12 初めての戦闘
戦闘シーン、緊張感ZERO。
うん、此方から先制攻撃と参りましょう。
霊障浮遊
この術は、少しだけ物を浮かせるというもの。本当は、四肢を使って高速で駆けることが出来るスペックを持つこのぬいぐるみボディだが、生憎まだ尻尾くらいしか動かせない。これでは、満足に護衛が出来ないと言うことで篁様から教えて貰った術だ。なんでも、幽霊の基本的な能力らしい。あの世を経験した俺なら複雑な印やら呪文なんやらを使わずに再現出来るのでは?そんな推察からの試みがバッチリと決まり対した修行をせず使えた。
俺を中心に半径2mくらいにる在る片手で持てる物なら1つ浮かせて運べる。術のスピードは、俺から離れる程遅くなるし、物を運ぶ速さも最大で走る程の速さ。
自分の身体を霊障浮遊で動かす。
これで短距離だが移動が可能になったのだ。
『俺って幽霊なの?転生じゃぁ無くて、ぬいぐるみに憑依してるだけ?』
そんな疑問が浮かんだ。だが考えても分からないので考えることをやめる、下手の考え休むに似たりだ。導真様と篁様が生きてる認定してくれているのだから生きてると信じよう。
閑話休題
ガタッ、ガタガタ。
霊障浮遊で美紅ちゃん後ろの棚を少し揺らす。
恐る恐る振り返る美紅ちゃん目掛けて自分を霊障浮遊で浮かせ突撃をかます。
すると、気配を感じ取ったのか美紅ちゃんはくるりと振り返りざまの上段からの振り下ろし。
狭い室内を意識して腕の振りは小さいが片足を引くことで突撃して来る俺に動きを合わせる。
鋭い一閃が俺を迎えうつ。
このまま真っ直ぐ突撃すれば、確実にその凶刃に捉えらる。
『フッ、甘い。軌道の変化くらい出来る。』
咄嗟にフォークボールをイメージして軌道を変える。
どうして、よりにもよってフォークボール選択したのだろうか。強いて言えば、子供の頃から変化球と言えばフォークボールだった。バッター手前で急に落ちる球に翻弄され豪快に空振るバッター。一度は投げてみたい、そんな憧れがあった。
『しまった。フォークボールは落ちる球なのだ。』
真っ直ぐ落とされる凶刃に対して縦方向に逃げても捉えられるのは道理。
『南無三』
ピトッ。
刃か頭に触れたのが分かったが勢いが突然失せて頭に触れたままに動きが止まった。
まるで、剣道の型稽古の寸止めの様に。
どうやら、美紅ちゃんが止めた訳では無いやうで、刀を振り下ろそうとしているが動かないため、かなり困惑している。
「どっ、どうして動かないの。」
そう言いながら、美紅ちゃんは、一足飛びで大きく後ろに下がり、中段に構えなおす。
俺は、何が起こったのか理解出来ずに空中に漂ったままにいた。
ジリジリと美紅ちゃんが間合いを詰めてくるが、こちらを警戒して攻めかかって来ない。間合いがなおも狭ばり、それに合わせて中段から脇を閉めて刃を顔の横に持ってくら八相の構えに移行する。ジリジリと近ずいて、ついに一足一刀の間合いなるやいななや刀が再び俺に振り下ろされる。
が、またピトッと軽いオノマトペと共に刃がおれの頭に触れて止まる。
「「・・・・・」」
見つめ合い、視線が絡み合う。そして、ロマンスが生まれ・・・無かった。
美紅ちゃんは、焦りからか滅茶苦茶に刀を振り回す。
しかし俺は刃に貼り付いていた。
痺れを切らした美紅ちゃんは、刃から取れない俺を素手で外しにかかっる。
今だ。
静雷の術
バリッ!
