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神銃騎士シルヴァの冒険譚〜とりあえず激カワ王女姉妹の住む国を救ってみる〜  作者: しののめかいき
第一章 パーレスト王国編
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ep.16 嵐の前の静けさに

もう16話です!15話から突然自我が芽生えましたが、今はエピローグを書きながら合間にSSを書いたりとまあだらだら書き続けています。

――――首都アルケー内、【南の門】前。



 シルヴァに同行した四人のAランク冒険者によって、最前線で亜獣の注意を引いていた王室護衛隊副隊長のガルドと彼の隊員であるクラリスとセリオは無事救出された。幸いガルドとクラリスの傷は浅く、長期戦闘による疲労感以外には身体的異常は確認されなかったようだ。



「すみま、せん……副隊長。そして、クラリス。僕の力不足で……陣形を乱して、しまいました」


「セリオ。今は回復に専念するんだ」



 救護班が常駐する【南の門】の内側で横たわるセリオは、《モノ・ウルフ》の攻撃を受けて深い傷を負っている。セリオの横でクラリスは彼に対し療養に専念するよう声を掛けていた。



「亜獣の攻撃には微量の毒が含まれています。彼は特に傷が深いから、より多くの毒が入ってしまったのでしょう」



 救護班を率いるのは首都アルケーで唯一の医者であるサピエンス。セリオの容態を説明しながら解毒剤を飲ませ、周囲を見渡している。



「数日もすれば体調は良くなるはずです。しかし流石は王室護衛隊、あれだけの亜獣を前に負傷者が現状あなた方三名だけなのは奇跡でしょうね」


「――――ほとんどの手柄をあの男に取られちまったけどなァ。まさか神銃無しに亜獣の群れを一瞬で消し炭にしちまうとは、王妃様は飛んだ虎の子を隠してたモンだ」



 応急処置を終えてやってきたガルドは、先程のシルヴァが起こした大爆発の記憶を脳裏でなぞりながら空を仰ぐ。外壁の向こうで佇む《幻獣》の様子を伺う彼は、衛兵に持たせていた大剣を背負い再び【南の門】へ向かおうとしていた。



「副隊長殿! 今は休むべきでござる!」



 ガルドたちを救出し休んでいたAランク冒険者の男は彼を止めようとするが、静止することなく歩みを進める。そんな彼の背中を眺めるクラリスは、セリオの横で膝を付いて腰の神銃に指先で触れる。



「……彼のことは私たちに任せて、自分の役割を果たしなよ」



 フードを深く被った姿の少女がクラリスの思考を読んだかのように話しかけた。表情は見えないが、腰に携えた四本の短剣はまさに冒険者の証。彼女もまたAランク冒険者なのだ。



 クラリスは迷っていた。王室護衛隊として、王妃から神銃を授かった者として、戦場に戻るべきか否か。



 彼女の目の前に横たわる一人の青年を想う気持ちと、戦士としての責任感が反発し合った結果、クラリスはその場から動けずにいた。



「————クラリス様、伝令をお伝えいたします」



 首都内に常駐しているのは救護班だけではない。待機していた衛兵らは城下町やギルド、王室護衛隊に情報を伝達する役目も与えられている。その任務を与えられた一人の衛兵がクラリスに現在の状況を伝えるべくやってきた。



「王妃様よりこの場にいる全ての王室護衛隊の皆様と冒険者の方々へ《特別依頼》が発令されました。《災厄》を打ち倒すべく、神銃を与えられたクラリス様にも力を貸してほしいとのことです」


「そう、か……」



 神銃は亜獣を比較的安全に倒す手段の一つ。シルヴァと一人の商人、鍛冶屋の男の協力によって作製された剣も亜獣の体に傷を付けることは可能だが、高威力かつ複数の亜獣に対して効果的な神銃は現状王室護衛隊にとっての主戦力なのだ。



 その上神銃の本数は限られており、長年訓練で神銃を使用していた者にしか力を引き出すことができない以上、クラリスに与えられた深緑の神銃は彼女にしか扱うことができない。王妃が彼女に協力を求めるのは自然な話だ。



