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自然を使った再生可能エネルギーが叫ばれるが、最高の再生可能エネルギーは人力だと思う。

 トントントン

 時は残寒気、ホビットの村。

 市に参加し、キャンサーデビル倒してから一月が経過していた。

 迅は、ホビットの村の共有の炊事場にて今夜も夕飯を料理していた。

 本日はいつもの三人分でなく四人分。

 カッファがアイリスたちに話があるということで来たのだ。

 

 炊事場、いや村全体が迅が来る前より明るくなっていた。

 それは迅が教えた発電技術によるモノ。

 水車を使用した水力発電とホビットたちの技術で製作された電球により村全体が電灯の明るさに包まれたのだった。

 カッファがこの光景を見た時、驚愕のあまり口が閉じなかったのには思いだし笑いをしてしまう。

 電気の熱を使い、調理器具や他にも転用する話が出ている。

 迅としては自分たちの暮らしていた[雷光衆]の里でも成していないことができるのかと疑問であったが、ホビットたちの技術力なら出来てしまう気がしていた。

 グツグツ

 考え事をしている間に山菜の味噌汁が煮だった。

 夕飯の赤飯に魚のヒラキ、山菜の味噌汁、そして漬物をお盆にのせる。


「はい、できたぞ」

 村長家の食卓に作った料理を並べる。

「美味しそうだな」

「美味しそうじゃなく美味しいんだよ。迅の料理は」

「出汁だっけ?なんか味わい深いんだよな」

 迅の料理が初見なカッファに対し、アイリスとリオンはどや顔をする。

 食べる専門の二人が何を言っているんだと思いつつも、褒められたことが嬉しい迅だった。 

「いただきます」

「いただきます」

「この世の循環に感謝を」

「この世の循環に感謝を」

 それぞれが食材に感謝を向けて食事が開始される。

 作られた料理は美味しく、穏やかで暖かな時が流れた。

 

