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約束に疲れた私に待っていたのは、いつもコーヒーをくれる人でした  作者: サトウアラレ
第2章

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11 その後

その後、有吉さんは遠くの同系列の工場に異動になった。


営業の花形だった人の異動としては左遷でしかない。地方の支店でもなく、同系列の工場の事務として異動になったのだ。


あれだけの騒ぎを起こしたのだ。暫くして彼女が今どうしているかは色んな場所で聞くことになった。


『工場先の若い男の子に手を出して振られたらしい』

『事務仕事が出来ないで工場事務の経理から苦情が来ている』

『取引先の年上と付き合った』

『結婚をすると言って退職願が出たんだって』


と、遠い場所にいる有吉さんの噂は本社まで届いて来ていた。


田中さんは、有吉さんに感心していた。


「あの魔女、凄いわよ。絶対へこたれないもの。結局、世の中ってこんな物なのよね。真面目で頑張って良い子でも、こんな事あったら普通引き籠ったりするでしょ?でも、あんだけ騒いで、周りに迷惑かけてるのに、結局何も堪えてないもの。あの図太さは見習いたいわ」


「えー。でも、僕は悩んで、傷つく人がいいです。傷つけて、何も感じない人なんて怖くないですか?」


「ま、そうね。私も、ああなりたいとは思わないわ。嫌な目に合っても、嫌な目に合わせたいとは思わないしね。日吉田君も楠木ちゃんも良い子で良かったわ」


「僕達、良い子ですもんねー、せんぱい」


「良い子って年じゃあないと思うけど……。でも、そうですね。私も傷つけるような人にはなりたくないです」


「そうそう、それでいいのよ。人間、真っ当に生きましょ。仕返しなんてしない方が良いのよ。ぜええええったい、神様は見てるから。ぜえええったい、悪い事したら自分に返ってくるから。悪い事した奴は勝手に自滅するのよ。バツイチ女の助言よ」


「うわー。おもたーい」



田中さんの言葉を聞いて、私もコクンと頷いた。


そして。


瑠生さんとはすぐに話を沢山しようと思ったが、一緒に帰ったあの日から、ゆっくりと時間を取れたのは結局事件の一ヵ月も後の事だった。




「お邪魔します」


「いらっしゃい、瑠生さん」


「ユイさん、これ、お土産」


今日は瑠生さんが久しぶりに私の部屋にやって来た。一緒に昼ご飯食べてのんびりし、夕飯も一緒に取る予定だ。瑠生さんの誕生日デートは結局出来てないのだが、瑠生さんは何処かに行くではなく、私の部屋でのんびりしたいという希望だったので、話をしながらまったりとする事になった。


瑠生さんから差し出された人気の洋菓子店の袋と、飲み物が入った袋を受け取ると冷蔵庫に入れて、私はお茶の準備を始めた。


コトっと、二つ、マグカップを棚から出した。このおそろいのマグカップを使うのも久しぶりだ。


コーヒーにしようかココアにしようかと悩んでいると、後ろから瑠生さんが抱きしめてきた。



「ユイさん」



ぎゅっと私を抱きしめてから私の肩に自分の顎を乗せた。


「ユイさん、俺、本当、ユイさん不足だった」


「瑠生さん」


マグカップを両手に持った私はそのまま顔を少し後ろに向けた。


頬にちゅっとキスをされると、もう一度ぎゅーっと強く抱きしめられた。


「本当、俺、結構、ユイさんと離れてるの辛かったのよ。距離とかじゃなくて、話が出来ないのが。勿論出張も多かったからそれも辛かったんだけど。もう、不安で、どうにかなりそうだった」


「私も。ただ、どう話したらいいか。何を聞けばいいか。喧嘩になったらどうしようとか、余計な事ばかり考えていました」


「俺、もう、振られるのかしらって思ってた。それでもユイさんに会いたかった。少しでもユイさんに忘れられたらって思ったらきつかったのよ。俺、ヘタレだから」


「私の方が、弱虫でしたよ。でも」


私はそう言うと、ゆっくりと身体の向きを変えてマグカップを棚に戻すと瑠生さんの頬に手を添えた。


「私は瑠生さんを誰かに盗られるのも、瑠生さんが誰かを見るのも嫌だと思ったんです。私は瑠生さんが好きだし、とても大切にしたい。この気持ちも大事にしたいって思ったんです」


