ep.17 決戦
こんばんは。しののめかいきです。本編最終章まできました。ここまで読んでくださった方、今この瞬間開いて下さった方々、本当にありがとうございます。本話は少し長めになっているので(詰め込み過ぎたというのもあります)、少しずつ読んでいただけると幸いです。
ところで、なんとなくこの行間でやっているのですが、もしかして見づらいですかね?
――――パーレスト国、【南の門】前。
エレノアたちが分裂した《幻獣》を相手にしている頃、それと同様の生物がこの【南の門】の前にも出現していた。シルヴァが【監視塔】から放った一発の光によって《幻獣》の障壁が破壊された直後、突如地中から現れたのだ。
「――――分裂した《幻獣》を確認。冒険者諸君は【南の門】前を防衛ラインとし、《幻獣》と亜獣の侵攻を阻止して! 護衛隊はそのバックアップをお願い!」
この場にとどまった王室護衛隊と冒険者全ての指揮に当たる王妃、レナ・クラークは冷静に状況を整理していた。
「エリアンとシルヴァの仮説通り、まさか本当に《幻獣》が神銃の力をも通さない不可視の壁を持っていたとは……いっそのことさっきの一撃で倒せたらよかったんだけどね」
地中から出現した《スライム》系の生物は、【悪魔の森】で佇んでいた《幻獣》と同様に透明な身体で、唯一亜獣と異なる点は心臓部にあるはずの核が存在していないことだろうか。
冒険者たちの前で蠢くそれらは、その身体の周りで小さな光の粒を纏いバチバチと音を立てている。亜獣との戦闘経験がない者たちは動揺を見せながらも、王室護衛隊の隊員のフォローのおかげでなんとか数を減らし続けることができている状況だ。
「――――無理に前に出なくていいから、目の前の敵に集中して! 足を取られなければ大して強くないから、一人行動はダメよ!」
「あ、亜獣は私たちにお、お任せください!」
巨大な盾を構える二人の少女。《シールド・メイデン》のサーラとティナが冒険者たちと共に目の前の敵を相手に戦っていた。
「《フロース・ジャッカル》、一体よ! ティナ、一緒に!」
「は、はい!」
分裂した《幻獣》の戦闘力は《スライム》よりも低く、直接手や足が触れなければ問題なく討伐することができる。しかし相手が亜獣となれば未熟な冒険者たちでは対処に困難を極める為、王室護衛隊であるサーラとティナが引き受けたのだった。
すでに《フロース・ジャッカル》は自身の身体に付けた蕾を開花させ、攻撃態勢となって二人に襲い掛かる。
ティナは即座に大盾を持ち上げて身を隠しながら構えた。その小さな身体でまるで重量を感じさせない動きに周囲の冒険者はぽかんと口を開けてしまう。
二人に飛びつこうとした《フロース・ジャッカル》の導線が大盾に塞がれてしまい、盛大に鉄の塊へ頭部をぶつけた獣は大きく体勢を崩す。
「――――ふっ!」
その一瞬の隙を、サーラが腰に携えた一本の赤き短剣で確実に捉えた。軽快な動作で心臓部を狙い、短剣の刃が毛皮に触れる寸前で両手を使って一気に押し込む。
鍛冶屋のモヒカン店主が話していた通り、本来鉄製の剣ですら刃が通らない亜獣の身体を簡単に貫いてしまい《フロース・ジャッカル》の核は破壊され、生命活動を停止させる。
「やった!」
笑顔を浮かべながらハイタッチを交わすサーラとティナ。同じ部隊のメンバー故に連携も完璧で洗練されている。
「――――っておーい! もう一体来てるって!」
「え?」
二人に声を掛けたのは城下町の方から走ってやってきたガレス・ロウ。亜獣との戦闘に勝利して油断していたサーラとティナに、もう一体の 《フロース・ジャッカル》が襲い掛かろうとしていたのだ。
大盾を回収しようと咄嗟に動こうとするティナだったが、それよりも一歩分 《フロース・ジャッカル》の方が速く防御が間に合わない状況になってしまう。
「あ――――」
「ティナ!?」
