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21 桃園の主

2023/1/15

今日は、2話投稿します。

1話目。

次は8時です。

ドーン


大きな音が立った筈なのに、誰もやってこない。

俺は、美紅ちゃんの小脇に抱えられて律ちゃんの元へと向かう。

いや、向かうのは美紅ちゃんかな。

先程まで迷宮のように空間がねじ曲がっていたのにすんなりと律ちゃんの部屋にたどり着く。

駆けてきた勢いそのままに戸を開ける、美紅ちゃんが。


「律。無事か。」


「律様。」


「やっと帰って来た()。もちろん、なんとも無い()。それより、歩智は百合さんを助けに行ったはずよ()。百合さんは、無事?何処にいるの()?」


「ゆりゆりは、無事だ。さっき大きな音がしたから急いで戻って来たんだ。それに百合さんは、意思が戻らないから連れてこれなかった。」


「馬鹿ね、百合さんの命が一番危険だから追いかけさせたの()。それなのに、そのままにして寝かせてきたの()。それに、ゆりゆりって何音()?」


「そうは言っても、あんな大きな音がしたんだぞ。やっぱり心配で駆けつけるしかないじゃないか。(ゆりゆりについては触れてはいけない。つい心の中での呼び名が出てしまったのだ。)」


「チッ。悔しいがこの変態の言う通りだ。私は、律様の護衛なのだ。異変があれば駆け付けなくてどうすると言うのだ。」


「律ちゃんの事は大丈夫音()。静音おねぇさんを信じなさい()。それに、さっきの音は、問題ない()。むしろ、応援が来た()。」


「「応援?」」


「律や~。じぃじが来たぞ~。歩智、そこに布団を敷け。」


「導真様」「導真公」


導真様が、ゆりゆりを抱えてやって来た。


「ほれ、早う(とこ)を用意してくれんかのぉ。」


今の俺は、霊障浮遊(ポルターガイスト)すら出来ないので、美紅ちゃんが代わりに布団を敷いてくれる。


「歩智、静音、ご苦労じゃったな。」


導真様は、百合さんをそう言いながら布団に寝かせ、俺の頭を一撫でする。


「じゃが未熟も未熟。今回は、何とかなったがこれは修行して力を付けんと行かんの。静音は、良い働きをしたのぉ、(ポチ)が出来て張り切ったのじゃな。」


「そう()。お姉ちゃんだから当然音()。」


静音ちゃんは、小さなお尻をフリフリして誇らしげに頷く。導真様に褒められて上機嫌のようだ。


「美紅ちゃんも護衛の任、確と成し遂げたの。此度は、ほとんど対人戦と変わらんかったじゃろうが相手を傷付けんかったのは、やりにくかったじゃろう。良うやった、良うやった。」


「導真公、もったいないお言葉。されど、歩智がいなければ百合殿を斬るしかございませんでした。まだまだ精進いたします。」


口では、殊勝なことを言っているが口元がニヤニヤとしている。相当、嬉しそうだ。


「導真様、百合さんは・・・・・。」


治せるのかと問うのは簡単だが、ここまで変容した人間が後遺症も無く元に戻れるなんて、最新整形医療を使っても無理だと思われて言葉に出来ない。


「そうじゃな、律が寝ているうちに博士の娘を治してやるかのぉ。それに、どうしてこの様に変容したかも知りたかろ。」


導真様は、ことも無さげに百合さんの額に何が紙を置く。

それは、人形の頭で虎の胴の形に切った紙だった。


「これは人形(ひとがた)での。本来、人の形を紙で作りそこに邪気などを封じるのよ。そして川に流して禊をする。これが上巳の節句の(みそぎ)じゃ。それを邪気を封じずに、(こころ)を封じた。しかも異形、人ならざる形のモノに。」


「では、その中に百合さんの(こころ)が。」


「うむ、入っておる。そしてのぉ、(こころ)は入れ物の形に変わり易い。お主が少しなりともそのぬいぐるみの身体を動かせるのも同じ理屈よ。(こころ)の形が変われば、その者の身体も影響を受け変わる。死なん限りは、(しん)(しん)は繋がっておるのじゃよ。」


ゆりゆりを見る。確かに紙の形と同じ姿をしている。


「しかし、運が良いのか、わざとなのか・・・多分、後者じゃろ。この姿は、西王母じゃの。桃の節句にあやかったか、馬鹿にしよるわ。」


「導真公、西王母とは。」


美紅ちゃんが問う。

俺も気になっていたよ。


「西王母は、仙女の女主人といわれる神仙じゃ、絶世の美女だと言い伝えられておる。」


「その絶世の美女には見えませぬが。」


「西王母は、ふたつの姿が伝えられておっての。山海経によれば、人面・虎歯・豹尾・蓬髪とある。ほれ、そっくりじゃろ。」


百合さんの姿は、正にそれである。


「後に書かれた淮南子によれば、不死の薬を持った美しい仙女とされておる。その不死の薬である仙桃がなる桃園の主じゃよ。分かるじゃろ、桃の節句じゃから西王母。敵は遊んでおるのじゃ。」


