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第一章4 冷めてゆく温もり



白銀の髪がフードの下から覗く。


扉に掲げられた札には、「本日休業」と書かれている。

その札を見た女は、指先でそっと触れ、微かに笑いながら、


「休業日、ね。」


彼女の瞳の奥には、冷たい光が宿っていた。

懐から古びた銀のペンダントを取り出し、そっと唇に当てながら、


「……もう少しだけ、待ってて。」


そう低く囁くと、扉を押して中へと足を踏み入れた。


太陽が空の頂上を過ぎた頃。

カーフ・リュンヌの扉が、――からん……と小さく鳴った。


「あいや〜、、すまんね、今日は休みなんだ。」


サトツおじさんがカウンターの奥から顔を出す。

その目に映ったのは、フードを深く被った一人の女。


彼女の瞳は氷のように冷たく何の感情も映していない。

ただ、扉の向こうの薄闇から静かに一歩、また一歩と足を踏み入れながら、


「……少しだけ、見せてほしいものがあって。」


「悪いがねぇ、お嬢さん。今日は仕込みの日でね。」


サトツは笑いながらも妙な胸騒ぎを覚えていた。

女の立ち振る舞いがあまりに整いすぎていた。

戦うために生きてきた者のように。


「探し物かい?」


その問いに女はわずかに首を傾けながら、視線を店の奥へ滑らせる。


サトツは人の良さそうな笑みをもう一度浮かべながら、

「本当に悪いね、客もいないし茶なら一杯やるからまた明日おいで」


そう言いながらサトツは温かい花茶をいれる。


女は微かに頷いた。が、動かない。

沈黙が続いたあと、女の唇がゆっくりと歪んだ。


「……''リュクス族 ''て知ってますか?」


サトツの背筋に冷たいものが走った。

女の目が、獲物を見つけた猛獣のように細める。

サトツはカウンター下に隠していた鉈に手を伸ばしながら、


「帰りな。ここにゃ、あんたが探してるもんはねぇ」


「そう?」


その声と同時に視界から女が消え、そこの風が一瞬逆流した。


次の瞬間、サトツの首筋を冷たい痛みが走る。


「……ッ!?」


何が起きたのか理解する前に、女は背後に立っていた。

指先から伸びる三本の金属の爪が、血に濡れている。

サトツの体が崩れ落ち、マグカップが床に割れ、温かい液体が静かに広がっていく。

冷酷無慈悲、そんな言葉がふさわしいほどに。


「はぁ…」

女は吐息を漏らした。


階段の軋む音がし、二階から柔らかな足音と共に、


「サトツ……?」


現れたのは、白銀の毛並みを持つ小さな猫のような存在。サトツを見る間もなくミーネは異様な気配を感じ取り、琥珀色の瞳を細めながら、


「……あなた、誰」


女の口元がゆっくりと笑みに変わる。

「ようやく見つけた。噂通り喋るんだね。」


(……なにを言って……?)


言葉を終える前に、女の姿が霞む。

空気が裂く音と共に一瞬で距離を詰め、爪が閃く。


しかし、その瞬間ミーネの周囲に青白い光の紋が浮かんだ。


「《結界展開ルミナリス》!」


目に見えぬ膜が女の爪を弾き、火花のように光が散った。

だが、女は微動だにしない。


「……なるほど。面白い芸ね」

爪先を見る。


ミーネは走る。

棚を蹴り、カウンターを飛び越え、窓辺へと跳ぶ。

しかし、背後から音もなく迫る影。


「逃がさない。」


爪が結界を削り、――きぃんと不快な音を立て、結界が歪み、光がひび割れていく。


「だ……め……」


ミーネは耐えられず結界が割れる衝撃と共に壁に打ち付けられ、体に力が入らなくなっていた。


女は懐から筒のような器具を取り出した。筒先に白い魔石が埋め込まれ、妙なオーラを放っている。


女は静かな足音と共に忍び寄りながら、

「古代の神具よ。あなたの中の光核は私がもらう」


「っ、、、」


その魔石を胸に刺された途端、ミーネの体が震えた。魂が吸われる感覚とても言い表せないが首の神経が口から引っこ抜かれるようだ。

宝石が強く輝き、ミーネの瞳から光が抜け落ちていく。


数秒後、

器具の中に、淡い青白い光が集まっていた。

ミーネの生命力そのものと言ったところだろうか。


「これが、リュクス族の……」


女は陶酔したように呟く。


背後ではミーネの体が崩れ落ち、やがてその瞳から光が完全に沈黙した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー----


午後三時を少し回ったころ、王都の街並みを抜けてカーフの村までの森道を歩いていた二人はどこか違和感を覚えた。


いつもならコーヒーやパンを焼く香ばしい匂いが風に乗ってくるはずなのに。

ミトレアの表情は昨日と変わらず普通だったが、瞳の奥には少し焦りが滲んで見えた。


カーフ・リュンヌの看板が見えた。

半開きの扉が風に揺れて「きい」と鈍い音を立てる。

嫌な胸騒ぎが走った。



「サトツおじさん……?」


ミトレアは名を呼びながら、ゆっくりと扉を押し開け、

「カラン。」

鈴が鳴る音が重く響く。


部屋は暗くカーテンも締め切られ、中は静まり返っていた。

割れたカップ、倒れたテーブル。壊れたイス。

花茶の甘い匂いに混じって、血の匂いがする。


――床に、赤い跡が広がっていた。




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