表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

第八回の動画配信を見て

うわ、今度は本当のボクシングジムだ。あれれ今日はチャーリーは短パンなんだ。トップがちょっと可愛い肩だけが出た半そで? なんかリストバンドしてるぞ。あっ、そうか、あれがウェイトか。

ほかのジム生は黙々と練習メニューこなしてる。

ランニングシャツのおっさんがここのぬしか?

チャーリー「えと、この横のおじさまが額田ぬかだボクシングジムの額田栄三さんです。今日はお世話になります。えーと何をすれば良いんですか?」

額田「まず縄跳びやってみせてくれ」

跳び縄を手渡されてチャーリーゆっくり跳んで見せる。

パンパンパンパン……

そのうち二重跳びになる。

パパンパパンパパンパパン……

あれれ膝を曲げずに高く飛んで今度は……

パパパンパパパンパパパンパパパン……

パパパパンパパパパンパパパパンパパパパン…

三重跳びから四重跳びになったよ。

パパパパパンパパパパパンパパパパパン……

これ五重跳びだよね。しかも連続でやってる。

膝も少しだけ曲がってる。

パパパパパパンパパパパパパンパパパパパパン……

ろ……六重跳びだぁぁぁ。

うわあ、だんだん高く跳んで天井に頭がぶつかりそうだ。

パパパパパパパパパパパパンパパパパパパパパ……

チャーリー「もうやめたっと。天井にぶつかったら、天井を壊すから。次は何をやりますか、額田さん?」

額田「驚いたな。ギネス記録を破ってるぞ。最後のは12重跳びか?」

チャーリー「数えてないし。天井なければもっとできると思うけど、めんどいからしたくありません」

額田「サンドバッグはどうだ?」

チャーリー「よほどそっとやらないと穴を開けてしまうと思う」

額田「やめてくれ。じゃあ、スパーリングだな。嬢ちゃんはミニマム級よりも軽いな」

チャーリー「大丈夫だよ。相手の重さに合わせるから、誰とでもスパーリングできるよ」

額田「いちおうヘッドギアつけて貰わないと」

チャーリー「必要ないよ。何ならおじさんの必殺パンチ顔で受けても良いけど。でも素手だと手を傷めると思う」

額田「そうだよな。動画見てるんだけど、いざ実際に本人に会うと可憐で細身のお嬢ちゃんだからなあ。つい」

チャーリー「遠慮しないで平手で叩いてみたら?」

額田「でもなぁ、可愛い孫娘を思い出してしまうし」

チャーリー「舐めてんのか?このクソ親父、てめえ男だろ?ぶらさげてんのか?」

バシーーーーーーン!!

だけど掌真っ赤にして痛がってるのは額田さんの方だ。

チャーリー「ちょっと背中を押す積りで煽ったんだけどごめんね。痛かった?」

それにはただこくこくと頷くだけで声も出ない様子だ。

漸く落ち着くと額田さんは涙目をパチパチさせながら

「電信柱を叩いたらあんな感じかなと思ったぜ。

じゃあ、うちの練習生壊されたら困るからパンチの強さを加減してもらう」

パンチングミットを手に額田がワンツーとかジャブ・ストレート・フック・アッパーなどを教えて行く。

額田「驚いたな。力加減もできるみたいだな」

チャーリー「殺したりケガさせたら大変だからね、この世界は。そりゃ慎重になるよ」

額田「マウスピースはいらないな」

チャーリー「いまさらだね。さっきマウスピースしてないチャーリーを全力で引っ叩いてたじゃん」

額田「だな。よし、遠藤リングにあがれ」

おっ、ちょうど標準的な体格の練習生が来たぞ。

遠藤「この格好の子を殴るんですか?」

額田「お前動画見てないのか。なめてかかるとのされるぞ。お前がグローブをするのはお前の手の骨を守るためだ。マウスピースも同じだ。いいか全力でかかっていけ。一分もてば合格だ」

遠藤「よおし。顔が変形しても知らないぞ」

ゴングが鳴った。

グローブと素手を合わせた直後遠藤は猛ラッシュだ。

チャーリーは全然緊張感なくて顔が笑ってる。パンチは殆ど避けてる。ノーガードだ。

しかも遠藤に愛想よく笑顔を見せている。

それが遠藤の怒りに火を注いだぞ。

でもチャーリーは相手の突き出された前腕を軽く手で押してパンチのコースを逸らしてる。

遠藤は空振りでバランスを崩されてる。がんばれ遠藤!

