第四話
今回すごい少ないです。
きっとそこまで時間は経っていない。
人口密度が高いこのセグメール大広場は混沌としていた。
周りがザワザワし始め、「この場から出せ!」など掲示板に書かれていたような運営に対する不満をぶちまける。
それとは別に、「俺の体が・・・」などと情けない声も聞こえるが。
だが、何を言っても目の前には何も現れない。
代わりに、脳に直接呼びかけるように声が聞こえた。
それはノイズがかかったような女性の声であった。
『大変申し訳ございません。当ゲームはデスゲームとなってしまいました!』
それは嘲笑うかのような、明るく淡々とした口調で告げられた残酷な言葉であった。
周りのプレイヤーもそれを聞き一瞬で沈黙する。
どうやら、一人一人の脳に同時に同じ言葉を贈っているらしい。
沈黙は一人のプレイヤーによって破られる。
「ふざけんじゃねえよ!!何がデスゲームだ!!そんな冗談いらねえから、早く謝罪しろよ!!」
その言葉を皮切りにまたも、不満が爆発する。
響き渡るは怒号。
まるで一種のストライキのようなものが起こされていた。
それに反応するようにまた脳に声がやってくる。
『人間とはなんとも儚くて、醜いものですね~。ですが・・・少し黙りましょう』
キーンという頭痛、俺が現実世界でよく起こすような頭痛が起きる。
かろうじて周りの人を見れば、頭に両手をつけ苦しんでいる人が多い。
今、全プレイヤーにこの頭痛は起きているだろう。
頭痛の中で、女性の声が聞こえる。
『先ほども言ったように、このゲームはデスゲームとなりました。よって、この世界での死は現実での死となります。人間の皆様は簡単に体が壊れてしまうので気をつけてくださいね~』
なんだと・・・?
ゲームで人が死ぬ・・・?
このゲームは確かにすごい。
だが、いくらなんでも50年先の未来を先取りしたようなこのマシンでも現実世界での人間を殺すことは出来ないはず・・・
『そういえば、デスゲームの宣言をするまでに死んでしまった人が居ますねぇ。その人の死ぬところを見たほうが信じられますからね~』
そう言われた直後。勝手にウィンドウが操作されある動画が再生される。
病室のような場所。
白いベッドに横たわる中年男性の頭にはバルザイ・ギアが被せられている。
30秒経過したころだろうか。
突如体が痙攣を起こし、頭のバルザイ・ギアが赤く発光する。
しばらくすると痙攣は止む。
何者かがヘルメット型の本機を外した。
その先には・・・
その先には・・・・・・
飛び散った頭の中身があった。
ウィンドウが閉じると周りから悲鳴や叫び声、さらには嗚咽なども聞こえてくる。
俺は絶句する。
あの映像はまさしく本物だ。
出来の良いCGなどでは決して無いリアリティさがある。
ゲームで死にかけたときには出てこなかった、心からの死への恐怖が俺を支配している。
だが、それとは不釣り合いに俺は笑っていた。
『肝心なことを今から言いますね~。このゲームのクリア条件ですよ~』
感情がごちゃ混ぜになっているのを感じるが、パニックにならず、頭だけは冷静に動かそうと努める。
『この世界にいる"招かれざるものたち"をすべて倒すことがクリア条件です。実は私は期待してますよ~。あなたたちが彼らを上回ってくれることを』
頭痛がなくなるのと共に、女性のノイズがかかった声も消える。
しばらくの間は、胸が波打っていたが落ち着きを取り戻す。
整理しよう。
まず、あの声の主は何者か。
自分では「ゲームマスターです」などと名乗ってはいない。
だとするとどこかの誰かによるいたずらである可能性も高・・・くはない、全くない。
俺たちは実際に死亡する人の映像を見せられた。
こんなことをいたずらでは出来ないだろう。
そして脳内に直接届く声、ウィンドウの勝手な操作。
このことから見て、やつはゲームマスターで間違いないはずだ。
つまり、この世界での死亡は現実の世界での死となるというのは本当のことだろう。
気になる点は他にも存在する。
ゲームのクリア条件の"招かれざるものたち"が抽象的なことだ。
このゲームのクリアはラスボスの討伐ではない・・・と言うことさえあり得るのか?
・・・少なくとも今の俺では結論を出すことは出来ない。
このゲームを進めることが、今一番やるべきことなのだろう。
とりあえずの優先事項を決め、門まで走り出す。
が、その途中で見たことのあるような顔を見つける。
そいつは、ガラスの中にいた。
「これは・・・」
見慣れないがわかる。
現実の自分が、そこには写っていた。
先ほど「俺の体が・・・」と言っていたことがやっとわかった。
想像して創った俺よりも痩せこけていて、目は鋭く、髪は黒髪に白のメッシュがいくつも入っている。
しかしメッシュなどいれた記憶も無く、白い部分の髪を触れば少し冷たい。
なんだろうな・・・と考えそうになるが、これ以上考えると処理し切れなさそうなので止めた。
少しこの感情を落ち着かせよう。
恐怖の中、なぜ自分は笑っていたのか。
今なら完全に理解している。
今このとき、この世界に居ることが現実よりも楽しいのだ。
俺はこのゲームがデスゲームになろうと関係ない。
むしろ、嬉しいと思ってしまう自分がいる。
現実にいても、目が見えない俺は非生産的な日々を送るだけで、つまらない。
やりたいことも無い。
それに比べてこっちの世界はどうだ。
好奇心を解放した俺にとって、この世界で興味は尽きることが無いだろう。
景色は綺麗だし、ソロでやれば誰にも迷惑をかけることもない。
確かに死は怖い。
だがそれは、現実でも同じことだろう。
このゲームの世界を現実だと思い込めば、その問題は解決できるし、むしろ真剣に取り組むことが出来る。
俺は思わず、門の先の草原を見て笑ってしまう。
「これから楽しいことが待っているはずだ」
ふと見上げた空は、満面の星で埋め尽くされ、朝昼とは違った美しさを見せていた。