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若い男二人が夜の洞穴で二人っきり。何も起こらない筈が.....起きてしまったよ!!

 硝石が欲しい。

 そう思った迅の行動は早かった。

 迅は村の各軒下を探索したが、見付からなかった。

 元々、硝石はできる環境が限られている。

 意図的に硝酸を作ることは可能だが、それには時間がかかる。

 そして、硝酸の結晶化したのが硝石である。

 故に簡単に手に入る筈がない。

「どうするかな、今から硝酸作りだと土台作りから時間がかかる」

 硝酸の作り方は忍び時代から学んでいる。

 だが、一からその土台作りになると年単位の時間を要する。

 だからこそ、火縄銃が世に出回るようになった時、火薬の原料である硝酸を売って財をなした忍び衆もいるほどだ。

 せめて、土台となる土壌が出来ている場所が迅には欲しかった。


「それで、廃棄した村の案内を頼むというわけか」

「すまないな」

 リオンの言葉に頭を下げる迅。

 村の中では硝石を見込めないことを考え、迅は別の方向で攻めることにした。

 彼らはしばしば村を転々としている。

 それは彼らが遊牧民というわけではない。

 近辺にモンスターが現れ、その結果村を放棄せざるおえなくなったからだ。

 その廃村となった村の肥溜めの状態によっては硝酸作成の土台になるのかと考えたのだ。

 上手くいけば硝石を発見する可能性もある。

 極端な話だが、村を放棄しなければモンスターに襲われ、村を放棄してもその先で生活の基盤が立てられなければ食料を減らし餓える事態になる。

 モンスターに食われるか餓死するか。

 どちらの最悪な事態を選ぶかで、リオンの居る村は餓死する可能性を選んだ。

 結果的にはその選択で勝ち続けることができた。

 だが、それは結果論にしか過ぎない。

 何度選択を勝ち続けても、一度の敗北によって滅んだ村が数えきれないほどある。

 それほどこの世界は厳しかった。

「わかった、今からでいいか?」

「ありがとう。でも、頼んでおいてなんだがそんなすぐで大丈夫か?」

 迅の疑問は当然である。

 仕事中に頼み込んだ案件に、すぐに予定を空けてくれるというのは頼み込んだ側としても流石に驚く。

「後回しに出来るものだからな。それに気になることもある」

「? そうか」

 リオンの指すものが何かはわからないが、迅はリオンの言葉に甘えることにした。


 ダンッ

 迅がリオンをお姫さま抱っこしながら木々の枝をジャンプして、時には鈎縄を使い森の中を駆ける。

 高所を進んでいるため、迅に捕まる腕の力が強まる。

「早いな」

「まだ見つからないからな、急がないと」

 あれから二つの廃村を探したが、硝石は見付からなかった。

 だが、硝酸作りになる土台が出来始めていたのは僥倖(ぎょうこう)だった。

 時間があれば設備を整えて硝酸作りを始めてもいい。

 それまでの間の期間のためにも、やはり硝石が欲しかった。

 迅たちは迅の忍びの経験から、木々のある場所は高所を移動する。

 地上を歩いていると、木々の根っこなどを避ける動作で地理の混乱や体力の消耗が大きくなる。

 それらを防ぐための行動だ。

 勿論、忍び特有の身体能力の高さがあって成り立つ移動方法である。

「ところで、この状態で会話は問題ないか?」

 ダンッ

 木々の枝をジャンプしている時、突如リオンが声をかけてきた。

「まぁ、問題はないな。咄嗟の時にそちらが舌を噛まないかという心配はあるが」

「なら、大丈夫。信頼してるさ」

 リオンの表情は周囲に視線を向けているから見えないが、微笑んでいると迅は感じた。

「それで、話はなんだ?」

「お前という人についてだ」

 その言葉を聞いた時、迅は一旦枝の上で足を止めた。

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。お前が村にとけ込もうと努力しているのはわかる。だが、度が行き過ぎている」

