表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
POUPEE  作者: 柚木トモカ
8/18

ネコネコ・ペタバイト・サイコシス④

「ここはぷーぺを崇める教団。元研究所だったところを改築してるらしい。だから、ほら、ビンとか多いだろ?」

 足先でビンを転がす。ビンはころころと、廊下を転がっていく。その先には、

「らっしゃーい」

 三角の耳。

 紙のようなうろこ。

 金属のようながさついた、あっけらかんとした声。

 どう見ても聞いても人間じゃない店員がいた。

しかし笑顔のように尖った口を開け、肩が下がり気味に立っている姿はどう見ても、ウェーイ系のアルバイトである。

「ヘイ長谷部! げんきー?」

 そいつがめちゃくちゃ親し気に話しかけてくるのだから、さっぱり分からない。

「なんだこいつ!?」

「ぷーぺだよ」

「ぷーぺってなんだ!?」

 溜息を吐く緑海。

「姉さん、ホントに何も話してないんだな。ぷーぺってのは、姫花ちゃんにかけられてる獣の呪いの名前。一匹だけかと思ったら、意外といっぱいいてな」

 謎の店員? を指さす。

「店番したがる奴もいる」

「自由すぎるだろ!?」

「ボクに、ぷーぺ様に、サンドラ様。あとちっちゃい子がいっぱいいるよー」

 そう言い、店番ぷーぺはケラケラと笑う。明るすぎる獣である。

「それじゃ、人間を食うんじゃ」

「その使命を背負ってるのはぷーぺ様だけだよー。ボクらはそんなに食べない。ホラ、ハンバーガーの方が好きだし」

 謎店員は、売り物の一つに手を伸ばす。その手は爬虫類のように骨ばっていた。長い爪で器用に包装紙を剥がすと一口。

 もっしゃもっしゃ。

「んー。うま」

 まるで日本好きをアピールする観光客のようである。

(けど、それ売り物じゃ……)

 この辺り、獣なのだろうか。

「ぷぺ太。おれにも一つ。照り焼きバーガーくれ」

「あいよー。百十円だよ」

「ほいよー」

「…………」

 怪しい奴らが銃を持つ、こんな怪しい施設で。ごく普通に、ハンバーガー売って食ってる奴がいる。

 先ほどネコミミを量産していた長谷部の言うことではないが、あまりに現実離れしている。

 もっと緊張感を持て。

「長谷部もいるか? ご飯派ならオニギリもあるぞ」

「いるかっ!」


 ハンバーガーを頬張りながら、緑海は話す。

「さっきの話。ここが研究所だった話だけど、今も細々と続いているらしい。メインはあくまで全人類を捧げることだけどさ」

 ジャンクフードと共に聞く話にしてはサイコすぎる。彼らのあの不気味な情熱はどこからきているのだろうか。それを伝聞とはいえ、他愛もないことのように話す緑海も緑海だが。

 と。

 ガッジャアア!

「なっ!?」

 突如、壁が崩落した。何事かと驚く間もなく、緑海に腕を引っ張られる。

 ほんの一瞬まで長谷部がいた場所に、怪物がいた。全身木のような、ヤシのような皮に覆われている。丸太のような腕、研ぎ澄まされたナイフのような鋭い爪。獰猛な食欲を示すように、口からは涎が溢れている。 

「……生体兵器みたいなの出てきたんだけど」

「……過激派だからな。やってることも派手なんだろう」

 緑海は淡々と呟く。

「ヘンテコ集団のくせに過激すぎるだろ!?」

「出会っちまった以上戦うしかねぇんだよ! 荒ぶる血を示すんだよ!」

「訳分かんねぇこと言うな、テンパってんのか!?」

 二人は自在武器を構える。長谷部とは違い、緑海は拳につけるものが好みらしい。名前と同じ緑色のゴツいナックルが、右拳を覆っている。

「って、コイツが相手で大丈夫なのか? ボイルド以外には使えないって聞いたけど」

 言うと、緑海は目を丸くした。

「姉さんからは聞いてないのか? コイツは……半分ボイルドみたいなモンなんだぞ」

 今、意味深な沈黙があったが。疑問を持つ前に、咆哮が響いた。怪物が襲い掛かってくる!

「っ!」

 縦横無尽に爪を振り回すボイルドと違い、一直線に胴体を狙ってくる。攻撃の当たった場所が変化することはないが、砕けた壁は、その爪が当たればただじゃすまないことをハッキリと示している。

動きは俊敏で、拳銃で応戦してもなかなか決め手が入らない。

「長谷部!」

 距離を取った緑海が叫ぶ。

「このままじゃラチが明かねえ、いったん退くぞ!」

 頷こうとした時。

 どこからか、メロディーが流れてきた。戦いのための勇壮な旋律。間違えようがない、この声は。

「姫花……!」

「やったな! あの子、無事に姉ちゃんと合流できたみたいだ!」

 力が湧いてくる。ヤシの木のような怪物に負けはしない。

「長谷部。せーの、でダブルアタック決めるぞ」

 名前はダサかったが、言いたいことは分かる。頷く。

「おれがあいつの隙を作る。お前はおれが一撃入れると同時にぶっ放す。挟み撃ちだ」

「分かった」

 言うなり、緑海はヤシ怪物に向かっていく。凶悪な爪に対してシンプルすぎる拳は、しかしヤシ怪物の顎を捉える。怪物が大きく仰け反った、その時を狙い、引き金を引いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