不用意に俺を掴もうとした美紅ちゃんの手に青い光と共に電気がはしる。
静雷の術、カッコ良く言って見たが、静電気を身体に纏うだけで大きな音の割には殺傷能力は皆無。
子ども科学館などで体験するあの静電気実験。長いゴム風船を化学繊維の布で扱きアルミホイルを巻いた紙コップに電気を貯める。触るとびっくりするほどビリッとくる実験のことだ。
伊達に前話からシコシコ(ちくでん)していない。
本当は、中型テスラコイル程度の静電気も発生させることが出来るが牽制にはこの程度の威力で十分と判断した。何せ化学繊維なんかもないこの時代、静電気なんて馴染みないものだろう。
美紅ちゃんは、驚きのあまりに刀を取り落とす。
その隙をついて今度は美紅ちゃんの顔に貼り付いた。
『勝負ありだ。そのまま大人しくするなら何もしない。先ずは俺の話を聞け。』
「ふぁ・・・ふぁにぉ。(な・・・何を)」
鼻と口を俺のふかふかお腹に押さえられて、何言ってるかわからない。
バチッ!バチバチ!
空中に静電気を何度か放つ。
懸命に両手で俺を顔から引き剥がそうと抵抗していたが、静電気の破裂音を聞いて抵抗をやめる。
俺は、美紅ちゃんの顔に貼り付たままに対話を試みる。
『まあ、話をしようじゃあないか。俺は怪しいモノじゃない。』
「ふぁにぉ、ひう。あふぃらからにあややしでは、にゃいか。」
『このままでも、面白いから良いが、会話が出来ないから離れてやる。攻撃するなよ。絶対するなよ。わかってるな。』
ふわりと霊障浮遊を使って美紅ちゃんの顔から離れる。
一閃。
いつの間に落としていた刀を拾っていたのか。離れた瞬間跳びのきながら俺の頭に凶刃が振り落とされる。
三度、俺の頭で止まった。もう、俺はそのまま浮遊を続けてされるがままになる。
因みに、何故俺に刃が届かないか全く分からない。きっと、導真様が何かしたのだと思う。だから、心配ないと言ったのだろう。
数分後、美紅ちゃんは肩で息をして構えはといていないが刀を振るのを辞めた。
『どうやら、気が済んだようだな。これで分かっただろう力の差というものが。』
さも俺の力で刃が届かない風を装う。
「はぁ、はぁ、はぁ、ハッ!」
渾身の一撃が俺を襲ったが俺の頭でピトッと止まる。
「何で。何で切れないのよ。」
『ふふふ。俺とお前の力量の差だろう。』
「ちっ、違う。お前の力じゃない。どうしたの。どうしてなの。イナリ丸。」
美紅は、愛刀イナリ丸がこの妖を切ろうとしないことに困惑していた。
私がどんなに力を技を駆使してもイナリ丸が斬撃を止めてしまうのだ。
イナリ丸は、故郷の神社に伝わる悪鬼を切る破魔の神刀だ。
その神剣が切る事を拒むこの妖は。
「なんなのよー。」
何なのかと問われれば、ぬいぐるみである。いいモノの。
『悪いぬいぐるみじゃぁないよ。お話しましょ。』
「いいわ。話。そう、話をしましょ。」
美紅ちゃんは、疲れきった表情でそう言って、座り込んでしまった。
それから、ことの経緯を全て話した。俺が転生者だと言うことも、そうする方が良いと俺の勘が訴えるから。
『あの可愛い。幼女な。律ちゃんを護る手伝いして欲しい。』
一通り説明が終わり、最後に協力を求める。
「転生がどうとか。よく分からないけど、中身おっさんなのよね。」
「おっさん言うな。」
「そう。ごめんなさい。言い直すわ。転生がどうとか。よく分からないけど、中身幼子好きの変態なのね。」
『変態ちゃうわ。紳士や。』
変態呼ばわりに関西弁になってもうたやないか。
「ふう。もうわかったわ。あなたが邪悪なモノじゃないって分かったし、イナリ丸がそう言ってるようだから。私はイナリ丸を信じるよ。」
俺を信じるんちゃうんやね。おっちゃん悲し。
『まぁ、なんだ。よろしくな。』
身体をずらして右前足を出して握手を求める。
美紅ちゃんは、その意図が分からないようで小首を傾げている。
『握手っていうやつだ。互いの手を握るんだよ。友好の証だ。』
美紅ちゃんは、おずおずと右手を差し出す。その上に俺は右手を乗せた。
うん。お手だな。ちゃんと握れや。
その思いは伝わらなかった。もう、良いや。
こうして、俺と美紅ちゃんとの協力関係が始まる。




