ep.13 対亜獣防衛戦線・上
――――首都アルケー、【南の門】。
エリアンとシルヴァの共同研究により《災厄》に対抗する作戦が現実を帯びてきたその翌日、【南の門】でただ一人この国の危機が迫っていることに気付きつつある人物がいた。
「あれは……」
この【南の門】の護衛を任務とするリベルタスは、視界に広がる草原の更にその先にある【悪魔の森】から黒い影がこちらにやってきているのを視認する。数は一、二……いや十は下らないだろう。
影はやがて日の光によって晒されてその姿を現した。四足歩行で膝の高さほどの大きさで草原を駆け抜ける獣――――リベルタスはすぐにそれが亜獣であることを理解する。
「なぜこんなところに《モノ・ウルフ》が!?」
鋼の兜越しに彼女は絶叫する。本来、《モノ・ウルフ》は群れを成さないはずが今リベルタスが見ている光景は生物学に反していた。群れは明確にこの【南の門】へ向けてやってきている。
「増援を呼ばなければ」
彼女はすぐに状況の深刻さに気付き、腰のホルダーから一丁の神銃を抜いた。エレノアと同じ橙色に染められた銃身を、亜獣の方向ではなく頭上の空に向けて構えて引金を引く。
いくつかの火球が無限に広がる青い空へと消えていく。彼女が王妃に与えられた神銃は《火属性》、《打撃系》の力。それを信号弾として上空へ放つことで、他の門で護衛をしている王室護衛隊のメンバーに危険を知らせたのだ。
「……《災厄》が来る」
◇ ◇ ◇
――――同刻。城内外構、【訓練所】。
訓練所の中には訓練用の木剣を振る為に用意された案山子の他に、神銃の射撃練習に使う為の的もある。基本的には私は後者を利用することが多い。
しかし毎度思うのだが私の神銃は《爆発系》の力で、高い攻撃力を持っているはずなのになぜあの的は壊れることなく壁にあり続けているのだろうか。エリアンは確か神銃の力をも防ぐ特殊な鉱石を使っていると言っていた気がするが、今日だけですでに数百発は撃っている。あれを素材に鎧を使えば神銃騎士なんて怖くないのではなかろうか。
そんなことはさて置いて、私はそれ以上に今気になっていることがある。シルヴァのことだ。
この前の《特別依頼》からずっと彼と顔を合わせていない。使用人たちから聞いた話ではエリアンと共に《災厄》に備える為の研究を進めているとのことだったが、それもあってシルヴァに対して感情的になってしまったことを謝れていない。
ああなんで私はこんなにも幼稚なのだろう。冷静に考えれば、正体不明の《亜獣》を前に特攻を仕掛けるなど無謀にも程がある。もしシルヴァとアストラの指示が無ければ私はまた命を落としてしまうところだったのだ。
……やはり私は神銃騎士どころか神銃技士すら似合わない。剣を使うのが苦手な私ができるのは、ただ神銃を撃つことだけ。たまたま神銃の扱い方が人より少し秀でていたから認めてくれていただけなのだ。きっと近い内にレインは神銃の力をより使いこなせるようになるだろうし、そもそも剣の腕はあのゼファリオンが認める程だ。今最も神銃騎士に近い存在はシルヴァを除けばレインだろう。
的に照準を合わせて、撃つ。銃身の冷却中は神銃が使用不可になるが、その時間は約三秒。ずっと使ってきたこの力ならばもはや無意識にその時間を身体で覚えている。撃って、とにかく撃つ。このもやもやを晴らすように、ただ撃ち続ける。
ダメだ。考えても考えても言葉が思い浮かばない。謝罪の言葉を伝えるのは簡単かもしれないが、正直のところ気まずさが勝ってしまい彼を探しに行けない。ああ、どうしたものか。
「――――エレノア! 南の門に緊急招集!」
「レイン! どうしたの?」
美しい赤髪を靡かせて訓練所の入口にやってきたのは姉であるレイン。射撃を止めて神銃をホルダーに収め、急いでレインの下へ向かう。
「亜獣がここに向かって侵攻してきているの」
「嘘、そんなことが……!?」
「リベルタスが信号弾を放っていたから確実よ。今王室護衛隊が担当の門まで緊急護衛任務に就いているから、私たちも南の門でリベルタスたちの応援に入るわよ」
まさか、本当に《災厄》が……?
