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クッダはチョイキャラの予定でしたが、レギュラーキャラに変更されました

 時は温暖期、ホビットの村。

 ジュー、ジュー。

 フライパンで卵が焼ける音がする。

 円形のフライパンのため、当然丸形に卵が広がるわけだが、上手くフライ返しで卵を重ねて四角い形に整える。

 焼き上がった卵焼きは見事な焼き跡を残しただし巻き卵。

 それを冷ますためにまな板の上に置いておく。

 次に網焼きをしている川魚に視線をかえる。

 魚の脂が上がり、その身に充分な火が通っている。

 出来上がりを確信し、お皿にのせる。

 更に大根を卸して焼き魚にかけた。

 鍋にかけた味噌汁も煮えたようだ。

 山菜の味噌汁も器に注いでいく。

 最後に冷ましただし巻き卵を一口の大きさに切って焼き魚と同じお皿にのせて完成。

 本日の朝食が()()()できた。

「迅さん、すいません遅れました」

 調理場に訪れたクッダが頭を下げる。

 迅は一瞥すると、コップに水を注いで渡す。

「まずは一杯飲んどけ、訓練上がりで喉からからだろ」

「は、はい。ありがとうございます」

 渡されたコップを両手で受け取りゴクゴク、と音が聞こえるような勢いで飲み干す。

「あと、服を着替えているのはいいけど、だったら汗も落としておけ」

「えっ、それだと時間が」

「うちには手伝う気のないやつが二人居る。それに比べたら遅れるぐらい可愛いもんだ」

 家主とその従姉妹の顔を思い浮かべる。

 立場的には家のヒエラルキーが迅は下である。

 それに加えてアイリスは杖を付かないといけない。

 自ずと家事をやる人が決まる状態であった。

「……ですが」

「そう思うなら、さっさと水浴びするなどして汗落としてこい。汗の臭いしながら朝飯を食べる形になるんだから」

「はい、わかりました!!」

 迅の忠告を受け入れ、家に疾走するクッダ。

 その様子を見ながら、迅は御盆にできた朝食をのせていく。


 それは、数日前の二人がまだアファイサに居た時のことだ。

 二人はアファイサから村に戻ろうと馬車の手配をしようとしていた。

 パカラ、パカラ。

 馬の蹄の音がした。

 その音の方に二人が視線を向けると馬車が近づいて来て、二人の前に止まった。

『馬車?』

『迅さん、アイリスさん俺ですクッダです』

 馬車の御者――クッダが顔を出した。

 クッダは馬車から降り、馬車を指差す。

『この馬車はスーギ王からの差し入れです。今後も来る機会が増えるだろうから』

 クッダの言葉で王の先見の深さを感じる。

 確かに、アイリスは[赤の士族]となって今まで以上にアファイサに来る機会は増えるだろう。

 それ以前に発電に関することで度々訪れることが確定している。

 そういうことから、この差し入れは何よりもありがたかった。

『[黒の士族]クッダ。申し訳ありませんが、[赤の士族]アイリスより王へ、後日最大限の礼意と敬意を示すことを伝えてを貰えますか』

 気品のある、凛とした姿を見せるアイリス。

 その様子は迅の居た世界では幼さのみせる容姿で、可愛らしいが頭に浮かぶ。

 だが、この時は美しい。

 そう感じさせた。

 そんなアイリスの言葉に首を横に振るクッダ。

『そのことですが、スーギ王は既に後日伝えに来るだろうから連絡は不要と伝令を受けています』

『先手先手を取られるな』

『本当。凄い王様』

 手際の良さに感心する二人であった。

『ありがとう。馬車は受け取るから任務終了だ』

 馬の手綱を受け取ろうとする迅。

 だが、クッダは手綱を渡さずに二人に頭を下げる。

『強く、強くなりたいんです。迅さん、あなたのところで鍛えさせてください!!』

 熱意のこもった請願。

 二人は顔を見合わせる。

『強くなりたいのはわかったけど、守護隊の仕事はどうするの?』

『隊の方には申し訳ないと思いましたが、辞めました』

 ハッキリとした口調で宣言するクッダ。

 二人は少し距離をとって顔を見合わせる。

『どう思う?』

『どう思うって、馬車のことも合わせてってことだよね』

『あぁ』

『馬車がスーギ王の好意なのか、スーギ王に厄介払いの代金として提示されたのかだ』

『スーギ王だよ、そんなことはしない』

『だよなぁ。謁見したのは短い時間だが、軽薄な真似はしない人だと思えたし』

『でしょ』

 王を褒められ、素直に喜ぶ国民。

 それは即ち民に王が慕われている証明でもある。

 少なくとも、アイリスという女はそうだった。

 二人の結論としては、馬車の件はあくまで善意で他意はないということで落ち着いた。

『気持ちはわかった。だが、その上で断らせてもらう』

『何故ですか? 確かに、突然の申し出ということは理解しています。ですが、一考して貰えませんか?』

『これはクッダ、お前自身の問題じゃないんだ』 

『それは?』

『俺がお前の命を背負う自信がないということだ』

 迅はクッダの問いに目を逸らして言葉を続ける。

『どうやら、()()()俺は知り合いの死に敏感だったみたいだ。だからこそ、お前が強くなれなくて命を失う事態になったとしたらキツイ』

『……そういう理由なんですか』

 言葉を失うクッダ。

 迅の表情からそれが本心であることが読み取れる。

 色々と入隊を断られた経験から、本音を隠したおためごかしはなんとなくわかる。

 足手まといはいらない、その真意を隠して断られてきたから。

 唯一拾ってくれたところは、裁量を持つ人がコンプレックス解消の為、自分を見下すのを目的に入れただけだった。

 だからこそ、本心から自分を心配しているのが嬉しく感じられた。

 感じられてしまった。

 それ故にその選択を変えるのは不可能と理解する。

 クッダは諦めようとしたが、予想外のところから援護射撃が入る。 

『本当にそれでいいの?』

 アイリスは知っていた。

 迅が人を見捨てることができない人物であることを。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 初めて会った時、迅はアイリスを見捨てずにデストロイベアに立ち向かった。