これはだめだ、とティナはすぐ隣にいたサーラを押しのけて前方へ身体を運ぶ。大盾の横を突かれる形では得意の戦術を活用することができない。
だが次の瞬間、ティナの目の前にいる亜獣は完全に静止してしまい、そのまま地に倒れた。《フロース・ジャッカル》のいた場所の背後には一人の男――――ガレスと共に一度城下町へ戻ったディノ・マークスが立っている。
「油断大敵だぞ、サーラ、ティナ」
「あ、ありがとうございます……」
「さっすがはディノ! 俺はお前を信じていたぜ!」
「いや一緒に居ただろ、急にお前が立ち止まらなかったらもっと早く倒せたんだが」
「うん。いやさ、ほら。足元がね、うん」
ガレス以外の三人はすぐ近くに立ち止まっているが、なぜかガレスだけは【南の門】のすぐ目の前で直立していた。彼が自身の足元に指をさした為三人がガレスの足を見ると、思いっきり《スライム》に足を突っ込んでしまっており、みるみると彼の靴が溶けていった。
「……あの、見てないで助けてくれないかな? まだコイツ生きてるんですけど」
「……行くぞ、二人とも」
「い、いいんですか?」
「なんかアンタたちって、仲がいいのか悪いのかわかんないわよね……」
「何普通に雑談してるの!? 置いてかないでよ! たすけて!」
空気を一気に吸い込んで最大級の溜め息を吐いたディノが、気怠そうな顔で赤い短剣をガレスの足にへばりつく《スライム》に刺した。形状崩壊を起こした亜獣の粘液が周囲に飛び散り、無事ガレスの足元が解放される。
「ありがとう~心の友よ~」
「ったく――――っておい、あれはなんだ?」
ディノが向いた方向――――戦場である【南の門】と【悪魔の森】の間に異変が起こっていた。分裂したはずの《幻獣》が空中に集まり出し、一つの塊を形成しつつある。地上だけではなく地中からも出現しており、塊は徐々に大きさを増していく。
「《幻獣》が集まってる!?」
「な、なにが起きているんですか――――!?」
サーラとティナも異変に気付き平原の中心部を確認すると、集合した塊は形状を変化させ、巨大な立体物を生成していく。
「あれは……巨人か?」
形成されたのは首無しの人の姿。しかしその大きさは何十倍とあるだろう、ガレス含めその場にいる全ての人間が巨人を見上げて立ち止まる。再び太陽の光が影に落ちて広い平原を夜の景色に変えてしまった。
巨人が両手足を地面に付けたと思えば、大規模な地震が発生し人も亜獣も関係なしに身動きを封じる。
「――――地面が!?」
冒険者の一人が地上の異変に気付く。大地震が発生するのと同時に、地中から隆起した土が勢いよく噴出し柱を作り出したのだ。足元の自由を奪われた者たちの一部は柱の発生に巻き込まれ勢いよく後方へ吹き飛ばされてしまった。
「退避急いで!」
後方より状況を俯瞰していた王妃が指示を出すが、咄嗟に戦場から離脱できる程余裕のある者はいない。次々と出現する土の柱に冒険者だけでなく、ガレスたちも巻き込まれてしまい戦況が悪化していく。
「――――みんな、大丈夫!?」
『状況はかなり悪いわね。巨人の行動は止められないの?』
分裂した《幻獣》が再集合を始めたのに気付いて戻って来たエレノアたちが、荒れ果てた草原と集合体である巨人を見上げている。アストラとゼファリオンが構えた神銃から《氷属性》と《風属性》の弾丸が放たれるが、巨人の身体に着弾したと同時に神銃の力が失われてしまい目立った効果は確認できない。
「……駄目だ。分裂していた時よりも強度が高くなっているみたいだ」
「再び分裂させることができれば……と言ったところか」
透明な粘液が集まった巨人に弾丸は通らない。だがその心臓部に鈍い赤色で染められた核が眠っているのが視認できることから、狙うべき弱点は核であるとすでに共通認識としてエレノアたちの脳内に刻まれている。
