異世界で水力発電始めました。
※本エピソードは三話と四話の間のエピソードになります。
ご注意を。
結論をいうと、その日はこの世界の後世に刻まれる歴史的な日になった。
「よし、じゃあ繋げるぞ」
ラークの合図で配線が繋がる。
それにより村の家々に掲げられた電灯に灯りが灯る。
「綺麗」
村の誰かが呟いた。
それを契機に子どもたちが嬉しそうに灯りの周りを駆けはじめる。
初めて見た電気の灯りに興味津々といったところだ。
逆に、大人たちは電灯の明るさに言葉を失っていた。
「これほどの明るさとは」
「火の灯りより明るいでしょう。更にこれからはこれが無料だ」
水車を使った水力発電。
所謂自然エネルギーのため、施設の点検費用ぐらいはかかるが、基本的に費用はかからない。
灯りのために蝋や油を買っていた費用は村のコストからなくなるといっていい。
「労力は相当かかったが、安いものだな」
「まぁ、一から作って貰いましたからね」
手放しで喜ばないリオンではあるが、このような場でそういう目線を出せるのに迅は感嘆する。
この場にいた誰もがこの電灯の輝きに感動しているからこそ、負の目線も持てるのは組織を束ねる立場としては必要だからだ。
そして、リオンの言う通り安くはなかった。
本来なら出来る筈だった仕事を依頼のあった分のみに抑え、電灯や電線、発電用の水車製作に当てたわけだ。
勿論、作業をする上の信憑性もある。
[紫電]を起こす[雷光衆]秘伝の鞘の設計図を提供し、その原理を説明した。
だからといって、それで相手に全てが理解できるわけではない。
百聞は一見にせず。
諺でもあるように、それらを言葉で説明したとしても相手が理解できるかはわからない。
それは自身の持つイメージと相手の持つイメージとの差異があるからだ。
何より、今では会話が流暢にできるようになったが、前まではそうではなかった。
根本の文化の違いもある。
故に、完成に至るまで相応の苦労を要した。
「みんなー、スープだよ」
寸胴鍋が運び込まれる。
鍋からはいい匂いもする。
「キャンサーデビルのスープだよ、これで体を暖めてね」
寒さ対策として用意されたスープ。
老若男女とわずその列に並ぶ。
電灯の明るさを見るために夜まで起きていて凍えた体にはありがたい。
尚且つ、具材には美味として知られるようになったキャンサーデビルの肉だ。
塩漬けされていたこともあり、塩分は染み込んでいる。
出汁も出ているし、シンプルながら味わい深い。
電灯の明るさという感動と美味なスープで誰もが笑顔であった。
「迅、ありがとうね」
迅の隣に立ったアイリスが話しかけてきた。
「どうして?」
アイリスは迅の問いに、一歩前に出てから両手を広げた。
「今、ここの笑顔を生み出したのは迅の功績だからさ」
「そうか、俺はあくまで発電の知識を教えただけだ。作ったのは村の皆だ」
「知識は人の歴史だよ」
アイリスは微笑んで答える。
「妾たちの積み重ねてきた技術の歴史があっても、迅の知識がなくては作る発想なんてなかった。そして、スープに関しても迅がキャンサーデビルを毒を使わずに退治したから食べることが出来る。これが迅の功績でなくて誰の功績だって言うんだい?」
「あぁ、そうか」
そこで迅は自分の功績を実感する。
アイリスとしては逆に迅がどうしてここまで自己評価が低いか疑問でもある。
「俺の功績、か」
迅は自分の力によって生み出された光景をただ眺めていた。
翌日、迅は日課である農作業をしている。
早朝に鍛錬をし、その後自分を含めアイリスとリオン、三人分の食事を作り朝食。
それから午前中は農作業、午後からは旋盤機が空いていれば木材を旋盤して木製の手裏剣製作、なければ罠の様子を調べたりが殆どだ。
そんな何時もの行動をしている迅に近づいてくる足音がする。
「あれ、今日は迅だけ? アイリスお姉さまは?」
背後から声をかけていたのはシリウスだ。
足音でシリウスだとは気付いていたが、農作業に集中していた。
振り替えって手を振る迅。
「アイリスは家だ。そこで事務仕事してる」
今季の件でかかった費用をまとめている。
収益と支出。
村の経理も担当しているのが彼女だ。
忍び時代もそこは担当してないから彼女の手助けはできなかった。
「それでシリウスはどうしたんだ?」
「山菜を取りに行くから、アイリスお姉さまに何か食べたいものがないか訊こうと思った」
「とりあえず、手間処理の少ないものがいい」
「あなたの意見は聞いてない」
「食事用意してるの俺なんだよ」
「……ごめんなさい」
「何故謝る」
「毎回三人分用意してるの大変だろうし」
「同情すんな。役割分担だ」
経理などの計算仕事は迅よりもアイリスの方が馴れている。
また、足の悪さもある。
そして、リオンは料理が全然駄目だった。
更に村長としての役割と仕事がある。
フットワークの軽く料理のできる迅が最適だった。
「それに、俺は俺の出来る仕事をやるだけだからな」
忍び時代に色々な仕事をしてきた。
それは任務による潜入のためでもあり、忍びの里の隠蔽性故の地産地消からでもある。
