第一章8 いざ、ザドゥの森へ
アルフラムも合流し後ろに二人の影が見える。
「お待たせ。紹介する――
クレイド姉妹だ。これから俺の代わりにお前達と同行してもらう。」
言ってしまえば護衛みたいな感じだ。
「代わり……?」ミトレアが首を傾げる。
「すまない、教団の動きが活発になってきててね、本来俺も同行したいんだがこっちでやらなきゃいけない事が多すぎてな」
「そういう事だったんですね......。問題ないです!こっちはこっちで任せてください!」
ミトレアの決意にアルフラムは微笑む。
そこへ綺麗な声、
「姉のセラ・クレイドです。任務のため、今日からご一緒させていただきます。」
言葉の一つ一つが研ぎ澄まされている。一方、
後ろから欠伸をしながら歩み出た赤髪の少女、
その腰には奇妙な銃のような魔具が吊られている。
「妹のラナ・クレイドっす。」
「ラナ、態度を改めなさい。」
「はいはい、姉さん堅いよ〜。よろしく〜。怪我人くんも。」
突然話を振られ、フユキは少し戸惑い苦笑いしながら、
「あの…怪我人くん、て…?俺はフユキって言います。よろしくお願いします…」
頬をポリポリと掻きながら言うフユキにラナは軽く笑い、
「え〜? 治ったらそう呼んであげる〜。」と、指先で魔銃を回して見せた。
セラはため息をつき、冷たい目を向ける。
「妹がすみません。だらけて見えますが、腕は確かです。」
「……ちょっと怖いくらいに確かそうですね…」
フユキの苦笑いしながらの呟きに、ラナは得意げにニンマリと笑っている。
「ラナ、銃を回すな。暴発したらどうする。」
「大丈夫だって。ちゃんと安全装置――あれ? どこだっけ。」
「……本当にしまいなさい。」
セラが静かに溜め息を吐いた。
「実力は折り紙つきだよ。」
アルフラムが肩をすくめながら、
「見た目はアレだが、二人で小隊を潰すくらいは造作もない。」
「ひど〜い言いいかたぁ」
ラナが頬を膨らませ、セラは淡々と、
「誇張ではありません。事実です。」
その冷静な声に、テリーが口笛を吹いた。
「こいつぁ頼もしいお嬢さん達だ!そろそろいくぞっ!」
フユキとアルフラムは互いに目を合わせ、アルフラムは微笑んだ表情を見せていた。
「よっしゃ!」テリーが手綱を握る。
「全員乗ったな? じゃあ出発だ!」
馬車がゆっくりと動き出す。
王都の門が背後に遠ざかり、ラナが窓の外を眺めながらぼそりと言う。
「……退屈だったら寝ちゃおっかなぁ」
「寝るな。命を預かっているのよ。」
「はいはい、わかってるって姉さん。」
――いざ、ザドゥの森へ
荷馬車の車輪がゴトゴトと揺れ、ザドゥの森の入り口がゆっくりと近づいてくる。
その独特な森の雰囲気に、誰もがほんの少し緊張していた。
そんな中、馬車の運転席に腰を下ろしたテリーが、後ろを振り返りながら、
「坊主たち……なんでこの森が''ザドゥの森''って呼ばれてるか、知ってっか?」
フユキ、ミトレア、クレイド姉妹の四人は顔を見合わせる。
が、誰も答えが浮かばない。
そこへ、片手に干し肉をかじりながらラナが口を開いた。
「え、魔獣ザドゥが出るからっしょ〜? ……みたいな?」
軽い答えにセラが、
「……そんな安直な理由あるわけないでしょう。」
すかさずツッコミを入れる。
「え〜、適当言っただけだし〜」
「ハッハッハッ!」とテリーが豪快に笑いながら手綱を引く。
「いやぁ、あながち間違っちゃいねぇぞ! 今でこそ“ザドゥの森”って呼ばれてるが、昔は“ザドルの森”って言ったんだとよ!」
「……え?」
姉は一瞬、ぽかんとした顔になり、
「ほ、ほらね〜〜!」と言いながら、妹はどや顔で肉をかじる。
⸻
テリーは鼻を鳴らしながら語りだした。
「むか〜しむかしな、この地には''ザドル''って呼ばれる森の番人がいたんだと。」
「ザドル……?」
とフユキ。
「あぁ、そいつぁこの森ぜ〜んぶを陣取っていた、とんでもねぇ化け物だったらしい。
でな、神様たちがまだ地上にいた時代だったらしくて、やっとこさ討伐した……って話だ。」
ミトレアが小さく呟く。
「神様が……討伐した……?」
「そうさ。けどな――」
テリーは前を見ながら少し声を落とし、
「そのザドルとやら……ほんとはまだ、どっか地下の奥底に眠ってるって噂もある。
まぁ、どこまで本当かは知らねぇがな……」
一同、しんと静まり返る。が、
妹だけが「なんかすご〜い!ファンタジーっぽい展開来た〜!」と呑気に言い、
「……緊張感を持ちなさい」と呆れた声を漏らす姉。
森の奥から風が吹き、木々がざわめく。
旅は、静かに――だが確かに始まっていた。
その先に、何が待っているのか。
まだ、誰も知らない。
読んでいただきありがとうございます!
王都を旅立ち、新たな仲間とともにザドゥの森へ。
次回も引き続き明日19時予定です!