「そういうもんか」

「あぁ……いや、こう言った方がいいか我欲が感じられない」

 リオンは思い出す。

 迅が村で貢献していたことを。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 誰かに頼ることもある。

 彼の鞘に仕込まれた器具の修理の依頼を受けた話も聞いている。

 そして、今回の硝石探しのこともだ。

「お前の頼みは自分のためじゃない。これがあれば皆の力になる、そんなことで頼んでいる」


 そうだ、鞘の器具の修理の時こいつはそういう顔をしていた。

 自分の武器を直すのに何の執着も見せなかった。

 モンスターハンターが村に弓矢などの道具の修理を依頼に来ることは珍しくない。

 そして、そういうやつは直った道具に何らかの執着を見せている。

 それはそうだ。

 別に修理しなくても新しい物を用意すればいいだけの話だ。

 村に来て修理してもらう費用や時間を考えたらそちらの方が早いし、たいてい安い。

 なのにやるのはそれである必要があるからだ。

 だが、この男にはそういう様子が一切ない。

 おそらく、買って済むならそれで済ませる合理性がある。

 事実、シュリケンという飛び道具を作る際には自分の道具ではなく村の旋盤機を使っている。


「それに何の問題がある?」

 迅の言葉にリオンは絶句する。

 その答えの予想はあったが、それは重症の部類だったからだ。

「……善行をするのはそれが円滑に物事を進めるからだ。互いに助け合うという利益関係だから成り立つんだ。利益関係のための善行ではなく善行だけのモノでは破綻する」

「あぁ、それなら異母兄さん(にいさん)もそう言っていたな。任務のためにやっておいた方がいいってな」

 よく異母兄が任務の邪魔にならない範囲で人の手助けをしていた。

 そこから、些細な情報を仕入れたりして任務を有利に進めたものだ。

「あぁ、そういうことなら納得だ。安心した」

 リオンは胸を撫で下ろす。

 異母兄のことを口にした迅の表情、それは尊敬する存在を自慢気に語るかのようだった。

 そこでリオンは答えがわかった。

「兄の模倣か」

 尊敬する人物の模倣。

 それは珍しいことではなく、だからこそ行動の歪さが出る。

 異母兄だからこうした、という模倣が無意識であったからの違和感であった。

 それは正解である。

 だが、それ以上にその言葉は迅にとって()()()()()だった。


『あの男は半分とはいえ、あなたの兄。だからこそ、あの男にできることはあなたもできる!!』

「はい。()()()あの人の異母弟だからできます」

 そう、あの人は自分と腹違いの兄弟。

 それは自分だけのものであり、微かな自慢だった。


『あの男が困難な任務を達成した!? ならば、あなたはそれに匹敵する任務を少ない人員で達成しなさい。いいですか、他の忍びなどどれだけ犠牲にしても構いません。あなたが任務を達成する。それが大事ですから』

