第5話 コーダー、英雄になる?
「コーダ、凄すぎ!」
俺が魔王城と魔族を非表示にしてから約七日。店を開く前から俺は英雄として担ぎ上げられていた。俺はただ、あのあたりのマップ情報が書かれたHTMLを<!-- -->で囲んだだけだ。ついでに、魔物に関わるCSS……つまりはスタイルの部分を根こそぎ一旦非表示したくらいで、担ぎ上げられるほどの事はしていない。どれもウェブ初学者が最初に覚える程度のことだ。
「やめてくれ、俺は何もしていない。ただ、見えないようにしただけだ」
「それでも、凄いよ! 世界中から魔物が消えて驚いたもん。ホント、凄いよ~!」
そう言って抱き付いて来たのは、俺に店舗の手配をすると約束してくれたあのパーティーメンバーの中の一人、弓使いの娘だった。
ちょっとロリ属性があるからか、すぐに抱き付いてくる。抱き付いてくれるのは良いが、その度に胸を押し付けてくるのに戸惑う。いや、わずかに感じる胸の感触も捨てたもんじゃないし神経はそこに集中する。が、俺は巨乳が好きなんだ。
「悪い、離れてくれないか? みんなが見てるから……その、誤解されても困るだろ?」
「え~!? ……アタシは全然、いいのに……」
最後の方は良く聞き取れなかったが、渋々と俺の腕から弓使いが離れる。
そのやり取りを見ていた白魔術師――俺が最初に着地した巨乳魔女っ娘――が、俺に突っかかるように書類を手渡してきた。
「コーダ、こちらが店舗物件の契約書です。それから、王都からコーダに召集がかかっています。我々と一緒にご同行願えますか?」
さっき弓使いが俺に胸を押し当てていた場所に、バシっと音がするよう書類を叩きつけて、ふくれっ面をする彼女に俺は困惑する。
「え? なんで? 俺、なんかした?」
すると、魔女っ娘の頬が見る見る赤く染まり、こちらをちらりと見ると眉を下げてもじもじしはじめる。
「だって、コーダは私とその……身体を重ねた仲ですよね? このまま王都に行って英雄になってしまったら、もう手が届かない人になると思うと、私……私……」
身体を重ねた……? 何か語弊がないか? 俺はただこの子の上に落ちて押し倒す格好になるラッキースケベが発動しただけで、何もしてないぞ?
「そ! そんなこと言ったらウチも! その、あんなとこ見られて……」
女戦士が赤らめた顔を両手で覆い、イヤイヤと頭を振っている。違う、あれは事故だ。ファンタジー世界で野ションが存在するなんて思ってなかったんだよ。
「アタシだって、あんな辱めを受けたらこの人に貰ってもらうしか……」
いやいや、弓使いに至っては身体に触れてすらいないだろ!? 誤解を生む、ヤメロ!!!
「コーダ、お前は短期間でうちのパーティーメンバーに何を……」
俺に詰め寄る槍使いを止めたのは、リーダーの剣士だった。
「待て、コーダは今や英雄だ。俺たちを消す事も簡単だろう。元より適う相手ではない。それに英雄として王から称号を賜れば、一夫多妻も認められる」
いや、待て待て。そんな爽やかな顔でサムズアップされても、俺は一夫多妻にも英雄の称号にも興味なんてないぞ?
「面倒くさそうだから、一旦魔王城元に戻すわ」
「「「「「まて! それはダメ!」」」」」
結局、俺は諭され魔王城を復活させるのを保留した。
その後、あれよあれよという間に英雄として担ぎ上げられ、称号を享受したが、その後すぐに存在を消して山奥に引きこもった。
理由は、目立つのが嫌だった事と、スキルが面倒になったからだ。特に、ラッキースケベなんて何度も遭えばつまらない。しかも百発百中で発動するから、むしろ面倒でしかないんだよ。
俺は誰も寄り付かないからと、魔王城があった場所に少し大きめの家を立てた。
打ち消し書き換え打ち消しで、色々ごまかして複雑なコードになったその場所は、いつの間にか魔王の住処と呼ばれるようになった。
しかし無双できると言うのは、案外肩身が狭いし面白くない。魔王討伐の褒賞のおかげで金だけはあるし、いつか自分好みの女性と一緒に暮らせたらいいよな。それまで俺は、気付かれない程度にこの世界を少しずつ自分好みに書き換えていこうと考えた。
俺はいつでもこの世界を破壊できる。ある意味、英雄と言うより魔王だ。
何にせよ、手に職は付けておけよ? 俺みたいに異世界で無双できるかもしれないからな。
END
このお話で最終回ですが、他のサイトでは書いていない番外編エピソードを追記しています。
あと1話だけお付き合いください。