「厄介な使命を承ったものだな」


「クラ、リス……」


「セリオ。私が王室護衛隊に入った理由を覚えているか」



――――クラリスが王室護衛隊に入隊したのは約五年前。当時十六歳だった彼女は幼馴染であり同い年のセリオが、王室護衛隊に入ったことを本人から知らされたのがきっかけで彼女も入隊試験を受けた。



 セリオもまたエイレインのように《アストラ物語》に登場する《勇者》に憧れを持っていた。クラリスからすれば、真面目で泣き虫な彼が国を守る仕事など勤まるはずがないと思っていたのだが、王はそんな彼を手放しで受け入れてしまった。



 当時、年々と増加する亜獣の出現率に伴い王室護衛隊は危険な任務を任されることが増えていたのもあり、彼女はセリオの身を案じて彼を追いかけるようにここまでやってきたのだ。



「ああ……君はいつも僕を心配していたね……。僕の方が先に入隊したはずなのに、クラリスはあっという間に僕を追い越してしまったのが、少しだけ悔しかった記憶があるよ……」


「心配なんかじゃない。私はただ、私の知らないところでお前がいなくなってしまうのが怖かっただけなのだ。だから、お前の分も私が背負うと決めたはずだった」



 クラリスは王室護衛隊に入った後、ゼファリオンやガルドらに鍛えられ才能を開花させた。結果王は彼女の力を認め、神銃を与えることとなった。



 そしてセリオが危険に晒されることを恐れ、彼と同じ隊に所属し自身が前衛を担うことで少しでもその恐怖心を和らげたかったのだ。



 この戦いも同様に、彼の分も自分が頑張ろうと意気込んでいたはずだった。しかし、今クラリスはその場から動けずにいる。



「————死にたくない、な…………」



 彼女の本音。それはセリオが命を落とすことと同じくらいに恐れているということ。自分が死ねば当然二度と彼と会うことは叶わない。



「今更、なんだよ……。元はと言えば、僕が君を守る為に頑張っていたはず、だったのになぁ……」



 セリオもまた、クラリスと同じ気持ちだった。彼が王室護衛隊に入隊する前に子供たちの間で流行っていた噂。それは《災厄》が来るという話であり、当時はまだ亜獣の出現数が今ほどではなかったこともあり城下町に住む住人は誰一人として信じていなかった。



 しかし、彼は本当にそれが現実になることを恐れ、唯一の親友でもあったクラリスを守りたい一心で国の盾として働くことを望んだのだ。



「どうせそんなことだろうと思った。お互いに物心付いた時から知り合っている相手のことなんて、手に取るようにわかる」


「そう、だね……。なら僕の今の気持ちも、簡単に読めるはずだよ」


「……ああ。《幻獣》を倒して、お前と私、そしてこの国も全て救う」


「その通りだよ、クラリス。頼む、僕の想いを、君に……託す……」



 セリオは自身の指先を優しくクラリスの右手に触れさせる。そして力が抜けたように彼の手が彼女の手の甲に重なり、時間の流れが止まった。



「……寝てしまったようだね」



 サピエンスはセリオの顔色を確認すると、クラリスを動揺させないように声を和らげて呟いた。



「……一体何を見せられてるんだか」



 フードを被った少女はやれやれと言わんばかりに溜め息を吐き、そっぽを向いたままその場で武器の点検を始めた。



 クラリスは決心が付いたのかセリオの元を離れて、戦場である【南の門】の向こう側を目指して歩き出す。先に戦場へ戻った副隊長の背中を追いかけながら、自分の託された使命を果たすべく深緑の神銃を握りしめた。



   ◇ ◇ ◇



――――城外外構【監視塔】最上階。


 城の敷地を囲うように建てられた外壁と、それに沿って入口の門の両側に建てられた二つの塔。城下町の様子を一望でき、外敵から城を守る為の最初の砦。シルヴァはその【監視塔】の最上階に到達していた。



