6 瑠生視点
夜、仮眠室で携帯を見るとユイさんからのメッセージが届いていた。
最近はすれ違いばかりでなんだかギクシャクしている。早く仕事が元通りになれば、前から予定している俺の誕生日デートや、それ以外にもユイさんの家でまったりとか色々したい事は沢山あるのに。
もう、俺の頭の中でユイさんで一杯なのよ。いや、俺いい年なのは分かってるけど、こう、ね。可愛い彼女とまったり一緒にいたいと思うのよ。
のんびりよりもユイさん、何処か行きたい所とかあるのかな。美術館が好きって田中さんが言ってたな。早くピヨピヨの上書きもしないと。
でも、最初の美術館はピヨピヨ意外にしようかな。
何処がいいかね、と考えるけれど、ユイさん、なんだかよそよそしいのよ。
ぽわっとした頭でそんな事を考えながらユイさんのメッセージを開いた瞬間に、メッセージの内容に血の気が引いた。
「は?」
『ちょっと考えたい事があるので、暫く連絡はしません。お仕事無理しないで下さい』
ユイさんからのメッセージ。
ナニコレ。なんで?俺、何かした?最近会えてないから?暫く前からユイさんがそっけないとは思ってたけど、俺、飽きられた?
サーっと血の気が引いていった。
やばい、やばいやばい。俺、ユイさんのこの言葉に思い当たる節がない。気付いてないって言うのがかなりやばい。あ、終わった?
やっと彼女になってくれたのに。
俺、ユイさんから捨てられるのか?忙しくて、中々ユイさんの部署にも行けない。いつも俺の周りには誰かいて、勝手に行動するのは難しい。それなのに会社でたまに見るユイさんの隣には大体いつもピヨピヨがいる。
何で田中さんの席に座ってユイさんと話してんだよ。と思ってたら、この間は勝手にユイさんの髪触ってるの見て、俺と目が合ってふっとピヨピヨが笑ったり。
一つ一つがあいつは喧嘩売ってんだよな。
コンビニのイケメンだってそうだ。本当に、イケメンだったな。
少し前にユイさんがコンビ二の店員に笑いかけてるのを見かけた。イケメン店員は嬉しそうに耳を赤くしていた。あれ、絶対まだユイさんの事、好きだろ。
なんでユイさん笑いかけてるわけ?自分の事好きな相手だよ?振っておいてさ、期待もたせちゃだめでしょ。イケメンが耳赤くして照れてたじゃん。
俺なんて、ユイさんとデートしたいのに、課長が取引先の人の誕生日プレゼントを買って来て欲しいなんてお使いを言うから、やたらべたべたする有吉さんと出かける羽目になったのよ。
取引先の人が好きだとかいうショップがショッピングモールにあるとかで、わざわざ休み時間に遠出よ?もう少し早く課長が言えばさ、ネットでもなんでも注文出来たんじゃない?本当、この人仕事を増やすの好きなんだよね。自分でさっさと行ってくればいいのにさ。
ああ、この間ユイさんと出かけた時は楽しかったな、あの店行ったな、と思いながら用件を終わらせて帰社しようと思っていた。課長から頼まれたプレゼントのお使いも無事に終わり、店を出ると、有吉さんが店員からプレゼントを受け取ったままだったので、俺が持ったけど、あの人やたら触ろうとするんだよね。
エロオヤジと考え方が似てるんだろうなあ。前世は絶対エロオヤジだな。ピヨピヨなんかが新人の女の子で、エロオヤジの有吉さん相手だったら「は?マジ無理。いやー。セクハラですぅ」とかはっきりいいそうだな。そう考えていると少し笑ってしまった。
「ルイ?どうしたの?何か面白い物でもあった?」
なんて聞くから、貴方ですよ、とは言えず。
「いえ。あの、名前で呼ぶの止めてくれませんかねえ。俺、苗字呼びがいいんですよ」
「あら。ごめんなさい。海外留学してから、つい、ね?気にしないで?」
「はあ。いや、気にして欲しいんですけどね」
そんな意味不明な会話しか出来ないのよ。
俺、課長のせいで増えた仕事も頑張ってたのよ。その後も出張は多いし、携帯は壊れるし、ユイさんはそっけないし。ああ、もう、俺、厄年かしら。
はあ、ユイさん不足で枯れそうよ。
それなのに。
なんで?
俺、なんかした?いや、忙しくて何も出来てないから?俺、捨てられちゃうの?ああ、全部が駄目って事か?
マジ?
