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第三話 もう1人の部員

「あさひ、今年お前が入部してくれて俺たち本当に嬉しかったんだ。うちの学校って卓球部人気ないからさ。俺たちも別に強くもなんともないし、練習も段々適当になっていって。でも、お前が入ってきて、頑張ってるお前を見てたらさ、こんな俺たちでも頑張ろうって思えたんだ」

「ああ。2人して早々に敗退したけど、今までで1番いい卓球ができたと思う。ありがとう、あさひ」


 先輩たちの引退式。今日で先輩たちの部活が終わる。今まで当たり前のようにいた2人がいなくなることを考えると、一生の別れというわけではないのに悲しい気持ちになった。


「僕の方こそ感謝してます。素人だった僕に優しく卓球を教えてくれて、受け入れてくれて。僕がやりたい練習にもたくさん付き合ってくれて。僕、先輩たちが先輩でほんとよかったです。今の僕があるのは、先輩たちのおかげです」


 もし先輩たちが嫌な人たちだったら、僕は卓球をはじめれなかったかもしれない。1番最初に出会った卓球の先輩が2人だったことは、僕の卓球人生において1番の幸運だったのかもしれない。


「楽しかったです。本当、毎日楽しかったです」

「まあ一生の別れってわけでもないしな。またラーメンでも食いに行こうや。それに学校でならいつでも会えるしな」

「はい。じゃあ、受験頑張ってください!」

「おっと、急に現実に引き戻された。あー、精一杯頑張るよ」


 というわけで先輩たちの卓球人生はこれで一度幕を閉じた。2人がこれから高校に入ってからも卓球を続けるのか、それはまだわからない。ただ、もしも卓球を続けるのならまたどこかで、先輩たちの卓球をしたいと思った。


「でもこれでいよいよ僕1人だけの部活になっちゃいましたね。明日からは練習相手もいないので、時間はかかりますけど毎日クラブに練習に行こうと思います」


 金田TTCは毎日来てもいいって言ってた。電車で一時間くらいで行けるし、母さんにも許可は取ってる。

「そういやクラブ入ったって言ってたもんな。それがいいと思う。せめてもう1人いたらなあ」

「実はもう1人いるぞ。女子部員だけど、2年に1人いる。入部だけして一回も顔出したことないけどな」

「え? そうだったっけ?」

「お前が知らないのも無理ないか。ほら、入れ一応部長だから最初に挨拶だけしたんだよ。確か北条だったかな。顧問に聞いたらわかると思うよ」


 まさかの新キャラ。いや僕より先に入部している先輩なんだけれども。

 けど、もし部活に来てくれたらサーブの練習とか、色々できるぞ! 新しいラケットにも早く慣れたいし。


「明日聞きにいってみます。それじゃあ、お疲れ様でした!」


 先輩たちとはこれでお別れだけど、朗報もあった。

 まさかのもう1人の部員が2年生にいることが発覚した。でも、なんで部活には来ないんだろう。


*****


 卓球部顧問の草野先生は基本部活には顔を出さない。いい先生なんだけど、卓球に関しては全くの無知なので全部僕たち部員に任せてしまっている。

 でも休日に練習をしたいと言ったら必ず来てくれるし、本当いい先生なんだよな。アイスとか買ってきてくれるし。


「草野先生、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「どうしたんだい?」

「昨日先輩から聞いたんですけど、2年生にもう1人部員がいるんですよね?」

「北条さんのことだね。うん、北条さんは一応卓球部に所属してるよ。ただ、練習は彼女が通っているクラブチームで行なっているんだ。彼女のレベルではうちの部活に合わないからね」

「ちょっと会ってみたいんですけど、クラスを教えてもらえませんか?」

「もちろんいいよ。ちょっと待ってくれ」


 先生は各クラスの名簿をペラペラめくりはじめた。そして、目当てのページで手をとめた。


「いたいた。2年5組だな。ほらここ」


 先生の指した場所を見ると、北条玲花と書かれてからいた。


「ありがとうございます先生!」

「あさひ、1人で大丈夫か? 先生が間に入ろうか?」

「大丈夫です。じゃあ行ってきます!」


 北条さんか。会うのが楽しみだな。それに、先生の話から察するに相当の実力者みたいだ。一緒に卓球できたら絶対楽しいはず!


