15 静かな始まり
今日は、投稿出来ました。
導真様は、終始ご機嫌で朝餉を召し上がり、帰り際に律ちゃんの頭をポンポンと撫でて、来た時と同じように廊下をダダダダと足音を立てて去って行った。
俺は導真様の豪快で大胆な様子に唖然としながら見送る。
美紅ちゃんは、朝ご飯が食べられて只々幸せそうである。
紅葉様は、慣れた様子で、黙礼を持って見送りとする。
導真様は、ほんと嵐の様な御仁である。
朝食を食べればお勉強の時間だ。普段なら百合博士(ってもうゆりゆりでいっか。)がひらがなを教えているらしい。
もちろん、いろは歌である。いろはにほへとのソレは、歌としても優れているらしい、知らんけど。
教材に、木の小箱に白い砂が敷かれている物(砂文字盤)を使う。態々、琴引浜から運ばせた白く粒の細かい浜砂を真水で綺麗に洗って干した物らしい。強く握るとキュッ、キュッとなる。
ところで指で砂に文字を書くことで触感を刺激して物覚えがよくなる効果がある幼児教育玩具として前世でも見かけたことがある。
『流石だな。きっと導真公だろう、幼児教育にまで精通しているとは。まぁ、それに気付く俺様もすごいってことでいいだろう。』
そんな感嘆の念は、俺の伝心の術が未熟な所為で静音ちゃんには、ダダ漏れな訳で。
『これが普通音。筆を使っての書の練習なんて服を汚すだけ音。それに紙は高いの音。でも、砂にここまでこだわるのは導真様だけ音。』
そんな効果を狙っているのではなく、ただ服を墨で汚さない為の様か。それに紙も高いのか。そうだよな。異世界とはいえ、平安時代と同じような文化レベルじゃ、木簡とか使われてるのだったなぁ。
『そんなことより、何か準備とかしなくていいの音。わざわざ、導真様が今日確実に襲撃が有るって教えに来てくれた音』
そうなんだよな。飯食べながら伝心。時折、律ちゃんを愛でるなんてすごいよな。マルチタスクってやつだろか。
『準備と言っても、俺、このとおりだし。静音ちゃんは、初任務だからといって緊張しすぎじゃないか。』
『緊張なんてしてない音。ほんと生意気ね。私が、お姉ちゃん音。』
プンスカ、プンスカ、頭から湯気を出しながら、腰に手を置き怒りを表している。
マンガやアニメとかでしか見たことない感情表現が実際に見られるとは、ちょっと感動。
静音ちゃんとの戯れている間も、律ちゃんは熱心にお勉強中。一文字一文字声に出しながら指でひらがなを書いている。
「い、にょ、は、にぃ、ほ、ふへぇ、とぅ!」
最後"とぅ"はまるで昭和特撮しヒーローの攻撃時の掛け声のような気合いと共に指を行きおいよく砂から引き抜く。
砂がパラパラと飛び散って・・・。
律ちゃんは、納得いく文字が巧く書けて満足げにうんうんと頷いている。
紅葉様もうんうんとこめかみに青筋を立てている。
「大人しくなさい。」
ピシャリと叱る紅葉様は、厳しいなぁと思っていたら。
あらら、律ちゃん、しゅんとしちゃって、かわいい。でも、直ぐに大きな声で砂に文字を書き始める。
とてもいい子である。
『そりゃ、紅葉様優しいし音。この前導真様とこっそり覗いた時のゆりゆりの方が恐い音。きっとゆりゆりなら、にこにこ笑顔で、
「あなあやし。にわかに砂や。打ち振らむ。」
(ほんと不思議ですね。パラパラと雨が床を打つような音がしたとおもったら、急に砂が降ってきましたよ。の意)
なんて上の句を歌い、反省の返答を下の句で求める音。変に技法を交えないあたりは優しさ音。そして下の句が出来るまで笑顔のまま待ってる音。』
うん、ゆりゆりの方が怖い。
閑話休題
『あぁ。いいねぇ。』
真剣な舌っ足らずな幼女って、萌えますね。
午前中は、このような手習いで過ごし、昼食は重湯と漬物だけだった。どうやら、朝しっかり食べてお昼は少なめらしい。夜はどうなのだろうなんて思っていたら、律ちゃんがうとうと舟を漕ぎはじめる。
お昼寝の時間のようだ。
『あぁ〜癒されるぅ。』
俺は、何事となく昼を過ぎたことと朝から緊張しっぱなしだったので、律ちゃんの愛らしい寝顔にイヤシを感じていた。
◇◆◇◆◇
「紅葉様。」
下女が戸の外から紅葉様を呼ぶ。
「あら、何かしら。」
「文をお持ち致しました。」
「はて、どなたからかしら。」
相手に心当たりがないのか少し考えるそぶりを見せる。
文を読むと先程までの怪訝な表情が一変して紅く綻ぶ。
「分かりました。案内を頼みますね。」
律ちゃんがすやすや寝ているのを確認して行くことに決めたようだ。
「美紅、留守を頼みます。」
そう言って、紅葉様は部屋を足早に出て行った。
ふふふ貴方からの久しぶりな文に心が踊ってしまう。
夫婦となってからは、
気軽に逢えてしまうのが行けないのかしら。
実は、今日の節会に行けないのが残念に思っていたのだけど、貴方がこんな文をよこすのだから。
ふふふ。
文を持ってきた下女に案内をさせて手紙の庭に急ぐ。
途中、ぽちゃんと水滴が水面を打つ音のようなものが聞こえてヒヤリとした風が頬を撫でた。
ふと、もときた廊下を振り返ったが特に気になるものもない。
『気の所為ですか。少しヒヤリとしましたが。』
まぁ、春とはいえ、時折このような風はふくものね。
目的の庭まであと少しね。ふふふ。
◇◆◇◆◇
「麻呂も節会に行きとうおじゃる。」
「プッ、なんだその喋り方はなんだよ。」
「いやなぁ、下鴨神社の宴、行きたかったなって。巡視なんてしても賊なんて来ないって。」
「確かに、宮中ほど安全なところ無いもんなぁ。」
「あれは。律姫さまのところの・・・おっかない女官様・・・」
「あぁ、紅葉様だっけかな?プッ!」
「そうだ。紅葉様だ。宴には行かなかったのかな。」
「フッ、プッハッハッハ。」
「なんだよ。急に笑い出して。」
「いや、あの時のお前のこと思い出してな。それに、紅葉様はおっかなく無いぞ。あれは、お前が悪い。庭にいたネズミを廊下に追い立てるんだから、どやされて当たり前だ。」
「ねず公が素直に塀の外に行かねぇのが行けないんだ。姫様方のお目汚ししちゃなんねぇって気を使ったのによぉ。」
「ほんと、お前は良い男な。」
「おい、もうここら辺で戻ろうぜ。どうせ何も無いだろうし俺達も早く戻って酒宴だ。」
「あぁ、そうだな、部屋に戻って呑もう。あの時の話を肴にな。」
「もう、やめろよな。」
二人は、廊下を目には映らない壁が塞いでいることには気付かずそのまま踵を返してしまう。
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