「それで、百合殿はどうすれば元に戻れるので。」


美紅ちゃんがまた尋ねる。あぁ、それ、俺が訊きたかった。


「察しが悪いのぉ。西王母は、初めは今の百合博士の様な姿から美女の仙人に成ったということじゃ。ならばそれ倣えばよいだけじゃ。しかも、桃仙(=登仙)に通じるのじゃ、容易いわ。見ておれ。」


導真様は、袖から桃の小枝を取り出してゆりゆりの胸元に置く。

それは、導真が下鴨神社でゆりゆりに幻想夢幻桃花をかけた時の桃の小枝であった。


「我、全ての神仙の(あるじ)天帝(てんてい)を継ぎし者なり。天帝の名において命ずる。西王母よ、桃の気をもってその姿、人となれ。桃仙化身(とうせんけしん)、急急如律令。」


すると桃の小枝から桃の花の香りがピンク色の色彩を持って立ち込め、ゆりゆりの額に置いた紙を通じてゆりゆりの身体に吸い込まれる。


変化は劇的だったゆりゆりがピンク色の大人な光を発して、額の紙がそのピンク色の光に溶ける様に消えていく。

紙が消えていくにつれて元の姿に戻っていく。

そして光が消えると元の泣き黒子がチャームポイントの地味な雰囲気の少女の姿はなく・・・・。


「えっ、綺麗~。」


美紅ちゃんが思わず感嘆の声をあげる。

そう顔貌が変わった訳で無いのだが、泣き黒子が異様に色っぽい美少女が眠っていた。


「ほれ、簡単じゃろ。まぁ、少し雰囲気が変わったがのぉ。気の流れは良くなっておるし問題なかろう。」


不覚にも俺はあまりの美しさに見蕩れてしまうが、ツッコミを入れずにはいられ無かった。


「何処が少しやねん。既に別人や!」


導真様は、バツが悪そうに言い訳をはじめ・・・・・。


「しゃぁないねん。西王母と言えば、仙女の(あるじ)で美仙女の代表じゃぞ。擬似的とはいえ西王母の気が身体を巡ったのじゃ。影響受けて然るべきじゃ、当然じゃぁ。じゃから、儂は悪くないんじゃ。」


開き直った。


「あっ、律ちゃんが起きる()。」


律ちゃんに俺の正体がバレてはならないので直ぐにころりと転がり普通のぬいぐるみを演じる。


「おぉ、律や起きたかのぉ。」


律ちゃんは、起きると大好きなお祖父さんが居て、直ぐに抱きつきにトトトトと駆け寄っていく。


「じぃじしゃま。」


「ほれ、土産じゃ。」


土産の桃の小枝をまた袖から取り出す。


『幾つ持ってんの?その袖、収納能力凄すぎちゃうか。既にアイテムボックスやで。』


伝心でツッコミをいれるも、導真様には無視された。

導真様は、律ちゃんが可愛いすぎてそれどころでは無いらしい。


「うわ~。」


律ちゃんは、嬉しくて踊り出す。

小さな子は、嬉しいと走り回ったり飛び跳ねたりするけど、律ちゃんは踊り派の様である。


右手に神楽鈴を、左手に桃の小枝を持ち、自由に舞い踊る。

舞が佳境に入ると律ちゃんの瞳に金色の光が宿る。

先日見た現象だ。

「また、瞳が。」

美紅ちゃんが驚きの声を漏らす。

あの時は、直ぐに静音ちゃんが何やら術を使って抑えた。

しかし、今回は静音ちゃんは何もしない。

導真様もニコニコして律ちゃんの舞を愛でている。

何もしなくても良いのか?そんな疑問が生じたとき、俺はそれに気づく。


左手の桃の小枝が薄らと輝き初めているではないか。

桃の小枝の光が強まるに連れて律ちゃんの瞳の金色の光が収まっていく。


「上手くいったようだのぉ。身体に溜まり、扱えきれなくなっておった神気が発散されておる。」

導真様は、満足気に頷く。


桃の小枝は、当初、数輪しか咲いていなかった花が、今、満開を迎える。

優しい鈴の音と甘い桃の香りが、暖かい春の訪れを感じさせる。


正しく桃園の主だ。


ところで、何か忘れているような?



次で第一章おしまい。

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