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約束に疲れた私に待っていたのは、いつもコーヒーをくれる人でした  作者: サトウアラレ
第3章

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番外編 ある日のこと 田中さん視点

「せんぱあーい。今日、キッチンカーがすぐそこに来るらしいですよー。スープがメインのキッチンカーみたいですけど、サラダ丼って美味しそうじゃないですかぁ?」


「サラダ丼?」


「最近新しいキッチンカーが色々、来てるんですよ、受付の大橋さんと二課の藤本さんがサラダ丼食べておいしいって言ってましたよー?」


「え。そうなんだ。大橋さんって色々美味しい物知ってるよね」


「そうそう、大橋さんはマラソンと食べ歩きが趣味って言ってましたよー」


「マラソン…。私も走った方がいいのかな」


日吉田君が楠木ちゃんにスマホを見せながら話しかけていた。


「せんぱいはそのままでいいですよー。ほら、見て下さい。コレ、サラダ丼ですよー。お昼は一緒に買いに行きましょうねー」


「うん、そうだね。買ってみようかな」


日吉田君は、自分が集めた情報を写真付きで楠木ちゃんに見せているんでしょうね。我が部署ではおなじみの光景。


日吉田君は応援したくなるほど、一生懸命に楠木ちゃんにアタックしているけど、楠木ちゃんは日吉田君の気持ちを気付いているのか、気付かないふりをしているのか、綺麗にそれをかわしている。


日吉田君もその距離感が分かっているのか、ぐいぐいと攻めつつも、肝心な事は何も言っていない。


だから、楠木ちゃんも()()()()()()()()()のだから、()()()()()()


二人は表面上は仲の良い先輩、後輩として、適度な距離を保っている。


が。


まあ、日吉田君はピヨピヨって言われているけれど、あれは、鳥の中でも猛禽類。


夜目は利いて、視野も広い。距離感も上手く、狙った獲物をジッと見ている。何より、彼はガッツリ肉食だ。楠木ちゃんは…猫かしらね?


二人の様子を眺めながら、課長に業務連絡を終えると、メールが入った。


『田中さん、今いいですか?ちょっと画面上で確認して欲しいのがあるんですけど、PC繋げていいですか』


「いいわよー」


と、返事を送ると、すぐに画面上で繋がり、今扱っている仕事の相談が始まった。


『で、この表紙の確認をですね、先生の方にお願いしたのですけど。色の事で相談があってですね。カラーコード送るんで、田中さん、確認して貰っていいですか?』


「ええ。いいわよ。楠木ちゃんにもお願いしておくわ」


『楠木さんにも別にメール送ったんですけど。構図の確認で。田中さんも一緒に確認して貰っても?』


「ええ。参考資料も添付しておいて」


『了解です』


通話を切るボタンを押してイヤホンを外すと、日吉田君がニコニコしながら席に座っていた。


「ご機嫌ね」


「ええ、先輩と一緒にお昼食べに行くんで」


「ああ、さっき言ってたサラダ丼?後で感想を聞かせて」


「もっちろん」


そう言うと日吉田君は嬉しそうに仕事をして、昼休み、楽しそうに楠木ちゃんを誘ってサラダ丼を買いに行き、午後も楽しそうに仕事をしていた。


日吉田君は本当に楠木ちゃんの事を好きなのかしら?本当に好きなら、報われない恋って思ったりしないのかしら。それとも、チャンスをやっぱり狙っているのかしら。


私は随分前に外した左手の薬指に嵌めていた指輪を思い出して、随分と思い出さなくなった、元夫の事を思い出した。


『結婚してさ、お前、変わったな』


『結婚したのに、あなたは何で変わらないの?』


離婚の決定的な事は相手の心変わりだったけれど、私も相手が浮気してるって気付いても、「やっぱりね」としか思わなかった。愛情ってずっと湧き出るものではない。花みたいに枯れるし、水を与えないと成長もしない。