「それで、話って何? 迅が来てから話すということだったけど」

 食事が終わり、食器を片付けたところでアイリスが切り出した。

 一枚の手紙をカッファはアイリスに手渡す。

 手紙の押印に使われている蝋の印でアイリスは誰からか察する。

「王様からか、サトリ草の納期はまだ先なんだけど」

「何が書かれているかは知らないが、おそらくキャンサーデビルの件だろうな」

「その理由は?」

「商会に来たんだよ、王都守護隊が」

「王都守護隊?」

 迅の問いに、カッファは「あぁ、そうか」という顔をする。

「王都守護隊はその名の通り王都を護る国家防衛組織」

「訓練を積んだエリート集団とモンスターハンターのダブルスター以上のチームで勧誘された連中で構成されてるんだ」

「そういう強者連中が基本は王都周辺の警備、たまに危険度の高いモンスター退治に駆り出されるってこと」

 カッファ、リオン、そしてアイリスの三人の説明になるほどと頷く。

 そして、迅はあることに気づく。

「キャンサーデビルはそういう案件なのか」

「そう、そして問題はそこなんだ」

 キャンサーデビル退治に関して起きた問題。

 それは本来なら起きないことだった。

「全部ないんだよなぁ」

 頭部から下は蟹肉と変わらなかったので蟹雑炊と塩漬けとなった。

 首から下の殻は迅のアドバイスにより小さく砕いた後、ホビットの村に送られて水力を使った臼により粉々に粉砕。

 粉状になったものを肥料として市に参加した希望者にカッファの手配によって配布した。

 頭部も抵抗がある人が多かったが、問題ない連中が少なからず居たので、宴の際にその胃に備わった。

 骨はスープに使われたらしい。

 キャンサーデビルの死体、処理完了。

「流石に守護隊も困惑してるよ。退治に来たら済んでる。そして、その死体はありませんだからな」

 本来の退治方法は殻に覆われてない頭部を毒で狙う。

 それ故に死体はそのまま残るのが常であった。

 だが、そのセオリーとは全く別のこととなったのだ。

 現在、王都の方でキャンサーデビルの塩漬け肉が高額で取引されているが、その時のなのかは確証はない。

 出回った時期を考慮すると間違いないが、あくまで状況証拠ばかり。

 この高額取引も市で売られていたモノが転売されていったモノなので調べるのは難しかった。

「やっぱりその案件。私の専属みたいだから迅を連れて来てくれってさ」

 手紙を読んだアイリスが、手紙を皆に見えるように掲げる。

「[アイリス、この度はキャンサーデビル討伐の報奨で汝に赤の士族の称号を授与する。そのため、件の中心である汝の配下と共に来城を命じる]か」

「[赤の士族]の称号授与か」

「そういうこと」

 [赤の士族]。

 その単語が出た時、リオンとカッファが複雑な表情をする。

 何か特別な意味を持つことは理解するが、それがどのような意味を持つのかはわからない。

 だが、自身が関与する以上問わなくてはならなかった。

「重ね重ねすまないが、赤の士族って何だ?」

「……この国[アファイサ]では国の発展に貢献したという一族には色の士族の称号を与える」

「俺も祖父が市を開催するようにしたから[青の士族]の称号を貰っている」

「アイリスは赤の称号を貰えるのか」

「迅、それはな」

「いや、いいよカッファ」

 カッファの言葉を遮るアイリス。

 一呼吸してからアイリスは口を開いた。

「迅、この称号はね。一度剥奪されたんだよ」

 そこで迅はアイリスが自身を妾でなく私と呼んでいることに気づく。

 それはアイリスが虚飾を纏う精神の余裕がないことを感じさせた。

「どういう意味だ?」

「6年前、両親が死んだ時にね、まだ幼く何の実績のない私にはそれは重いと判断されたんだ」


 街に一体の巨大なモンスターがやって来た。

 最初から街を捨てて逃げれば良かった。

 でも、皆この街に愛着があったんだ。

 だから逃げずに抵抗したんだ。

 たまたま居たモンスターハンターがメテオのクラスだったのも抵抗論を後押ししたね。

 だけど無理だった。

 大勢の人が死んで、その中に両親が居た。

 まず、父さんが食われた。

 母さんは私を庇って瓦礫に押し潰された。

 その後は記憶があやふやで、気付いたら避難民の集団に居たんだ。

 そこから何とか王都まで行って両親のこと、街のことを王さまに報告したんだ。

 その時に『幼いお主には[赤の士族]は名が重すぎる』ということで剥奪されたんだ。


「仕方がないのはわかっている!! 士族という称号が幼い子どもにどれだけ重いものなのかも。わかっているけど、それが私のお父さんとお母さんの絆だったんだよ……」

 つい感情が高まり嗚咽を漏らすアイリス。

 そんな彼女を優しく慰めるリオン。

「それから親類である俺のところに送られたんだ」

「そうか」

「とりあえず、お茶にしよう」

 カッファの提案でアイリスが落ち着くまで少し小休止することにした。


 小休止により、アイリスも少し落ち着いた。

 アイリスは過去に王に言われたことを語る。

「確かに、王はサトリ草を卸すようになってから『いずれは[赤の士族]の称号を授与しよう』と言ってはくれていたんだ」

「だから、今回のことで授与するってことか」

「そういうことだと思う」

 願っていた称号の授与。

 それなのに、アイリスはうかない顔をしている。

 望んでいたものが手に入るのに心の中にはしこりのようなものを感じていた。

「あぁ、アイリスはあくまで自分の力で[赤の士族]の称号を勝ち取りたかったのか」

 その迅の言葉はアイリスの悩みを形にしたものだった。

 [赤の士族]の称号を手に入れるために努力してきた。

 だが、望まぬ形で与えられるのは嫌だったのだ。

 アイリスは大きく頷く。

「そう、そうなんだ迅。私はこんな形で手に入れたくなかったんだ。自分の手で認めさせたかったんだ!!」

 自分の中のモヤモヤしたものがハッキリ出来てスッキリしたアイリス。

「だったら別のモノで授与させて貰うんだな」

「別の………モノ」

「おいおい、そんなもんそうそうあるわけないだろ

 カッファの指摘はもっともだった。

 簡単に取れるようなら誰もが士族の称号を得ている。

「別に今すぐって訳ではない。いずれ、っていう話だ」

「つまりは実利を取るか理想を取るかの選択だな。不本意だが確実に貰える道か、本意だが不確実な道を選ぶかだ」

「……悩む必要ないだろ、そのために努力してきたんだから」

 理想を取ることを主張する迅と、実利を取ることを

主張するカッファ。

 そのどちらも正解であり、不正解である。

 一長一短という言葉があるように、メリットとデメリットの天秤をかけた上で選択しなくてはならない。

 ただし、設定の前提がそのままであればの話だが。

「いや、あるよ。あったよ」

 アイリスの言葉に三人がアイリスを見やった。

「キャンサーデビル討伐を遥かに上回るだろうネタがさ!!」

 アイリスは天井を指差した。

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