第一章1 揺れる天秤
知らない街。
「こ、ここは？」
見上げると、白い塔が並び壁には星の紋章が刻まれている。
石橋の下には水が流れており全く知らない風景。
だが、不思議と心は落ち着いていた。
「……ここ、どこだ？」
訳が分からないまま周りを見渡すと、人っぽいけど耳が長いのとか、尻尾のあるのとか。
いわゆる物語などに出てくる"それ"らが普通に街を歩いているのだ。
（うん、もうこれ普通じゃない。。。いや待てこれは。）
少年は立ち止まり自分の中で納得するしか無く、
若干周りからの目が痛々しく感じるが、頭を抱えながら言う。
「……まさか、異世界……？」
空で伝書鳩のような生き物が飛んで行った。
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白綾冬紀、日本生まれの十八歳。
彼は十七年間、順風満帆幸せな日々を送っていたが一年ほど前、妹・白綾美有を目の前で事故で亡くして以来、冬紀はまるで心のどこかが凍りついたように、日々を漂うように生きていた。
学校には顔を出しても上の空で友人との会話も減り、次第に自宅に籠もる時間が長くなっていった。
かつては運度神経も良く、多数の部活動から声がかかる程だったのに、、、
＊
――周りからの目が少し痛い。
それもそのはず、少年フユキは着替えもせずそのまま寝巻きパジャマ姿でこの世界に来てしまったのだから。
「何で俺がこんな所に、、、しかもパジャマ、、、」
――ドン！！
「っ！？」
弱音を吐く暇なんてなく、後ろから悲鳴のような声と共に走ってくる狼の獣人が冬紀の肩を乱暴にぶつけて走り去っていく。
「あのガキ邪魔なとこ突っ立てんなよ！」
理不尽な獣人は前にいた小さな子供までも突き飛ばし、走り去っていこうとしたその瞬間――
急にその獣人は静止しその場で固まった。
息を整える間もなくその獣人から黒い靄のような影が滲み出てくる。
''それ''は獣の形をしているようで、だが顔の輪郭はなく、ただ歪んだ声を漏らしていた。
「――よこ、せ……時、間を……よこせ……」
''それ''はゆっくりフユキの方へ振り返る。
（…な、なんなんだよ、これ……時間？ 何言ってんだよ、この化け物……！）
フユキは後ずさりながら、
「な、なんだよ…あれ……」
何の知識が無くてもわかる、何か圧倒的に''生きていてはいけないもの''の気配だ。
それと同時にフユキは走馬灯のように妹を思い出し かけた、
次の瞬間――
その異形はフユキに飛びついてくる。
腕を掴まれ骨にヒビが入る程の勢いで地面に叩きつけられ、骨の奥で鈍い音が鳴った。
「イッ、、、、ッ！」
痛みよりも、''死ぬ''という感覚が先に来た。
ヤバいこれはマジでヤバいやつ、フユキは身体の底から湧き上がった衝動で、何とか異形を蹴り飛ばした。
――自分でも驚くほど必死だった。
「――怖い……………あ…………でも死んだら…会えるのかな…」
そんな矛盾が彼の中にはあった。
フユキはすぐに立ち上がり、
（…違うだろ……！）歯を食いしばる。
（俺は……まだ終われない！）
（美有の分まで……生きなきゃ……！）
まだ形をとどめきっていない異形が手を伸ばしながら 「――よこ、せ…」
と…その瞬間、
――ズバンッ！
鋭い閃光が真上から炸裂し異形は地面串刺しになり、悲鳴を上げる間もなく一瞬にして息絶えた。
遅れてその場の空気が震え、異形は灰となり、星屑のように散っていく。
フユキが顔を上げると、そこに一人の青年が上から降ってきた。
髪は地味な灰髪色。
目元はやさしくて、どこか飄々としている。
体格は普通だが運動神経が良さそうな体つきで
力よりもスピードと判断力を感じる立ち振る舞いで、謎の威圧感を放ちながら、
「いや〜異形化しちゃったか〜。あ、君、大丈夫？」
(な、な、な、なにいまの！、？魔法！？)
あまりにも非現実的な出来事に気が動転しながら、
「あの！さっきの！魔法ですか！？」
「え？さっきの？」
その男はフユキと目が合うなり少し驚いたような表情をし、何かを見抜くように顔を近づけて、
「それより君、、ちょっと普通じゃないね、、、まぁとりあえず着いてきなよ」
男はそう言いながら、ちらりとさっき異形が消えた場所を見ながら歩き出す。
フユキは呆気にとられながら、
「ついて行くって、、何処へ？」
「いいから、来ればわかるさ」
「、、、、、」
数分の沈黙の後、フユキから、
「あの〜」
「ん〜？」
「あなたは誰なんですか、、？」
「あ〜名前？俺はアルフラム・ヴェイル、長いの面倒だし適当にアルフとでも呼んでくれ。君は？」
「あ、白綾冬紀、です。」
「それじゃあ行こうかフユキ」
空を見上げると空は薄暗くもう夕暮れになっていた。
空は薄暗く街に灯りが灯り始めており、冬紀はその背中を追いかけていた。
読んでいただきありがとうございます！
この物語は、ここから少しずつ世界が広がっていきます！！！
気に入っていただけたら、これからの展開もぜひ見守ってください。
毎日19時ごろ更新予定です！