うわあ、と頭を抱えていると、深夜というのに眠気はやってこず、俺は寝不足で次の日を迎えた。
「鳥飼さん、顔やばいっすよ」
「うん、おはよう。分かってるのよ。俺、疲れてるのよ。やばいの。本当に、やばいのよ」
後輩に返事しながら、朝一番にユイさんに連絡を取ろうか、いやいや余計嫌われる?と、何度も携帯を見てしまった。俺から連絡していいのか?駄目なの?それで本当に嫌われたどうしよう。でも、連絡しないでも嫌われてるなら、した方がいいってこと?
ああ、もう俺、どうしよう。
頭を抱えて携帯を睨みつけていると、デスクに有吉さんがやって来た。
「ルイ。おはよ」
「あ、おはようございます。有吉さん。毎度言ってますが、苗字呼びでお願いします」
「もうー。固いんだからー。なんだか疲れてない?彼女と何かあったの?」
「は?」
「あ、図星?ふふ、相談にのってあげましょうか?」
テカテカ光る唇をにっこりとさせて、有吉さんは俺の肩に手を置いた。
俺は身体をずらして、手をのけると首を振った。
「いや、相談する事なんて別にないですよ」
「えー、そうなの?彼女、何か悩んでるみたいだったのに?私、ルイの彼女と話したの」
「は?」
「うふふ。聞きたい?なら、今度、二人っきりでデートしてくれる?」
また俺の腕に手を置いて、有吉さんは胸をくっつけようとしてきた。
「あの、そういうの間に合ってるんで。あ、課長、おはようございます。昨日の書類、出来てますよ」
俺は立ち上がって課長のデスクに行くと、課長が「皆、おはよー」と言いながらやって来た。
なんだよ、ユイさんと話したって?何を?
気になるが、ここで教えてって言ったら何を要求されるか分かったもんじゃない。でも、気になる。どうしたら、いいんだ。
ああああ。
課長のPCに自分が送った書類を出し、課長に説明をしながらも頭の中はぐちゃぐちゃだった。
有吉さんが俺を見ているのは気付いたが、目を合わせない様にして、無視をした。噂で、色々聞いていたが、自分は何もされていないし、仕事とプライベートは別物。噂を信じてはいけないとしていたのが悪かったのか。
課長との話が終わると有吉さんは誰かに呼ばれて課を出て行った。
俺はホッとして、デスクでPC画面を確認すると、田中さんから「業務連絡、至急」のメールが来ていた。
「なんだ?」
メールを開くと田中さんからの仕事の確認メールだったが、取り急ぎ必要もない物だった。そして最後に、追伸とあって、
『貴方の部署の人が私の部署の人に嫌がらせをしています。被害を受けた者には問題が解決するまでは一人でいないように、アドバイスをしました。そして、会社では常に一人にしないように、私達で守ります。御心配は無用です』
とあった。
「は?」
もう、俺、何度目の「は?」よ。勘弁してよ。
俺を呼び出すんじゃなくて、業務にかこつけて連絡するって事はそれほど急ぎってことなんでしょ?で、ユイさんが俺の部署の人に嫌がらせを受けたと。
今迄こんな事はなかった。付き合いだしてからも俺の牽制を皆が笑ってたし、俺の部署で嫌がらせをする人間は思い浮かばない。
「あ」
ひょっとしたらうちの課長がセクハラまがいの事は言うか?いや、でもそれとは違う。一人にするのが危険だと。
俺は有吉さんを思い浮かべた。さっき言った事ってコレ?話って嫌がらせの事?は?俺の彼女に何してくれてんの?
疑うのは良くはない。だけど、もしかして彼女が?俺に言い寄って来るのは彼女の挨拶みたいなもんだと思ってたし、俺は、はっきりと「彼女います。彼女が好きです。他は無し」と言っている。そう言ってるのに、彼女がいる男にわざわざ言い寄る神経の奴いる?でも、ひょっとして俺が相手にしないからって、ユイさんに嫌がらせをした?
俺は田中さんにすぐに業務連絡をした。
『先程の件。承りました。追伸の件、詳しく知りたいのでお時間を頂きたいのですが。出来れば早急にお願い致します』
するとすぐにメッセージが送られてきた。
『昼休みなら時間が取れます。コンビニでご飯を買って屋上で話しましょう。他言無用』
「はああああ」
俺は急いでメッセージを消すと、田中さんの連絡先を知らない事に気付いた。
ああ、これは田中さんに連絡先を聞いとかなきゃだな。
もう、本当に、なんなのよ。
もし、本当に嫌がらせなんかしてたら俺、どうしよう。爆発しちゃうな。
昼休み迄俺は急いで仕事を終わらせていき、昼休みになると自販機で缶コーヒーを三つ買って、急いで屋上へと向かった