18 宮中迷宮
「グァ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
ゆりゆりが、また苦しそうにまた雄叫びをあげる。
すると黒い靄のようなものが苦しむゆりゆりを包む。
「あれは、悪気音。」
「悪気ってのは?」
「悪気には色々あるから説明は難しい音。詳しくは、導真様か篁様に訊いて音。でも簡単に説明する音。普通の人には、とても悪いモノ音。悪鬼の素になると言ったら、どれくらい悪いか理解出来る音」
「呑気に喋ってないで。何とかしないと。」
「そう音。」
静音ちゃんは、忙しなくお尻振り始める。
何かの術を準備しているようだ。
「ガッア゛ア゛ア゛ア゛ア゛。」
より大きな咆哮が鳴り響くと悪気がゆりゆりに吸い込まれていく。
「駄目!間に合わない音。」
悪気が晴れて出てきたゆりゆりは、大きく変容していた。
鬼のように歪んだ顔、身体は虎のように黄色に黒色の縦縞模様の毛皮に包まれ、細長い尻尾は、黒色の円模様の豹柄。
「うそ。何あれ。」
美紅ちゃんは、刀を今も苦しそうに吠えるゆりゆりに向けてはいるものの、驚愕を隠せずにいる。
「もう、手遅れなの。」
美紅ちゃんが覚悟を決めた表情を浮かべイナリ丸の柄を握り締める。
「どうすることも出来ないのか。」
あの、大人しそうなゆりゆりの余りの変っぷりに弱気な台詞が漏れる。
「大丈夫音!これくらい、導真様ならまだ治せる音。」
静音ちゃんが、まるで自分の事のように胸を張り宣言すし、ついでに、お尻を一回左右に振る。リーンと透き通る音がなった。
何故か、その音を聞くと俺の中にあった焦りと諦めが消える。
「二人にも悪気が纏わりついてた音。だから、弱気になってたの音。祓ってあげた音。」
「じゃあ、ゆりゆりも治せないのか。」
俺は、静音ちゃんが悪気を祓えるなら、どうにか出来ないかと期待を込めて訊ねる。
「うん。悔しいけど身体に入った悪気を浄化するのと纏わりつくのを祓うのとじゃ、全然違うの音。」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。」
つい静音ちゃんにあたってしまう。
「落ち着く音。方法は、有る音。それは」
「呑気に話をしている暇はなさそうよ。」
先程まで虎咆をあげていたゆりゆりは、静かに佇んで爪をこちらに向けている。
「来るわ。」
美紅ちゃんが、振り下ろされる爪を鞘に入ったままの愛刀で受け止める。
ピシッ、バリッ。
鞘が一気に砕け刃が露わになる。
人の爪と鋼の刃との鍔迫り合いは、どういう訳か互角に力比べをしている。
しかし、両手の美紅ちゃんに対してゆりゆりは片手。
ゆりゆりが空いた手で追い討ちを欠片る。
「やらせるか。」
俺は、咄嗟に霊障浮遊でゆりゆりに体当たりをくらわせる。
ゆりゆりは、何故か大きく飛び退く。
先程美紅ちゃんに突かれた鳩尾に当たったのだろうか。
しかし、少し大袈裟な気がする。
互いの間合いが開いて仕切り直しかと思って身構えていると。
ゆりゆりが突然踵を返して部屋から出ていってしまう。
「なに、逃げる・・・だと!」
「駄目!追って音。そうじゃないと助けられない音!」
「あぁ、確かに外に出られると不味いな。」
美紅ちゃんの動きは早かった。直ぐさまゆりゆりを追いかける。
「歩智も行く音。美紅ちゃんだけじゃ、百合さんを殺せても助けられない音」
「俺が行けばどうにかなるのか?」
「さっき、歩智が体当たりした時に歩智の身体に少しだけど雷を纏ってた音。それが百合さんに伝わって中の悪気を少し焼いた音。だから逃げた音。」
「そうだったのか。ただの体当たりにあんな過剰に飛び退いたのか。」
「そう音。歩智の雷は導真様の神通力が宿っている音。だから、悪気を浄化出来た音。もっと沢山の雷を浴びせることで百合さんの中の悪気を全て焼くことが出来る音。」
「分かった、でも百合さんも感電したりしないか。」
「それは大丈夫音。歩智がしっかり制御すれば良い音。悪気を焼き祓うって、助けるって強く意識する事ね。それに、今は百合さんも変化してるから耐久力も上がっている音。少しくらい感電しても火傷もしない音。」
「そうか・・・良しやってやる。」
俺は、美紅ちゃんとゆりゆりの後を追って勢いよく駆け出した。
実際は霊障浮遊で床から30cmほどの低空飛行だけど、細かい事は気にしない。
『おかしい。』