エレノアたちの目の前に立ちはだかる巨人の向こう側で、ガレスたちが地中からの猛攻を何とか避けながら後退していってはいるが、これ以上の持久戦は不可能だ。
「早くあの巨人を止めないと……」
『城下町まで巻き込まれたら終わりよ、とにかく神銃で足止めしなきゃ』
アストラが巨人の足元に神銃の弾丸を撃ち込み、城下町へと侵攻する《幻獣》の行動を妨害する。どうやらダメージは入りにくくとも、動きを阻害することは可能なようだ。
しかし、それでも巨人は地震の発生を止めることはない。大自然広がる草原を荒廃させながら、次々と冒険者やガレスたちを窮地へ追い込んでいく。
「————皆、大丈夫か?」
「シルヴァ!」
「遅い登場だね、ヒーロー」
手の中で灰になった羊皮紙を払いながら、シルヴァはエレノアたちの前に現れた。ふっ、と笑ってみせるエイレインの姿に一瞬驚くが、周囲の状況を確認し彼は冷静に新たな作戦を提示する。
「俺がもう一度エネルギーを貯めて、あの巨人の体を吹き飛ばす。露出した核を全員で一斉に射撃してくれ」
亜獣と交戦しており合流が遅れたクラリスたちもこの場にやってくるが、彼の話を聞くや否やすぐにリベルタスが問い返す。
「先程の光線をもう一度出すのですか?」
「あれはもう使えない。爆発の威力に耐えられずに破損させてしまった」
「じゃあどうするんだ? 力を込める物が無ければ、その力も無意味なのだろう?」
クラリスの追撃に対し、シルヴァは沈黙する。これまで神銃の力を込めた羊皮紙か、アストラの神銃にしか彼の異能は発揮されていない。
「————! もしかして、シルヴァ……」
エレノアが何かを勘づいたかのように彼の方に目線を向ける。
「ああ。俺自身にエネルギーを込めるんだ」
『そんなことできるの? それに、さっきの光であの銃は壊れちゃったんでしょ? 万が一シルヴァの身体が耐えられなかったら……』
シルヴァが【監視塔】から放った一撃は、確かに《幻獣》の障壁を打ち破るほどの威力を発揮したが、その反動でエリアンが設計した銃は現在使用不可能となってしまった。それと同様のことが彼の身に起これば、命の危機に関わってくる話なのだ。
「問題ない。ただの勘だが」
「シルヴァらしくない発言だね。本当に何が起こるかわからないんだろう?」
普段は理屈で話すシルヴァが、今回に限っては神頼みという結論に至ったことにアストラは驚きながら苦笑する。
「だが事実として、シルヴァの力に頼らないとするならどうあの巨人を討伐する? 我々の神銃では、たとえ倒せたとしても国が一つ滅んだ後になるだろう。今私たちができることは、彼をサポートし全員で《幻獣》を倒すことではないだろうか?」
クラリスは彼の提案に賛成しているようだ。《幻獣》による被害を想定するとしたら、一人の人間を犠牲に何千の命を救った方が合理的な判断ということになる。
「《勇者》……いや、⦅英雄⦆にでもなるつもりかい?」
「アストラ、俺はそんな称号に興味はない。今この場でできることを、全力を賭してやり切りたいんだ。居場所をくれたエレノアたちと、この国の人々を守れるなら俺はどうなっても————」
「————させないよ、そんなこと」
シルヴァの言葉を遮ったのはエレノアだった。何か決心めいた顔つきで彼の暗い瞳を真っ直ぐに見つめる。
「他に方法がない」
「一人では、でしょ? ここには皆の神銃がある。シルヴァの力と、皆の力を合わせようよ。そうすればシルヴァの負担が減るじゃん!」
「危険だ。もし⦅幻獣⦆が君たちに襲い掛かれば、この国の戦力であり希望であるエレノアたちの無事を保証できない。それに、《幻獣》の核はすぐに分裂した身体の一部が再集合して狙えなくなる可能性がある。そうなれば事態の収拾が付かなくなってしまうだろう」
「そこはアストラに任せる! できるでしょ?」
