第七話
「なんとか勝てたな・・・」
疲れ切って思わず仰向けに倒れ込む。
洞窟内に俺が倒れた音と鎌の金属音が鳴り響いたとき、もう一つの音が聞こえる。
だが俺は警戒する気ない。
ただのメッセージ音だったからだ。
『ミッドボスを討伐しました。おめでとうございます』
『ソロ討伐報酬の称号【暗闇の一人】を取得しました』
届いたのは運営からと思われる祝いの言葉と称号。
ボスを倒したときにパーティを組んでいればその場の全員に来るのだろうか。
いや、そんなことを考えるよりも興味を引くものがある。
「称号なんてものもあるのか」
壁にもたれながらウィンドウを開き、ステータスを確認する。
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クレン 《ウォリアー》 LV.7
称号 【暗闇の一人】
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「この【暗闇の一人】が称号か。どういう効果があるんだ?」
指でこの称号を長押しし、詳細を見る。
【暗闇の一人】・・・一人で強敵を倒したものに与えられる称号。
夜、または暗闇の中で戦うときとき全パラメータが1.2倍になる。
かなり強いのではないだろうか。
現時点で言えば破格の効果だろう。
暗がり限定とは言え、常時ステータスが大幅に上昇されるのはありがたい。
「俺は暗いところでも戦えるからな」
はじめて自分が現実世界で手に入れた五感能力を良いと思った。
「そういえば肝心なのは素材が取れているかどうかだな」
壁にもたれかかり休憩していると、依頼されていたことを思い出す。
アイテム欄を見てみれば【刃土竜の黒殻】をはじめとしたフェルゼンモールの素材と思われるものがある。
【刃土竜の黒殻】はきっと、鍛冶の道具に必要な素材だろう。
それをオブジェクト化してみれば俺が掘ろうとしていた黒曜石だった。
「これでガイからの依頼は達成したというわけだ」
さて、帰るとするか。
狭い路地を3回ほどまがり1度も大通りに出ること無くほとんど暗闇の中を歩く。
そうした先には昨日泊まった宿屋が見えてきた。
宿屋の前では大男が手を振っている。
「クレン、お疲れさん!」
こいつはいつの間に俺のことを名前で呼ぶようになったんだ。
ここは宿屋のガイの部屋だ。
俺の部屋と間取りも何もかもが同じで少し気持ちが悪い。
椅子に座りながらテーブルの上にオブジェクト化したフェルゼンモールの素材を出す。
毛の部分や甲殻の部分などいろいろな素材を出したが、その中でも黒く輝く一つ、【刃土竜の黒殻】を差し出して尋ねる。
「それで、この素材で間違いは無いか?」
「ああ。ありがとよ」
椅子に座り頬杖をつきながらガイに問う。
「それにしてもその素材でどうやって金床とハンマーをつくるんだ?」
向かいの席に座っているガイはにやりと笑い、こう答えた。
「お前は、《スミス》のスキルを見たことがなかったか?」
ガイはウィンドウを操作し、俺の素材の山に負けじと様々な素材をテーブルの上に置く。
様々な色に輝く鉱石、ガラス、ポーションなどだ。
驚くことにその中にはペンや紙なども存在する。
「これ、やるよ」
差し出されたのはその中にあったポーション。
普通のポーションとは違い、アイテム欄に入れたときに制作者が書かれる。
その制作者名はガイだった。
「《スミス》はクラフトと鍛冶を行えるのさ。戦闘が出来なくなったとき俺は迷わず戦闘職を捨て、《スミス》になった。お前がいない間にクラフトに慣れておくために、戦闘で手に入ったわずかな素材を売って街でクラフトできそうな物を買って試してたってわけだ」
なるほど。
俺も死闘を繰り広げていたが、その間ガイも必死だったのか。
人に頼むだけ頼んで自分は行動しないという人も居る中でそれが出来る人間はすごいと思う。
依頼を受けて間違いでは無かったな。
「それじゃあ、今から作るぜ」
ガイは急に立ち上がり、素材を囲むように手を添える。
その手は青い光をまとい、素材と素材を融合させていく。
その中にはもちろん、黒殻も存在し、それが最後に融合させられた後ガイは手を大きく動かす。
その手の動きはおおまかに金床の形を作り出し、青い光が一層強くなる。
それと同時に、ガイも苦い顔になっている。
大丈夫だろうか。
「フッ!」
その声と共に、青い光が散る。
光が散乱する中には黒く輝く金床があった。
「おぉ・・・」
青い光からこの金床が作り出されるまで息を飲んで見ていたが、思わず感嘆の声が漏れてしまう。
「すごいな。こんな風に出来るとは知らなかった」
「綺麗だったろ?これはMPを使って作るんだが、今回はちょっと大きすぎたな」
そういってガイは勢いよく椅子にもたれかかる。
その顔は少し痩せこけているような感じで、目の下にクマのような物も見える。
「魔力切れだ」
ガイは小さくこう言って、付け足す。