こんなに騒がしいのに誰も様子を見にこないなんて。先程までは、部屋に静音ちゃんの消音結界が張られていたから誰も来なかったのだろうけど。
廊下にまで静音ちゃんの結界は無い。
それなのに恐ろしい程に静まり返っている。
キーン。
金属音が聞こえる。あっちの方向か?音の方に向かって飛ぶが途中で行き止まりにあう。
カン。
今度は、後ろの方から聞こえた。
移動しながら闘っているのだろうか、音が毎回違う方向から聞こえる気がする。それとも、俺が見当違いの所を探し回っているだけか。
慌てて部屋を飛び出て忘れていたが霊障浮遊で飛ぶ姿を誰かに見られるのは不味いのでは?その事に思いあたったが、緊急事態だ。後の事は導真様に丸投げだ。とにかく誰かに見つかる前に美紅ちゃんと合流すべく急ぐ。
不思議なことに、人が居ない。結構な距離を飛び回っているのに行き止まりはあっても廊下が外へと繋がるることがない。
宮中は広いとはいえ、さすがにおかしい。先程まで両側が簾で仕切られ零れ日が薄らと廊下を照らしていた。今は、戸に囲まれた暗い廊下にいる。
空間が歪んだ迷宮に囚われたのかもしれない。
『この迷宮を、あの悪気が作ったか。』
それは無いだろう、エネルギーの塊みたいなアレにこんな手の込んだ迷宮を作れるとは思えない。
きっと、ゆりゆりに何かした黒幕が俺たちを結界に閉じ込めたに違い無い。
キン、キーン
また、音の方向に飛ぶが美紅ちゃんもゆりゆりも見当たらない。近くに居る筈だが追いつけない。
ヴ~ンヴ~ン・ヴ~ンヴ~ン
何かが震える音が聞こえる。
ヴンヴン・ヴンヴン
すこし激しく震える音になったな。なんだかスマホのバイブみたいだ。
『どなたか、携帯なってますよ~。』
って俺の尻尾が震えている。
そうでした・・・そこはスマホでしたね。俺は遠伝心の術を使う。
「歩智、聞こえる音?歩智、返事する音。」
自分の尻尾が震えている事に気づいた途端に静音ちゃんと遠伝心の術が繋がった。
「静音ちゃん?」
「やっと出た音。静音お姉ちゃん音。」
「静音お姉ちゃん。どうしたの?」
「どうしたの?じゃぁ無い音。百合さんは無事音?」
「それが、まだ美紅ちゃんと合流出来てないんだ。音がする方に向かっているけど、廊下が迷路みたいになっていて、いっこうに追いつけないんだ。」
「バカ音。音が聞こえるなら、その場所が美紅ちゃん達と繋がっているの音。ただ見えていないだけ音。だから、その場所から動けばそれだけ遠のくの音。」
「じゃぁ、どうすればいいんだよ。」
「仕方ない音。静音お姉ちゃんが手伝ってあげる音。でも、律ちゃんを護る結界も張っているから、手伝えるのは一回だけ音。今度、音が聞こえたら、その場所で立ち止まって静音お姉ちゃんに教える音。美紅ちゃんに会わせてあげる音。」
「ありがとう。任せる。」
「ええ、任せられる音。」
何故かあの小さなお尻を振る静音ちゃんが脳裡に浮かぶ。
俺は遠伝心の為に尻尾をビンビンに立てながら、霊障浮遊で迷宮を駆ける。何故だか恥ずかしい。
キーン、カン。
聞こえた。すぐさまその場で立ち止まって静音ちゃんに遠伝心を送る。
「静音ちゃん、聞こえたよ。」
「静音お姉ちゃん音。もぉー。そのまま待つ音。動いちゃ駄目たから音。」
『音は、空気の振動音。つまり、揺れは美紅ちゃんと繋がっている音。だっら振音の如く開け・・・振音如開。』
リーンリーンと音が遠伝心の術を通して聞こえて来た瞬間。
ドタン!
突然、右手前の部屋から戸をぶち破り二つの何かが廊下に飛び出て、また左手前の戸をぶち破り外に出て行く。
「美紅ちゃん。」
「変態あやかし、やっと来たか。」
くっくっく。まさか、黒幕さんも静音ちゃんの術と美紅ちゃんが戸をぶち破って来るとは思わなかったか、迷宮は破られたぞ。
「こんなときなのに変態扱いはやめてぇ。ってそんなことより状況はどうよ。」
「むしろこんなときだからよ。そして、状況はかなり悪いわね。素早いうえに力も爪の鋭さも増しているのよ。足止めもままならないわ。」
「分かった、任せろ。」
「あんたに何が出来るのよ。」
「方法は、静音ちゃんから聞いてきた。大丈夫だ。」
「そっ、静音ちゃんの策なのね。あんたなら何か企んでると訝しむところだけど・・・なら任せるわ。失敗しないでね。」
なんと静音ちゃんへの信頼の高さと俺の信頼の無さ。では、ゆりゆりを助けることで信頼を勝ち取って見せましょう。
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