エレノアがウィンクした先にはエイレインの姿のまま佇むアストラがいた。あまりにも投げやりで、且つ重要な役割を簡単に彼に任せてしまったエレノアだったが、それに対してアストラは余裕な表情を見せて笑ってみせる。
「任せて。確実に核を破壊してみせるよ」
「じゃあ決まり! ね、いいでしょシルヴァ?」
「……危険過ぎる」
『————この場にいる人たちは、それを理解してここにいるのよ。自分の身くらい自分で守る覚悟で来てるの。今は目の前の敵に集中して。まあ、今の私は自分の身を自分で守ることすらできないけど!』
エレノアたちは、単独で⦅幻獣⦆に立ち向かおうとするシルヴァの方を向く。後に引けなくなった彼は、小さくため息を吐いて口を開く。
「……わかった。皆の力を貸してくれ」
「もちろん! 皆でリベンジマッチだよ!」
右の拳を握りしめて天に掲げたエレノアは、全員と顔を合わせて深く頷きあった。最後の戦いに赴くべく、未だ城下町へ侵攻を進める巨人の背中を追いかける。
「サーラ、ティナ! そっちは何とかなりそう?」
ミリアが巨人の向こう側にいる二人の隊員に大声で呼び掛けた。彼女の声に気付いたサーラとティナは、ミリアの方へ振り返って大きく両手を振る。
「————なんとか! 私とティナ、あとガレスたちも無事だよ! 今は全員で【南の門】の内側を目指して後退中!」
「————こちらは亜獣も土の柱に巻き込まれたので比較的安全に待避できるかと思います!」
「了解! あとはこっちに任せて、皆を無事に城下町へ!」
「「————了解!」」
状況を確認したミリアは、すぐにエレノアへそのことを報告する。戦況は悪化しつつも被害は最小限に抑えられているのを把握し、シルヴァの元へ寄った。
「シルヴァのタイミングでいいよ。あとはこっちで合わせるから、デカいの一発決めちゃって!」
「ああ、わかった」
シルヴァはエレノアたちに見送られながら、真っ直ぐに巨人の元へと向かっていく。⦅風属性⦆の神銃の力を秘めた羊皮紙にエネルギーを注入し、高い身体能力で地を蹴った。
ブーストされた跳躍力で一気に⦅幻獣⦆の背中の高さまで到達すると、空中で高度を維持しながら左手を右の拳に当てて構えた。
意識を集中し、体内を巡っているであろうエネルギーの管を左手と右手で繋いでいくイメージ。すると、シルヴァの予想通りにペールグリーンのオーラが右拳に発生し始める。
オーラは次第に色の濃さを増していき、力の増幅を彼は感じていた。
「くっ……!」
声を荒げながらも力を溜め続けるシルヴァ。しかし、【監視塔】でエネルギーのほとんど使ってしまっていた為、拳に貯められるエネルギーには限界があった。
「————ッ!」
次の瞬間、彼は溜めた力を一気に解放させるように拳を突き出して四つん這いになっている首なし巨人の背中へ向けて降下し始めた。
拳が巨人の身体にめり込んでいくが、液体と固体の間のような感触はすぐに彼の攻撃を反発しようとする。
【マナタンク残量、五パーセントに低下】
シルヴァの腕から拡散していくペールグリーンのオーラ。それと同時に彼の脳内に響く機械音声が残りのエネルギー残量を伝えてきた。
「まだ足りない……もっと力をッ————!!」
獅子の如く吠えるシルヴァは、自身の限界を感じつつも拳に力を込め続けた。
本来通常武器でさえもダメージを与えることができない亜獣の特性は、当然のように⦅幻獣⦆にも付与されている。
そんな相手を拳一つで立ち向かおうなど、そもそも無理な話というわけだ。
『————何よ、あれ』
「あれは……シルヴァの力かい?」
エイレインとアストラがおかしな状況に気づく。彼の腕から放出されているオーラと同様のものが、周囲の亜獣の死体から発生し彼の元へと向かっていっているのだ。
「死んだ亜獣の核のエネルギーを吸収している、ということだろうか」
「少し怖いですね……私、今鳥肌が立ってます」