いや、まだわからない。この目で確かめるまでは信じない。それにまだシルヴァと話せていないのだから、早くこの任務を終わらせて彼ともう一度話そう。
「わかった。私たちも急ごう!」
「ええ!」
◇ ◇ ◇
――――同刻。城内二階、【謁見の間】。
「……その時が来たかもしれないわね」
エリアンとの研究がひと段落し、俺は使用人室で一晩を明かした。翌日、一人の使用人の呼び出しにより俺はこの【謁見の間】で王妃と話すことになったのだ。
「《災厄》か」
「ええ。詳細は不明だけれど、亜獣があの森から出ることは今までなかったはず。まだ確実な情報は回ってきていないから、今はとにかく王室護衛隊に動いてもらうしかないわね」
「俺はどうすればいい?」
「あなたはゼファリオンと同じく城と町の護衛よ。機動力があるのはあなたたちだから、場合によっては一番忙しい立ち回りを要求されるかもしれない。準備は怠らず、この難所を乗り越えるわよ」
王妃は珍しくエレノアたちと似たような装備を纏っていた。胸や肩、膝を守る為の最低限の装備。腰には一本の剣を携えて、如何にも女騎士と言える。そんな彼女が両腕を組んで真剣な表情を浮かべていることから、恐らく今までにない緊急事態なのだろう。
「亜獣の生態系は未解明なことが多い。もしかしたら大したことは無いのかもしれないけれど、やれることはやっておかなくちゃね」
「わかった。エレノアたちは今どこに?」
「多分【南の門】に向かったわ。あそこは担当の護衛隊が二人負傷中で人が足りない上に、最も【悪魔の森】に近いからあの子たちなら応援に行くはずよ。私もすぐに向かう」
今『私もすぐに向かう』と言ったか。国の王である妃が戦場に出るなどあり得るのだろうか。
「もしかして今、あり得ない、なんて思ったでしょ。でもこういうのは当たり前なのよ。王が不在の時はその妃が指揮を取って戦場で戦う、この世界の常識みたいな感じでね。でも安心して。私は運が良いから死にたくても死ねないくらいなのよ」
冗談っぽく話しているように感じるが、やはりその表情は依然として変わらない。初めて話を聞いた時は基本的にレインと話していた為人物像が見えなかったが、その威厳と存在感はまさに王妃の名に恥じぬ佇まいだ。芯のある人間が指揮を取ってくれるのならば護衛隊や衛兵も安心できるというものだ。
「エリアンから話は聞いているわ。例の計画に使う為に亜獣の核が必要なんでしょう? ある意味この状況は好都合じゃない。この戦いは私たちに有利な地形だし、この際に亜獣の核も回収して危機に備えましょう」
俺は直接エリアンに現状のエネルギー源が亜獣の核だということを伝えてはいないはずだが……共に研究を進めた仲ではあるが、相変わらず不思議な部分がまだまだ多い人物だ。
「有難い」
ひとまずは準備を進めなければ。前線にすぐにでも向かいたいところだが、エリアンに昨日の晩の内に複製していた羊皮紙を渡す必要があるし、モヒカン店主に依頼した武器も気になる。亜獣が今現在どこまで侵攻を進めているのか、何体やって来ているのかまでは現場を見なければわからない。
「――――私が前線に行こう」
「ゼファえもん!」
この【謁見の間】の大扉を開き現れたのは、最強にしてこの国唯一の神銃騎士ゼファリオン。まるで俺の脳内を覗き見たかのように、彼は自身が現場に向かうことを名乗り出た。
『シルヴァ。僕も行かせてくれないかい?』
「神銃が喋った!?」
「まさかその声……あの時の青年か!」
アストラの穏やかな声色には確かな意思が感じられた。まるでそれが自分の使命だと言わんばかりに、彼は戦場に赴くことを望んだ。
「わかった。ゼファリオン、この神銃をエレノアかレインに渡してほしい」
「まさか言葉を話す神銃がいたとはな。任されようではないか」
空色の神銃をゼファリオンに差し出し、手渡した。
