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2 ルイ視点

ユイさんにべたべたと付きまとう若い男。


なんだコイツ?俺、引き離していいのかしら。ユイさんが嫌そうじゃないから、引き離せないんだけど。


「よしよし」とか「はいはい」とかユイさんは言いながら、ゆっくりと身体を離した。



「もう、七海君、ちょっと離れて」


「はーい、ごめんね、ユイねえ」



ユイさんの頭にコテンと自分の顎を乗せて俺の方を見るこの男。間違いない。こいつは敵だ。



「鳥飼さん、この子は親戚の七海君です。今夜、家に来る予定だったのは七海君だったんです」


「どうも、初めまして、ユイねえがお世話になってます。楠木七海です」


「あ。どうも。可愛い親戚だね、ユイさんとお付き合いさせて頂いている鳥飼瑠生です」


「え?」



あ、コイツ、やっぱりな。一瞬で顔が強張りやがった。



「もう、ルイさんっ。あ、七海君は、ご飯食べたの?」


「あ、あ、まだだけど、ユイねえは?」


「私達、今から食べに行くの」


「ふ、ふーん。そうなんだ」



焦ってるな。


チラっとユイさんは俺の方を見た。


ええ、ええ、俺は余裕のある大人ですから、こんな親戚のガキンチョにも優しくしてあげますよ。だって、楠木って苗字ですから。苗字がユイさんと同じって事は、父方の親戚の可能性が大ってことですよねえ。


ということは。


ユイさんのお父様にこのガキを通じて何か俺の報告がいくかもしれないという事で。これは、こんな、ユイさんに抱き着くようなクソガキ相手でも俺は優しくなりますよ。


大人ですから。ユイさんのお父様のイメージアップの為ですから。



「ユイさん、良かったらこの子も一緒に食べたら?」



君はお子様だろうから一人でご飯は食べれないだろうからねえ。



「いいですか?七海君、一緒に食べる?」



七海と言われたユイさんの親戚のガキはちょっと考える顔して、俺の事を見て、「お前。邪魔なんだけど」という顔をしたけど、気付かないふりして俺がニコニコしてたら、ユイさんと二人がいい、とも言えず、ちょっと考えてから「うん、行く」と答えた。


はっはっは、ざまあみろ。ユイさんと二人でランチなんかさせるか。


ユイさんがさりげなく手を解くと、こっちだよ、と言って、すぐそこのカフェを指さし、俺たちは表面上はニコニコしながら田中さんお勧め新作ランチがあるカフェに入った。


「いらっしゃいませー」



お好きな席にどうぞーっと店員に言われると、こいつ、さっとユイさんをひっぱって、隣に座ると、メニューを開げてユイさんに甘えている。


「ねー。ユイねえ。どれがお勧め?」


「もう、ちょっと待って。瑠生さん、田中さんのお勧めランチはこの、ナポリバーグのデザートセットです。私はこれにしますけど、瑠生さんは?」


「じゃあ、俺もそれで」


水を一口飲むと、自分の相手をしてくれないからか、お子ちゃま七海君は「ユイねえ」とまたユイさんに甘えていた。


「七海くんも一緒のにする?ナポリタンとハンバーグのランチなの。好きだったでしょ?」


「うん、好き。じゃあ、俺もユイねえと同じにしようかな」



マジコイツ、うぜえ。


身体はデカいが、まだ子供だな。ユイねえとユイさんを呼ぶところから、どう見ても社会人じゃない。高校って事はないか。いや、そのへんか?


ガキに嫉妬してもなあ、と思いながらも、握ったグラスを壊しそうだから、そっとゆっくりとテーブルに置くと、ユイさんを見た。ユイさんは店員を呼んでランチセットを三つ頼んでから俺の方を見ながら隣の七海君(クソガキ)を指さした。


「瑠生さん、改めて。この子、楠木七海君。父の弟の子供なんです。だから従弟になりますね。小さい時は家が割と近かったから、幼稚園の時なんて私が面倒みる事が多くって。私がこっちに出て来てからは帰省した時しか会わなかったんですけど。この春から七海君、大学がこっちに決まって。それで今回、私に会いに来てくれたんです」


「ユイねえに会いたくて、こっちに来たんだよ」


「そうなんだ」


ユイさんは、ニコニコと微笑んで、七海君の相手をしている。


あー、ユイさんの中ではこの子は幼稚園のままなのね。なるほど。


七海君の年の離れた親戚の綺麗なお姉さんがユイさんな訳ね。


成程。それはそれは。



「七海君、背、伸びたね。大きくなったよね。えっと、私とは七つは離れてるのかな?七海君が産まれた時は私はもうランドセル背負ってたから。それなのに、瑠生さんと同じくらい大きくなるなんて。なんだか年を感じるよ」