「田中さんは今日はお弁当ですかー?」


「ええ、姉が作ってくれたの。おにぎりは子供達が作ってくれたのよ。可愛いでしょー?」


そう言っていびつな形のおにぎりを見せると、日吉田君は目をまん丸にして笑った。


「ちっちゃ!わー。小さい手で握ったんですね。もう、この大きさだけで可愛いなー」


「ありがと!」


おにぎりを褒められた私は、やっぱり、私の決断は間違ってなかったのだ、と改めて思った。


『親権はお前でいいから』


そんな事を言ったヤツはこんな可愛いおにぎりを知る事はないのだ。


『慰謝料と養育費、ちゃんと払ってね。すぐに出て行くから引っ越し費用も出して』


『金の事だけだな』


私が淡々とそういうと相手も最後まで私に謝る事もしなかった。不倫相手にも慰謝料を請求して、すぐに私達は離婚した。


「じゃ、行って来ますねー」


るんるんっと音をたてそうな勢いで日吉田君は楠木ちゃんと一緒に、サラダ丼を買いにいった。


私はカップスープを作り、おにぎりとおかずを机の上に並べると、ランチバッグの中に小さな折り紙が入っているのを見つけた。


「あら?」


出してみるとハートが作られた折り紙で、『ママ』って書いてあった。


気を付けながらハート型の折り紙を広げてみると、


『ママ おしごとがんばって! (*´▽`*) だーいすき ♡♡♡』


と、書いてあった。


「くうう!!!よし!!!」


PCの前にその手紙を飾ると、私はおにぎりの写真を撮って、むしゃむしゃと食べ、昼からも集中して仕事をしていると、あっという間に定時になった。


今日は買い物をして帰ろうか、と思っていると、同じく定時上がりになった日吉田君とバスが一緒になった。


「あら、珍しい。バスなの?」


「今日は友人の家に行くんですよー」


「そうなの、隣、座る?」


「ではではー」


そう言ってニコニコ座った日吉田君は人当たりが良いが、距離感は上手い。


「ねえ、日吉田君。日吉田君にとって恋愛感情ってどんなものなの?」


思わず聞いてしまってから、あ、これは踏み込みすぎかしら。しかも突然すぎる話題だわ。とちょっと後悔してしまった。


「え?田中さん、誰か好きな人でも?再婚ですか?」


そう言う風に聞かれてちょっとホッとしながら、「まあね。アドバイスは幾つも欲しいのよ」と言うと、「んー」と言いながら「田中さんに僕からのアドバイスですかー。えー」と言いながらも何か考えてくれていた。


日吉田君のこういう所は本当に優しくて人気のある所でしょうね。


「アドバイスになるかは分からないですけどー。僕が考える恋愛って、我慢とか、信頼とか、期待するみたいな事嫌なんですよねー」


「え?」


「いやいや、なんて言うのかなー」


「付き合ったりすると相手に合わせたり、お互いを知ったり、そして欠点や長所をすり合わせていくんじゃないの?」


「あー。そうでしょーねー。でも、僕は違うんですよー。僕の考える恋って、祈りに近いんですよねー」


「は?祈り?何?宗教?え?日吉田君って…」


「いやいや、なんていうのかなー。恋って叶えるモノじゃないんですよ。好きになった瞬間に完成してるんです。だから、僕は好きになった瞬間に僕の恋は完成なんですよねー」


「へえ…」


「でも、この答えじゃないんですよね?」


「そうね。日吉田君は好きな人と結ばれなくても良いってこと?」


「んー。そうですねー。結ばれたいですよ?そりゃ勿論。でも、一番は相手の幸せを願う気持ちですかね?」


「そう…」


「あ、アドバイスになりました?」


「なったわ。有難う」


日吉田君は満足そうに頷くと、バスを降りて行った。


私もバス停に降りると、子供達がバス停に迎えに来てくれていた。


「ママーーー」


「ママちゃー」


「どうしたの?」


「えへへー、きちゃったー」


「きちゃー」


そう言って抱き着いて来る子供達。


その瞬間、ぎゅーっと心もぎゅーっと温かくなった。こんなに大切な存在が出来るなんて私は知らなかった。


ああ、きっと、日吉田君が言っていたのはこういう事かしらね。


誰かを好きになる自分に気付かせてくれるのが、日吉田君がいう恋なのかしらね。


まあ、厄介な恋心だこと。日吉田君も苦労しそうだわ。


そう思いながら私は子供達二人と手を繋いた。








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