アストラの力はまだ他の人には試していない。だが万が一を考えて、俺が離脱中でもアストラが戦場に立つことが可能ならば戦況を大きく変えられる可能性がある。
「私はゼファリオンに同行するわ。シルヴァ、もしもの時は頼みます」
「了解」
ゼファリオンは王妃を抱え、その場から一瞬で消え去ってしまった。流石は《神速》、城内だろうがお構いなしに戦場へと飛び立った。
話し相手がいなくなると少し寂しさを感じるが、今は与えられた時間を活用して準備を進めよう。
◇ ◇ ◇
――――城内二階、【鍛造室】。
城内には【鍛造室】という、王室護衛隊用の鎧や武器の他、家具の作製等も行っている施設がある。そこではエリアンの設計図を元に造られる《対幻獣用障壁破壊特化型改造神銃》が現在も作製中だ。
この【鍛造室】を繋ぐ扉は強固で分厚い鋼で作られており、室内は砂漠の中心を思わせるほどの高温に満ちている。入った瞬間に全身を襲う熱波を数秒浴びるだけで穴という穴から汗が噴き出てしまう程だ。内部はまるで自分自身が溶鉱炉の中にいるような火の世界。赤に染められた空間は火花が散り、大槌の叩く音が静寂を絶ち切っていた。
カウンターの向こうで金属を叩く一人の少年。この国では珍しい緑髪のショートヘアで、まだ幼げなその顔立ちからは想像もできない程に真剣な表情で作業をしている。彼以外に作業員は見られないが、代わりに俺の目的であった人物であるエリアンが彼の仕事を眺めていた。
「エリアン。神銃用の羊皮紙を持ってきた」
「ありがとうございマス。相変わらずココは暑いですネ」
手で首元を仰ぎながら羊皮紙を受け取ったエリアンは、緑髪の少年の方へ向かって言葉を続ける。
「――――どうやら亜獣の群れがこちらを襲撃しようとしているようですネ」
「例の物は完成しそうなのか?」
「エエ。推定ですが全体の八〇パーセントのパーツは完成していマス。後は監視塔でパーツを組み上げればついにお披露目ですネ」
カウンターに置かれた設計図を見て、エリアンは完成の時を待っているようだ。脳に響く程の金属音とこの熱気で倒れてもおかしくないはずだが、緑髪の少年とエリアンは会話を交わすことなくこの場にいる。
「……二人してそんなにジロジロと見られてると仕事にならないんだけど」
少年が手を止めて口を開いた。見た目通りの若く高い声を発しながら、眉間に皺を寄せて俺たちの方を見る。繊細な作業は集中力が要求されるはずだ。確かにこれでは彼の邪魔になってしまうだろう。
「すまない。すぐに出る」
「……エレノア様は大丈夫なんだろうな」
顔色も声色も変えないまま、少年は王女であるエレノアの身を案じている。彼女なら大丈夫だろう、レインや王室護衛隊が付いているはずだ。それにエレノアには神銃がある――――
脳裏によぎる彼女との会話。森の中で遭遇した特殊な個体の亜獣に襲われている商人たちの命よりも、自身の利益を優先したことに対してエレノアは疑問を感じていた。もし襲われているのがエレノアならば俺はすぐに戦闘を開始して彼女を助けることを優先したのだろう。それはつまり、エレノアが命を落としてしまうことを強く否定したい気持ちがあるということだ。今なら彼女の気持ちが理解できる。次に顔を合わせた時に必ず謝ろう。
「――――ちょっと、聞いてるの?」
「ああ、すまない。エレノアは護衛隊と一緒にいるから無事だ」
「そう、ならいいよ」
少年は再び大槌で鋼を叩き始めた。それ以上彼が言葉を発することはなく、金属音を永遠とこの空間に響かせていく。
「あの子はエレノア様に命を救われた一人でしてネ。森で亜獣が大量発生し始めた頃、正しい情報が行き渡らずに彼は森へ向かっていたところを襲われ、エレノア様に助けられたのデス。彼にとってはどんな神様よりも彼女を尊敬しているのですヨ」
