Ⅰ.ruine—業深き平和とそれを守る者、そして邂逅—
血と機械が織りなす特有の鉄臭さが漂う。
火薬の音と着弾音、、、それから断末魔が響き渡る。
、、、そんな戦場にて。
一四、五歳ほどの少年は味方の誰よりも疾く、誰よりも効率的に、敵を―――人間の代わりに地上を闊歩する機械を、破壊していた。
「『オルカ、聞こえるか?』」
『聞こえてる!』
通信機から戦場に似合わない、明るい声が響く。
「『弾薬不足だ。在庫があるならテレポートで送ってくれ。座標は―――通信機の位置から割り出してくれ』」
『了解〜!』
今度は通信機から鼻歌が聞こえてくる。
つくづく向いてない性格だ、と思いつつ補給を待つ。
『テレポートまで…3…2…1【転移】!』
眼の前に大量の弾が生身でテレポートされる。
弾はそのまま自由落下―――せず、空中にとどまり―――一斉に敵を見た。
「―――【神葬】!!」
爆発音が鳴り響き、相手の頭を撃ち抜く。
普段は鉄の匂いしか漂っていない戦場を、火薬の爆ぜた音とその副産物たる煙臭い匂いが支配していた。
▯▮▯▮▯終端▯▮▯▮▯
「アル!おかえり!」
「、、、ただいま」
やっぱり向いてない性格だ、と改めて感じる。
極めて短絡的で、底なしに明るい。
「、、、?どうかした?」
「なんでもない。それより晩飯にしよう。」
「それより?やっぱりなんか失礼なこと考えてたんでしょ」
「、、、」
「どうしてだまってるの?」
、、、妙なところで勘が良い奴だ。
「、、、そんなこと言ってないで飯だ」
「ごまかした、、、」
晩飯は粉末状にした食料を固めたものと、栄養剤を溶かした水———とてもではないが美味い飯と言うには程遠かった。
「、、、うぇぇぇえ」
「とっとと食え。そして寝ろ」
「ふぁい、、、」
固形食糧はサイズの割に食べるのに時間がかかる。
普段からまともな飯を食べていない機殲軍の兵士たちが、『人工甘味料の甘ったるい味と口の中の水分をすべて吸い取る程の乾燥具合が、圧倒的な不味さと食べずらさを作っている』と述べるほどである。
「君がアルか?」
「そうですが、、、上官殿もしかして、、、」
「何か聞いていたのか?」
「このクソ不味い飯をようやく変える気になったんですね」
「、、、君、疲れてるのか?私が作ったこの完璧な栄養バーが不味い筈ないじゃないか———それより、、、」
周囲から一斉に殺気が溢れた。
おそらくみんな同じことを考えていることだろう———こいつが元凶か、と。
「なぜ私が睨まれているんだ?」
「、、、元凶だからじゃないですか?」
「?、、、よくわからんことを言うな、、、兎も角、君には後で指令室に来もらう」
♢♢♢♢♢
「アル•レピオスをお連れしました」
「入りなさい」
部屋の中から落ち着いた女の人の声が聞こえる。
「失礼します。一級兵アル・レピオスであります」
「、、、固くならないでくれ。それからカトレア、外へ」
「了解しました」
上官―――カトレアが立ち去ったことを確認すると、眼の前の女性が口を開く。
「さて、アル君、、、そう固くならないでくれよ、何も減給しようってわけじゃない」
「、、、」
「だから―――まぁ良いか。取り敢えずこれから地下室に向かうから―――歩きながら話そう」
そう言いながら、司令室奥の扉のセキュリティを解除する。
「さぁ行くぞ、アル君」
♢♢♢♢♢
「なぁアル君。君は神様って信じてるかい?」
「なんですか急に、、、」
「言い方が悪かったね、、、君は神様が存在することを信じられるかい?」
その言い方ではまるで神様が実際に居るみたいだ。
「存在するんですか?」
「あぁ。存在しているよ―――君に会いたがっている神様が」
そう言ってこちらを向き、それを背にする。
人知を超えたそれは最早、言い表せないという言葉でしか言い表せなかった。
「紹介しよう―――記憶と叛逆の神様、メモリス様だ!」
こちらの声が聞こえたのか、若しくは単に目覚めただけか―――暴虐を纏ったそれは、こちらを見ると―――泪を流した。
その涙が其の儘宝石になりそうなくらい、美しい泪がこぼれ落ちた。
「アル?アルだぁ―――そっか、もう百年経ったんだ―――」
「何を―――!」
いつの間にか頭に触れられていた。
「『さぁ、アル。世界から忘却された神世の勇者よ―――目醒めなさい』」