第2話 コーダー、獲得。
「ぱんぱかぱーん! 当選、おめでとうございますぅぅ!」
そんなに長く意識を閉じていた覚えはないが、甲高い女の声に飛び起きる。不快なレベルで脳みそに響くその声の主は、金髪碧眼の美少女だ。白い膝上のワンピースをただ着ているだけといった格好で、発育していないなだらかなカーブを描いた胸の先の突起が、ちょっとだけ分かる。
誰だよ、変態って言った奴! 俺はロリコンじゃねぇぞ!? でも見ちゃうだろ、興味なくても見ちゃうのが男だろォォォ? 本能には従えないのが、男だろォォォ!!!
「どうされましたァ?」
俺の顔を覗き込むように、端正な顔をくっつけてきた美少女が言う。
「お兄ィさん、ちょっォッとご自身の状況が分かってらッしゃらないみたいですねェ」
「状況? 何が……」
そこまで言って、俺は今の状況に気が付いた。どこまでも真っ白に続く部屋に俺と美少女の二人だけ。その美少女の頭の上には黄金の輪っかがふわふわと浮かんでいる。
よく見たら、背中にも羽根が……って、
「浮いてるッ!?」
思わずデッカイ声が出て、慌てて口をふさぐ。それを見た美少女は満足そうにニンマリと笑って続けた。
「ンふふ~! レティちゃんは、天使なのですゥ! お兄ィさんは、今ッ! 魂だけのお姿ですぅぅぅ~!」
「は!?」
「良い反応ですゥ! 実は、お兄ィさんは不幸な事故でェ、お亡くなりになられちゃいましたァ! ご愁傷様ですゥ」
そう言って、レティと名乗った……のか分からんが、美少女で天使のレティちゃんは俺に向かって手を合わせる。
「やめろよ、縁起が悪いじゃないか」
「縁起が悪いも何もありませぇーんッ! でもォ、お兄ィさんの縁起は良いですゥ。頭の上から物が降ってき死の一兆億番目ちょうどが当たりましたァ~!」
「え? 何? 何だって?」
「ですからァ、頭の上から物が降ってき死の一兆億番目ちょうどが当たりましたァ~!」
「降ってき死? いっちょう……?」
「はいですゥ! なので、お好きな特典をお選びいただけますゥ」
厨二病なのか、この天使。頭の上から物が降ってき死とか、無いわ。……ん? あれ?
「俺、死んだの?」
「はいィ! スクール帰りにビルの上階から落ちてきたセラミック製植木鉢が頭に当たって頭蓋骨陥没&失血死ですゥ! レティちゃんも見ていましたがァ、それはそれは素敵なスプラッタ……イエ。ではァ、特典をお選びいただけますかァ?」
なんか、さらっと見てたって言った? あと、スプラッタって言った? そんな俺、むごい死体だったの?
「そっか、俺は死んじまったのか。彼女に告白もしないまま……」
「そんなに落ち込まないでくださいィ。次はもっと良い人生ですよゥ! なんたって、特典が付きますからねェ」
ニコニコ笑うレティちゃんは、嬉しそうに舞い上がる。スカートがひるがえると中が丸見え……って、は・履いてない!? 天使パネェな! いかん、これはロリコン認定されてしまう。考えるふりをしながら目を逸らし、俺は肝心なことが分かっていない事に気付く。
「特典って、なんだ?」
「良いところに気が付きましたァ! 特典はァ、転生後のお好きな職業が選べてェ、スキルひとつお付けしますゥ」
「職業かぁ……俺、コーダー好きだったんだよなァ」
「かしこまりましたァ! ではお好きなスキルをお選びくださいィ!」
「えええッ!? 悩む時間ねぇの? スキルなんて思いつかない……あっ!」
俺は、失敗して怒られたシーンを思い出す。間違いや上手く行かない時のあの焦燥感を味わうのは嫌だ。
「じゃあ、百発百中って出来る? 絶対失敗しない、みたいなの」
「はいィ、可能ですゥ。 そちらのスキルでよろしですかァ? デハ、行ってらっしゃいませェ!」
レティちゃんがパチンと指を鳴らすと俺の下の空間がぱかっと開き、俺はその穴に吸い込まれるようにして落ちた。
「それでは、次の人生をお楽しみくださいィ! アッ! 前世の記憶を消す処理を忘れたですゥ。しかも、ここに来た時に最初に獲得した“ラッキースケベ”のスキルも付与されたままでしたァ! う~ん……マァ、いっかァ」
こうして俺は、コーダーとして第二の人生(?)ってやつを手に入れた。