第一章10 奇妙な二人
「……キュグぉぉぉ……オォォ……」
重く、低く、耳障りな唸り声がする。
「っ!」
すぐにテントがバサリと開き、
「今の声……何?」
セラがすでに剣を手にしてテントから出てくる。
「わかんない……でも近い」
「一応皆起こした方がいいかも……」
ミトレアとフユキも自分から起き各々テントから出てくる。
フユキは顔を出して、「今叫び声が聞こえたんだけど一体なんの声?」
こんな状況で野営なんて寝られる訳もなく目はぱっちり冴えている。
「……様子を見に行こう」セラが指示をだす。
木々をかき分け進んだ先――
月明かりに照らされる開けた空間に、あれは蛇のような――でも、大きすぎる。
しかも体も青白いし霧?のように透けて見える。
「……あれ、何……?」
「……ゴーストサーペント。夜にだけ出る魔獣……」
セラが低く呟く。
そして、その魔獣と交戦している二つの影、一人の男とその横にいるのは女の子。妹なのかな。
「……人間?」ラナは目を細めながらつぶやく。
「誰なんでしょう……あの人たち……?」
その時魔獣の咆哮が再び響いた。
「セラ、あの二人……かなりやばそうだけど!」
ラナが銃を構えながら叫ぶ。
「分かってる。弱点は――あの半透明の体をめぐってる核よ。あの子たち動きと連携は凄いのだけど……」
セラは目を細める。
「うん…多分あの人たちあの蛇の事知らないんだと思う…」
セラが剣を抜き、足を踏み出す。
「いくわよ、ラナ」
「はいはい、了解〜!」
ラナの銃弾が空を裂き、セラのスピードがその光に追いつく。
ゴーストサーペントの体がのたうち、苦痛の咆哮が森に響いた。
男がその隙を見逃さず、地面に手をつく。
「――《ディンセント》」
淡い紫光が走り、サーペントの動きが鈍る。
次の瞬間、セラが飛び込む。
「はぁっ!」
青白い光が閃き、サーペントの体が核ごと真っ二つに裂けた。
霧のように溶けて消える。
――
男は息を整えながら、
(……うわーすげー)
「……ありがとうございます。助かりました。」
深く頭を下げる。
その横で――無言で爪をいじる少女。
「リオナ。お前も……ほら。」
兄が妹の頭を軽く押し、お辞儀させようとする。
「触んな、マジきもいから。頭腐る。」
グサリとした一言。
兄は小さくため息をつく。
「すみません……こいつ、絶賛反抗期中で。」
「いや、なんか……すごい仲良さそうね?」
ラナが笑いを堪えながら口を挟む。
「仲良くないから。」
と即答するリオナ。
テリーが馬車の陰から顔を出して苦笑していた。
セラが一歩前に出て、
「あなたたち、ここで何をしていたの?」
兄は一瞬ためらい、少し俯いてから答える。
「……逃げてきました。もう……居場所がなくて。」
「逃げてきた?」
ミトレアが小さくつぶやく。
「はい。追われてるわけじゃないんす。でも……俺たち、もう行く場所がなくて――。」
淡々と話すその声は、どこか疲れているように見える。
沈黙を破るようにラナが軽い調子で言う。
「じゃあさ! 一緒に来る? 森抜けるなら人手多い方がいいし!」
「は?」とリオナが顔を上げる。
「誰が知らんやつらと……」
「ちょっと静かにしててね。」
兄――がボソッと短く言う。
その声に、リオナは舌打ちして目をそらした。
兄が疲れた表情で、
「それじゃ、少しだけ同行させて貰おうかな。」
(居場所をなくしたって、なんか……俺と似てるな)
フユキが前に出て、手を差し出した。
「俺はフユキっていいます。よろしくお願いします。」
兄はその手を見つめ、ゆっくり握り返す。
「俺はカイで、こっちはリオナ。」
「ども。」
リオナは視線を合わせず、ずっと爪をいじっている。
ラナがニヤニヤしながらリオナの隣に立つ。
「へぇ〜、あたしと同じくらいの歳? 仲良くしよーよ。」
「ムリ。」
「即答!? えぐっ!」
周囲には小さな笑いが生まれていた。
フユキ達はテントに戻り交代で休むことにした。
外では交代したセラの見張りと虫の声、風の音。
それでもテントの中でカイとリオナの声だけははっきりと聞こえた。
「ねぇ、おにい。」
「……ん。」
「ほんとに、あの人たち信じんの?」
カイは少し黙ってから、
「信じるも何も……今は、彼らに着いて行くしかない。」
「……ふーん。」
リオナは背を向けて寝袋に潜り込む。
「えなに、お兄ちゃんのこと心配してくれてんの。」
「その発想キモイし、別に心配してるわけじゃないし。」
「はいはい。」
カイはそう呟き、少しだけ笑った。
やる気のない反抗期まっただ中の妹と、独り言の多い兄。
奇妙な兄妹が、静かに仲間へと加わった――。
読んでいただきありがとうございます!
今回は森で出会った奇妙な兄妹の登場回でした!
次回の投稿は明日の19時を予定しています!




