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POUPEE  作者: 柚木トモカ
15/18

ぷーぺが町にやってくる!⑤

 次の日、放課後。

「あら、長谷部君、姫花ちゃん。お買い物?」

「は、はいっ!」

 友達と連れ立って町へ出たところ、昨日と同じ商店街に想実がいた。いつものスーツに、A4サイズのバック。いかにも外回り中、といった具合で。

 ……といっても、そういう風に見せかけただけだ。今朝打ち合わせ、放課後は偶然を装って合流することにした。

 朝日と夜野は、想実と初対面である。興味深そうに二人で顔を見合わせ。長谷部を見。

「長谷部……ひょっとして、アレか。このつくアレか」

「んな訳あるかっ! ただの知り合いだよ、知り合い!」

「なんの?」

「そ……その、な……」

 スラックスをめくられた仲とは言えない。

 ポン、と肩を叩かれた。

「言い淀む理由があったんだな……おねーさんでショターな」

「あ……あああああああるかっ!」

 一瞬空を飛んで行ったスラックスが脳裏をよぎったが、全力全身全霊を込めて無視する。

「長谷部君達とは、仕事で知り合ったの」

 長谷部の努力はさておき、想実の方でうまくまとめていた。

「あ、想実さんじゃないですか!」

「あら、真下……ひよりさん。この前はごめんなさいね」

「いーんですよ! それよか日和さん、ウチらとカラオケ行きません? 今八人以上は半額ってクーポンあるんですよ!」

「私と?」

 想実は目を丸くする。

 長谷部は止めようか迷う。長谷部の友人も後輩達も、ノリの良い奴らだが。中高生とは、あまりにも選曲が違いすぎるのではないか。

「いいわね! 年齢制限ナシのカラオケいっちゃいましょう!」

(いいのか!?)

「おねーさんノリいいっすね! じゃ、オレこの先のカラパラ調べますねー!」

「朝日先輩、向こうに看板が出ています」

「たまちゃん早いね」

 中川が冷静に指をさす。

 と。朝日が想実に、神妙な顔で。

「オトナのアレで。奢ってくれません?」

「だめよ」

 きっぱり。

「がめつすぎる」

 長谷部と夜田は、無言で朝日をしばき倒した。


   ◆


「次っ! 想実さんだね!」

「はいはーい。この曲みんな知ってるかなー。LOVE・夏の海……あら?」

 流れ始めたのは、想実の選んだ曲ではない。ひよたまコンビも、朝夜コンビもきょとんとしている。

「あ、あの、わたしです……!」

 手を挙げたのは、スナックの向こう側で肩を縮める姫花。なぁんだ、そういや姫花ちゃんは一度も歌ってなかったものね、と想実はマイクを渡そうとして。

(……!?)

 異様な雰囲気に気付く。

 姫花が手を挙げた途端、全員が全員、いけないものを見たかのように表情を強張らせた。ひよりは固まり、たまみは明後日の方向に視線を彷徨わせ、夜田は青ざめた顔でドリンクを飲み始め、朝日は一心不乱に端末を操作し始めた。

 ただならぬ雰囲気……一人長谷部だけが、ワックワクしている。

「姫花、ガンバレー!」

「あ、ありがとう、お兄ちゃん……!」

 想実の呪術師として鍛えた感が言っている。この先、恐ろしいことが起こる。それは推測するなら……!

 姫花が大きく息を吸う。モニターが歌詞を表示する。

 そして。

「なっ……!」

 想実は驚愕した。

 何一つとして音があっていない。リズムもあっていない。

 なのに、長谷部はワックワクしている! マラカスがあるならマラカスを、タンバリンがあるならタンバリンを揺らさんかという勢いで!

(これが……シスコン……!)

 想実は耳を押えることもできず、ただ不協和音にさらされる。姫花が見ている。大人しい彼女のことだ、耳を押えなどしたら傷ついてしまう。それは誰もが同じ。ただ放心して四分十六秒が過ぎるのを待っている。

 「歌」のあれは、常に補正が効いている。姫花の喉から歌うのではなく、彼女を通して力を放出しているからだ。だから、平常で歌うよりも断然に上手く聞こえる。……比較対象が壊滅的なだけで。

 やがて、メロディはフェードアウトしていく。

「ど……どうだったかな?」

「あぁ! ばっちりだ!」

 そう思うのはお前だけだ。

「ご、ごめんなさい、私の歌、あんまり上手じゃなくて……」

 唯一の救いは、姫花に自覚があることだけか。

「みんな、顔が強張ってたよね……ごめんなさい」

「い、いいんだよ姫ちょ!」

「カラオケ来たら一回は歌いたいよな。わかりみ」

「段々うまくなるって言うからね! 大丈夫だよ!」

「そうだ……そうなのだ……」

「え、最初からうまいぞ?」

 そう思うのはお前だけだ。

 空気を読まぬ極上の笑顔に、姫花を除く全員の心が一つになった。

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