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翌日の朝食は白米に卵焼き、漬物でした。

 ビッグトードと呼ばれた蛙。

 それは平凡種の成人と同じくらいの大きさをしていた。

 迅たちの前方に四体。

 迅は非戦闘員であるリオンを抱えつつ戦わなくてはいけない現状況に、いくつもの方策を思考する。

 単純に戦うか退くかの二択からその選択肢は派生されていく。

 これが朝や昼なら周囲の見通しも良いため、退くのが最善だろう。

 だが、今はそうではない。

 ここで退いても追いかけてこない保証はない。

 見通しの悪い状態、更に初見の地であると周囲の確認もあるため移動のスピードは落ちる。

 故に退くのは適切ではなかった。

 幸いにも距離は離れており、前方にいる四匹以外は見当たらない。

 何より、迅は現状の一方向に相手が集まっているというメリットを大事にしたかった。

 数の優位性がもたらす最大の要因は行動の隙が埋められること。

 後世にて[攻撃は最大の防御]という言葉が生まれるが、それは一対一という構図が前提の話である。

 誰かを攻めている時、その側面や背面が隙だらけになる。

 その隙をつけるということは個人の実力差など簡単に覆せる。

 だからこそ、一方向に敵がいる状態を維持したい。

「すまないが、ここで一戦させてもらうぞ」

「………そうするのが最善なんだろうな、任せる」

 反論を口にしようと思ったが、迅の真剣な表情を察して任せることにする。

 村の長として、組織をまとめる立場としては現場の意見を尊重することの大事さを理解しているからだ。


 迅が距離を保ったままの状態で臨戦態勢をとる。

 それと同時にビッグトードの一匹が大きく口を開く。

 ビュッ

 間合いは充分あった。

 だが、その伸びた舌はその距離を一瞬で零にした。

 まるで放たれた弓矢のような速度と飛距離。

「!?」

 グイッ

 迅はその射線にリオンがいることに気づき、自分の方に引き寄せた。

 リオンの居た場所をビッグトードの舌が通過する。

 迅が居た世界の蛙の生態を考慮すると、間に合わなければそのまま捕獲されたのではないかと恐怖する。

 だが、ピンチはまだ去ってなどいない。

 ビュッ、ビュッ、ビュッ

 他の三匹も舌を伸ばしてきた。

 それらを迅はリオンを抱えつつ避ける。

 見たところ、ビッグトードは巨大な蛙であり、蛙の生態から大きく外れてはいない。

 故に伸びた舌が戻るまで次の攻撃はない。

 僅かな時間だが迅は初手を回避できたことに少しながら安堵する。

 だが、それが間違いだとすぐに気付かされる。

 ブオン

 迅のすぐ横を一匹のビッグトードが抜ける。

 先ほど舌を伸ばしたビッグトードが、迅たちの後方の岩にその舌先を絡めているのが見えた。

 その巨体を舌の力だけで移動することを驚愕するよりも、迅は背後を取られたという事実が頭に浮かぶ。

 迅は更に他のビッグトードの舌が、別の岩に絡みつくのを視界に捉えた。

 ドン

 迅たちの後方に向かおうとするもう一匹のビッグトードを体当たりして止める迅。

「オオォォ!!」 

 グチャ

 そのまま両手で掴み壁に叩きつける。

 体躯は同じくらいではある。

 だが、()()()骨格を持たないその硬度は人よりも柔らかかった。

 壁に脳症の混じった鮮血が貼り付く。

 一匹目の撃破。

 その事実に迅の心に安堵はない。

 何故なら、それはあと三匹いるという意味だからだ。

 ビュッ、ビュッ。

 同時に後ろ左右からビッグトードたちの舌が迫る。

 迅はそれを振り向かずにジャンプして回避する。

 ビュッ。

 時間差で三匹目の舌が迫る。

 迅は前方の壁を蹴り、三角飛びをしてその舌を回避しつつリオンの元に合流する。

「まずは一匹」

 現状を確認するために無意識なうちに声に出していた。

 そう、現状はまだそれである。

 一匹は倒したが、まだそれだけである。

 過程がどれだけ上手くいっても、最終的に敗北――死亡しては意味がないからだ。

 綱渡りの状態は変わらない。


 ビュッ、ビュッ、ビュッ。

 双方からくるビッグトードの舌をリオンを抱えつつ回避する迅。

 何とか反撃の機を探すが、双方を取るという地の利点からその隙を見つけるのが難しい。

 相手は舌を伸ばすだけではあるが、その速度が早く、単体ならば伸ばした隙を付くことは出来るが、反対側の個体によりそれがカバーされている。

 木製手裏剣の投擲が策として浮かぶが即座に却下される。

 一匹目を退治した際に皮膚のぬめりを感じた。

 柔らかいがあまりにも柔らかくぬめりがある場合、滑る可能性がある。

 投擲して刺さる可能性が薄いと読んだのだ。

 反撃の一手を模索するが、そこに思考を分散した時間は少なくともこの戦闘中には長過ぎた。

 ドゴッ

 背部に衝撃を受ける。

 舌の攻撃は避けれたし、何よりそれは()()()()()()()()が当たった衝撃だった。

 コツン

 迅が痛みを堪えて振り向くと、小石が地面に落ちるのが視界に写った。

 ビッグトードが伸ばした舌で小石を掴み、舌を戻す。

 ある程度のところで小石を離すことにより、時間差でその軌道を小石は通る。

 見事な時間差攻撃だった。

 敵の攻撃を理解した時、迅は手遅れになったことを察した。

「すまない、リオン」

 口にした刹那、洞窟の入口側―――一匹のビッグトードが居る方向にリオンを投げ飛ばす。

「うわぁぁぁ」

 叫びとともに空を舞うリオン。

 彼はビッグトードから少し離れたところに着地する。

「迅、何すん………だ」

 リオンは絶句する。

 何故なら、彼が目にした迅には左右からビッグトードの舌が絡みついていたらだ。


 右手と左足にビッグトードの舌が絡む。

 迅の頭に牛裂きの刑が瞬時に浮かぶ。

 美濃の斉藤道三が行っていたという刑罰だったが、それが連想されたのは幸いだった。

 何故なら、()()()()()()()()()()()()()()

