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全ての登録されたモンスターハンターはアヘ顔ダブルピースから始まる

 強烈な睡魔が襲う。

 しかし、周囲には数十匹のイタチに似たモンスターの群れ。

 このまま眠ったら背後で眠っている彼女もろともこのモンスターに餌になるのは確実だ。

 選択肢は()()()

 そのうちの一つを実行。

 ブシュリ

 忍び刀で左手の手の甲を刺すが痛みはない。

 気付けにもならず、眠気は止まらない。

 どうやら、もう一つの選択肢を選ばなければならないようだ。

 迅は取りたくない選択肢に辟易する。


 話は数時間前へと遡る。


 城に来て三日目。

 三人は食堂で朝食を取っていた。

 食事は全員パンで、各自挟むものが違うだけだ。

 これはコックの都合である。

 朝食を食堂で取るものが城内に多いのに反比例し、朝に働くコックの人員が少ない。

 そのため、朝食は簡易なモノを大量に作るという構図になっているのだ。

「ところで、二人とも今日はどうするんだ?」

 ハムを挟んだパンを食べながらカッファが訊ねる。

「妾は仕事の打ち合わせ。こっちに派遣する人材の割り当てとかあるから」

 半熟卵を挟んだパン食べているアイリスの返答。

 これからの仕事の打ち合わせとして、人材の調整だけでなく仕事をする上での取り掛かるものが山ほどある。

 少なくとも、一年以上かかるのが予想される。

「こっちはモンスターハンターになるための手続きをしようと思う。二人とも手続きわかるか?」

 既に焼き魚を挟んだパンを食べ終えた迅の返答。

 昨日の謁見で王に宣言したこともあり、迅速に対応しなくてはならない。

 迅の問いに二人は首を横に振る。

「知らないけど、事務所行けばいいんじゃないかしら」

「事務所?」

「あぁ、モンスターハンターの事務所。そこでハンターに依頼の申し込みをするんだ」

 モンスターハンターの依頼は直接ハンターに依頼するのでない限り、モンスターハンターの事務所で依頼する。

 そして、ハンターが依頼を受注する形になる。

 直接ハンターに依頼するのと違い、事務所を通すので事務所に手数料を支払う必要がある。

 ツテがないと依頼達成のできるハンターに頼むことが出来ないので、手数料を支払って依頼するのが殆どである。

「迅、俺はこのあと会社の本部に向かわないといけないから途中まで送るよ」

「そうか、それは助かる」

 ここに来てから三日目だが、殆ど城に居たため地理に疎い。

 カッファが道案内してくれるのは渡りに船だった。

「ということは、今日は皆バラバラなわけか」

 ちょうどパンを食べ終えたアイリスが呟く。

 城に来た初日から三人で行動することが多かった。

 三人バラバラになるのはこれが初である。

「そういえばアイリス、階段とか大丈夫か?」

 アイリスの足のことを心配する迅。

 カッファも同意するように頷く。

「大丈夫。基本的にこの階で話するみたいだし、移動して階段を昇降することも考えて女性兵士も同行させるって昨日のうちに連絡されたから」

「抜かりないな」

「本当そうだ」

 手際の良さに感嘆する。


「じゃあ、終わったら宿でね」

「夕食にまた」

「行ってくる」

 夕食の約束をして二人はアイリスと分かれる。

 城内を出て城下町に入ると、城内とは違う活気に溢れていた。

「本当に人多いな」

「まぁ、首都だからな。そういえば、ここのテーマ話したっけ?」

「ここで完結するという話だよな」

「そうそう」

 モンスターが蔓延り(はびこり)、生命の危険が隣り合わせにある世界。

 だからこそ、安全に生活できる環境を作ろうとした。

 それがこの国アファイサである。

 アファイサは、民がこの国で一生を過ごせるように自給自足ができる環境の構築を推し進めている。

 迅たちが食べていたのもその一貫であり、養殖が進んでいる。