*****


「すいません、北条玲花さんっていますか?」


 いちばん近くにいた女子生徒に声をかけた。当たり前だけど、全員2年生なんだよね。緊張するなぁ。


「玲花? いるけど、君誰?」

「1年の春野あさひって言います。あの、北条さんと同じ卓球部で」

「1年生! ちっちゃいし声も高いわけだ! どうぞどうぞ2年5組へようこそ!」


 なんかすごい歓迎されてしまった。ちっちゃいって、確かに僕は平均身長より低いけど、いざ言われるとちょっとショックだな。


「玲花ー! 可愛いお客さんだよー!」


 1年生の来客は結構珍しいのか、教室中が騒ついている。みんな物珍しげに僕をみている。恥ずかしい。

 そんな中、メガネをかけた女子生徒が一段と強い視線をこちらに向けていた。もしかして、あの人が北条先輩か?

 僕の予想は当たりだったようで、先輩に手を引っ張られて連れられた先は、そのメガネをかけた先輩の前だった。


「はい、それじゃああとは2人で仲良くね」

「あ、ありがとうございます」


 案内してくれた先輩はそのまま自分の席まで戻っていった。


「私に何か用?」


 メガネのせいなのか、他の先輩と比べて大人びた雰囲気を感じる。まるで高校生みたいだ。


「卓球部1年の春野あさひです。北条先輩も卓球部だって聞いて、それで会いに来ちゃいました」

「そう。それで?」

「北条先輩、もしよかったら僕と卓球してくれませんか?」

「悪いけど、部活に行っても上達しないからお断りします。私は遊びで卓球をやってるわけじゃないの」

「クラブに通ってるんですよね。僕も先輩と同じで、上達したくてクラブに通いはじめました。でも、時間の効率を考えると、学校が終わった後にそのまま部活で練習した方ができることが多いと思うんです。でも、今は部員が僕1人しかいません」

「だから私に練習相手になってほしいってこと? 失礼だけど、なんで私があなたに合わせないといけないの? 私は今のままクラブに通っていた方が強くなれるの。理解してくれる? 部活に行く意味がない限り、私が部活に顔を出すことはないわ」

「じゃあ、僕が先輩と同じレベルになったら一緒に練習してくれるんですね。先輩の実力に見合った選手になったら、部活でもいい練習ができるから、来てくれるってことですよね」

「そうね。もしそうなったら考えてあげてもいいわ」

「わかりました。僕、先輩と卓球するために絶対に強くなって見せます! また来ます!」


 希望が見えた。しばらくは部活に行けないけど、僕が強くなったら先輩が部活に来てくれる。そしたらもっと上達への近道になるはずだ。

 それに、先輩にとっても部活で練習できた方が色々と楽になるはず。先輩がどこのクラブに行ってるかわかんないけど、よっぽど自宅から近くない限りは、毎日クラブに通うことは先輩の負担になっているはずだ。

 僕も先輩ももっと強くなるには僕のレベルアップが必須条件。

 頑張るぞ!


*****


 僕の家から金田TTCまでは行くためには、まず駅に行って電車に乗る必要がある。

 今日は学校から真っ直ぐ駅に行き、片道40ちょっとかけて最寄り駅まで電車に乗った。

 駅から10分ほど歩けば、ようやくクラブに到着だ。大体1時間ちょっと。学校が終わった時間が15時40分くらい。ここに着く頃にはもう17時近い時間だ。

 金田TTCの平日営業時間は9時から20時まで。ついてから立ったの3時間しか練習できない。それに帰りの時間も考えると、やっぱり平日は学校で練習した方が負担が少ないな。

