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第一章19 脈打つ迷宮

――帰れるかもしれない。

そんな言葉を、リオナは口に出せなかった。

もし違っていたら、希望を壊すのは自分だから。

通路を抜け、広い空間に出ると天井の割れ目から淡い光が差し込んでいる。

「……出口？様子見てくる。」

リオナが駆け出そうとしたその時カイが肩を掴み。

「待て。…あそこの…照らされている岩、魔力の反応がある」

岩を凝視する。確かに、何かがその岩にもたれかかって居るように見えた。

「……誰か、いる。」

リオナが息をのんだ。

岩にもたれかかるように座った影――人のように見える。

フードを深くかぶっていて顔は見えない。

肩がわずかに傾いているが、その姿勢はまるで眠っているようだった。

「……生きてる？」

リオナが小声でつぶやく。

カイが慎重に近づき、しゃがみ込む。

「おい、大丈夫か――」

そう言いながら肩に手を伸ばした瞬間、

肩が外れ、床に――カランと散った。

「……もう、ずっと前に。」

リオナはその場から目を逸らした。

岩にもたれかかっていたのは、すでに命を失った誰かだった。

どれほどの時をここで過ごしたのかも分からない。

ただ静かに、迷宮はそのものを置き続けていた。

　――そして、さらに深く。

その闇の底でひとりの少年が夢から覚め、ゆっくりと目を開けていた。

――リーパーが霧となり消えた直後。

洞窟には、まだ冷たい空気が残っていた。

体が痺れるような痛みの後意識が一瞬遠のき、最後に見えたのは、セラが自分の名を呼ぶ顔――

それだけを残して、意識は闇に沈んだ。

どれほどの時間が経ったのかも分からない。

――そして今、目を開ける。

温かい……誰かが、自分を強く抱きしめている。

「……フユキ、お願い、返事をして……」

かすれた泣きそうな声。

その声が、確かに現実へ引き戻してくれた。

指先が微かに動く。

「……セラ、さん……？」

枯れた声を出した瞬間、抱きしめる腕がびくりと震えた。

次の瞬間、彼女は息を呑み、ほんの少しだけもう一度抱きしめた。

「……よかった……」

小さな声。

それは、戦場で見せる彼女とはまるで違う。

顔を上げたセラの頬には、かすかに涙の跡が伝っていた。

そのまま、慌てて袖でぬぐう。

「っ……す、すみません。こんな……みっともないところ……」

顔を上げたセラは、耳まで真っ赤だった。

「い、いえ……僕の方こそ、ご心配を……」

お互いに目を逸らし、気まずい沈黙が落ちる。

ぽた、ぽた、と水滴の音が響いた。

フユキがゆっくりと息を吸い、上体を起こし、

「……ありがとうございます、……動けそうですか？」

「ええ、平気よ。ただ、少し……足が。」

セラが立ち上がろうとする。けれど、その足取りは危うい。

フユキはすぐに腕を伸ばし、支えた。

「無理しないでください。僕が……」

「……あなたの方が、ボロボロじゃない。」

「じゃあ、二人で。」

肩を寄せ合いながら歩き出す。

どちらが支えているのか、分からないくらいの距離で。

　――迷宮の奥、冷たい空気の中。

ただ二人の呼吸だけが、そこにあった。

しばらく歩き狭い通路に入ったころ、空気の流れが変わった。

風が、壁の奥から吹きぬけているように感じる。

それはただの風ではなく、どこか生き物の呼吸のように感じた。

「……聞こえる？」

　セラの問いに、フユキが足を止める。

　――どくん。

　低い音が、壁の奥から伝わってくる。

「……まるで、この迷宮生きているみたい。」

セラの声はかすかに震えていた。

洞窟の奥、岩の壁がわずかに光を帯び、そこから湿った空気が流れている。

二人は慎重にその方向へ進むとそこは、小さな広間のような空間だった。

壁には焦げた跡、床には割れた瓶。

そして、黒く焼けた手形が残っていた。

「…もしかしたらここ…人、がいたのかも。」

　セラが壁に触れる。

近くの床には、汚れたノート手紙のような紙切れが落ちていた。

フユキがそれを拾い上げ、かすれた文字がかろうじて読めた。

『被験体、崩壊。瘴気の制御、失敗。』

その文字を読んだ瞬間、背筋を冷たいものが走った。

「……ここ、元々人がいて、何かの施設の跡かもしれません。」

「そうね……でもとても…嫌な感じがする。」

再び――どくん。

低い脈のような音が響き、壁の隙間の奥から光が滲み出ていた。

二人は顔を見合わせ頷き、その光をたどるように進んだその先に――

半ば崩れた鉄扉が、わずかに開けていた。

迷宮の底、冷たい空気がわずかに震えた。

読んでいただきありがとうございます！

久しぶりのフユキ達の回でした！主人公映さない小説てあまり良くないのでしょうか、、

明日も19時40分更新予定です！