「はい。必ず任務を達成します」

 あの人はその任務の死傷者は零で達成しましたよ。

 犠牲者を生んだ時点で()()てますよ。

 それ以前に勝ち負けではないですよね。


『よくやった、あの任務を達成するとは!! あの男よりも幼いあなたができるとは、流石我が子よ』

「……はい。うれしいです」

 しんだ。しんだ。しんだ。しんだ。しんだ。しんだ。しんだ。しんだ。しんだ。しんだ。

 ぼくのまちがいでしんだ。

 ぼくのまちがいできずついた。

 あのひとなら、そんなことないのに。


『あの男はあなたと違い、半分しか忍びの血が流れていない。だから、あの男ができることはあなたができて当然。なのに、何故それができない!?』

「すいません、すいません、ははうえ」

 ですが、はんぶんというりくつなら、まけはかくていですよ。

 だって、あのひとのはんぶんは――。


「迅、落ちる、落ちる!!」

 リオンの言葉で意識が鮮明になる。

 気付いたら枝から落ちていて、今は無意識で枝に鈎縄をかけ、それで吊るされている状態だった。

「すまない、下りるぞ」

「えっ? うわぁぁぁぁ!!」

 些細な動きで鈎縄をほどき、地面に落下する迅とリオン。

 迅は落下の際に木々を斜めに蹴りあげ、落下の速度を下げ、最後は五点式着地を決める。

「すまなかったな、リオン」

 地面に倒れこんだまま、リオンを抱えた迅が口を開いた。

「その通りだ、迅。村の子どもたちは喜ぶかもしれんが、大人はこういう配慮はいらない」

 リオンが迅に負い目を感じないよう言葉にした軽口に、迅は微笑む迅しかなかった。

 意気消沈しているのが目に見えてわかる迅に、リオンはため息をついて答える。

「この世界に他の世界からの異邦者が来ることはある。だが、それは珍しくないというわけではない」

「どういうことだ?」

「私たちはお前しか知らない。お前が誰と比較しても、私たちはそれを知る術がない」

「だから気にするなと?」

 首を横に振るリオン。

「他者に言われても、お前自身が気にするだろう。ただ、()()()()()()()()()ということだけは伝えておく」

 異母兄と比較するのはこの世界で自分だけ。

 それは救いでもあり、孤独を意味している。

 自分があくまでも孤独な来訪者であることを自覚せざるおえない。

「あと、二つ伝えておくことがある」

 リオンの言葉に顔を上げる迅。

「実をいうと、アイリスはこの村の生まれではない。数年前、両親を亡くして親類の私を頼ってきた」

「そうなのか」

 迅としては意外だった。

 あれほど村の人たちに慕われ、受け入れられていたから、無意識に村の出身だと勘違いしていた。

 この勘違いには、縄張り意識の強い忍び特有感性が由来している。

 自分たち以外を受け入れず、脱退者を処罰する忍び特有の意識が。

「だからさ、アイリス同様に既に村の皆もお前を身内だと思っている」

「………」

 迅は何も答えることができない。

 その様子を見てリオンは実感する。

 彼の行動の規範は彼の兄由来である。

 だが、その兄が偉大故に自己評価の著しく過小評価していることを。

 今、どれだけ言葉を重ねてもそれらは迅に蓄積することはなく、ただ流れるだけだ。

 迅自身が自分に正当な評価を持たなければ意味がない。

 それは、少しずつ成功を積み重ねなければならないことだ。


「とりあえず、帰るか。別に今日見つけなくてはいけないわけじゃないだろ」

「だが」

「もう暗くなってくる頃だ。アイリスの夕飯は頼んでいるから問題ないが、私たちがモンスターに襲われる心配がある」

「……そうだな、今回はここまでだ」

 リオンの意見に同意し、踵を返す二人。

 先ほどとは違い、木々の上を跳んで行くのではなくリオンを先頭に大地を歩いていく。

 

 それなりの時間が経過し、少し暗くなってきた。

 口数は互いにない。

 その理由は一種のチキンレースだからだ。

 言葉を交わしていたらその単語が出てきてしまうと無意識に察していた。

 そして、折れたのは迅だ。

「なぁ、リオン。道迷ってないか?」

 そう、二人は迷っていた。

 リオンは迅に振り替えると、頭を下げる。

「すまない、道に迷った。松明(たいまつ)も持ってないだろうにこんな事態に……」

「明かりに関しては大丈夫」

 迅は木製手裏剣を取り出し、忍び刀に刺す。

 次に手甲に仕込んだ火付け石で木製手裏剣に着火する。

「手裏剣が木製なのはこういう用途もあるからなんだ」

 [雷光衆]の手裏剣が鉄製でなく木製を基本としているのは費用の問題からである。

 だが、それだけではなく油を吸わせておくことで着火しやすいようにする理由もある。

 また、着火した手裏剣の投擲は[雷光衆]では火遁の派生式[火炎手裏剣]と呼んでいる。

「へぇ、そんなことも出来るのか」

「荷物は応用効くものを増やし、所持するのは最低に抑えるのが基本だからな」

 着火した木製手裏剣を松明代わりにする迅。

「とりあえず、夜営が出来そうなところ探そう」

 モンスターの夜襲の警戒も備えて草原のような拓けた場所、もしくは洞穴のような狭い場所が望ましかった。

 そして、現状は後者を求めていた。


 二人で更に森を歩く。

 しばらくするとお目当てのものが見付かった。

「あったな」

「あぁ、少し安心した」

 迅が先行して洞穴に入る。

 洞穴はかなり広く、かなり奥まで続いているようだ。

「リオン、入り口の辺りは大丈夫だ。入っていいぞ」

「ありがとう」

「礼はまだ早いな、ここが予想外に広い。()()()()()()()()()()()ほどにな」

 迅の言葉に頷くリオン。

 まだ安心するのは早かった。

 二人は更に奥に進む。

 その先の安全の確保のために。

「ん、なんだこの臭いは?」

 リオンが異臭に首を傾げる。

 それに対し、迅はその臭いが()()()()()()であることに気づく。

「げこげこ」

「リオン、下がれ!!」

 それはほぼ同時だった。

 迅がリオンに警告するのと、それが洞穴の奥から姿を表すのが。

 そして、それを見たリオンは驚愕する。

「ビッグトードの群れだと!?」

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