「――――ようやく組み立てが完了したところデスヨ」



 全四階に及ぶ【監視塔】の最上階で、エリアンと数名の使用人、そしてエリアンの設計図を元に兵器を作製した緑色の髪の少年がシルヴァの到着を待っていた。



 室内は解放感があり、円形の空間で壁には四方向に開口が開けられている。開口部は床から天井まで開けられており、転落防止等の措置はされていない。



 床のほとんどの面積を占めているのが例の対幻獣用の兵器。人二人分ほどの長さを誇る巨大な狙撃銃が鎮座しており、エリアンの言う通りすでに組み立ては完了しているようだ。



「六人がかりでやっと組み立てられたよ。というか、なんで僕まで手伝わなきゃいけないんだ」


「そりゃあ設計図を詳しく知っているのはワタシとあなただけですからネ」


「二人ともありがとう。想像以上の大きさだな」



 シルヴァは目の前の銃に近付き、恐る恐る銃身に触れる。神銃のようなシンプルな拳銃のデザインとは異なり、様々な金属が使われたであろう無骨な仕上がりとなっている。



「訓練所にある神銃用の的がかなりの防御力を誇っているのを参考にしながら、例の羊皮紙の爆発的な力を銃身で抑え込む為にかなりの大きさになってしまいましたネ」


「準備を始める。みんなは城内に退避していてくれ」



 シルヴァの指示に従いエリアンと使用人たちはすぐに城内へ戻っていくが、緑色の髪の少年だけはその場に立ち止まったままだ。



「……エレノア様は無事だったんだろうな」


「ああ。この目で見てきたから問題ない」


「そう、ならいいんだ」



 安堵した表情を浮かべて溜め息を吐いた少年は、階段を降りる直前にシルヴァの方へ振り向いて再度口を開く。



「……僕はリョウハ・フェルデイン。エレノア様を、みんなを頼むよ」


「俺はシルヴァ。任せてくれ」



 リョウハと名乗った少年は、シルヴァに対して少し気を許したような声色でエレノアの無事を祈った。シルヴァの言葉を聞いたリョウハは階段を降りていき、【監視塔】から城内へと避難を始める。

 


――――今現在最前線では《幻獣》を討伐する準備が始まっている。それに合わせてシルヴァもまた、この【監視塔】で障壁を破壊する役目を果たすべく亜獣の核を取り出して力を吸収し始めた。



 王妃から手渡された麻袋には計三十個の核が入っている。核だけではどれがどの亜獣のものか判別することはできないが、それだけの数があれば大技を一発撃つのには十分な数量だろう。



「五重に掛けた《爆発系》の力で約五パーセントのエネルギー消費。この銃に込めた神銃の力は火水風の三属性をそれぞれ五重に掛けた計十五発分。それを一発に凝縮し放つとしたら、必要なエネルギー量は七十五パーセントは必要な計算か」



 一つ、また一つとシルヴァが亜獣の核に触れると、核からペールグリーンのオーラが発生し彼の手の中へ集まっていく。三十個全ての核を取り込んだと同時に、彼の脳内では再び見知らぬ女性の声が響き始める。


 

――――マナタンクへの供給を確認、現在八二パーセント。



 全ての核を取り込み目標値のエネルギー量に達すると、シルヴァは目の前の巨大な神銃のそばでうつ伏せになり、遥か遠方から【南の門】の方を向く。



 パーレスト国の城がある敷地は、城下町や周囲の平原よりも標高が高い位置にある。その為この【監視塔】からなら城下町や【悪魔の森】を一望できるのだ。



 彼の視界には確かに《幻獣》が映っている。上空のところどころに《爆発系》による爆発が起こっていることから、エレノアがシルヴァの指示に応えて視界を確保してくれているようだ。



 森の木々よりも何倍も大きくそびえ立つ《幻獣》の姿に息を呑みながら、シルヴァは銃の持ち手を握りしめた。



 銃身に込めた神銃の力を模した羊皮紙に意識を集中させていく。これだけ大規模な力を行使するとなると、羊皮紙にエネルギーを注ぎきるまでに相当な時間が必要なのだ。



 まだ信号弾による合図は上がっていない。今のうちにエネルギーを溜めておき、神銃の力が放出される直前で待機させる為に注入を開始する。



 再びペールグリーンのオーラが発生し、シルヴァの手元が微かに発光し始める。視界に広がる美しい自然に目を向ける暇はなく、自身の体内に巡る血が失われているのかと思う程の眩暈が彼を襲う。



