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千一夜


act.1= <Drama>



01


/*終焉の前触れだったらしく、わたしは最近まで頭痛に悩まされていた。もちろん、これまでの道のりで頭を痛める悩みはあったけれど、悩む必要がないくらいの幸福を与えられていた。


 でも、わたしに生まれたこの感情は悩みしかないのだろう……うん、きっとそうだ。


「〝ぼくとあなたは少し似ている〟」


と、わたしの隣にいる男は言った。


――少しも似ていない。そう思った時、わたしは何気なく雲一つない夜空を見上げていた。


今の今まで必死に生きてきて、わたしの人生は無い物を強請る退屈な争いでしかなかった……なのにどうして、今さら人生やこのセカイ(マリス)を惜しんでしまうのだろう。


「嘘つき」



これは不思議のセカイに迷い込んでしまった者たちの物語。表のセカイが似合わないわたしと裏のセカイが似合わない彼の物語。どう足掻こうと対立する千一夜のものがたりだ。*/



 二十四の乙女(わたし)は大切な物――花柄の栞――と共に夜の腐った風を肌に感じている。という感傷的なのは今日のわたしも昨日のわたしも相変わらずのようだ。何十人も飛び降りたこのビルの屋上でひとり楽しいことを考えているわたしは不謹慎にもほどがある。


わたしはここから飛び降りても死ねない。まだ死にたくもない。死ねない理由てんこ盛り。


(はぁ……切ない)


 わたしが眺めているのは夜なのに昼間のような明るさをしているドブ臭い歓楽街と食べ物の匂いしかしない繁華街。センチメンタルとは真逆の場所を眺めて涙を浮かべるなんぞわたしにはできない、だからこそ泣きたいのだけれど元から涙は枯れている。


 歓楽街はいつも通りのようだ。ネオンの人工的な光はロマンチックでありエロチックなもので、その雰囲気に誘われた豚は餌を求めて自ら餌になりに行く。大人な光で映し出された影は成人の喧騒ばかりだろう。愛のある行為やら愛のない行為やら、カラダを買うやらカラダを売るやらわたしには関係ない話だ。関係ない関わりたくない、そんな感じで関係ないのだけれど、犯罪が逃げ隠れするのなら、このわたしのカラダに持て余している十数キログラムのスナイパーライフルで仕方なく仕留める、という関係性が露呈してしまう。


 それらが意味するのは、わたしの職業は一般的な職業ではないということだ。


 この街を流れる夜の風と同じように甘ったるく腐った臭い、それに加えて火薬とアルコールの臭い。それらの臭いはわたしの職業を説明する上での比喩表現にすぎない。


 と、先ほどから下の階の喧騒がここまで響いてきているが、うん無視するとしよう。女性の悲鳴や銃声や窓ガラスが割れる音はこのビルでよくあることだ。それに今いるこの地域といえば、この国全体から見ても三本指に入る危険な地域、ましてや【禍津祓(まがつのはらえ)】――ブラッド・スポーツ――が開催されている現在は一層騒がしいだろう。裏の政府(ラフ・ラプラス)は子供たちが眠り静まった時間帯に年中無休のブラッド・スポーツだけじゃなく夜のスポーツにも力を入れられるよう政策しているらしいし、なのでわたしは静かに索敵ドローン(ブルーバード)の索敵結果を待つとしよう。


「そちらの状況は……」


 わたしは無線側の索敵結果を知ろうと訊いた。しかし無線からはうんともすんとも反応がない。珍しいなと思いながらも、わたしは無視されたような気分からムッとしてしまう。


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