ネコネコ・ペタバイト・サイコシス⑥
施設から出ると、晴海さんの車が待っていました。なんと可愛らしい、ピンクの車。想実さんには似合いますが、お兄さんもしくはおじさんである晴海さんにはちょっとミスマッチです。というか、こんな時でも仮面をつけていました。前、見えるんでしょうか?
後部座席にお兄ちゃんとわたし。助手席に想実さん。仲間である緑海さんは、一人で帰ると言って別れました。
「二人とも、ごめんなさいね。危険な目に遭わせてしまったわ」
「そうだぞっ。俺なんて、石膏像にされかけたんだからな」
「像に!?」
お兄ちゃんの像!?
な、なんて恐れ多い!
「それに、な……その……」
わたしを見ると、急に視線を逸らします。気まずそうな様子に、わたしは思い出します。
ネコミミ。
「え、ええと……」
そこに至るまでの思想はさっぱり分からないものの、気にしてないよ、と言おうとしましたが、なんだかその返答も違う気がします。
どうしてネコミミなのか。わたしなりに考え、考えて。
「あの……」
「姫花、」
同時に言いかけて。どちらからともなく譲り。わたしは口を開き。
「今度、ネコミミ買いに行こう!」
「違うっっっっ!!!!」
お兄ちゃんの絶叫が響きました。
◆
なんとか一部を砂に変えられつつ、木島達は怪物の範囲内から抜け出した。ぶち破った壁の手前まで来た時、轢き損なった信者が息も絶え絶えに呟く。
「ゴトウ、なぜここに……お前には何の関係もない場所では……!」
木島は鼻で笑い飛ばした。
「ガキが世話になったからよ。俺んモンは俺んモンだ、落とし前つけに来たぜ」
笑いながら、踵を頭に落とす。信者は一瞬にして動かなくなった。
「さてと。面白ぇもん見たな。なァ」
木島が言うと、背後の腰巾着二人が頷いた。
確実に轢き殺したと思ったが、死んだ奴は一人もいなかった。今踵を落とした奴も、息はしている。
見たこともない武器。そしてそれを自在に扱う息子。
さぞかし、楽しいに違いない。
暴力を嫌っていたあいつのことだ。葛藤を抉り返せば、さぞかし面白い反応をしてくれるだろう。
木島は悪意に満ちた思考を巡らせる。さらに考えを深めるため、自在武器とやら形状を思い返そうとして……。
(……何だ?)
思い返せない。色は? 長さは? 銃だったのか、刃だったのか、いや、そもそもそんなものはあったのか?
あの場所にいた人物は誰だったのか? 本当に長谷部だったのか?
(……何だ、こりゃあ……)
頭痛を覚え、頭を押える。次に痛みが治まった時は、何も思い返せなかった。
今、何を、しようとしていたのか?
「……オイ。酒買いに行くぞ」
「へ? 木島さん、今息子さんに会いに行くとか言ってませんでした?」
部下の答えは、もはや見当外れの戯言にしか思えない。舌打ちをして睨みつけると、部下は大人しく黙り込んだ。
「どうしたんですか、木島さん。……あ、まさか」
もう一人が、思いついたように言った。
「ボケたんすね! 可哀想に、まだ四十代」
林の中に、銃声が鳴り響いた。




