫うようにして現れた彼の異常なまでの身体能力と、神銃一つで装備もまともにしていない異質な雰囲気からして隣国の神銃技士である可能性は低いだろう。



「……十分助かったわ。一国の王女として、感謝を申し上げます」



 敵意は感じられない。私たちを助けたのはこちらが一国の王女であることを知っていたからなのか、はたまた別の目的があったのか、ただのお人好しなのか。脳裏に浮かんでしまうあの騎士の姿を振り払って、ボスクラスの亜獣へ視線を向ける。



「超~強いじゃん! 本当に助かったよ旅のヒト!」



 呼吸を整えたエレノアは目線も寄越さずにターゲットを見つめて声を上げた。エレノアと背中合わせになって神銃を構え、次は周囲を確実に確認して奇襲対策を講じる。長髪の男は状況を察したのかすぐに緑の濃い場所で身を潜め、完全に気配を消してしまった。



「レイン。まずは分裂したスライムを倒してアイツの体を小さくしていこう。倒しきったら本体を直接攻撃して核を露出させるよ」


「間違っても核には当てちゃ駄目よ。エレノアの爆発はあの子を傷つけちゃう」


「はいはいわかってるって――――じゃあリベンジマッチといきますか!!」



 神銃を両手で構え的確にターゲットを狙い撃つ。核はスライムの生命活動の源であり、確実にそこを撃ち抜かなければダメ―ジは僅かにしか与えられない。エレノアの神銃ならば掠りさえすれば核ごと破壊できるので的がある程度大きければ有利に立ち回れるのだ。



 計四体のスライムを凍結させ討伐し終えると、私の背中を守るエレノアは推定でもすでに十数体を撃破していた。



「こっちは終わったよ~。そっちはまだ?」


「神銃が違うんだから無理よ! エレノアの貸して!」


「そう怒んないでよ~。はいどうぞっ」



 左手をエレノアの右手へ伸ばしノールックで神銃を受け取る。二丁神銃で片側は爆発を、もう片側で凍結を発生させながら次々とスライムを討伐していく。



「相変わらず粗いね~レインは。レインの神銃、そろそろ変えてもらった方がいいんじゃない?」


「小さい頃の話、忘れたの? 私が最初エレノアの神銃を暴発させて王室を(すす)だらけにして超~怒られて、やっとまともに使えたのがこれなんだから手放せないのよ」


「そーいえばそうだったね……」



 蘇る幼き日の記憶。神銃技士として戦えるように訓練をしていた時期に、七つの神銃の中から適しているものを選ぶ儀式で爆発系統の神銃がどうやら私には適合しなかったらしく、興味本位でトリガーに指を掛けた途端大爆発を起こして家族揃って真っ黒焦げになってしまった。



 この広大な森と大量に生み出されたスライムの群れを相手取るならば大して技術は必要ない。とにかく引金を引いて運任せに撃つだけでも十分に倒しきれる。視界に映る全てのスライムを討伐した後、借りていた神銃をエレノアに返した。



「このまま本命もやるよ! レインはサポートをお願い!」


「了解、核コアが出てきたら交代しましょう!」



 エレノアはすぐにボスへ神銃を向けて爆発を起こす。核の周辺を丁寧に爆散させていき、同時に複数体の小さなスライムが目の前に現れる。私がエレノアの神銃を使ったとしてもここまで綺麗に核以外を除去することは叶わないだろう。それ程までに彼女の神銃を扱うセンスと適性が高いのだ。



 出現した新たなスライムを一体ずつ討伐していると、やがてターゲットの中心部に核が出現した。



「――――最後はヨロシク!」


「――――任せて」



 おおよそ成人男性の背丈と同じくらいの直径がある球体が露出しており、透明感のある桃色のそれの中には静かに眠る一人の少女の姿があることを確認する。



 まだ消化はされていない。肉体の再生と維持にエネルギーを使っていてそれどころではないのだろう。神銃の銃口を向け核に撃ち込むと、瞬時に球体の外側が凍り付いて本体の活動が停止する。エネルギーの供給が止まり形状を維持できなくなったスライムの粘液が溶けるように地に広がって核だけがその場に残された。



「ちょ~っと嫌だけど、早く助けてあげなきゃね」



 エレノアが眉をひそめながら核に両腕を突っ込む。核の薄い膜を貫いてどぷり、と中に手を伸ばし、少女の体を抱き寄せて引っ張り出した。同時に核も形状崩壊を起こし、内部に収められていた臓器や粘液がその場に飛び散る。



「身体に問題は無さそうだよ、あとは医者に診てもらって家に送り届けるだけだね」


「ふぅ……。一時はどうなるかと思ったわよ」



 無事に依頼を終えて安堵していると、木の陰から長髪の男が再び姿を現す。私たちの戦闘が終わるまで待っていたということは、何か目的があるのだろうか。何者かはわからないが命の恩人であることに変わりはない。礼の一つくらいはさせてもらえると助かるのだが。