亜獣の残党を討伐していたクラリスとミリアもまた、自身が倒した亜獣から発生したオーラの行く先を目で追っていた。
「ですがなんだか、この光景は————」
リベルタスがエレノアの隣で彼女を守りながら、ふと呟いた。
目を瞑って彼の無事を祈っていたエレノアがシルヴァの方を見ると、周囲から彼に集められたオーラは、幻想的で夜空に浮かぶ星々のような輝きを持っている。
「————綺麗」
オーラはシルヴァの体を覆い、すぐに彼の拳へと集まっていく。循環するエネルギーが枯渇する前に、この戦場に眠る数百もある亜獣の核から次々とエネルギーが供給されている。
【————マナタンクへの供給を確認、一〇〇パーセント到達。制限中の機能リミッターを解除。《記憶領域》解放、回路接続。《魔核》へのエネルギー供給を確認】
シルヴァの体内を巡るエネルギーを保管する未知の器官、マナタンク。それが最大値を迎えたことを知らせる音声と同時に、彼の身体に変化が起こる。
「————ありゃ一体何が起きてるんだ!? 新入りのヤツ、あんな力を隠し持っていたのか! すげえな!」
「————おいガルド! よそ見をしてないで早く来い!」
一方ガルドやサーラたちは、なんとか巨人の猛攻を回避して戦線を離脱していた。
「————想像以上ね。これじゃまるで、神の力というより⦅魔法⦆という方が正しいわね」
ただ一人、【南の門】の前で王室護衛隊や冒険者の無事を確認しながら戦況を眺めていたレナが呟いた。
シルヴァはペールグリーンのオーラに全身を包まれ、身体そのものがエネルギーの凝縮体となった隕石のような姿を見せる。
「————思い出した」
彼の拳は少しずつ巨人の背中を抉っていき、⦅幻獣⦆の核を目指して降下していく。
そして、マナタンクが一〇〇パーセントを迎えたタイミングで彼は、自身のことを少しだけ思い出していた。
左手で自身の心臓部に触れると、そこに鼓動は無い。表皮に触れると冷たい感触が返ってくるだけで、肌は鋼のように硬く少なくとも自分が人間では無い現実を知らしめている。
「————俺の身体は、神銃でできていたんだ」
彼の心臓部に眠る核は、亜獣や神銃の核と同じ。赤黒い血の色のようなそれは、エネルギーの保管場所であり放出する場所でもある。
【————⦅魔核⦆の情報をロード。⦅無属性魔法》、⦅エレメンタル・バースト⦆の使用解放を承認】
神銃がそれぞれ異なる神の加護を行使できるように、彼の⦅魔核⦆にも一つの力が保存されていた。新たな概念である⦅魔法⦆という単語に戸惑いながらも、彼は迷うこと無く解放された力を言葉にする。
「————《エレメンタル・バースト》」
蓄えた一〇〇パーセント分のエネルギーを一点に集中させ、夜空を瞬く流星の如き輝きを発しながら放つ一撃。
「————キュォバァァァッ!!」
悲鳴のような音を出す巨人は、一瞬にして心臓部を中心に爆発を起こすように分裂していきながら、数多の《スライム》姿へと変わっていく。
「————皆、一斉に射撃お願い!」
エレノアの掛け声と同時に、ゼファリオン、アストラ、クラリス、リベルタス、ミリアを含めた六名の神銃による攻撃が巨人の背中に追撃していく。
「————見えた」
彼女たちの追撃により、シルヴァの目の前には巨大な⦅幻獣⦆の核が露出しているのが見える。
「————アストラ、これを!」
「うん! 使わせてもらうよ!」
シルヴァの持つ最後の羊皮紙には、ゼファリオンとエレノアの神銃の力を書き記しいていた。それに一瞬でエネルギーを注ぎ込み、アストラの足元へと投げ込む。
「————ふっ!」
羊皮紙を踏みつけるように跳躍したアストラは、赤髪の王女の姿で華麗に宙を舞い巨人の核の上に着地した。
アストラの持つ特別な剣、《神剣》を構え核へと突き刺そうとするが、その手前で彼の動きが止まる。
「アストラ?」
「————すまない、どうやら時間切れみたいだ」
