第一章16 すりきれるこころ
その頃、
フユキとセラはは再び歩き出していた。
湿った岩の道。
水音だけが響く中、セラの足がふと止まる。
「…まだ…何か、いる。」
その瞬間、地の底から空気事切り裂くような刃。
黒い影が這い上がり、風が吹く。
「――下からッ!?」
セラは咄嗟に飛び退く。だが、間に合わなかった。
鎌の先が彼女の太ももをかすめ、鮮血が飛び散った。
「っ……くぅ……!」
フユキは思わず、
「セラさん!!」と叫ぶ。
セラは痛みをこらえ、すぐに姿勢を立て直した。
その存在が地面の底から、音もなく浮かび上がる。
「リーパー……??」
その鎌には、血と瘴気が混じって見えた。
「……逃げなさい!」
「で、でも――!」
「早くっ!!」
セラは剣を構え、真正面から駆けた。
鎌の一撃を身をひねって避け、流れるように刃を振るう。
――しかし、空を切った。
影が裂け、霧のように背後へと回り込む。
「後ろ……!」
振り返った瞬間、リーパーの鎌が襲う。
セラはそれを受け流し反撃するが、下からでてきた影の腕に首を掴まれ、動きが止まった。
「く……!」
リーパーの鎌がゆっくりと持ち上がる。
鋭い刃がセラの瞳に映る。
その刃が、彼女を裂こうと――。
その瞬間……
短剣が空を裂き、回転しながら飛ぶ。
しかし、リーパーはそれを弾き返す。
リーパーの視線が、ゆっくりとフユキへ向く。
「フユキ!何をしてるの!? 早く逃げ――!」
その時フユキは、妹の事故、カーフでの無力を思い出し歯を噛みしめる。
「……勝ち目がないからって……逃げるわけにはいかない!!」
声が響いた瞬間、フユキの体から光が溢れた。
「――Enhance!」
足元の岩が砕け、石が弾かれるように風が吹く。
その姿が一瞬で消え、
「――っ……!」
リーパーの影が無い目を見開いた。
次の瞬間、フユキの蹴りがリーパーのテンプルを撃ち抜く。
鈍い音と共に、闇がぶっ飛び、リーパーは苦鳴を上げ、後退した。
セラの前に立つフユキの横顔は――無表情だった。
「フユキ……?」
恐怖の色が消え、ただ一点を見据えている。
「――行きます。」
一歩踏み込み、空気が歪む。
フユキが跳躍した瞬間、残像だけが残る。
リーパーの目の前に、フユキが現れ、
「――EnhanceDouble!!」
右拳に光が収束し、青白い火花が走る。
その拳が、顔面を打ち抜いた。
「――ガッ……!」
黒い霧がはけ、リーパーが宙に吹き飛ぶ。
リーパーは苦しげに声を漏らす。
「……マダ……ザド…サマ」
そのまま黒い霧を吐き出し、逃げようとする。
だが――。
「逃がすかッ!!」
フユキが地面を蹴り、転がった短剣を掴み、そのまま全身の力で投げ放つ。
光の線が一直線に走り、リーパーの顔に突き刺さった。
「……!」
リーパーがよろめく。
次の瞬間、フユキは音もなく消え――。
「――終わりだ。!」
瞬間、刺さった短剣を握りフユキの斬撃が垂直に走る。
リーパーの核を真っ二つに裂いた。
リーパーの体は霧となり、音もなく消えていき、静寂が戻る。
「……フユキ……?」
セラが駆け寄る。
フユキはその場に膝をつき、ふらりと倒れ込んだ。
呼吸はある。けれど意識はもうない。
セラはその体を抱きとめ、震える声で名を呼んだ。
「――フユキ!」
火を失った洞窟の中で、セラの声だけが、静かに響いていた。
――白い空間。
風も音もない。どこまでも広がる無の空間。
「……俺、死んだのか……」
その時、気づけば視界の奥に小さな人影が立っていた
「……みう?」
少女が、そこにいる気がした。
けれどその笑顔には、温度がなかった。
まるで、写真の中の笑顔のように――動かない。
「ねえ……」
その声が届いた瞬間、胸の奥がずきんと痛む。
「どうして……泣いてるの?」
フユキは答えられなかった。
ただ、両手を見つめた後頬に手をあて涙を触る。
(…泣いてる…?)
少女は静かに首をかしげる。
白い世界がひび割れていき、
「――フユキ!」
遠くで誰かの声がする。
その名を呼ぶ声が、現実へと引き戻していった。
次の瞬間、
――夢は砕けた。
目を開けたとき、洞窟の天井と心配するセラの顔がフユキの顔を覗き込んでいた。
胸の奥に残るのは、全身が麻痺するような痛みだけ。
フユキの目から涙はこぼれていなかった。
読んでいただきありがとうございます!
「強さ」それを求めるたびフユキの心は少しずつ変わっていく......
明日から19時40分に更新させていただきます!
そろそろストックに追いつきそうです、、、




