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第一章5 静かなる覚醒

カウンターの向こう。

サトツおじさんが横たわっていた。

目を閉じ、もう息をしていない。


「……そんな、嘘でしょ……」


ミトレアは膝をつき、震える手でおじさんの肩に触れた。

その瞬間、冷たさが指先から伝わる。


「どうして……やだよ……やだ……」


フユキは声を出せなかった。

視線の先――床に転がっている小さな影。


それは、


「ミー、ネ……?」


体は綺麗なまま。

ただ、瞳の光がなかった。

魂そのものが抜け落ちたよう、“殻”だけがそこにあった。


――胸が、ひりつく。


その時。

カウンターの一番端から、異様な気配が漂った。


外からの光が、カーテンの隙間を縫って

その足元を淡く照らす。


まるで彼女の存在を、炙り出すかように。


カップの中で、冷えきった花茶が揺れる。

女の指先が、その縁をなぞりながら――


「……見つかってしまったね」


その声には、温度も感情もなかった。

ただ、その場の空気を一瞬で支配するほどに、冷たい。


ミトレアが、いるはずのない声の方向に振り返ると

そこにいたのは――

白銀の髪がフードから覗き、氷のような瞳をした女。


白を基調とした軽装の服。

胸元から腹部にかけて露出があり、金属の肩当てと腕甲が輝く。

右手の甲には三本の鋭い爪。

左手は革の手袋で覆われ、動きを優先する造り。

背には白いマントが揺れていた。


「……あなたが、やったの?」


ミトレアの声が震えながらも低く響く。


女は、ゆっくりと視線を上げ、薄く微笑んだ。


「必要だったの」


女はわずかに微笑んだ。


「必要……?」


「救うために」


その言葉には、どこか人間的な響きがあった。

それが逆に、ぞっとする。


「必要……それで命を奪う理由になるの!?」


ミトレアの怒声が、店内に反響する。

足元に冷気が集まり、床が白く凍りついた。


「返して! ミーネとサトツおじさんを返して!!」


氷が爆ぜ、鋭い刃となって女に飛ぶ。


だが、爪が振るわれ、金属の音と共に氷が砕け散り、氷の粒が逆流してミトレアの頬を裂いた。


「くっ……!」


痛みに構わず、再び両手のひらからおぼんのように、氷の円盤を生み出す。

だが――女の姿が、消えた。


次の瞬間。

背後に風を裂く音。


「――ッ!」


ミトレアは反射的に氷の壁を展開する。

しかし、爪がそれを貫き、氷壁が粉々に砕けた。


衝撃で身体が吹き飛び、背中が壁に叩きつけられる。

息が詰まる。


「ミトレアッ!!」


その光景を見て、フユキのビビり散らかす足が動いた。

恐怖で全身が震えている。

それでも、、、逃げたくなかった。


「もう……誰も、目の前で失いたくない……!」


手に掴んだのは、壊れた椅子の足。

脳が止めるより先に、体が動き、


黙って気配を消しながら全力で殴り掛かる。


「……ッ!」


女が余裕で殺意に気づき視線が合う。

その瞬間、爪が横に閃いた。


――熱い。


腕が裂かれ、胸から心臓にかけて三本の爪が貫いた。


「ガハッ……ッ!!」


息が止まる。視界が滲む。


だが、次の瞬間。

爪の一本が弾かれた。


胸の前で、金色の火花が散る。


女が眉をひそめる。

「……結界?」


フユキの胸元で、見えない壁が輝く。


「……み゛い゛ね゛……」


息を荒げながら、フユキはかすれ声でそう呟く。


女は回し蹴りでフユキを吹っとばし、棚が砕け、血が床に散る。



視界が真っ白になり、世界が遠ざかる。


ミトレアは血を吐きながら立ち上がり、腕を震わせ、再び氷を出そうとすが、魔力が足りない。

女の爪が迫り、咄嗟に薄い壁を張るが彼女の身体をまた弾き飛ばす。


――その瞬間、ミトレアの脳裏に映像が走った。

靄の向こうで、誰かが祈っている。

顔は見えない。けれど、懐かしい気配。


ミトレアは体に力が入らずうつ伏せになりながら、瓶に入った星露に手を伸ばす。


女がトドメを刺そうと近づきながら、初めて自分の名を口にする。


「私はナタリア、ごめんねでも必要な事だから、」


折れた爪を見ながらそう言うナタリアの背後で、フユキの体から黄金の光が滲み始めた。


ふらふらと立ち上がるフユキの背後に浮かぶ黄金の天秤。

左右がゆっくりと揺れながら、音もなく傾く。

世界が静まり。音が消えた。


「お前だけは…ここで…消す」彼の唇が震えながら呟く。

光が凝縮し、空気が歪んだ。

フユキが手を向けた先、ナタリアは反射で身を引いたが遅かった。


「チッッ...!」


空間をもぎ取るように縁が断ち切られ、左腕が持っていかれた。


「.....この子」


苦痛の声ではなかった。むしろ、どこか悲しげだった。


ナタリアは片腕で体勢を立て直し、懐の中の結晶を確かめる。


淡く青白い光。


「返せッ!!」


ミトレアが叫びながら氷の刃を握りしめるが、力が入らない。膝が折れ、床に崩れ落ちる。


ナタリアはミトレアの瞳を見たあと背を向け、肩を抑えながら扉の方へ歩いてゆく。


鈴がなると同時に扉が静かに閉まり、そのまま白銀の女は消えて行く。


その場でフユキは白目を向きながらぶっ倒れ黄金の天秤も消えていた。




数分後、王都から帰った村の男がカーフへ立ち寄るがその部屋の異変に男は青ざめながら、


「サトっつぁん!」「ミトレアちゃん!?」「血だ、、おい誰か!早く治癒師を呼べ!」


その男の大声から、人々の叫びと、嗚咽と、祈りが混ざり、鈴が揺れ寂しい音を

――カランと静かに立てていた。

ここから物語が大きく動いていきます!

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