ダビデ
あの野郎、まさか待機場所でサボっていたりするじゃないでしょうね。手を出すなとは言ったけど、禍津祓に参加している以上は観客にチームプレーをアピールしなくちゃいけないのに。まったく、GG国出身だからって甘やかしすぎたのかしら。
とここに来てブルーバードからも無線相手からも反応が無いようなので、わたしという生物の説明とわたしにピッタリ嵌る職業の説明を――
「イェーガー一大事です」と、わたしのコードネームを呼ぶ男の声は無線からではなかった。
わたしがどんな生物なのかどんな仕事をしているのかを語る前に、一つ片づけておかねばならない仕事があるようだ。申し訳ないが観客の御方々、少々お待ちになっていただきます。
「ちょっと、あなたなんでここにいるの? 持ち場で待機って言ったじゃない」
「いやいや参ったことに無線が妨害されてしまったものでして、『標的は素晴らしいコンビネーションです』ということをわざわざ報告しに来ました」
「はぁ? 今回の標的は一匹狼でしょ。あなたじゃ仕留められないことは分かりきっているし、何より仕事の邪魔だから索敵待機させたのに」
つい本音が出てしまったが、これは本音や愚痴を言い合える仲という証拠だ。わたしが一方的に言うわけだけど、パワーハラスメントは無いことにしておこう。
「残念ながら今回の標的はただの一匹狼ではなくパックの狼さんのようです。狼ばかりの平等な力関係を持った集団、という情報が得られたのですよ」
あらあらほんとうですか。この使えない新人がわたしのチームにいるのに情報制限かけてくるのか。裏の政府さんも最弱の王様に厳しいですこと。なら、わたしには少し甘くしても罰は当たらないんじゃない。
「となると、わたしたちの存在は向こうにバレている」
「いえいえ、最初に謝ろうとしたのですけど……ぼく、標的に追いかけられてしまって、すぐ下の階まで逆狩りに来ちゃっています。ごめんなさい」
なるほどなるほど、素晴らしい、実に素晴らしいぞこの馬鹿垂れめ。今日のわたしは一方的に撃つ狙撃手なのにどうして接近戦に持っていこうとするの。体術は嫌なの、ほんと疲れるしお腹が減るの。もう嫌、誰かわたしの代わりにダビデの教育をして。
「それでわたしに助けてもらいたくて逃げてきたと」
「逃げていませんよ、ただ標的を削除できなくて追い駆けっこをしただけです。あ、これは戦略的撤退ですよ」
なに自信ありますって感じで言っているのよ、完全に逃げているじゃない。まあ逃げてもいいけど、わたしを道連れにしようとしているあたり男子として失格でしょうよ。
「わたしたちは基本鬼側なんだけど、どうして追われているかお分かりですか? 新人さん」
もしかして相手は《桃太郎》なのでしょうか。鬼を殺すまで追いかける桃太郎はまさに悪鬼を超える百鬼もびっくりな鬼夜叉なのでしょうね。
「そりゃあぼくが怖かったのでしょう。怖くなければ急に集団で襲い掛かってきたりはしませんよ。恐怖、それ即ちヒトのこころが見せる幻想、故に鬼は己の裡に潜むものなり」
「残念不正解、あなたは有名になり過ぎたのです。裏社会と表社会のウェブで<雑魚>という検索ページのトップを飾っておられるのは最弱の王様ことコードネーム・ダビデ、あなたです。ネット上にあなたの写真が無断で添付されていたとしても最弱に人権はないのです」