「くっ……」


【マナタンク残量、八〇パーセントに低下】



 たった数秒力を込めただけで二パーセントのエネルギーを消費してしまった。《水属性》、《打撃系》の神銃の力は一パーセントの消費で約四、五回程度使用できるが、《爆発系》や《汚染系》の力は同じ回数でも消費するエネルギー量が異なる。



 属性や系統によってもエネルギーの消費量が違うことまでは実験の中で確認できているが、その全ての規則性までは解明できていない。いつかそれを記した手記を作成せねばと一瞬考えながら、シルヴァはエネルギーの注入を続ける。



【マナタンク残量、四十パーセントに低下】



――――早く、もっと早く。



 記憶を失い、右も左もわからないシルヴァに様々なことを教えてくれたエレノアとエイレイン。そして彼に仕事と居場所を与えた王妃。鍛冶屋のモヒカン店主や無理難題の要求に応えてくれた名も知らぬ商人や冒険者への感謝の気持ちを、彼はこの神銃に込めて己の全ての力を注ぎこんだ。



【マナタンク残量、十パーセントに低下】



「……よし」



 計七十二パーセントのエネルギーを消費すると、やがてシルヴァから発せられたオーラが巨大な神銃にも伝って今にも力が発現しそうな雰囲気を醸し出している。



 膨大な力の消費と共に彼は強い頭痛と眩暈で今にも倒れてしまいそうだったが、その時を待つべく意識を保っている。



 それから僅か数刻、シルヴァの視界の先で一発の炎の弾丸が撃ち上がった。リベルタスによる信号弾だ。



「――――ッ!」


【マナタンク残量、七パーセントに低下】



 今だ、とシルヴァは手元の引金を引くと、銃身に込められたエネルギーが拡散し一本の光が《幻獣》の方へと向かっていく。スコープ無しに射撃を可能としているのは、神銃の弾丸は空気の影響を受けず、力を失うまで直線に飛び続ける特性にある。



 しかし同時に、爆発に耐えられなかった神銃が暴発し銃身から崩壊してしまった。組み立てられた部品の一部が焼失し、残された鉄の塊がこの場にばら撒かれていく。



 神銃から放たれた一筋の光は、確実に【悪魔の森】へと向かって突き進み、少しの時間を置いて遠くからガラスの割れたような音が響いてくる。《フロース・ジャッカル》の障壁を破壊した時と同じ音だ。



「待っててくれ。エレノア、レイン」



 神銃で放った光の先を【監視塔】から眺めながら呟いたシルヴァは、そのまま壁の開口部から飛び降りる。



 握りしめた《風属性》の力を秘めた羊皮紙を使い、彼はその場から一瞬にして消え去ってしまう。真っ先に《幻獣》の待つ【悪魔の森】へ向かうのだった。



   ◇ ◇ ◇



――――パーレスト国、【悪魔の森】入口。



 数刻前。再び出現した亜獣の群れを討伐しながら、ゼファリオンとアストラ、エイレインの三名が無事《幻獣》の前に到達する。



「……目の前にすると圧巻だね、これは」


「ああ……ここまでの大きさを誇る亜獣は私も見たことがない」


『もはや私の目線だと半分も見えないんですけど』



 会話をする余裕があるくらいには目の前の《幻獣》が動く気配はない。試しにとアストラがエイレインの神銃を使って氷の弾丸を撃ち込むが、その巨体に届く前に爆散して消えてしまった。



「アストラとエリアンの仮説通り、《幻獣》にも神銃の力を防ぐ障壁があるようだね」


「――――おーい! みんなー! お待たせ~!」


『エレノア!』



 後方で待機中だったエレノアが右手を振りながら三人の元へとやって来た。また、その更に後ろから彼女を追いかけるようにして三名の女性が集まって来ている。その者たちは共通して、自身の腰に神銃をそれぞれ一丁ずつ携えているようだ。



「エレノア様、ピクニックじゃないんですからもう少し緊張感というものを……」


「やめておけリベルタス。爆破されるぞ」


「……リベルタスさんが話してるとこ、初めてみたかも」



 戦場にも関わらず最前列を突っ走るエレノアを止めようとするリベルタスと、その様子を呆れた様子で眺めるクラリス。そして普段訓練に真剣に打ち込む彼女たちの姿しか知らない《シールド・メイデン》部隊長、ミリアが驚いていた。