この音は彼の意思を表しているのか。今自分ができる最善を尽くすことで、恩を返す。その思いが新たな神銃を作り出しているのだ。
俺もまだまだやれることはある。少年の思いを無駄にするわけにはいかない。
「おや、もう行かれるのですカ?」
「ああ。役目を果たす」
背中に載せられた思いを感じさせる重さの扉を開けて、俺は最後の目的地を目指した。
◇ ◇ ◇
――――武器鍛冶屋【ソーテリア】。
ギルドから受けた《特別依頼》の報酬で得た《フロラタイト》を、この店の店主であるモヒカン男に預けて武器の製造を依頼していた。ギルドの受付係に勧められて――と思いたい――一本の剣を作るように頼んだが、様子を見に行くなら今しかないだろう。
「よう騎士の兄ちゃん! 丁度いいところに来たな!」
店のカウンター越しに景気の良さそうな笑顔を浮かべるモヒカン店主。相変わらず店内は暗いが、慣れれば憩いの場になりそうだ。
店主の振る舞いからして、どうやら町の方にはまだ亜獣の情報が回ってきていないさそうだ。王室護衛隊が各方面の門を守護するのであれば町中への被害も少ない可能性が高い。パニックになって首都全体が混乱状態になるよりは好都合だ。
「頼まれていたものが完成したぜ。だがあの鉱石、兄ちゃんから借りた剣も溶かして使ったんだが、剣の形になった瞬間に刀身が真っ赤に染まっちまった」
モヒカン店主はそう言ってカウンターに一本の鞘付きの剣をそっと置く。外側からの見た目は初めて彼と会った時に貰った剣の姿と変わっていない。
「さ、一発抜いて見せてくれよ」
促されて鞘ごと剣を掴んだその瞬間、店の外に異変が起こる。
「————助けてくれ! 亜獣がッ!!」
その男の声をきっかけに各地から悲鳴が聞こえてくる。まさか、町と外界を隔てる門が突破されたのか?
咄嗟に外へ駆け出すと、確かに大通りに三体の亜獣、《モノ・ウルフ》が牙を剥いて威嚇していた。状況はどうなっている、エレノアやレインは? 早く前線へ向かって情報を整理しないと————
「いや、いやああああッ!!」
町の住人と思われる一人の女性が一体のモノ・ウルフに飛びつかれて絶叫した。牙を剥き出しにして、馬乗りの体勢で獲物を捕らえんとしている。
心の中で思わず舌打ちをしてしまう。ここで時間を無駄にして、その結果一人の女性の命を救うための行動が首都を崩壊させるほどの被害を導く可能性が脳裏を過ぎるのだ。
足を止めたまま右手に持った剣を鞘越しに握りしめる。悩んでいる場合ではない。立ち止まることこそ最も無駄な選択だ。
「エレノアなら、きっと————」
きっと、迷わず目の前の困った人を救うはずだ。
————左手で胸ポケットにある一枚の羊皮紙を取り出し、握りしめる。無意識に流れるエネルギーの感覚を感じるよりも先に、俺は女性を襲う亜獣に向かって走り出した。
目視することなく羊皮紙に描かれた模様がエネルギーに満ちるその瞬間を狙って、俺は左手を目の前の亜獣に向けて叩きつける。
同時に発生した爆発が手元で連続し、女性を喰らおうとする亜獣の体を吹き飛ばした。
「逃げろ!」
「ひ、ひぃぃいっ!」
周りの住人が腰を抜かした女性を引っ張り上げて戦場から離脱する。それを視認してから、俺は再び羊皮紙を左手に握りしめた。
目の前には二体の亜獣。先ほどの爆発を見たからか警戒している様子だ。毛を逆さに立てながら、グルル……と威嚇を繰り返す。
幸運にもエレノアの神銃の力を模した羊皮紙は本家と同等の攻撃力があったおかげで、先ほどの一体は負傷することなく討伐ができた。
しかし、次は二体の亜獣を相手にしなければならない。エレノアやレイン、アストラの主戦力がいない今、町の住人の命を守れるのは自分だけだ。一方を俺の力で絶命させることができても、もう一方にやられてしまうし、二体を分断し戦闘を行うのは当然この状況では不可能。警戒されている以上先ほどの手は避けられる可能性が高い。