「先程はありがとうございました。もしよろしければお礼をさせて頂きたいのですが……」


「それは有難い。実は道に迷ってしまって近くの町を探している。場所さえ教えてもらえれば十分だ」



 ここは私たちの住む【パーレスト国】の中でも最も危険な森だ。亜獣の発生率が高く命を落とす者が後を絶たない上に面積が広大な為太陽を基準にしなければこの森林を抜け出すのは困難を極める。そんな場所に神銃一つで入り、実際に私たちを死地から救ったのだから相当な実力者だと思っていたがそうではないのだろうか。



「ええ……それはもちろん構いませんが、一体どこから来たのですか?」


『――――僕たちは気付いたらここにいたんだ。よかったら色々教えてはもらえないだろうか』


「し、神銃が喋った!?」



 少女を背中に抱えたエレノアは目を見開いて声を上げた。神銃から確かに青年の声が聞こえてきて私も思わず口を開く。



「そんな神銃初めて見ました……もしかして他国の神銃はより高度な代物があるのでしょうか」


「珍しいものなのか? すまないが記憶に障害があるらしく何も覚えていない」


「し、しかも記憶喪失!?」



 そんなことがあり得るのだろうか。気付いたら森の中にいて記憶が無く、話すことができる神銃を持っていただなんて。先程彼が神銃を使った際に現れた勇者と、神銃に宿っているこの声の主は確かに同一のものだ。ますますこの男が何者なのか興味が湧いてくる。



「……ひとまず私たちの住む城がある城下町を案内しましょう。お母様に話をすれば融通を利かせてくれるはずです」


「いいのか? そこまでしてもらう程のことはしていないのだが」


「先程も申し上げましたが、私たちはこのパーレスト国の王女なのです。きっとあなたを歓迎してくれるでしょう」


「そーだよ! もしかしたら神銃技士として雇ってくれるかもしれないし、話をしてみるのもいいと思うよ」



 少しの沈黙の後、状況の整理が終わったのか長髪の男が口を開く。



「ありがとう。案内を頼む」


「任せて下さい。自己紹介が遅れましたが、私は神銃技士エイレイン・クラーク。レインと呼んで頂いて構いません。そしてこっちが――――」


「エレノア・クラークだよ! これからよろしく。えっと……何さんって呼べば?」



 エレノアが元気よく声を上げて彼に手を伸ばそうとするが、あいにく両手が塞がっていてそれは叶わずもどかしそうな表情を浮かべた。



 確かに彼の記憶が無いのであれば自身の名前も忘れてしまっていることだろう。事実エレノアの言葉に対して回答を渋っている様子だ。仮の名前でもあればいいのだが……。



「もしよかったら呼び名を決めてくれないか?」


「わ、私たちが……?」



 いいのだろうか、名前というものは神に与えて頂いた個人を判別する手段。教会の助言無しに決めてしまっては不敬に当たらないだろうか。



「ん~じゃあシルヴァってのはどう? 神銃の方はレインが決めて!」


「ちょ、ちょっと! そんな思いつきでいいの!?」


「一言で判別できるなら何でも構わないよ。ありがとう」


『僕にも名前を付けてくれるのかい? 嬉しいね』



 人……いや銃に名前を付けるだなんて初めてのことだ。いきなり言われてもそうそう出てくるものでは――――あっ。



「――――アストラ」


 おとぎ話に出てくる勇者様の名が、ふと脳裏をよぎった。悪魔によって訪れた永遠の闇から人々を導き、包み込む勇者の称号に相応しき名前だ。



『アストラ……うん、いい名前だね。ありがとう』


「超~カッコイイじゃん! レイン、センスあるぅ~」


「ひ、ひとまず町に帰るわよ! さっさとその子を届けてあげないと」



 帰り道の方へ歩みを進める。決して褒められて嬉しいわけではない。決して。



「レイン、歩くの速いよ~」



 すぐに少女を抱えたエレノアが早足で追いかけてくる。町まではおよそ一時間程度で到着するだろう。太陽の傾きからして今は夕暮れ時、夜になる前に帰り着けるはずだ。



「俺が抱えておこう。駆け足でも遅れは取らないはずだ」


「助かる~! そうだ、何か聞きたいことがあれば何でも聞いてね!」



 シルヴァはエレノアから幼き少女を引き取ると、軽々と広い背中に載せた。長身の彼が持つとなんだか親子のように見えて笑みが溢れる。



「日が完全に落ちるまでに帰るわよ! 亜獣との戦闘は極力回避、必要最小限で行きましょう」


「了解!」



 周囲を警戒しながら森を駆け抜けていく。木々の隙間にスライムの残党が見えるが戦うだけ時間の無駄だ。今は救出した少女を送り届け、シルヴァとアストラの件をお母様に相談しなければならない。やがて来る《災厄(さいやく)》に備える為にも、彼の力は必要になるはずだ。



 亜獣たちの親玉――――お母様は《幻獣(げんじゅう)》と話していた――――が突如として出現し人界を滅ぼさんとする《災厄》は何としてでも食い止めなければならない。歴史では数百年前に一度《災厄》が起き人類のほとんどが滅亡し、残された神銃と共に世界が再建され今に至るという。再び《災厄》が発生すれば人類に未来は無いとさえ言われているのだ。



 この美しき青き星を守る為にも、私たちは戦い続けなければならない。



 神銃技士という名の自分の使命を再確認し、この亜獣巣食う森を駆け抜けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