合わせ鏡
合わせ鏡の通路があるというので
行ってみた
扉を開けて
入った途端に映るのは
自らの姿
扉が閉まると、音が途絶えた
太陽光の遮断された人工空間
前後に続くのは
無数の鏡像
自らの姿が幾重にも重なって
動きに追随する
その奥には次々と開かれる
閉ざされた部屋
永遠に閉じた世界
鏡の奥を覗き込むと
反響さえ吸い込まれて
時間がなくなる
そんな気がした
扉に手をかけて
押してみた
その瞬間、隙間から差してきた
真昼の自然光は
眩しくて、明るくて
生きた人びとの気配がする
にんげんを現世に連れ戻すのは
こうしたものかもしれない