 それを聞いた迅は食産業が自分の居た世界よりも進んでいて驚いていた。

「だから人が集まるんだ。ここでなら安心して生活できるからな」

「モンスターは居ないが、人同士で争う世界に居た身としては羨ましい限りだ」

 野盗などの被害にあう小さな村をそれなりに見てきた。

 それ以外にも大規模な戦があると周辺が巻き込まれるのは珍しくない。

 本来なら関わる必要などないのだが、異母兄さんは情報収集を口実に助けていたのを思いだし、つい口が緩む。

 それを知らずか、カッファは切ない表情をする。

「あくまでここはモンスターが一番危険だからな。皮肉なことに、モンスターの動きが活発でない他国では人の犯罪も少なくない……人の売り買いもある」

「そっちもか」

 [青の士族]故に他国への交易の経験があるカッファ。

 自国にはない人身売買という他国の闇の部分。

 それを大したことないように発言する迅に、彼の元居た世界に衝撃を受ける。

「ここで人の売り買いが発生しないのは色々な要因があるだろうが、一番は虐げられたヤツの復讐が容易なとこだろうな。モンスターが来るように手引きすればいい」

「というと?」

「自身の生存を考慮しなければ、モンスターが入れないように閉じていた門を開放しておくだけで復讐はできる」

「……なるほど。そいつは簡単だな」

 自爆のような手段だが、有効な手ではある。

 そして、実は既に実施された手だ。

 迅は勿論、カッファも知らぬことだが、カッファが過去に訪れた場所でそのようなことが起きていたのだ。

 買った人は寝込みを襲われて死亡が確認されているが、手引きした買われた人は行方知れずになって終わっている。

 それは、この世界ではモンスターによる人死が珍しくないのと、そういう手段を用いた復讐方が知られると人身売買の売れ行きが下がることを危惧されたからだ。


 その後も適当な雑談をしながら歩いていく二人。

 十字路に差し掛かると、カッファが右を指差しした。

「ここでお別れだ。そこを右に行って三軒先の大きな建物だから」

「ありがと。じゃあな」

「あぁ、夕食で」

 カッファと別れる迅。

 指示通りの道筋を進むと、言われた通りの大きな建物がある。

 大きな看板には、[モンスターハンター事務所 アファイサ支部]と書かれている。

 看板の文字を読める自身に、この世界に馴染んできていることを自覚し嬉しい反面、僅かな悲しみを感じる迅であった。

「あ、あのいったいなんですか!?」

 ドアを開けて事務所に入ると、争いのような声が聞こえた。

 声の先に視線を向けると、三人組の男が一人の少女に絡んでいるのが目に映る。

「お嬢ちゃん、ここが初めてみたいだからイデンの旦那がここのルールを教えてあげようって話なんだよ」

「そうそう、イデンの旦那のアドバイスはためになるぜぇ」

「それはありがたいね。俺も初めてなんだ」

 少女とチンピラ風の二人の間に入る迅。

 迅の居た世界にもこういう連中はごまんとおり、咄嗟に閃の模倣をした。

「そうか、ならば教えよう」

「教えてやってください!!」

「そうですぜ、イデンの旦那!!」

 二人が道を開け、そこから旦那と呼ばれる人物が近づいてくる。

 その背の高さから高身族であることが伺える。

「しまった、その前に自己紹介が先だったな。私はオークのイデン。シングルスターだ」

「イデンの旦那の一番の片腕のジャイア」

「おい、僕こそが一番の片腕のホジャイ」

 三人の突然の自己紹介。

 予想外の対応に虚をつかれる二人だった。

「あ、ありがとうございます。私はルキュレと申します」

「はじめまして俺の名前は迅だ」

 自己紹介にはしっかりと自己紹介で返す。

 イデンと名乗るオークの男は二人をジロジロと観察する。

「ところで君たち、ハンターの登録証はお持ちかな?」

「ハンターの登録証………ですか」

「まだです。ハンターになる手続きをしにここに来ました」

 迅の返答にイデンは溜め息をつく。

 取り巻きの二人もやれやれといった様子だ。