 そういえば樋上さんはどういうスケジュールでここに来てるんだろう。この前の感じだと、部活に行ってその後にここに来てるみたいだったけど。


「こんにちはー!」

「こんにちは、あさひ君。今日から練習開始かい?」

「はい。よろしくお願いします」

「僕はまだ店番だから、またあとでね」

「はい!」


 内海さんに挨拶をして、2階へ続く階段を登った。

 この前ラケットを新しくして、その試打をした以来の入場だ。

 靴を履き替えて、制服から練習着に着替えて扉を開ける。


「こんにちはー!」

「おう、来たかあさひ」


 コーチがちょうど一番手前の台を掃除していた。

 奥の方ではすでに4人の選手が練習していて、樋上さんもいる。樋上さんも性が高い方だけど、他の人たちはもっと背が高くて、高校生くらいに見えた。

 

「すまんみんな! ちょっと集合!」


 金田コーチが声をかけると、全員一斉に練習を止めて、こっちに来てくれた。


「ここにいるメンツはちょうどこの前見てると思うが、金田コースの新メンバーを紹介する。あさひ」

「はい。裏町西中1年の春野あさひです。今日から金田コースで一緒に練習させてもらいます。よろしくお願いします!」


 よし、うまく挨拶できたぞ! 

 みんなよろしくって言ってくれた。


「というわけで、新しい後輩だ。みんな可愛がってやってくれ」

「俺たちも自己紹介しとこうか。俺は永瀬隆文。高校3年生。コーチ以外だと俺が1番歳上になるのかな。卓球以外でも、困ったことがあったらなんでも聞いて」

「はい。永瀬さん、よろしくお願いします」


 高校3年生か。通りで大人びた雰囲気なわけだ。僕もいつかこんなふうになれるのかな。


「次は私の番ね。私は今波ニーナ。高校2年生。見た目でなんとなく察したと思うんだけど、ハーフなんだ。でも日本で育ったから日本語以外話せないんだけどね。私のことはお姉さんだと思ってね!」

「わかりました」


 すごい元気な人だ。ずっとニコニコしてるからこっちまで明るい気分になってくる。きっとこの中ではムードメーカーみたいな存在なんだろうな。


「あー、流れ的に次俺か。えーと、高天紘一。今波と同じ高校で、歳も一緒。そうだなぁ、もうあんまいうことねえな。まあ、あとで打とうや」

「高天さんと卓球できるの楽しみにしてます!」


 この人、さっきすごい動きをしてた人だ。多分相当上手い。喋ってる最中は目が死んでて全然覇気がないのに、卓球をしてる時は別人みたいだった。早く試合してみたいな。


「さて最後は俺か。つっても、俺はもうあさひと知り合いだから今更いいよな。あさひ、これから一緒に強くなろうな! 俺はお前を待たない。必死に食らいついてこい!」

「もちろんです! 絶対樋上さんに勝ちます!」


 あの日は僕が負けた。でも、次に大会で会った時は絶対に樋上さんに勝つ!