しみじみとユイさんが七海君のクソガキ時代を振り返る。


「ユイねえは小さいままでも可愛いよ。俺、おっきくなったよね」


「うん、何センチになったの?瑠生さんとさっき一緒くらいって思ったけど」


「180」


「わあ、大きくなったねえ」


ユイさん、言い方は親戚のおばちゃんだけど、相手はそうは思っていない様ですよ。


「でも、瑠生さんの方がまだまだ大きいですね。同じ位かとおもったけれど、瑠生さん185でしたよね?」


「あ、ユイさん俺の身長知ってるの?」


「ええ、この間教えてくれたでしょう?ほら、あの、家具の話、した時に……」


家具と言ったけど、ユイさんのベッドが小さいから、俺、はみ出ちゃうかもって言った話か。ベッド、買い直す?って言った事を思い出して、恥ずかしそうに笑うユイさんはちょっと耳が赤くて本当可愛い。


「ユイねえ。俺、まだ伸びるかもよ。親父もでかいから186位になるって」


「っふ」


俺が笑うと、七海君はキッと俺を睨みつけた。


お子ちゃまに身長で勝負されてもねえ。


そんな事を話しているとランチセットが運ばれてきて、俺達はユイさんを中心に、表面上は和やかに食事を終えた。


会社迄戻ると、七海君が「じゃあ、ユイねえ、また後で」と言ってユイさんに抱き着いて手を振って歩いて駅の方に向かっていった。


「もう、七海君は変わらないんですよ。二歳くらいからずーっとあんな感じで。私がこっちに出て来た時にちょっと話さなくなった期間はあるんですけど、でも、今でもあれですからね。大学生活、大丈夫かな?」


いや、ユイさん、あいつも日吉田(ピヨピヨ)と同じ、ユイさん限定甘えたがり男だと思いますよ。きっと、すんごい猫を被っていますよ。


俺はエレベーターをユイさんの話を聞きながら待った。


「部屋は大学の近くを借りたからここより離れているんですけど、入居日を間違えて明日にしちゃったらしいんです。だから今日はうちに泊まる事になって。それで今夜、瑠生さんがいたら、ほら、狭くて寝れないでしょう?」


最後、恥ずかしそうに言うユイさん。可愛い。うん、いい。けど、問題はそこじゃない。


「うん?ユイさん、あの七海君、今日ユイさんちに泊まるの?」


「え?ええ、母から電話があって。今日だけだから泊めてあげてって。日にちの間違いに気づいたのが新幹線乗るギリギリで。ホテルとかはどこも埋まってて、空いてても凄く高いらしくて」


いや、漫喫行け。


一泊位、カラオケでもなんでもいいだろ。


「で、叔父さんは、親戚と言っても女性の部屋には不味いんじゃ?って言って、一日くらい映画でも見てろとか、まあ、男だし、公園でもどうにでもなるからほっとけ、って言ってたみたいだけど。そんなの危ないし」


叔父さん、あんたは息子がユイさん狙ってるの感じたんだね。それと、俺も放って置いていいと思います。俺も叔父さんに一票入れます。危ないのはユイさんです。


「やっぱり、慣れない土地で一人は可哀そうってうちの母が私に連絡してきたの」


ああ、ユイさんの母はお人好しなんだ。


「お父さんは?」


ユイさんのお父さんの反応はどうなのよ。


「父?今、長期出張で丁度いないの。母も連絡してないんじゃないかな?」


あ、成程ね。ユイさんのお父さんが防波堤なのね。それが今は無いと。



「分かった。ユイさん、俺、荷物もあるし、今日はユイさんちにやっぱり行ってもいい?七海君のお父さんも心配してるなら、俺も一緒の方がいいんじゃない?皆でご飯食べよう」


「え。でも、狭いですよ?お客さん用の布団は両親が来た時様に一応二人分あるんで、大丈夫ですけど。でも、七海君に瑠生さんと一緒の所見られるの、なんだか恥ずかしいかな」


「俺は一緒にいたいかな」


「私だって瑠生さんと一緒にいたいって思ってたから。恥ずかしいけど、嬉しいです」


そこまで話してエレベーターに乗ると、ユイさんはトンっとおれの肩に頭をぶつけた。



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