 この弱肉強食の世界、見知らぬ他人を見捨てて一人で逃げるのなんて珍しくもない。

 だからこそ、シリウスだけでも連れて逃げることを嘆願した。

 そんな中、迅は逃げずに戦い、勝った。

 後にアイリスが何故戦ったかを問うた時、迅は「異母兄さんならそうした」と答えた。

 判断基準を異母兄に置いていることがわかるが、その上で選択するのは迅自身だ。

 つまるところ、お人好しなのだ。

 本人が思う以上に。

『理由は説明しただろ』

『うん、聞いていた。だからだよ』

 アイリスの言葉に二人はきょとんとする。

 そんな二人にアイリスは言葉を続ける。

『迅は知人が死んだことに堪えていたよね。なら、ここでクッダを見捨てて、後に死んでいたことを知ったらそれこそ堪えない?』

『……確かに』

 迅はアイリスの指摘に同意する。

 どちらを選んでも戦死という形になるなら対して変わらないことを。

 そして、このまま別れたらその可能性が高いだろうことを。

『わかった。強くなれるという保証はない。それでも来るならいいぞ』

『はい!! 迅さん、アイリスさんありがとうございます』

 そして、三人を乗せた馬車は村へと向かった。


「どうしました?」

 食事が終わってお茶を飲んでいるアイリスに、クッダが声をかける。

「ふと、クッダが妾たちの元に来たときのことを思い出したんだ」

 アイリスの言葉にクッダは照れくさそうにする。

「あの時は口添えをしてくれてありがとうございます」

「気にすることはないよ。確かに、妾は口添えをした。それでも決断したのは迅だしね」

「そうだな。アイリスの言葉もあったが、決定したのは俺だ」

 道具の手入れをしている迅が答える。

 視線は道具の方に向けられ、作業をしながらである。

「アイリスの言う通り、あとで死んでいたと伝えられるより近くに置いた方が安心できるからな」

「ちなみに、迅から見てクッダの様子はどうかな? 強くなれそう?」

「よくわからない」

 アイリスの問いにあっさりと答える迅。

 期待に眼を輝かせたクッダもしょんぼりとしている。

「というのも、まだそこまで見て原因がわからない。クッダは確かに弱い。だが、あの訓練量や身体能力からして弱いのは逆におかしい」

「へぇ、良かったじゃん。見込みあるって」

「ハイッ!!」

 予想外の返答に目を輝かせるクッダだった。

 これからは弱い原因の理解、そこから対策の立案、実施、結果という手順となる。

 後世でいうPDCAと呼ばれるモノである。

 まだ何も出来てないのに楽観的過ぎるな、とクッダを見てアイリスは感じた。

 だが、即座にそれさえなかったのだとアイリスは気付いた。

 事実、クッダが居た隊では誰もクッダを支援してなかった。

 クッダの訓練を見てそのやり方にアドバイスする人は居なかった。

 隊長や副長はアドバイスしようとしたが、それを差し止める人が居た。

 姉にアドバイスを求めると、別の隊である以上自分の隊の面子を潰すことにもなる―――家族である以上、そこら辺は問題ないのだが、そう指摘されて丁寧に潰されていた。

 誰にも頼れない環境。

 そこにクッダは居たのだ。

 だからこそ、嬉しかったのだ。

 迅が真剣に考えていることに。


「三人ともお茶してるのか」

 会話の中にリオンがやってきた。

「入れてきます」

「いや、いいよ。すぐに終わるから」

 お茶を入れようと立ち上がろうとするクッダを手を横に振って静止する。