 逆側から左手に舌が迫るが、先んじた行動によりそれは空をきる。

 カシャン、カシャン

 迅は忍刀の抜き差しのはじめ、紫電を発生させる。

「紫電派生式 紫電流し」

 刹那の躊躇いもなくそれを自身に叩き込んだ。

 それはそれが最善であり、そのような最善策ならば異母兄さん(にいさん)なら迷わずやるのを知っていたからだ。

 ビリビリ

 迅の肉体を通り、更に舌を通して彼の体を捕らえていたビッグトードたちにも伝わる。

 感電したビッグトードたちの舌の拘束が緩む。

 迅はその隙を逃さず、二匹のいる方へと駆ける。

 接近する間に右手の指の間に木製手裏剣を挟み、電流で痺れてないビッグトードの口にその手を突っ込む。

 そのまま、後世において柔道と呼ばれる武道の技である大外刈りの要領でビッグトードを倒す。

 グチャ

 後世の肩を掴み、背中に倒す本来の形とは違い、更にはその目的も異なる。

 相手を殺すために口内に刃物でぶれないように突き刺しながら頭から落としたその技は、その目的を見事に達した。

 二体目の撃破。

 ここで獣にしかすぎないビッグトードたちにも違和感に気づく。

 眼前にいる生物が自分たちの餌ではなく敵対者であることに。

 逃げるために向きを変えて舌を伸ばす。

 ザシュ

 伸びた舌が宙に舞う。

 迅が素早く前に出てその舌を切り飛ばしたのだ。

 更に迅はビッグトードの口内に酒瓶――火遁に使用しているものを突っ込み、もう片方の手の手甲でその瓶を割る。

「火遁」

 ビュッ、ボッ

 口内で点火される。

「―――」

 声にならない叫びを口内を焼け尽くされたビッグトードがあげる。

 火だけでなく、熱された破片が口内を傷付けたのだから当然といえる。

 ドスン。

 口腔を火と破片でもグチャグチャにされたビッグトードが倒れた。

 三体目の撃破。

 迅はそのままリオンの最後のビッグトードを相手をしようと倒れたビッグトードには一瞥もせず振り向く。

 そこには―――。

「隙があればこれぐらいは出来るさ」

 リオンのナイフがビッグトードの首を裂いていた。

 四体目のビッグトードの死を目にした迅はここで安堵する。

 しかし、すぐに緊張を戻す。

「どうした?」

 表情に出ていた。

 安堵した表情から、瞬時に険しい表情へと変化したのをリオンは気付いた。

 迅は周囲を見渡す。

「敵がこの四匹だけとは限らないからな」

「なるほど」

 迅の言葉にリオンは納得する。

 四匹いたが、()()()()()()()とは限らない。

 ビッグトード以外のモンスターがいる可能性もある。

 数分周囲を警戒するが、結果を語るとそれは杞憂であった。

「どうする奥を見るか?」

 リオンの言葉に迅は頷く。

「その前に一休みはしよう。それで、こいつ毒とかないよな?」

 迅はビッグトードを指差して訊ねた。

「毒か、聞いたことはないな………って何してる?」

 リオンが倒したビッグトードの皮を捌き始める迅。

 その流れは手慣れている。

「夕飯の準備」

 二人の本日の夕飯はビッグトードの焼き串と準備の持った兵糧丸だった。


 パチッ、パチッ

 焚き火の火で細かく串に刺したビッグトードの肉を焼く二人。

 串は野営するために洞窟に入る前に木の枝を拾っており、それを削ったものだ。

 お互いに兵糧丸を摘みつつ、肉に火が通るのを見ている。

 その際にも迅は周囲を警戒しているが、リオンは逆に迅のことを考えていた。

 その思考とは迅に対する商品価値だ。

 現在は客人から同居人という形に変わっているが、元々は余所者である。

 故に、彼の戦闘能力は伝聞だけでそれを目にすることはなかった。

 それまでは彼が自身の居た世界で学んだ知識と農作業の仕事ぐらいしか価値を見出だせなかった。

