3 ルイ視点
仕事が終わり、ユイさんと一緒に会社を出ると、クソガキこと七海君は手を振っていた。
「ユイねえ、おつかれー」
「うん、七海君、待った?じゃあ、行こうか。ご飯は適当でいいかな?」
「俺、ユイねえのご飯好きー」
ぴたっとユイさんに寄り沿い俺から離れて二人で帰ろうとする七海君。
いやいや、違うんですよ。残念ですね。
「七海君、今日は瑠生さんも一緒だからね」
「は?」
ユイさんには「は?」といったけど、俺の方を見た顔は「あ?」だった。だよね。うん、分かってる。だから、もう、俺は敵の敵は味方という戦法を使う事にしたのよ。味方が多いと言うのは戦法の基本なのよ。数は力。
戦う場所が決まっている以上、下手な作戦よりも、兵数を増やすのが勝利に繋がるのよ。
?と言う顔をしている七海君に向かって声が掛かった。
「楠木ちゃーん。こっちこっち、そこのコンビニで買い物してたの」
「せんぱーい、こっちですー」
「七海君、元々、今日は瑠生さんが家に来る予定だったの。あとね、七海君が行く大学、私の後輩の日吉田の出身校なの瑠生さんが教えてくれて。それなら、七海君も色々聞けるかなって今日の事話したら、皆で一緒にうちでご飯食べようかって話になって。田中さんは料理上手だし、七海君に初心者用の簡単な料理も教えてくれるって」
俺はユイさんが目を丸くしている七海君に説明している間に田中さんにアイコンタクトを送った。
『田中さん、ナイスです』
『いいわよ。それにしても、楠木ちゃん、相変わらずモテるわね』
『本当、困りますよ、しかも相手は親戚のクソガキ。タチが悪い』
『憧れのお姉さんって奴ね。でも、可愛い子ね。鳥飼さんの見た目に日吉田君の感じも入れた……。初々しい感じが良いわね。大学でモテそうよ』
『良くないですよ。小さな芽のうちに摘んでおかないと』
俺が田中さんと無言の会話をしてお互い頷くと、日吉田はユイさんと七海君の間に身体をぐいぐい入れていた。
「どうもー。楠木せんぱいの後輩の日吉田蓮です。大学が一緒って聞いて、アドバイス出来たらって、思ってついてきちゃった。何でも聞いてよー。教授とか、単位の事とかさ。不安があるんじゃない?試験とか提出物の事とかも教えてあげられるよー」
「日吉田凄い!頼もしい!」
ユイさんが褒めると、ピヨピヨ君は嬉しそうに笑ってからまた、七海君を見た。
「ね。だから、一緒に皆でご飯たべようか。あー、せんぱいのうちごはん。嬉しいなー」
「え。え、えーーー……」
「ふふ。七海君、皆、いい人だよ。田中さんは頼りになる先輩だし、日吉田はこう見えて、若手のホープって言われてるんだって。で、瑠生さんは凄い人だし」
俺の時だけちょっと照れるユイさん。もう、可愛い。
ピヨピヨは俺の方をチラリと見ると嫌そうな顔をして頷いた。
コイツも俺が話を振ると、田中さんと情報を共有して、援軍に飛んで来たのだ。
『別にニヤオジを助けに来たわけじゃないですから。先輩に変な虫が付くのを払うだけですから』
『分かってるよ』
『あ、先輩とはいつでも別れてくれていいんですけど。すぐに自分が攫ってくんで。いつでも退場可ですよ?お帰りはあちらです』
『あー、それはないかな』
『ッチ。まあ、自分より年下の男が可愛いって言われたくないんで。先輩に甘えるのは自分枠なんで。全く面白くないんで、一時休戦でいいですよ。可愛い枠は自分だけなんで。ニヤオジは可愛くなくて残念ですね』
『はいはい、了解』
日吉田とぽそぽそと話すと、日吉田は人好きがする顔で七海君に色々話を振りながら、ユイさんの横をキープしつつ、ユイさんちまで歩いた。
「鳥飼さん、大変ねえ。やっと魔女が去って平和になったと思ったのにね」
「ええ、本当ですよ。最近は仕事も平和で、まあ、出張は相変わらずですけど結構定時で上がれるようになったんですよねえ」
「魔女のおかげね。あの件で色々見直しが進んだものね。大変だったけど、他の部署も有難がってるわよ。今迄我慢してた人が色々上に話したみたい。うちの会社も、もっとよくなるといいわよねー」
「まあ、時代もありますよねえ。新人も増えるみたいだし。ゆっくりと仕事が出来るといいんですけどねえ。うちの会社もブラックって言われたくないでしょうし」
「そうねえ。で、今日は私は程々の時間に日吉田ひっぱって帰るけど、鳥飼さんは泊まるの?」
「ええ。姫を守る寝ずの番しないと」
「ふふふ。相手は子供よ?そこまで牙向く必要ある?あんまり束縛すると嫌われるわよ?」
「いや。余裕ぶって、攫われたくないんで。恰好悪くても、後悔したくないですから。それに男に年は関係ないですよ。男の子でも男ですよ。ユイさん、可愛いからなりふり構わずでいかないと大変な事になります。だから田中さんやヒヨコにも出張って貰ったんです」
「あらら。鳥飼さんも必死ね。でも、楠木ちゃんは鳥飼さんしか見ていないけどね」
七海君の背中を睨みつけていた俺は、思わず「え」と言ってしまった。
あ、またからかわれる奴だ、と思ったけれど、田中さんは優しそうに笑って、俺の背中をパンっと叩いた。
「自信持ちなさいよ。日吉田君もいい男だけど、多分、日吉田君は、楠木ちゃんの一途な所が好きなのよ。どんなに周りが楠木ちゃんに言い寄っても楠木ちゃん、ブレないでしょ。だから楠木ちゃん、モテるんだと思うわ。モテるけど、本人は無自覚の奴ね。本人はモテてないって思ってるわよ。だって、本人は鳥飼さんしか見てないから。だからまたモテるんでしょうけど。見る眼のある良い男程、楠木ちゃんみたいな女の子を好きになるでしょうね」
「ああ、俺の彼女が可愛すぎて辛い」
「簡単に靡いて遊べる女や男が、自分がモテるって勘違いするのと逆の奴よ。本当にモテる人って自覚ない人も多いんじゃない?楠木ちゃん、お姉様方からも人気だもの」
「ああ。俺の彼女、最高に可愛い。もう、本当に可愛い」
「鳥飼さん、馬鹿になってるわね。ま、今度、その話はしましょ。惚気話、聞いてあげるわ」
「有難うございます。たっぷり聞いて下さい。今更ですけど、お子さんは大丈夫ですか?」
「姉が面倒見てくれてるから。偶に、お互い、こうやって出かけるのよ。子供同士で仲が良いから寂しがったりもしないしね」
「子供かあ……」
「まだ先の話でしょう?ふふ、鳥飼さん、まずは、同棲ね。あー、私もそんな時代があったわねえ」
「あ、そうです、俺、一回帰ってすぐユイさんちに行くんで。田中さん、ヒヨコとお子ちゃまの相手、宜しくお願いします。しっかり見張ってて下さい」
「はいはい。任せなさい。子守りは、なれたもんよ」
俺は田中さんにお願いをすると、ユイさん達に挨拶をして、自分の家に急いで戻った。
そこで、用意していた荷物を持ってユイさんちに急いで行ったのだけど、俺が言った時にはもう、飯の準備が出来ている所だった。