額田「残り十秒」

ストップウォッチを持った額田が声を出す。

その途端チャーリーが軽くチョンと遠藤の側頭部を触ったように見えた。

それだけで遠藤はフラーッと倒れた。

すげーー。一発だ。

額田「次佐々木あがって来い。みんなグローブつけて準備しろよ」

ほかの練習生は遠藤を起こしてリング外に連れて行く。

自分で歩いてるようだから、丁度いい加減に叩いたんだな。担架で運ぶほどにはならないように。

佐々木は遠藤よりも動きが良い。

そうかだんだん強い奴に当たるようにしてるんだな?

ノーガードではないが、チャーリーは佐々木のパンチを自分の外側にそらすように捌いている。

チャーリーは少し真面目な顔になったが、それでもときどき相手にウィンクをして見せて挑発してる。

あれは絶対頭にくると思う。遊ばれてるって思うからな。実際遊んではいるけど。

額田「残り十秒」

その途端佐々木は倒れた。きっとパンチが当たったんだろう。軽く手を出してパンチを逸らしたように見えたんだが、その時どこかに当てたのか??

額田「次、木村。今度からプロになる」

おーー、プロだよ、プロ。顔つきが凄い。後輩たちが遊ばれたからかなり頭に来てるぞこれは。

おいおい大丈夫か?三回に一回は当たってるぞ。判定ならとっくに負けてる。でも当たっても全然平気だものな。当てた木村の方が腕が痺れたような様子を見せるから。きっと電柱を叩いたような感触だったんだろうな。

おや、だんだんチャーリー避けるのがうまくなったじゃん。10発に一発しか当たらない感じか?

額田「残りーー」

額田さんが全部言わないうちに木村は倒れた。

チャーリー「こっから先は尺延ばさないで巻いて行くから」

えっ、巻いて行くの?ああそっか、めんどくさくなって来たんだ。上級者相手に加減するの疲れるものな。

額田「矢島上がって来い」

ゴングがなるとウエイトもパンチ力もありそうな男がじわじわっとチャーリーに近づいて行く。自分の間合いにしてからジャブからストレートを出したとき、チャーリーが間合いの中に入ってチョンと顎に触った。

瞬殺だ。嘘だろっ。相手はプロだよ。何回戦か知らないけど。巻くのにも程があるだろっ。

カウンターだよな? 野球で言えば初級打ちだ。

名前は忘れたが次の奴はフットワークを生かしてグルグルまわってやがったが、突然チャーリーが逆方向に回って背中を向けたと思ったら、相手の懐に体をねじ込んでいた。

そして利き腕でない方の左でアッパーを掌底で決めていた。開始10秒くらいだ。

その後はもう滅茶苦茶だ。相手も上級者だからパンチをチャーリーに当ててるけど、チャーリーは相手のガードの上からでもど突いてガードを吹き飛ばすとチョンと打つんだ。折角の上級者のテクのすばらしさが生かされてないうちに倒されてしまう。

もうこれなら世界チャンピオンが現れても意味がない。

相手の的確なパンチをいくらたくさん貰っても蛙の顔に小便だし、あいてがいくらスマートにブロックしてもガードしている腕を払い飛ばして頭部をチョンと打つから、それでノックダウンだ。最後の方は有名な選手だったがやはり10秒くらいで倒された。

最後にチャーリーが並んで立っている練習生やプロ選手に1人ずつ小さな紙袋を渡してる。

チャーリー「今日はチャーリーのために貴重なお時間を割いてお相手して下さってありがとうございました。これはほんの感謝の気持ちです」

練習生たちは紙袋を開けて中のものを手に取る。それをカメラが近づいて大写しする。

なにやら形が歪んだ子供の粘土細工みたいな黄土色の物体がある。中には焦げたようなこげ茶いろしたものも。

その画像に被せるようにチャーリーの声が聞こえた。

チャーリー「チャーリーの手作りのクッキーだよ。愛を込めて焼いたからね」

それで動画は終わっている。

最後のメッセージは以下のようだった。

『これからも宜しくってお礼のメールを送ったら、パシリ一号に返信が来て。頼むからもう来ないでくれと伝えてほしいって。みんなの自信がなくなるからだって。淋しいな、チャーリー』

ああこいつ、自分のしたことに自覚がないっ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