ゆっくりと背伸びをして、ちゅっと瑠生さんにキスをすると、ぽーっとした顔の瑠生さんと至近距離で目が合った。


「絶対に。放したくなかった。だから私は負けたくないって思ったんです。瑠生さんの事を好きだから」


そう言って、もう一度キスをすると、今度は瑠生さんからもぎゅっと強く抱きしめられて長く深いキスをした。


「っは。ごめん、ユイさん、俺、止まらなくなりそう。がっつくと嫌われるって思ってたのに」


唇を離して息を吸い込みながら瑠生さんがそう言った。


「がっついてもがっつかなくても私は瑠生さんが好きです。でも今は話がしたいので」



私がそう言って、マグカップを指さすと、瑠生さんも、ハッとした顔になった。



「そうだね。話をしようって言ってたのに。ごめん」


「いえ、急にキスをしたのは私です。話が終わったら私からまた、してもいいですか?」



私がそう言ってするっと瑠生さんの頬を撫でてからコーヒーの缶を見ると、瑠生さんは顔を抑えて蹲ってしまった。



「もう、ユイさん、俺をどうしたいの?俺、何回もユイさん好きになりそうなんだけど」


「私は毎日瑠生さんを好きになってますよ」


お湯を沸かそうとポットのスイッチを入れながらそう答えると、瑠生さんは片手を私の目の前に大きく広げて「ストップ」と言って私の口を押えてしまった。


「もう、それ以上今は、ダメ。もう、本当に、我慢できなくなるから。あー。ユイさん、格好良いって言われない?可愛いのに格好良いって何なの?」


喋っちゃダメ、とされているのに、質問するのはどうだろうか?と首を傾げて黙っていると、お湯が沸いたので、コーヒーを淹れた。


その間に瑠生さんが買ってきたケーキを出して、机の上にコーヒーとケーキを準備していた。


真面目な話をするのだろうけど、重たい話はしたくない。


ケーキを食べながら私は明るく楽しく話したい。二人のこれからの事を話すのだけど。


「そっか、これからの事だ」


話ながら、私は成程、と思った。


「うん?ユイさんどうしたの?」



瑠生さんの携帯が壊れた話や、瑠生さんの部署の事などを聞き、私の出張や、有吉さんと二人でいた所を見た事等を話していたが、ストンと私は何か落ちた。



田中さんに以前言われた言葉をふっと思い出したのだ。



『時間は関係ないわよ。長く付き合っても駄目になる時はなるし。短い時間でも、この人と一緒にいたいって思う時はあるわよ。長さの時間よりも、今だ!っていうタイミングじゃない?大体、好きって事が感情でしょ?感情論で動いていいわよ』


(付き合った時間の長さよりもタイミング)


(好きって感情で時には動いていい)


そうか。



「いえ。なんだか、ストンと胸に落ちた気がして」


「うん?何が?え?なんか俺、変な事言っちゃった?」


「瑠生さん、私と一緒に住みませんか?」


「は?え?ユイさんと俺?あ?え?」


「ええ。私は少し前に引っ越したばかりですので、また引っ越しとなると、一年半位になりますが、瑠生さん、部屋の更新はいつですか?」


「え?あ?本当に?え?俺、この辺の近くの部屋探してたのよ。二ヵ月後に更新だからユイさんの近くに引っ越そうかなって。俺、会社の近くが嫌でちょっと離れた所でしょ」


「そうですか。じゃあ、狭くていいならここに引っ越してきませんか?ルイさん、出張も多いから、部屋代ももったいなくないですか?ほら、サービスルームがあるので、そこ、瑠生さんの荷物、入れられませんか?二人暮らしには狭いですけど。それでもいいなら」


「え?本当に?いいの?え?俺、狭い方がいい。部屋に帰ってきたらずっとユイさんと一緒って事?あ、でも、ユイさん鬱陶しくなんない?」


「その時は言います」


「あ、言われちゃうの」



少しシュンとした瑠生さんが可愛くて、私はふふっと笑って瑠生さんの頭を撫でた。



「それで、私の更新の時に少し広い所に引っ越しはどうですか?それまでに私もお金を貯めますから。瑠生さんの家具とかで置いておきたい物は置いて、古い私の家具を処分してもいいですし」


「え。俺、嬉しいけど。ユイさん、俺、本気にしちゃうよ?引っ越してきていいの?」


ルイさんはポカンとした顔をして私を見ている。


「冗談で言いません。本気にして下さい。この部屋シェアオッケーの部屋だったので、連絡すれば何も問題ないと思いますし」


「あ、うん、はい、では、あの、宜しくお願い出来ますか?」


「はい。瑠生さん、一緒に暮らしましょう。幸せにします」



私がそう言って瑠生さんの手を握ると、ボボボボっと音が出そうなくらい瑠生さんの顔が赤くなった。



「まって、ちょっと待って。本当、ユイさん、なんでそんなに素敵なの。俺、何回恋に落ちたらいいのかしら」



私は瑠生さんの口にちゅっとキスをした。



「何回でも、好きになって下さい。私もずっと、瑠生さんが好きです」


「~~~~!!!!」


「もう、話は終わりです」


私がそう言うと、瑠生さんの目がギラっとなったのだけれど、返事の代わりに来たキスはとても優しかった。



二章、これにて完結です。


ユイ、瑠生にお付き合い下さった皆様有難うございました。楽しんで頂けたら嬉しいです。


番外編の予定はありますが、三章となるかは未定です。では、またどこかで。


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