 そして、迅に向かいあう形で席に座るリオン。

「ちょっと頼みたいとこがあるけど、迅とアイリスいいかな?」

「俺はいいよ」

「妾も問題ない」

「あの……自分は?」

 一人だけ仲間外れだったクッダ。

 リオンは微笑む。

「別に参加して問題ない。ただ、行先の案内としてアイリスは必要。現場に迅が必要ということだったからさ」

「そうですか、では何かわかりませんが参加します」

「別に難しいことではない。いつも市で酒を提供している村があったろ」

 迅の頭に市の度に利用している酒売りが浮かぶ。

 村の名産だという話をいつの日かしていたのを思い出す。

「居たな」

「確か、ここの近くだった筈」

「そうなのか」

 アイリスの言葉にリオンは頷く。

「そう。で、その村に行って酒を貰ってきて欲しいんだ」

「それはいいですけど、その代金は? それとも物々交換?」

 迅の疑問は当然だ。

 売り物である以上、その代価は必要。

 話が通っていて無償の場合も少なからずある。

 円滑に進むためにもそこら辺の確認は大事であった。

 その答えをリオンは微笑みながら答える。

「なぁに、ここ最近現れたモンスターを退治するだけの簡単な話だ」

「それはモンスターハンターの仕事を勝手に受注してきたから働けということか?」

「えっ、そういうこと……確かに、そういうことになりますね」

 リオンと迅の会話を反芻(はんすう)して理解するクッダ。

「確かに、その案件だと妾と迅は必須となるな。妾は取り引きで何度か訪れたこともある。だから道案内できる。けど、迅は基本的に市とこの村と往復ぐらいしかしてないから」

 リオンがクッダを仲間外れにしたのも納得する。

 戦力としてカウントされていないのだ。


「結果的にいうとそうなる。実際のところは、あそこにいる友人から伝書鳥が来たんだ。モンスターが近辺で発見したから村を捨てるかもしれないってな」

「依頼されたわけでもないんだ」

「認知度の問題だな。モンスターハンターは基本的にアファイサに居る連中に頼むのが殆どだから」

「つまり、この件で周囲の村にも売り込むってわけか」

 ここで村を救えば、市の時に周囲の村に情報が伝播する。

 そうすれば、アファイサに居るモンスターハンターに依頼するよりも、近くに居る迅に依頼することになるだろう。

 モンスターの存在で、すぐ側に生命の危機があるこの世界では一分一秒が重要だからだ。

 それこそ、モンスターハンターが依頼を受けて来たが、既に遅かったケースなど珍しくはない。

 ちなみに、その場合は基本的にモンスターハンターは赤字である。

 現地に行くまでの諸経費がかかるが、成功報酬を含め支払いをする相手が居ないからだ。

「最終的には決めるのは迅とアイリスの二人だ、どうする?」

 二人は目を合わせる。

「問題ない、今すぐ準備する」

「妾もだ」

 迅はすぐさま立ち上がると、作業していたものを片付ける。

「クッダも来てくれ。()()()()()()()()()()()。」

「はっ、ハイ」

 付いてきてくれ、そう指示を受けたクッダの顔には自分を必要としてくれたことに対する笑顔があった。

「準備が終わったらすぐ行くぞ」

 迅の言葉に二人は頷いた。

「そうそう、酒は樽で頼むぞ」

「そこら辺の交渉はアイリスに任せるよ」

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