『ちょ、ちょっと! 肝心なとこじゃない!』
ペールブルーのオーラがエイレインの身体から放出され、それがアストラの神銃の効果時間の限界を迎えていたことを知らせている。
『あとは頼んだよ、レイン』
「でもアンタの剣がなきゃ!』
露出した《幻獣》の核が、少しずつ元の状態へと戻っている。分裂した身体の一部が再び集まり、弱点である核を保護する為修復しているのだ。
だがこの土壇場の状況でアストラの神剣が消え、エイレインの意識が元に戻った今、核を破壊する程のダメージを与える手段はない————と思われたその時。
「俺の剣を使え!」
「そっか! その剣って!」
シルヴァがモヒカン店主に依頼し作製して貰った真紅の剣、⦅フロラタイト・ブレード⦆がここにはある。
彼の腰に提げられた鞘から、エイレインは勢いよく長剣を引き抜く。
露わになった紅き剣はどこか彼女の髪色と同じような輝きを放っており、その妖美さにシルヴァは息を呑んだ。
「————はぁああああああああっ!!」
エイレインは雄叫びを上げながら、両手で地面に突き刺すように⦅幻獣⦆の核へ剣を突き刺した。
ずぶり、と鈍く柔らかな感触のまま深々と刺した後、一瞬の沈黙の後に形状崩壊を起こす。
同時に分裂していた透明な⦅スライム⦆状の⦅幻獣⦆たちも、核の崩壊と共にその場で弾けていき姿を消していった。
夜の空が晴れていき、日の光が戦場に注ぎ込まれる。巨人が出現したタイミングからこのパーレスト国上空に大規模な霧が発生し、太陽の光を遮っていたようだ。
荒れ果てた大地と、戦場で戦い続けた者たちだけがこの場に残されて、標的であった⦅幻獣⦆は核の崩壊と共に姿を完全に消してしまった。
「————終わった、のかな」
「今はそう思うしかないだろうな」
「無事乗り越えましたね、⦅災厄⦆を」
「なんだか凄い戦いでしたね……早く帰りたい」
エレノアの言葉に対し、クラリスとリベルタス、ミリアが反応した。
「シルヴァたちは!?」
はっと思い出したかのように周囲を見渡すエレノア。すぐにゼファリオンが彼女の肩を叩いて【南の門】の方を指差した。
そこにはエイレインがシルヴァに肩を貸しながら歩く背中が見えて、エレノアは思わず涙する。
「よかった……三人とも、ちゃんと無事だ……」
「エレノア様、早く王妃の元へ向かいましょう」
「うん!」
にぱっと笑ったエレノアは、一番に駆け出してシルヴァとエイレインを追いかけるように【南の門】へと向かっていった。
残った四人もそれを追いかけて、王妃の元へ向かう。
「————よくやってくれたわ。皆、本当にありがとう。特にシルヴァ、あなたが居なければこの⦅災厄⦆を退けることは叶わなかったでしょうね。本当に感謝しているわ」
「力になれたのなら光栄だ————」
「ちょっ、ちょっとシルヴァ!? 大丈夫!?」
エイレインの肩に重心を預けていた彼は、言葉を口にしながら崩れていってしまう。
『無理もないよ。使えるエネルギーのほとんどをあの一撃に込めたから、その反動は大きいはずだ』
アストラは銃の姿に戻っており、彼の状態を王妃に説明した。
「ちょっと……誰か、手伝いなさいよっ……!」
「ひとまず⦅災厄⦆は去った。後片付けは色々あるけれど、今はこれで良しとしましょう。まずは皆、城へ帰ってご飯を食べるわよ!」
「————私の話を、聞けぇええええ!」
意識を失ったシルヴァを全力で抱えながら、ふんばった顔で周囲の誰かに向けてツッコんだ。
王室護衛隊や冒険者たちに笑いが起こり、全員で城の方へと向かってゆっくりと歩き始める。
パーレスト国を壊滅させるという⦅災厄⦆は、今日を持って討伐されたのだった。
ここまで読んで下さり本当にありがとうございます!若干駆け足気味でしたが、無事パーレスト国にやってきた《災厄》こと《幻獣》の討伐に成功しました。次話が最終話です!2025/12/18現在




