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「はーい。おつかれー。楠木(くすのき)さん、大変だったねー」


「あ、鳥飼(とりかい)さん、どうも、頂きます。まあ、大変でしたけど、皆が手伝ってくれましたから。鳥飼さんも有難うございました」


「もう、鳥飼先輩!邪魔しないで下さい!迷惑をおかけしましたが・・・」


「ちゃんと分かってるならいいでしょう。後輩君はいらない?ちゃんと皆には改めて、こうやってお茶持って、お礼にいきなよ?」


「言葉だけじゃ足りないのよ」と、鳥飼さんは日吉田の頭の上のコーヒーをひょいっと自分のほうに持ち直して、日吉田の目の前で振った。背が高い鳥飼さんは日吉田の頭をくしゃくしゃと撫でると、「先輩に迷惑をかけるんじゃないよ。ホッとするのはいいけどね、皆に早めに感謝を伝えなさい」と言ってコーヒーを改めて渡した。



「分かりました。すみません、頂きます」


「ほい。お飲み。ピヨ田君はお子様だからカフェオレにしたからね」


「ピヨ田。そうだね。日吉田はまだまだ、ヒヨコだね。私がブラックなのは大人だからですか?」


「そうそう。楠木さんは、大人だねえ。それにブラックが好きでしょう?」


「はい」


私が笑いながらコーヒーを飲むと、日吉田はむっと口を尖らせたが、もう、その顔さえも、ヒヨコにしか見えなくて、私は「ふ」と笑ってしまった。


「確かにまだまだですけど・・・。でも、すぐに追いつきますから。コーヒーご馳走様でした!!楠木先輩!今度、お茶しに行きましょうね!僕、奢りますから!」


そう言うと、手をぶんぶん振って、自分のデスクから携帯を持つと出て行った。


きっと、日吉田は鳥飼さんに言われた通りに、迷惑を掛けた人達のお礼にお茶を配りにいくのだろう。



「騒がしいねえ。ピヨピヨピヨって。いまだに楠木さんは後ろ、くっつかれてんの?」


「ええ。まあ、でも、悪い子じゃないですし。素直に頑張ってますからね。今回も、大事にならなくてよかったです。結局、日吉田だけのミスじゃないんですよ。悪い事が重なっちゃって。日吉田のフォローする予定の長谷川さんのところ、お子さんが嘔吐下痢で休みになって。どうも長谷川さんも移っちゃったみたいで。課長がしっかりチェックする予定だったのに、急な出張で書類をもう、まわして出て行っちゃってたんですよ。日吉田自身が見直して、気付いて、すぐに私に飛んで来たのもよかったし。日吉田が自分で見つけたから、こうやって早く気付けてどうにかなりましたしね。泣きつける場所を知ってるのは彼の長所だと思います」


「泣いて甘えられる人を知っているのが長所?楠木さんはピヨ君に甘いんじゃない?後輩には優しいねえ。先輩には優しくしてくれないの?」


「私は甘くないと思いますけど。それに先輩に優しくですか?鳥飼さんに?」


「そ。よしよーしって。疲れた先輩は、癒しが必要なのよ」


「撫でていいよ?」と言って、私のほうにしゃがんで頭を差し出して、「さーどうぞ?」と私を見上げるが、この人は飄々としていて冗談と本気が分からない。


「鳥飼さん、髪の毛真っ黒ですね」


鳥飼さんは「はは」と笑って姿勢を正して、自分で髪の毛を触った。


「そう?まあ、楠木さんよりは黒いかもね。なーに?黒髪好き?」


仕事が凄く出来るのに、いつもこの人の周りは時間がゆっくり流れているような感じがする。


「いえ。好きでも嫌いでも。あ、でも。鳥飼さん、癒しを求めているんですか?会社の近くに猫カフェ出来るんですよ。撫でに行ってはどうですか?田中さんが猫カフェは癒されるって言ってましたよ」


「俺は、撫でられたいのよ。撫でたいんじゃないのよ。まあ、撫でてもいいか。猫カフェ何処にできんの?」


「えー・・・っと、確か・・・。来週の土曜日にフラワーショップの向かいの空き店舗に入るそうですよ」


「ふーん。猫ちゃんかあ」


そう言うと、私の書類を眺めて、「こっちは俺がやってあげようか。うちの部署から回ってきた仕事でしょ?今日、ピヨ君のせいで仕事進まなかったんじゃない?」と言って、書類を半分引き抜いていった。


「いいんですか?」


「うん。俺、暇だから」


私が「有難うございます」というと、「うん、俺、優しいのよ。で、お礼に一つ教えて」と言った。


「ピヨピヨとお茶するの?」


「え?まさか。彼がいるのに、仕事以外で男とは会いませんよ」


「あーそー。今日はこの後、その彼とデート?」


「はい。あ、二つ聞きましたね」


「ふーん。いってらっしゃーい」


ひらひらと手を振って、鳥飼さんは去っていった。



なんだかんだ言って、鳥飼さんも、日吉田の事を心配していて様子を見ていたんだと思う。だから、解決したのも分かってコーヒーの差し入れをくれたのだろう。フォローのフォローまでしてるんだから、鳥飼さんの方が優しい先輩だと思うのだが。


そう思いながら、急いで、仕事を片付け、鳥飼さんが半分仕事を引き受けてくれたおかげで、定時に上がる事ができた。



「じゃ、お疲れ様です」

「はーい」

「お疲れー」



私はデスクに鍵を掛けると、座っている人達に声を掛け、退社した。


時間ピッタリに待ち合わせ場所に行っても、恋人の(とおる)の姿はなかった。


透はいつからか、遅れてくるのが当たり前になった。今回も、十分は遅れてくるのだろうな、と思いながら、向かいのコーヒーショップに入り、疲れているから甘い物をとココアを注文して窓際に座った。


透にメッセージを送り、ココアを飲んだが、いくら待っても来なかった。もう一度連絡をしても、既読にもならない。


電話を掛けてみたが繋がらない。今日は仕事休みのはずなのに。


「もう、いいや」


待ち疲れてコーヒーショップを出て、帰ろうとすると、目の前を知らない女の子を連れて歩いている透の姿があった。




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