農業や鍛冶、薬学など生活に関わる多数のものがだ。
故に、迅は様々なことの経験がある。
その中には料理の技術もある。
これは忍びであるから、携帯食である兵糧丸を作らなければならない。
故に、必須の技術ともいえる。
「やれることをやる、単純だが必要なことだろ」
「そうだね」
シリウスは頷く。
「じゃあ、やれることとして山菜を取ってくるね」
「大丈夫か? 少し待ってくれば付いていくが」
シリウスは首を横に振る。
「大丈夫。迅が用意してくれたアレもあるし」
「わかった。じゃあな」
シリウスを見送る迅。
シリウスと別れ、農作業を再開してからしばらくが過ぎた。
ドーン、ドーン。
銅羅の音がする。
それはある程度の大きさのモンスターが村に近づいたことを示す警報である。
迅は村の周囲に三種類の鳴子を設置していた。
一つ目は村近辺に配置された小型から反応できる鳴子。
二つ目は一つ目より広い範囲を囲んだ鳴子。
中型以降の大きさに反応するようにしており、更に響くように鈴をつけてある。
そして、今なった3つ目の鳴子。
二つ目よりも広い範囲を囲んでおり、銅羅が鳴るように設置している。
大型を対象としている。
危険度が高い大型から順に反応できるように防衛ラインを組んでいるのだ。
迅は鳴子がなった場所に駆ける。
鳴子の場所にはシリウスが座りこんでいた。
彼女の視線の先には熊――こちらの世界ではデストロイベアと呼ばれるモンスターが居る。
その怯えた表情から、彼女が座りこんでいるのは自らの意思ではないのがわかる。
数週間前――迅と出会った日のデストロイベアの来襲を思い出し、腰を抜かしているのだ。
「よく知らせてくれたな、シリウス」
迅は彼女に近づくと優しく頭を撫でる。
「もう大丈夫だから安心しろ」
そう言うと、迅は一歩、彼女の前に出る。
デストロイベアも反響する音の行方に周囲を見渡していたが、迅たちに気づく。
デストロイベアの顔が笑みを浮かべたような表情をした。
それは当然だ。
モンスター側からしたら、人など餌などにしか過ぎない。
相手からしたら鴨が葱を背負ってきたようなものだろう。
だが、その狙い通りにいくとは限らない。
特に相手がこの迅ならば尚更だ。
シュ、ザシュ。
先手を取る。
そう告げるが如く、ノーモーションで放たれた迅の木製の手裏剣がデストロイベアの右眼を貫いた。
「グギャァ!!」
シュ、シュ、ザシュ、ザシュ。
続けて迅は手裏剣をデストロイベアの喉を狙い投擲。
喉に刺さりはしたが、その肉は厚くデストロイベアに致命傷にはならなかった。
「グルルァ!!」
片眼を失いつつも、デストロイベアの驚異は落ちない。
むしろ、興奮しており驚異は増している。
シュ、シュ、シュ、シュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ。
四連射。
額や胸など正中線に沿って命中する。
だが、皮膚には刺さるが骨の固さと肉の厚さからやはり致命傷には至らず。
ダダダッダ。
二足歩行で走ってくるデストロイベア。
迫ってくる敵に対し、迅はシリウスを抱えてその死角に回る。
デストロイベアもそれにあわせて向きを変える。
しかし、その一手遅れた隙を迅は見逃さない。
迅は銅線をデストロイベアに飛ばし、銅線を右腕に絡みつける。
カシャンカシャンカシャン
「紫電派生式 紫電通し」
ビリビリビリ
銅線を通り流れる電流。
それはデストロイベアの肉体を貫く。
「グギャァァァォ!!」
デストロイベアが電流で痺れているところを迅は真正面に駆け抜け、すり抜ける。
シリウスを抱えた逆の手で忍び刀を逆手に抜き、すり抜けて背後に回ると体重をかけてその首筋に刃を突きたてた。
「凄い」
シリウスからすればほんの一瞬の出来事であった。
だが、迅は何も語らない。
はたから見たら完勝ではあるが実際はそんなことはない。
あくまで迅がひたすら先手を取り優勢を押し付けただけだったからだ。
迅としては最初の目潰しがそのまま効いただけだと思っている。
事実、手裏剣はデストロイベアの眼球以外は効いていない。
眼球を片方潰したから機動力で隙を作ることができ、紫電を叩き込むことができた。
紫電が効いているからこそ、筋肉が弛緩し、刃が通ることができただけだ。
それがこの戦いの全てだ。
つまり、紫電がなければこの結果にはならなかった。
紫電頼りの戦術に、火力不足の現状を実感する。
「迅……その、降ろして」
迅はシリウスを抱き抱えたままなのを思い出し、降ろす。
降ろされたシリウスは顔を赤らめている。
彼女の様子を見てその理由がわかった。
「歩ける?」
「うん」
「あとで川で水浴びしようか」
シリウスはこれには答えず。ただ頷くだけだ。
彼女の服は泥だらけである。
腰が抜けても這って鳴子をならしに行ったからだろう。
考えてみると、それがデストロイベアに発見されなかった功労なのかもしれない。
だが、汚れはそれだけではない。
下腹部が湿っているのだ。
つまりは、そういうことだ。
そこで迅はあることに思い至った。
「そうだ、硝石を作ろう」