「魔力切れは起きたこと無かったが、とても体がだるいな。吐き気とかは無いが動けなさそうだ。悪いが今日はこれしか作れねえから装備はまた今度になりそうだ。スマン」
心配な気持ちもあったが、俺は看病のテクニックなど知らないし、そもそも魔力切れに対して効くのかもわからないので一応MPポーションを1つ置き、部屋を出た。
魔力切れになると戦えなくなりそうだな、当たり前だが。
正直、魔力が切れても戦えると思っていたが、あの様子を見ると無理そうだ。
今までもあまりアーツは使ってこなかったが、次回からMPにも気を配ろう。
そう思いながら宿を出て、今日も夜の狩りに向かった。
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シャドウバード Lv.4 魔獣属
シャドウバード Lv.4 魔獣属
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そういえば、昨日の夜こいつから逃げてきたんだっけな。
それじゃあ、借りを返さなきゃいけないな。
この鳥たちは空にいる。
俺が攻撃するためには、降りてくるのを待つしか無い。
しかし、相手には魔法攻撃もある。
どうするか。
「これしかないよな」
俺は大鎌を下段に構え、空の敵をにらみつける。
大鎌は紫色の光を浴び、俺は大きな1歩を踏み出す。
そして俺は、空を舞った。
そう、アーツ「アクセルスレイン」は直線に高速で移動し切り上げる技だ。
それは空の敵であっても例外では無い。
「よお、借りを返しに来たぜ」
地面を蹴ったときの威力も追加され、切り上げの手応えは十分感じられた。
それでも体力は黄色ゲージまでしか削れなかったので、切り上げた状態の鎌を回し、垂直に切り下ろす。
重力、遠心力の全てを上乗せされた一撃は先ほどのアーツに匹敵する威力を見せ、1体のシャドウバードはなす術も無くポリゴンに変わる。
さて、もう1体だが。
「こいつは、魔法を避ける訓練に使おう」
アーツを放った時に感じたのは、称号【暗闇の一人】による恩恵。
スピードも威力もやはり上がっている。
ならば、前まで喰らってしまっていた突風も避けれるのではないか?
そういう思いで始めた訓練は、とても有意義なものであった。
「この称号が発動している間は避けれるな」
敏捷性があがっているせいかステップの切り返しが速くなり、相手に突っ込みながらでも避けられるようになっていた。
また跳躍力で言えば、アーツには届かないまでも、鳥が少し降りてきたところで迎撃できるくらいには上がっている。
自分が強くなっていることを感じると、嬉しく感じるな。
現実では感じられないような自身の成長をこの世界では感じられる。
「この世界は素晴らしい」
心の底から、そう思う。
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ブラックボア Lv.5 魔獣属
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「久しぶりだな、イノシシ君」
デスゲームになる前、こいつの昼間の姿のランド・ボアに殺されかけた。
あのときは武器の扱いにも戦闘にも慣れていなかったが、今なら倒せる。
相も変わらず、イノシシは俺を見かけると突進をしてくる。
だが、その速度は以前とは違って脅威では無い。
「さすがに土竜より遅いよな」
あの地面をえぐりながらの突進には敵わない。
イノシシの突進を難なく避けつつ、その体に刃を滑らせる。
鎌の形を利用し相手から斬られにくるような形となり、ブラックボアは体の横に大きな切れ筋が入る。
それを学ばないのか何回も突進を重ねてくるので、その行動だけで散ってしまった。
「魔獣属でも魔法を使えないヤツはいるんだな」
オオカミとイノシシは、威力と速度が上がっただけということだな。
しばらく夜の草原を探索しつつ、モブの確認をすると、俺が今まであってきたモンスター以外に新種のものは見当たらなかった。
ただ、ダークウルフとシャドウバードは戦っている内に学んだのか、群れを大きくして戦闘を挑んでくるようになった。
基本は2体で1組が多かったのだが、4体、6体と次第に増えていき、今は8体のシャドウバードから逃げている。
オオカミは大地で戦うことが出来るので、徐々に数を減らしたりしてなんとか戦うことが出来るが、空にいる相手となるとやはり難しい。
対抗策はアーツと跳躍のみであるので、運が良くても2体同時に倒せるのが関の山で、集中的に突風の魔法を喰らえば、何も出来ずに死んでしまう。
ならば、逃げるしか無い。
またもや逃げ帰ることになったが、今回は被弾も押さえて体力のゲージが黄色になるまでにはなんとか街につきそうだ。
「よし。ガイに魔法耐性持ちの装備を作らせよう」
これからも魔法持ちの敵が多く出てくるだろう。
この程度の相手に囲まれたくらいでいつまでも逃げていては一生魔法持ちに勝てない。
絶対に作らせる。
そう思いながら、全力で夜を駆けた。