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ヒロインは主人公が挫けた時に叱咤激励してナンボと思う。

 広場に人は集まる。

 だが、夕日の見える時間になると、人の数は極端に少なくなる。

 そんな時間帯に迅は一人、ベンチに座っていた。

 サイスフェレットの群れを撃退した後――つまり、知り合いの牧場主が死亡した後様々なことがあった。

 まず、イデンの指示で呼ばれたモンスターハンターたちが合流した。

 その中に[牙狼の新生]たちが居たのが迅にとっては幸いだった。

 見知った友人たちが居るのは精神的に落ち着く。

 牧場主のことは[牙狼の新生]のメンバーも知っているので感情を共有できた。

 それからは王国の守護隊も合流。

 遺体の回収と負傷者の救護が行われた。

 王国で治療を受けながらの事情聴取が過ぎた頃にはすっかり夜になってしまった。

 治療の最中にアイリスたちに夕食は同席できないことを伝えて貰ったので二人に関しては問題ない。

 今、一人なのはそうしていたかったからだ。


(迅、聞こえていて隣に座っていいなら左手挙げて)

 アイリスの心の声が聞こえる。

 迅はその心の声に従って左手を挙げた。

「じゃあ、失礼するね」

 迅の隣に座る。

 その片手には紙袋が握られている。

「わざわざ口に出すんだ」

「会話するなら、口に出すのがいいんだよ。そりゃ、心の声が聞こえるから必要ないかもしれないけど」

「そうか……そうだな」

 アイリスの言葉から、同じ視点で会話することが必要なんだというのを感覚で理解する

迅。

 迅の視線が紙袋に向けられると、アイリスは紙袋から中身を取り出す。

 それはパンだった。

「食堂で貰ってきた食べよ」

「夕飯はいらないって伝わってなかったか?」

「伝わってるよ。ハンターの人が伝えてくれた」

「なら、どうして?」

 迅の問いにきょとんとするアイリス。

「迅が心配だから来たんだよ」

「……すまない」

 アイリスの答えに謝罪するしかなかった。

 アイリスは両手にパンを差し出す。

「いいよ。それで右はチーズ入り、左はリンゴ入りだけどどっちにする?」

 二つの選択肢。

 迅はイデンの依頼先にあったリンゴの樹を思い出す。

 彼はリンゴがどのような味なのか知らない。

 故に彼は左を指差す。

「リンゴ、食べたことないんだ」

「じゃあ、チーズ貰うね」

「ありがとう」

 二人は手を揃える。

「いただきます」

「いただきます」

 二人きりの夕飯が始まった。


「リンゴのパン、甘味がいいな」

「でしょ。先ほど届いた新鮮なやつなんだってさ」

 タイミング的に察する迅。

「あー、なら俺が収穫したやつかな」

「そうなんだ」

「その帰り道にサイスフェレットの件を知った」

 迅の言葉で静けさがした。

 アイリスは優しい顔をする。

「そう……なんだ」

「あぁ、それで意外にも堪えている」

「それは普通なんじゃないの? あの人とは全く知らない訳ではないし」

 迅は首を横に振る。

 次の言葉をアイリスは見守る。

「ここに来る前――前の世界の俺なら知人程度の死では動揺なんかしない。仲間の死でも運や実力がなかったで済ませていた」

 迅は自作の兵糧丸を取り出す。

「これと同じだ。保存食という機能を追求した結果、味や食べやすさなんか二の次。任務成功という結果のためにそこら辺の部分を切り捨てていた」

「今はそれがあるんだ」

「あぁ、だから堪えている」

 ナデナデ

 頭をアイリスに撫でられているのを迅は感じた。

「もし、元の世界に、ここに来る前の時間に戻れるとしたら戻りたい?」

 アイリスの問いに首を横に振る迅。

 元の世界に会いたい人が居ないかと問われれば、彼は迷わず首を横に振る。

 幼なじみの雪をはじめに仲の良かった同僚たち。

 そして、異母兄さん(にいさん)

 だが、もう戻れない。

 それは物理的な意味もあるし、精神的なものでもだ。

 だから答えは決まっていた。

「いいや、戻らない。あの時に決めたんだ」

「そう」

「何より――」

「何より?」

「今の俺も、この場所もそんなに嫌いじゃない」

 迅の言葉にアイリスは笑顔で答える。

「それは嬉しい話だね」


 互いに二個めのパンに突入し、その味を楽しんでいた。

 そこで、迅はあることに気付いた。

「そういえば、カッファと夕食は食べなかったのか?」

「あぁ、そのことか」

 アイリスは手に付いたパンのクリームをペロリと舐める。

 少し艶かしい。

「カッファは今回の件で色々動いてるんだ」

「動く? どうして」

「今回の件の一旦がカッファにあったからだよ」

 アイリスの話しによると、牧場主がカッファに販路拡大の話を持ち掛けたところ、アファイサでの販売を提案された。

 本日はその打ち合わせだったらしい。

「それこそ、カッファが結構堪えていたよ」

「確かにな。意図しないとはいえ、自分の提案が結果的にそうなったら辛いな」

 迅は今朝カッファと別れた時のことを思い出す。

 仕事の打ち合わせをするために待っていたら突然の訃報。

 責任感の強い彼にはきつい話だ。

「だからさ、何かカッファに頼まれたら力になろう」

「そうだな」


 食事は終わり、二人はベンチに座っていた。

「とりあえず、アイリスの方はどうだった?」

「私の方は今できる打ち合わせは終わったかな。後は村の職人さんを誰か呼んでからの正確な打ち合わせ。部品の見積りとか本格的なやつだね」

 指折りやることを確かめるアイリス。

 正直、一年以上かかりそうなプランでやらなくてはならないことが多い。

 だが、迅は計画の達成のための懸念があった。

「街道の整備を並行した方がいいんじゃないか?」

 アイリスは迅の言葉の意図を察する。

 街道を整備することで柵などを作り警備を強化する意図なのだ。

「確かに。物資の搬入とかもそうだし……今回みたいな事態も防げる」

「更に中間地点も作らないとな。町とか」

 それは今まで定期的に市を開催して地方の村々に対応していたが、そのような形をとらなくて済むことを意味している。

 迅は知らないが、アイリスの両親がやろうとして巨大モンスターにより阻まれたモノだ。

「知識は人の歴史。だからこそ、それが断絶されないように紡ぐ必要がある。そういうことだね」

「そうだな。今まではここはここで完結できたが、その先を目指すってわけだ」

 アイリスが立ち上がって、楽しさを表すように障害のない足を支点にくるりと踊る。

「迅、最高だね。私たちは今、新しい未来を作れるところに居るんだ」

 アイリスの楽しそうな笑顔。

 二人は知るよしはないが、彼女はこの時やっと()()から解放されたのだ。

 自身がかけた[赤の士族]という呪いを。

 両親が持っていたその称号を取り戻すこと。

 それは彼女にとって成さなければならない義務であった。

 それに尽力していた彼女であったが、遂にそれが成された。

 ここからが彼女の真のスタートだ。

「じゃあ、その未来に向けて俺はモンスターハンターとして」

「私は[赤の士族]として」

 二人は握手をする。

「頑張ろう」

「うん」

 特に意味はない口約束。

 だが、二人に宿った互いを鼓舞する約束であった。


六話「それぞれの道の始まり」

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