「全ての神銃が集まったみたいだね」


「その話し方……もしかして、アストラ!?」



 きょとん、とした顔でエレノアを見つめるアストラ。すでにエイレインの身体に慣れてしまったのか、自分が神銃の力で入れ替わっていることを忘れているかのような立ち振る舞いだ。



「そうだった、神銃の力でレインと入れ替わっていたんだった」


「ほう……シルヴァの神銃にはそんな力があったのか」



 クラリスが興味深そうに王女エイレインの姿を眺めていると、調子に乗ったアストラが彼女の身体を使って様々なポージングを取った。両手を後ろで組んで、上目遣いのまま小悪魔のような笑みを浮かべている。



「なんだかいけない扉が開いてしまいそうですね……。恐ろしい力です」


「エイレイン様の普段は絶対に拝めない表情……アストラ殿、尊敬致します」



 ミリアとリベルタスが率直な感想を述べると、完全にこの状況を楽しんでいるアストラが頭の後ろに手を伸ばす。



「いやいや、それほどでも」


『私の身体で遊ぶなぁああああっ!!』



 神銃から発せられたエイレインの怒号に聞く耳を持たないアストラたちは、改めて《幻獣》の方を注視する。



「おふざけも程々にして……リベルタス、お願い」


「了解いたしました」



 エレノアの指示によって、リベルタスは自身の持つ《火属性》の神銃を天に掲げた。そのまま引金を引き、太陽を穿つかの如き勢いで放たれた火の弾丸が天高く撃ち上がる。



「王妃様の言っていた例の作戦、本当に可能なのでしょうか……?」



 シルヴァの力を利用して、人工的に神銃の力を何重にも重ねて放つことで《幻獣》の持つ障壁を一撃で突破する作戦。



 神銃という未知の力と、シルヴァの持つ異能。そして《幻獣》というイレギュラーの存在がこの作戦の不透明さを物語っている。



「シルヴァならやってくれるよ————ほら!」



 リベルタスが放った信号弾が消失してすぐのことだった。周囲の霧が一斉に晴れたかと思えば、一筋の光が城のある方向から一直線にエレノアたちの元へとやって来る。



 その光は⦅幻獣⦆の身体の中心部まで届くが、寸前で大きな火花を散らして光が拡散していく。直下にいたエレノアたちは、莫大なエネルギーの拡散による爆風に煽られて身を護るので精一杯になっていた。



 瞬間、《幻獣》の目の前で空間が歪み始め、直後にガラスの割れるような音が空気中に響き渡る。



 そして障壁の破壊と共に《幻獣》の不定形な身体が崩壊し、エレノアたちの視界に映っていた巨大な生物の姿が跡形もなく消え去ってしまっていた。



「今のが……」


「倒した、のでしょうか……?」



 アストラとミリアが呟く。



 しかし、彼女の言葉とは裏腹に雨が降り始める。まるでこの戦いにまだ決着がついていないことを知らせるかのように、《幻獣》が生み出したであろう霧は未だ消え切ってはいない。



 違和感を感じるほどの静寂に息を呑むエレノアたちだが、次に異変に気付いたのは最強の神銃騎士、ゼファリオンだった。



「違う。戦いはまだ終わってはいないようだ————」



 ゼファリオンの目線の先で、一つ、また一つと白い光を放つ何かが増えていく。森の木々の隙間から現れたその影は、まるで《スライム》のような形状だ。



 その様子を見てエイレインとエレノアは、すぐに今の状況と似た景色を脳裏に浮かべていた。この【悪魔の森】で巨大な⦅スライム⦆と対峙した時、身体を分裂させて数をふやしていたことを二人は鮮明に覚えている。



『————あの時と同じパターンね』


「みんな、あの《スライム》もどきを!」


「「「了解!」」」



 クラリス、リベルタス、ミリアがエレノアの掛け声に応じて神銃を一斉に構える。同時に、アストラとゼファリオンも臨戦態勢に移った。



「――――《幻獣》を倒すよ、みんなで!」



 二度目のエレノアの掛け声をきっかけに、《幻獣》との戦闘が開始する――――。

次回、決着!

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