「あさひはまず俺と一緒にストレッチからな。隆文たちはさっきの続きをやっててくれ」

「「「「はい」」」」


 4人の背中を見送りながら、コーチとストレッチを始める。ストレッチは大事だ。怪我の予防にもなるし、卓球で大事な柔軟性の向上にもつながる。

 どんな球でも拾える選手になるには、どんな体勢からでも打ち返せる柔軟な体が必要だ。

 卓球を始めるようになってからは、毎日自分でもストレッチをするようになったけど、僕の体はまだまだ固い。


「コーチ、今いる人で全員なんですか?」

「金田コースのメンバーのことか? それならもう1人いるぞ。あさひの一つ上だったはずだ。そろそろくるんじゃねえかな」

「2年生ってことは、大会でも戦うライバルになるんですね」

「いや、女子だからここでしか試合できねえぞ。まあ歳も近いし、お互いいい刺激になると思うぞ」

「なるほどー」


 噂をすればとはよく言ったもので、そんな話をしながらストレッチを終えた直後、ガラリと卓球場の扉が開いた。


「あ」


 なんと、北条先輩だった。先輩は僕をみて驚いた様子で声を出した。


「先輩! ここのクラブだったんですね!」


 しかも僕と同じ金田コース。先輩はやっぱり高いレベルの選手なんだ。なおさら一緒に練習したくなったぞ。絶対楽しいに決まってるもんね。


「あー、そういや玲花も裏町西中だったか。こんな偶然あるんだな」


 コーチもちょっとびっくりした様子だった。


「ふーん、新しい生徒ってあんただったんだ」

「はい。今日からここでお世話になります。お互いびっくりですね先輩」

「ここで練習するならあんたももう部活に行かなくていいんじゃないの?」

「いえ、今日ここに来て思いました。もし学校で練習できるのならば、その方が時間の効率がいいです。もちろん土日はここに来て練習をするのが一番いいですが、平日はここまでくるのはかなりの負担になります。それも毎日となると、先輩もかなり疲労が溜まってきてるんじゃないですか?」

「それは......」


 先輩の言葉が詰まる。多分、先輩も自分の限界に気づいてはいるんだ。このままじゃ息切れしちゃうって。


「でも、私はここに来てから一気にレベルが上がった。これが答えでしょ」

「頑張ることは悪いことじゃないです。でも、強くなるには休息も大事です。だから僕は強くなって、学校で練習してもいいって思わせて見せます!」

「はいはい。じゃあコーチ、今日の練習メニュー教えて」


 先輩は僕の横を軽くあしらうように通り過ぎて、コーチに話しかけた。

 コーチは僕の方をチラリとみて、ニヤリと笑った。これは、何か企んでいる顔だ。


「玲花、あさひと5セットマッチで試合だ。お互い実力を知っておいた方がいいだろう」

「いきなりいいんですか!」

「あさひはやる気満々みたいだな。どうする玲花? 嫌か?」


 今の僕がどこまで北条先輩に通じるか。いや、そうじゃないだろ。

 ここで北条先輩に勝って、僕が先輩の練習相手に相応しいってところをアピールするんだ。そしたら、全部解決じゃないか!


「私が逃げるわけないでしょう。受けて立つわ。あなたと私の間にどれだけ差があるか見せてあげる」

「決まりだな。あさひ、玲花はこの前の中体連で女子個人戦の優勝者だ。最初から全力で行かないとすぐに終わっちまうぞ」


 ほえー。北条先輩ってそんなすごいのか。僕が4回戦で負けたあの大会の優勝者だったとは。

 もしも先輩の存在を知ってたら絶対最後まで応援したのに! もったいないことをした。


「慢心はしないわよ。ここにいるってことはあなたはコーチに認められた選手ってこと。私ができること全部やって、絶対勝つから」

「僕も、先輩に認めてもらうために絶対勝ちます」


 勝つ自信はない。それにラケットにもまだ慣れてない。でも、僕は勝利を決して諦めたりしない。

 ここ最近で、ようやく自分のプレイスタイルがわかってきた気がする。

 僕はいつも先に相手の動きを見てしまう癖がある。それは、相手の動きを分析してその対策を考えるためだ。

 でも、その分析の間にいつも点数を取られてしまう。2セット目以降から点数が取れ始めるのはそれだけ分析に時間がかかってしまっているからだ。

 そのことに気づいてからずっと考えてた。これは多分、そんなに悪いことじゃない。うまく使えれば僕の大きな武器になる。

 だからその活かし方を僕なりに考えてきた。分析をしながらの動き方。自分の強みを活かしつつ負けない叩き方を。

 それを今日、この試合で絶対に完成させる。そして北条先輩に勝つんだ。

 中体連女子個人戦のチャンピオンに、僕は勝つ!

キリがいいとこでって思ったら前二話と比べて短くなってしまいました。

次回は試合の描写をじっくり書きます。展開考えるの難しいですが、読んでいて想像しやすいような文章を頑張ります。

中学編は駆け足で終わらせる予定なので、新キャラは全部高校生にしてライバルをカットしました。

同じ部活のもう1人の選手が女子なのも、大会であさひと戦わせないようにするのが目的です。陽介が中3なのもライバルを減らすのが目的でした。

とはいえあくまで予定です。気が変わったらもっとじっくり行くかもしれません。

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