同時に二体の亜獣を倒す手段。思いつくのはただ一つ。
————左手に持った羊皮紙を目の前に投げ捨て、左腰に素早く剣の鞘を携えて亜獣らへ特攻する。捨てた羊皮紙を踏みつけ、そこから発生した小さな竜巻が俺の体を加速させた。
二体の亜獣とすれ違うその瞬間、右手で剣の柄を握り込んで抜刀する。引き抜かれたその剣は、血のような鮮やかな赤色を鈍く輝かせながら剣速を上げていき、限界まで引かれた弓の弦の如く解き放たれた剣先で二つの核を確実に破壊した。
……ゼファリオンの《神速》をイメージしたつもりだったが、やはり見よう見まねでは上手くいかないな。
確かに俺は羊皮紙に力を込めゼファリオンの持つ神銃の力を引き出したが、ただ使えばいい訳ではないようだ。その証拠に羊皮紙から発生した竜巻を踏んだ右足がボロボロに切り刻まれており、使用人服と靴を傷つけてしまった。
「お、おい……兄ちゃん。まさかアンタ――――」
後方から外の様子を見に来たモヒカン店主が静寂を断ち切って周囲にどよめきが起こる。不特定多数のいるこの場所で力を使うのはマズかったか。
「――――神様の加護を受けた本物の《神銃騎士》だったのか!?」
本物の《神銃騎士》。その意味が俺には理解できなかったが、すぐに察する。こういう場合に出てくるのは決まって例のおとぎ話だろう。確か《アストラ物語》だったか。
――――ゼファリオン様だけじゃなかったんだ!
――――今の見たかよ! きっと神に愛される程の信仰心を持った清きお方なのだろう!
――――騎士様がいれば安心ね! 神様が味方しているようなものですもの!
気づけば周囲にはたくさんの住人や冒険者たちが見物に来ていた。まるでゼファリオンと決闘をしたあの日のようだ。ある者は歓声を上げ、ある者は祈りを捧げて涙を流している。その姿はまさに礼拝堂で見た神銃を信仰の対象とする城内の者たちと同じ。
……この状況は利用できる。今なら住人たちを冒険者の協力を得ながら避難させ、速やかに前線へ向かうことが可能だろう。ここは騎士の名を使わせてもらおうではないか。
「――――俺は神銃騎士シルヴァ! 神の代行者として願いを聞いて欲しい!」
俺が声を上げた瞬間、先ほどまでの騒ぎが何事もなかったかのように住人たちは口を閉じる。神の代行者であるというのは少し言い過ぎたかもしれない。バチが当たらないことを祈る。
「町の民はすぐに建物に避難してくれ! Bランク以下の冒険者は避難の補助、Aランク以上は俺に付いてきてほしい! そしてもし商人の中に《フロラタイト》を持っている者がいれば譲渡してはもらえないだろうか! この戦いが終わった後、必ず同等以上の物で返すと約束する!」
これまたやり過ぎたか、と辺りの様子を見渡していると、すぐに一人の冒険者が口を開く。
「――――俺が指揮を取ろう。戦いは苦手だが、人の誘導くらいはしてみせるさ」
手を挙げたその男に見覚えがあった。《特別依頼》で亜獣に襲われていた冒険者三人組の一人だ。サピエンスの治療が効いたのか、見るからに亜獣の毒は解毒されているようで安心する。
「すまない、頼む」
「命を助けられたんだ、恩返しくらいさせてくれ」
肩まで伸びている茶髪を揺らしてグッドサインを送る彼に対し、俺は小さく頷き返した。
町の意識が一体となって動き始める。住人と冒険者たちは一斉にその場から隊列を組んで避難を始め、【南の門】から最も遠い北西部の宿舎が立ち並ぶ商店街へと向かっていく。これで町への被害は最小限に抑えられるはずだ。今のうちに最前線へと赴き、王妃やエレノアたちのサポートに回ることにしよう。
そうして俺とその場に残った四名の冒険者は、亜獣の侵入箇所だと思われる【南の門】へ向けて走り出した。
頼む、誰も死んでいないでくれ――――!




