SS「三つの小瓶」
食いしんぼうキャラ、好きです
昼食を終えて使用人室のベッドで寛ぎながら、俺は窓の外をぼーっと眺めていた。すると、扉を叩く音が聞こえてくる。
「シルヴァ、ごめん! 今すぐ入れて!」
「エレノアか。どうした?」
「いいから早く~! キンキュウジタイ!」
扉の叩く音は瞬く間に速くなっていき、リズミカルな音楽を奏でている。
とにかく何かあったらしい彼女を部屋の中に入れると、随分と呼吸が荒い様子だ。
「何かあったのか?」
「ちょっとね……極秘の《特別依頼》みたいなもんだよ」
「亜獣が攻め込んできたのか!?」
「ああちがうちがう、紛らわしかったねごめん」
『……その手に持っている袋は、あの揚げパン屋のものだね?』
部屋の机に立て掛けて置いていた神銃、アストラが呟いた。確かに今エレノアが持っている麻袋は揚げパン屋【ハルメノス】で使われているものと同じだ。
「ふぅ……。そうだよ、今日も監視の目を避けながら買って来たんだけど、多分レインにバレちゃった」
「それでここに逃げ込んできたのか」
「うん。ここにはまだ逃げたことなかったし、少なくとも今日はばれないは――――」
ず、の一音が発せられる前に、逃避行が終わりを告げたことを知らせるノック音が轟き始めた。
「ぎゃあ! ばれた!」
「ぎゃあ! じゃないわよ! また調理場からいろいろ持って行ったでしょ!」
『揚げパンを買ったことじゃなくて、そっちが原因なんだ』
「ちょっとだけじゃ~ん! 優雅なスイーツタイムを楽しませてよ~」
びえ~ん、と喚きながらエレノアは叫び倒す。そこまでして揚げパンを有意義に食べたいのか、と少し戸惑ってしまうが、状況の整理がついたのはその僅か数秒でレインがこの部屋の扉をぶち破った後だった。
「……で、今のお気持ちは?」
「揚げパンが食べたいです」
やれやれと言わんばかりに溜め息を吐いたレインは、机に並べられた押収品を眺めながら口を開く。
「塩に砂糖にシナモン……よくもまあ使用人の目を盗んで自前の小瓶に詰め替えたわね」
「えっへーん」
『そこはドヤ顔するところではないんじゃないかな』
レインに怒られながらも、目的の好物にありつければそれでいいらしいエレノアが口いっぱいに揚げパンを頬張っている。
これ以降、俺の部屋には定期的にレインが出入りするようになった。もちろん毎日というわけではないので、つまりレインがやって来るということは、またエレノアが何かやらかしている時なのだろう。
「……それにしても、ここに置いて行かれるのはな」
『……だね』
未だ机の上に置かれたままの三種類の小瓶が、窓から差し込んでくる陽の光に当てられて今日も煌めいている。