「えーと、ルキュレと言ったね。君もここにモンスターハンターの登録に来た、それでいいかな?」

「は、ハイ。そうです」

 彼女の返答にばつの悪そうな顔をするイデン。

 そして、彼は衝撃の事実を口にする。

「残念だが、ここで登録は出来ない」

「えっ、ここはハンター事務所ですよね?」

 当然の迅の疑問にふふっと笑い出す取り巻きの二人。

「ハンター事務所だからって、登録所も兼ねてるのは早計」

「まぁ、僕たちもその口だけど」

 自分たちのことを棚上げしつつ、どや顔をする。

 そんな二人をイデンは制止し、口を開く。

「というわけでよく居るんだよ、間違えて来るの」

「では、どうしたらいいですか?」

 ルキュレの問いにイデンたち三人は入り口に歩いていく。

「案内するから付いてきなさい」

 このあと、登録所までの道案内だけでなく手続きも手伝ってくれたのは語るまでもない。


 その頃、アイリスの方は―――。

「えっ、迅様は既にモンスターハンターの登録に向かわれたのですか!?」

「そうだけど、どうしたの?夕食は一緒に取る予定だから伝えるけど」

 設置場所の下見をしているところを突如メイドに声をかけられたアイリス。

 迅を捜している様子なので、現在迅とは別行動していることを伝える。

「王様が迅様にモンスターハンター登録所宛に紹介状を書いたので、渡すようにと」

 メイドが書状を入れた筒をアイリスに渡す。

 受け取った書状を自分のバッグにしまう。

「紹介状ということは、キャンサーデビル討伐の褒賞でスタートをシングルスターにしてくれということかな」

 アイリスの推理に目を丸くするメイド。

「その通りです、凄いですね」

 王様は紹介状を口にしながら書きあげており、その場にこのメイドは居た。

 だから内容を理解している。

 アイリスの慧眼に本心から感嘆した。

「迅には渡すよ。でも、迅だったらこの褒賞断るだろうね」

「何故です?」

「既に支払って貰ってるから」

 アイリスは昨日の謁見を思い出す。

 アイリスが[赤の士族]の称号を勝ち取り、迅がモンスターハンターになるのを決意した後のことを。

『ところで、王よ。褒賞の方を頂きたいがいいかな?』

「おい、そろそろ次の予定場所行くぞ」

 昨日のことに意識が向けられていたが、呼ばれたことで今に戻る。

 少し先に行くことで話を聞かないよう配慮してくれたようだ。

「すいません、行きます」

「こちらこそすみません、時間をとらせて」

「気にしないで、あなたも仕事をしただけなんだから」

 そういってアイリスはメイドに手を振って去っていく。


 登録所で手続きが完了した。

 簡単な書類作成と写真と呼ばれる映像記録を行い、モンスターハンターになることが出来た。

 写真撮影は初年は特殊なポーズを取らなくてはならないが、イデンの指示通り出来たようだ。

 目の焦点を合わさず、笑顔で舌を出して両手でチョキをするという特殊なポーズだった。


 そのポーズを後世ではアヘ顔ダブルピースと呼ばれることになるのは、当時誰も知らなかった。


 手続きが終わり、登録証を受け取る頃には昼頃になってしまった。

「このあと、事務所での依頼の受注の仕方とか教えたかったがこんな時間か」

「確かに、もうお昼ですね」

「事務所の二階で食事でもします?」

「食事出来るんですか?」

「あぁ、モンスターハンターの事務仕事は一階のみで、二階からは食堂になってるんだ」

「更に三階は宿屋。旅のモンスターハンターが宿泊できるようになってるんだ」

「至れり尽くせりだな」

 最初の時が嘘のように仲良く打ち解けた。

 事務所の方で何を食べるかイデンを除く四人で話していると、何か考え事をしているイデンが何かを思い付いた。

「お前たち、少しお昼には遅くなるが仕事に付き合ってくれないか」

 

 

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