 知識も提供できるモノは有限であり、提供を受けるたびに減っていく。

 すなわち、時間が経るごとに彼の価値は下がる。

 工作技術は如何に頑張っても自分たちホビットには遠く及ばないだろうという自負もその要因である。

 同居人としてはいい友人ではある。

 だが、村を治める立場としてはそこら辺の算盤(そろばん)はどうしても頭に浮かんでしまう。

 それがこのたび迅の戦闘力をその眼で見て価値が急上昇した。

 この戦闘力があれば何かモンスターを倒し、貴重な資材を剥ぎ取ったり、モンスターが出没する場所での採掘などでモンスターハンターを雇う費用が削減できる。

 その結果、彼の価値はあまりにも村に利益を産み出すと算盤(そろばん)を叩き出していた。

 早い話、村からしたら手放したくはない存在となった。

「そういえばさ」

 だからこそ、リオンは訊ねる。

「村のために硝石というのを手に入れたいのはわかった。それで、お前自身欲しいモノ、やりたいモノとかないのか?」

 少しでも迅を村に留めるために。

 迅は首を横に振る。

「ないな」

 それは忍びの世界に生きていたからこそのもの。

 与えられた訓練を行ない、任務をこなす。

 基本はそれの繰り返しで日々を過ごしていった。

 何かを求めるという()()は持てなかった。

 三大欲求の食欲と性欲でさえそうだ。

 食事など味に頓着などはない。

 不味くても食わなくてはならないなら喜んで食べる。

 それでも、彼が料理を相応にこなせるのは単純に素材の味を活かすのが上手いからである。

 性欲に関しても、房中術対策として男女共に電流を使った訓練をさせられ、結果的に男は不能、女は不感になる。

 子を作る際には互いに媚薬を飲まないと()()()()出来ない。

 そういう生活をしていたのだ。

 人が持つ欲求の大半は削って生きてきた。

 故に、後世で言うギブアンドテイクの精神が行動の原理となっている。

「……そうか」

 リオンにはそう答えることしか出来なかった。

 迅がどのような生き方をしてきたのか、それだけで察したからだ。

 この時、リオンは村長としてではなく友人として彼が何か自身の願いを持てるようになればと本心から願った。

「まぁ、アイリスも似たようなもんか」

 リオンはふと、留守番をしている従姉妹を思い出し、小声で呟いた。


 その頃、アイリスは夜遅く、いまだに帰ってくる様子のない二人にとある懸念を抱いていた。

「明日の朝ごはんどうしよう」

 迅が付いている以上、必ず二人は帰還する。

 だからその辺は心配はしない。

 問題はそのタイミングだ。

 この様子だと明日の朝以降になる。

 そうすると、自分で作るか頼むかの二択だ。

 夕飯同様に頼むことも出来るが、二食続けて頼むのは流石に気が引ける。

 となると、自分の足で作れる料理をするしかなかった。

「三人分は大変だ」

 誰に聞こえるわけではなく、彼女は呟いた。


「そろそろ行くか」

「そうだな」

 食事をし、少しの休憩を終えた迅たちは探索を再開する。

 野営をするに辺り、この先の安全性を確保するためだ。

 周囲を警戒しながら進むが、内心敵性存在が居ないと予想はたてていた。

 何故なら、休憩のあいだ一切の事態が起きなかったからだ。

 おそらく、この洞穴はあのビッグトードの縄張りであったのだろう。

 そして、そのビッグトードは倒された。

 だからこそ何事もなく奥まで辿り着いた。


「万事塞翁が馬とはよく言ったもんだな」

「どういうことだ?」

 迅は眼前にある物質を指差す。

「探し求めていた硝石だ」

 そこにはビッグトードの糞便や彼らの食い残した肉片が発酵して出来たであろう硝石が広がっていた。

 

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